大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

レノボのソフト&サービス事業に大きな存在感、PC事業に続く成長の柱に

第3四半期のソフトウェア&サービス事業の実績

 レノボ・ジャパンが、PCに関する企業向けサービス事業に力を注いでいる。レノボグループが2021年2月に発表した2020年度第3四半期(2020年10月~12月)決算では、ソフトウェア&サービスの売上高が前年同期比35.9%増と大幅に伸張。

 日本におけるサービス事業も急拡大しているという。また、2021年4月からは、サービスおよびソリューションの専門組織としてソリューション&サービス・グループ(SSG)を新設することを発表。

 これも、同社がグローバルレベルで本腰を入れて、サービス事業に取り組む姿勢の表れだ。レノボ・ジャパン 執行役員 サービス事業部サービスセールス&マーケティング本部統括本部長の上村省吾氏に、レノボ・ジャパンのサービス事業への取り組みについて聞いた。

前年同期比で売上高が大幅増

2020年10月~12月のソフトウェア&サービスの業績

 レノボグループが発表した2020年度第3四半期(2020年10~12月)の業績は、いくつかの驚きがあった。

 1つは、レノボグループ全体では、売上高が前年同期比22.3%増と高い伸びを見せていることだ。PCSD(パソコン・スマートデバイス)事業も売上高は前年同期比26.5%増と、高い成長を遂げている。IDCの調べによると、同四半期のPCの出荷台数は2312万台となり、シェアは25.2%と首位を獲得。2位のHPとの差は4.3ポイントと開いた。

 グループ全体の売上げ成長や、PCの好調ぶりとともに注目を集めたのが、ソフトウェア&サービスの売上げ成長だ。同部門の売上高は前年同期比35.9%増の14憶ドルとなり、グループ全体を上回る大幅な成長を記録。レノボグループ全体に占める売上げ構成比も8.1%となった。

 さらに、内訳をみると、保守や修理を行なうアタッチドサービスは前年同期比26.2%増となったものの、運用管理の提案などを行なうマネージドサービスは72.7%増となり、コンサルティングやデプロイなどを行なうソリューションサービスも49.0%増を達成。マネージドサービスに含まれるサブスクリプションモデルのDaaS(Device as a Serivice)は74.0%増という高い成長を遂げた。まさに付加価値サービスの領域が成長していることがわかる。

 ここ数年、レノボグループは、「service-led intelligent transformation」をキーワードに、ソフトウェアおよびサービス事業の拡大に力を注いできたが、その成果が着実にかたちになりつつある。

レノボ・ジャパン 執行役員 サービス事業部サービスセールス&マーケティング本部統括本部長の上村省吾氏

 「コロナ禍において、仕事や生活する環境のすべてのものが変わるなかで、ハードウェアの利用効率を高めるだけでなく、セキュリティへの対応や、デジタル機器のライフサイクル全体を見た運用支援など、お客様により近づき、変革への追随を支援する姿勢が評価されている」と、レノボ・ジャパン 執行役員 サービス事業部サービスセールス&マーケティング本部統括本部長の上村省吾氏は語る。

 「これまでは、ハードウェアを中心に企業の変革に貢献してきたが、従業員のニーズや期待を捉えたり、これまでの事業計画の検証を提案したり、デジタルトランスフォーメーションに向けて動き出すための準備を支援したりといったように、お客様に対して、意思決定やプロセスにおいても貢献できるコンサルティングサービスや運用サポート、アセスメントの提供によって、ソフトウェアおよびサービス事業が拡大している」と自己分析する。

 サービス事業を強化している姿勢は、日本でも同じだ。
NECパーソナルコンピュータ群馬事業場のインフラを活用しながら、キッティングが可能な体制を強化する一方、24時間365日で提供する企業向けヘルプデスク体制を構築。ソリューションアーキテクトと呼ぶコンサルティングサービスを提供するための専門家を増員し、業種展開などを開始する体制も整備しようとしている。

 そして、今回取材に応じてくれた上村執行役員は、シスコシステムズでアドバンスドサービス担当の常務執行役員などを務めるなど、長年にわたり、サービス事業の携わってきたエキスパート。同氏が、2019年10月に、レノボ・ジャパンに入社したのも、同社のサービス事業の強化策の表れと言える。実際、サービス部門を専任で担当する執行役員は、レノボ・ジャパンでははじめてのことだ。

 上村執行役員は、「体制を整え、実績もあがり、自信をもってすすめられるサービス体制が、日本で整ってきている。日本のサービスビジネスは、世界的に見ても優等生と言える成績を残しており、日本がトップになっている」と胸を張る。

Windows Autopilotの活用で効率化

 では、日本では、具体的にどんな取り組みを開始しているのだろうか。

 1つは、Windows Autopilotを活用した取り組みだ。Windows Autopilotは、企業などがPCを一括導入するさいに、設定作業などにおいて、IT部門の負荷を軽減することができる機能だ。

 上村執行役員は、「Microsoftのモダンワークプレイスソリューションを、最適なかたちで導入し、運用を支援。すぐにお役に立てる提案になる」と前置きし、「Windows Autopilotを利用したデプロイメントサービスにより、リモートワークに最適化した設定を実現。自宅などにPCが届き、いくつかの入力作業だけで、セキュアなかたちで、会社と同じPC環境が実現できるようになる。会社にPCを受け取りに行く必要がなく、自宅にいながらスムーズにビジネスをスタートできる。こうしたニーズは非常に高まっている」とする。

 レノボ・ジャパンは、NECパーソナルコンピュータ群馬事業場のインフラを活用するなど、国内でキッティングできる体制を敷き、ユーザー企業が使用するアプリケーションやデータを保管し、それをインストールして出荷することができる。

 レノボではこれをRTP+(Ready to Provision Plus)と呼び、Windows Autopilotとの組み合わせで、個別設定とともに、大容量のデータや、各種アプリケーションなどを、出荷時点であらかじめインストール。IT部門の負担を軽減し、「ゼロタッチデプロイメント」を実現している。

 さらに、Microsoft製品以外にも対応できるように、Lenovo Smart Fleet Servicesを通じて、エンドポイントセキュリティやデバイスマネジメントソフトウェアなど、レノボグループが開発したソフトウェアやサードパーティ製ソフトウェアなど、約20種類の製品をインストール可能としている。日本語対応したソフトウェアは4種類を用意しているという。

 Windows AutopilotとRTP+の仕組みを活用した事例が、コーヒー関連事業で広く知られるUCCホールディングスである。同社では、働き方改革やセキュリティ対策強化の基盤を確立するために、新たに2,000台のThinkPad X390を導入。ここで、Windows Autopilotを使ったセルフサービス型のPC展開に取り組み、短期間での稼働を実現するとともに、運用管理担当者に負荷をかけることなく、スムーズな導入を実現したという。

 「コロナ禍におけるリモートワークの増加で、IT部門が物理的に設定のサポートができないという課題が生まれているが、Windows AutopilotとRTP+との組み合わせにより、そうしたニーズにも対応できる」とする。

24時間365日体制のLenovo Premier Support

 もう1つ注目が集まっている取り組みが、Lenovo Premier Supportである。

 IT技術者向けのサポートではなく、よりユーザーに寄り添ったかたちで、気軽に相談に対応できる仕組みとして、ユーザー対応向けに用意したもので、24時間365日のサポート体制を敷いている。

 「在宅勤務やリモートワークの広がりによって、オンラインでの業務や会議を行なう人が増えているが、その一方で、デジタルに慣れていなかったり、活用が苦手だったりといった人たちが利用するケースが相対的に増えている。しかし、IT部門では、かぎられた人数でありながら、新たな環境への対応など、業務が多忙になり、ユーザー部門からの問い合わせにきめ細かに対応できないという課題がある。Lenovo Premier Supportを活用することで、業務時間外を含めた24時間365日、ユーザーからの問い合わせに対応できるようになる」とする。

 リモートワークの増加にあわせて、端末を新規に導入するさいに、同時にLenovo Premier Supportを契約したり、既存ユーザーでも追加で契約したりといった例が出ているという。
また、Lenovo Premier Support とは別に、Standard Supportも用意しており、こちらでは、AIチットボットを利用した24時間対応も行なっている。

 「Lenovo Premier Supportは、日本でもっとも力を入れて紹介しているサービスの1つ。2年前に、群馬事業場のなかに、専門チームを構成して、企業に対する24時間365日サポートの体制を用意した。故障や修理以外にも、使っているさいの課題にも対応でき、どんな人でも相談ができるハードルが低い窓口を目指している。IT部門の負担を減らしたり、生産性を高める支援をしたりといったことを通じて、企業のDXの促進を支援するものになる」と語る。

 コロナ禍において、高い関心が集まっているサービスであり、日本では当初見通しを上回る実績を達成。世界各国のレノボグループのなかでも、日本での新規採用数がもっとも多いサービスだという。

 「コンサルティングや商談のさいに、サービス部門が同席することが増え、サービス提案が、レノボのPCをはじめとするハードウェアの導入の決定に貢献することが増えている。レノボのナンバーワンPCカンパニーとしての知見と経験、グローバルでのサービスの仕組みを活かすだけでなく、NECパーソナルコンピュータが長年培ってきたサービスのノウハウを活用できる点も、日本における強みになっている」とする。

ソリューションアーキテクトがデバイス管理を肩代わり

 もう1つ見逃せないのが、ソリューションアーキテクトの存在だ。
ソリューションアーキテクトは、顧客のIT課題やIT戦略を正しく理解をして、提案ができ、助言を行なう役割を担う職種だ。

 「これまでは、IT部門からみると、レノボはPCサプライヤーという認識があり、IT部門のプロジェクトに深く関与したり、クラウド移行やDXの支援を行なうということでの相談が少なかった。ソリューションアーキテクトを通じて、レノボをDXのパートナーとして認めてもらい、より多くのサービスやソリューションを採用してもらうという流れを作りたい」とする。

 そうしたなかで、特定の業種における提案を開始する考えも示す。

ある外食チェーンでは、来店客が利用する注文用タブレットを店舗に大量導入しているが、故障したタブレットが、IT部門に送られてくる仕組みとなっているものの、現場ではITに詳しい従業員が少ないため、故障していないものが送られてきたりといったこともある。

 また、管理する台数が多いために、作業が煩雑になるといったことも起こっている。「検査をしたり、管理をしたりといった点に、IT部門のエンジニアを割きたくないというのが企業の本音である。そこにレノボ・ジャパンが、お手伝いができないかと考えている」とする。修理だけでなく、デバイスの管理も肩代わりするというサービスだ。

 海外では、ドライブスルーのトラフィック管理ソリューションで実績を持ち、監視カメラを通じて、ドライブスルーで商品を手渡すまでの時間などを管理。時間がかかっている場合には、その対応を指示し、混雑を解決し、満足度の向上につなげているという。

 「日本においても、こうした業種に特化したソリューションを、サービスの観点から提案したい。そのためには、業種のノウハウを持ったソリューションアーキテクトを増やしたい」とする。

 レノボグループでは、これをスマートバーティカルと位置づけ、重点領域の1つに位置づけており、2021年度から日本においても取り組みを加速することになる。

 ここでは、デリバリーチームの体制強化や、パートナーとの連携も強化することになりそうだ。

 レノボ・ジャパンのサービス事業のうち、現在は、約85%が24時間365日対応のLenovo Premier Supportを含む、故障や保守領域のビジネスとなっている。今後は残りの15%の領域を拡大し、今後1年から1年半で、25%にまで増やす計画だ。

 この成長領域を担うのが、マネージドサービスやソリューションサービスということになる。

 そのなかでも注目されるのが、DaaSやTrueScaleといったサブスクリプションモデルだ。

 ハードウェアやソフトウェア、サービスなどを包含したかたちで、サブスクリプション型で提供するものであり、レノボが用意するファイナンスプログラムとの組み合わせ提案も行なわれることになる。

 上村執行役員は、「DaaSは、日本においても、すでに実績があがっている。ここでは、日本に展開しているグローバルカンパニーが、本社の契約のもとに、日本の拠点に導入し、そこにレノボ・ジャパンが対応するというケースもある」としながら、「日本の企業のニーズを見ながらアクセルを踏みたい。2021年度は、前年度の2倍には増やしたい」と意気込む。

 だが、マネージドサービスやソリューションサービスの拡大には慎重な面も見せる。

 「ユーザーの期待を裏切らないためには、高いスキルを持ったソリューションアーキテクトをそろえる必要がある。体制が整わないのに、背伸びをしても仕方がない。しっかりとお客様のDXの支援を行ない、実績を作り、認知を高めながら、事業を拡大していきたい」とする。

 マネージドサービスやソリューションサービスの構成比率は、当面は25%が目標だが、次のステップでは、サービス事業全体の3分の1にまだ拡大する考えだ。

グループ全体のサービスとソリューションを担う新組織を設置

 レノボグループでは、2021年4月1日付で、組織を大幅に変更することを明らかにしている。

 基本的な考え方は、「スマートIoT」、「スマートインフラストラクチャー」、「スマートバーティカル」というレノボグループが掲げる「3Sステラテジー」に沿った3つの主要事業グループに再編するというものだ。

2021年4月以降、新体制へと移行し、SSGを新設する

 PCなどを含むスマートIoTに注力する組織である「インテリジェント・デバイス・グループ(IDG)」のほかに、サーバー製品などのスマートインフラストラクチャーを担当する組織として、旧データセンター・グループ(DCG)を中心とした「インフラストラクチャー・ソリューション・グループ(ISG)」を設置。

 そして、スマートバーティカルとサービスを担当する組織として、「ソリューション&サービス・グループ(SSG)」を新設する。SSGは、レノボグループ全体のサービスおよびソリューションを統合。スマートバーティカル、アタッチト・サービス、マネージドサービスを担当し、DaaSやTruscaleといったas a Service事業も統合する。

SSGのトップに就くケン・ウォン氏

 つまり、今回の組織再編の目玉は、サービス事業を専門組織として独立させ、サービス事業を事業の柱の1つに位置づけることになるのだ。そして、SSGのトップには、SVP兼アジア太平洋PCSDプレジデントのケン・ウォン氏が就く点も見逃せない。

 ウォン氏は、かつて、CEO直轄のストラテジー担当として活躍していた人物で、富士通クライアントコンピューティングとのジョイントベンチャーでもレノボ側の交渉役の1人として、富士通との資本提携をまとめた実績を持つ。同氏がSSGのトップに就くということは、レノボグループが本気になってサービス事業を拡大する姿勢をみせていることの証と言っていいだろう。

 上村執行役員は、「ここ数年、サービスを重視する企業へと変革を図ってきたが、すべての社員がそれを強く認識しているわけではなかった。だが、SSGという組織が誕生したことで、レノボグループ全体がサービスに向けて本気で取り組みという姿勢を、社内外にアピールできる」とする。そして、「日本の市場や、日本のビジネスにも詳しいウォン氏のSSGトップへの就任は、レノボ・ジャパンの理解者が重要なポジションに就くことになり、日本のサービス事業の拡大には追い風となる」とする。

 こうしたレノボグループ全体でのサービス体制の強化のなかで、日本におけるサービス事業が強力に推進されることになる。

 「すでに、日本のお客様から、多くの要望をもらっているが、キャパシティとクオリティを把握した上で、デリバリー体制をしっかりと構築し、顧客にオファーしていくことを心掛ける。そうしないとお客様にご迷惑をおかけする。群馬事業場のチームの強化やサービス事業への投資を行ない、質を確保しながら増員をしていく」と上村執行役員は語る。

 PC事業で急成長を遂げているレノボ・ジャパンが、サービス事業を成長に向けたもう1つの車輪に位置づけ、日本のPC市場での存在感を増そうとしている。