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深セン本社に行って見てきた。ポータブルゲーミングPC新作「AYANEO 3」の驚くべき機構の数々

AYANEO 3

 AYANEOから、ポータブルゲーミング機の最新モデル「AYANEO 3」が発表された。まだ日本での発売日などは未定だが、今回、代理店の天空の協力により、中国・深センにあるAYANEO本社に伺い、事前に製品に触れ、CEOのArthur Zhang氏(ニックネームはUncle Tail氏)に直接インタビューする機会が得られた。

 正直なところ、筆者はAYANEO 3のプロモーションビデオを観た際に、コンスタントなCPUの性能向上や、使い勝手のブラッシュアップを図っただけのモデルだと思っていたのだが、実際に試作機を手にしてみた感想は、予想を遥かに超えたギミックが搭載されていたことに驚いた。また、インタビューを通して、AYANEOのかなり野心的なビジネスのスタイルも垣間見えた。

持ちやすさ、操作のしやすさ、音質や振動を向上させたAYANEO 3

 AYANEO 3の詳細なスペックはまだ明らかにされていないが、CPUにRyzen AI 9 HX 370またはRyzen 7 8840U、および7型のディスプレイをAYANEOのハイエンドモデルとなる。従来の「AYANEO 2S」から重量やサイズをほとんど変更させずに、多くの新要素を取り入れた。

 AYANEO 3は、携帯型Windowsゲーム機として、さらなる操作性の向上や、持ちやすさにこだわった進化を遂げた。Xboxエリートコントローラばりの操作感を実現するために、トリガーやボタンを大きめに設計するとともに、アナログトリガーをオン/オフのシンプルなスイッチに変更させる機構も搭載。また、カスタムマクロを実行するためのバックボタンの形状にもこだわり、グリップの曲線に沿ったシーソー状のボタンを採用。

Arthur Zhang氏

 Zhang氏は「競合製品のようにただバックボタンを取ってつけたような形状にはせず、こだわって設計したボタンの1つ」だと誇る。これにより、レースゲームやレトロゲームなど幅広いジャンルに最適化できたという。

 また、曲線的なデザインもさらにブラッシュアップし、「持ちやすさだけでなく、持った際に軽く感じられるようなグリップ形状にこだわった」という。実際にAYANEO 3を手にしても、確かにAYANEO 2より軽く感じられた。

曲線形のバックボタン
スイッチでトリガーをボタンに変更可能
手にした際に軽く感じられるようなフォルムを採用

 音質面では、改良に2年を費やした結果が反映されており、音質の厚みを大幅に向上させた。アンプとスピーカーにはROG Ally Xと同等の高品質な部品を採用したとしつつも、スピーカーは前面配置を実現。「競合より優れた音質を実現している」と誇った。実際に同氏の広いオフィスで音楽を聞かせてもらったが、スマートスピーカーばりの音量や豊かさを実現していたのには感心させられた。

 ディスプレイは7型だが、今回は液晶とOLEDの2種類が用意されている。液晶ではネイティブランドスケープ表示のものを採用し、どちらかといえばレトロゲーム向き。一方OLEDはネイティブポートレートだが、かなりの高輝度のもので、明るい環境下でも視認しやすくしている。

上のRetro Power色がOLED、下のホワイトのロゴ入りのモデルが液晶だ

 そしてバイブレータも、Zhang氏の推しポイントの1つ。「競合などに採用されているバイブレータは、ポータブルWindowsゲーム機に適したものとは言えず、理想的な振動を得られなかった。今回我々は磁力サスペンションモーターを自社で設計し、リニアモーターのような高い応答性と、偏芯モーターのような強い振動を両立させたという。

 実際に「DiRT 5」をプレイしてみたが、地面のゴツゴツとした感触や、壁などに衝突した際の振動は、これまでのポータブルゲーム機にないような体験でかなり斬新だった。ポータブルゲーム機というより、むしろ据え置きゲーム機に内蔵されたコントローラに近く、心地よい振動を与えてくれた。

自社開発した磁力サスペンションモーター。これまでのポータブルWindowsゲーム機で最も優れた振動経験が得られる

驚異の56パターンのカスタマイズが可能なコントローラ

 そしてAYANEO 3最大の特徴は、「56種類のカスタマイズが可能」という「Magic Module」コントローラ部だ。

 これはいわばアナログスティックやDパッド(十字キー)、ボタンの位置そして向きを自由に変えられる、というもの。たとえば、工場出荷時では左アナログスティックが上、Dパッドが下、右のA/B/X/Yが上で右アナログスティックが下……というXboxライクな配置なのだが、左のアナログスティックとDパッドの上下を入れ替えて、PlayStationのようにもできるといった具合だ。

 もちろん、A/B/X/Yを逆さまに入れると文字の印刷の向きが変わってしまうので、付属のツールでキャップを抜いて手動で入れ替えることができる。なお、ソフトウェア上では自動で向きが異なると認識されるので、再割り当てをする必要はまったくない。

取り外したコントローラ部
ボタンの印刷の向きが逆になる問題もちゃんと考慮されている

 さらに別売りのモジュールでさらなるカスタマイズが可能だ。たとえば8方向Dパッドにしたり、サターンパッドのように右を6ボタンにしたり、Steam Deckのようにタッチパッドにして表面をなぞるようにして操作したりといった具合。こうして、上下向きの関係ややモジュールの組み合わせにより、合計で56種類のカスタマイズが可能になっているのだ。なお日本での価格は未定だが、セットで2万円前後になりそうだ(収納ケースは2つ付属する。1個はオマケ)。

別売りのコントローラセット
ホワイトモデルにはもちろんホワイト、ブラックモデルにはもちろんブラックが用意されている

 しかしMagic Moduleの凄さはこれだけにはとどまらない。実はこのモジュールをロックする機構が「電動」なのだ。本体底面のボタンを3秒間押すか、AYASpaceの設定でロック解除を押すと、ロック機構が外れてモジュールが“パカッ”と飛び出す仕組み。Zhang氏は「単純に力任せで引っ張る、磁力でくっつけるといったような機構にはせず、サイバーチックな未来感を実現したかった」と、そのこだわりを語った。

 コントローラ自体は内部的にUSB接続だが、このギミックを実現するために、独自プロトコルを定義した。この電動のロック機構だが、小型のモーターを使って実現しているとのこと。具体的には、OPPOのスマホ「Find X」の前面カメラリフトアップに使われるようなモーターを内蔵しているとのことだった(あくまでもモーターの仕組み的には同じというだけで、Find Xと同型のモーターを指しているわけではない。念のため)。

ソフトウェア上か本体底面のボタン長押しで、コントローラ部が取り外し可能

 「さまざまなユーザーの好みやさまざまなゲームに1つのモデルで対応できるようにするためにAYANEO 3を開発した。このような多様性に合わせて複数のモデルを用意して販売するのは現実的ではないが、モジュール化はそれを解消した」とZhang氏。もちろん、このための特許も多数申請済みだ。

 さらに、ソフトウェアの新機能も見逃せない。今回、新たにゲームなどの動作を一時停止して、CPU/GPUリソースの消費を抑える「フリーズ(凍結)」機能が実装されたのだ。たとえばゲームをプレイすることを一時中断させて、CPU/GPUリソースを使ってほかの作業をしたいという使い方ができるようになる。具体的にどのように実現したのかは明言は避けたが、メモリの内容を保持しつつプロセスを凍結させ、再開する際にメモリの内容を復元するようだ。

 フリーズも再開も動きとしては一瞬であるため、ユーザーがストレスを感じることはまずないだろう。iOSやAndroidでは事実上フロントエンドのシングルタスクが前提のため、ゲームをプレイしていてもこうした一時停止が容易であるが、マルチタスクが前提のWindowsでは意外と手段がなかった。これなら、複数のゲームをプレイしつつ切り替えるといった使い方も可能だろう。

ゲームを“フリーズ”させる機能

 ちなみにネットワークゲームでは、サーバーからの応答なしによるタイムアウトを防ぐため、数秒間だけ復帰させる「ブレス(呼吸)」モードも用意されているなど、機能としても至れり尽くせりといった印象。「バッテリ容量以外でROG Ally Xを秒殺」と、Zhang氏は軽く“勝利宣言”を誓った。

AYANEOのビジョンと戦略

 AYANEO 3は同社にとって1つの転換点にもなる製品。2025年ではAndroidゲーム機の新モデルも多数用意するほか、実はオフィスの移転に伴い、ビジネスの拡大も目論んでいる。

 同社が2025年5月に移転完了を目指しているのは、深センの西に位置する「万科雲城」という、ドローンやアクションカメラで名を馳せるDJI本社ビルの南にあるエリアだ。これは万科が中国政府とともに開発を進めてきたエリアで、地上は公園になっており、ビジネス向けのオフィスやテナントが地下2階に入居しているという、日本ではかなり珍しいスタイル。

 現在の仮オフィス(その前は別のところにあった)はB地区で、まもなく隣のA地区に移転する。そのための内装工事が進行中だ。内装工事中なので、雰囲気はイマイチお伝えできないが、一言でまとめるなら「広すぎる」である。Zhang氏は今でこそAYANEOを主に率いているが、ほかにも電気自動車に関するメディア事業の会社を2社傘下に収めているため、その分のスペースもあるが、今まで筆者が訪れた深センのPC会社の中でも屈指の広さだ。

「万科雲城」の俯瞰模型
1階(写真で階段の上)が公園、地下がオフィス。ちなみに入居しているのはほとんどデザイン関連の会社だという
DJIのビル「天空之城」が望める
現在改装工事中オフィスのごく一部
発表会などが行なえる公共スペースも多数用意されている
現在の仮オフィス
仮オフィスというのだが、ちゃんとアピールされている
オフィスにはネコも。特定の名前はないそうで、スタッフみんなが好きな名前で呼んでいるらしいが、とても人懐っこい

 そんなAYANEOの企業ミッションについて尋ねると、「ユーザーに驚きを提供し続けることにある」とZhang氏は応える。「私は常に危機感を抱いている。それは我々が市場に革新をもたらさなければ、この市場から面白い製品が減って、消えてしまうということだ。そのため常に新製品でイノベーションを投入し続けている」と語る。AYANEO 3のMagic Moduleを見ても、その姿勢は明らかだろう。

 また、AYANEOをはじめとするWindowsのポータブルゲーム機は、高価格化が進んでいるが、同氏によればそれはあえて狙っているとのこと。つまりローエンドではなく、アッパーミドルクラスをターゲットとしている。

 「高品質なパーツや革新的な技術を製品に反映している。それはAYANEOが常に新製品でイノベーションをユーザーに見せ、驚きをもたらしたいからだ。低価格はより多くのユーザーを惹きつけるかもしれないが、既存のユーザーは常に新しいイノベーションを求めており、低価格を求めるユーザーとは層やニーズが異なる。そのコミュニティを一緒くたにはしたくない。そのため、現時点ではAYANEOブランドでミドルレンジやローエンドの展開は考えていない」と語った。

 ポータブルWindowsゲーム機という市場について、同氏はどう見ているだろうか。「韓国、EU、中東、アメリカ市場でも販売を強化中であり、グローバル展開を進めていく」と語る一方で、「日本市場は非常に重要で、ゲームのIPコラボを模索しているほか、展示会への積極的な出展、日本での発表会の実施を積極的に行なっていく」とした。また、「モンスターハンター」といったトレンドのゲームや、レトロゲームをテーマにしたコラボレーションの可能性も探っていき、「さらに多くの人々にAYANEOを認知してもらうことを目指している」と述べた。

 ちなみに折しもインタビュー後に食事する際に、「Nintendo Switch 2」が発表されたのだが、Zhang氏は「Nintendo Switch 2との直接的な競合にはならないだろう」とも語る。AYANEOではNintendo Switchにはないゲームが多数プレイできるし、「Switchにはない多くのオプションを提供したい」と述べた。

Zhang氏の社長室は1on1バスケットができるほど広く、デジタル機器のコレクションやデザインに関する書籍、過去の製品のパッケージなどが多数並べられていた

AYANEOの誇りと教訓は

 AYANEOが本格的に製品を投入してから5年目に突入するが、過去の製品で印象的に残っているものがあるか、と尋ねたところ「AYANEOのすべての製品が誇りだ」と回答された。同氏のオフィスには過去の製品のすべてのパッケージが飾られているのだが、これもすべての製品に対して思い入れがあるということを表しているのだろう。

 ただその中でも特に「AYANEO 2」およびその後継「2S」は、マイルストーン的な製品になったという。それはポータブルゲーミングPCとしてとしてのデザインを磨き上げたからだと誇った。表面のすべてを覆うガラス、優れた質感などがそうであるとした。一方で「AYANEO AIR」では、画期的な軽量化を実現し、いまだかつて他社製品で実現できていないことを挙げ、「これらの製品がAYANEOブランドの価値を高め、位置づけを明確化したのに大して大きな役割を果たした」とのことだ。

 では、これまでビジネスをやってきた中で反省点はなかったのだろうかと尋ねると、「そういえば今まで振り返ることがなかった」という。「確かに、多くのことについて振り返れば“こうしていればよかった”ということがあったかもしれない。しかしその道は自ら選んだものだ。そういう意味で、後悔はないと思っている」という。

 インタビューを通じて、AYANEOの製品は、代を重ねるごとにユーザーに新しい体験を提供することを目指していることが分かった。Zhang氏が掲げるビジョンは、コアなユーザー数の拡大、ファンの期待に添えるような新しい製品の投入、そしてポータブルゲーミングPC市場全体を活性化することのようだ。多種多様なデバイスを投入している姿勢や大規模なオフィスの展開などは、そのビジョンを反映したものだと言えるだろう。

 まだ詳細はお伝えできないのだが、同社は近々Androidゲーム機の新製品も複数投入する予定だという。2024年に同社が発表した「AYANEO Pocket S」は市場で大きな反響を呼び、その後の「AYANEO Pocket Micro」や「AYANEO Pocket DMG」も独特のスタイルで話題を呼んだ。このAndroidのラインナップについても積極的に拡充していくようだ。