イベントレポート

新型コロナウイルスの影響でISSCCの33件の技術講演があわやキャンセルになるところに

ISSCC 2020の公式Webサイト。トップページの左下には、新型コロナウイルスに関する情報が記載されている

 米国サンフランシスコではじまった半導体回路技術の国際学会「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference) 2020」では、202件の技術講演のなかで、33件の発表に新型コロナウイルスの影響が出た。具体的には、当初予定していた講演者が参加できなくなった。

 ISSCCの技術講演会では、初日(今年は2020年2月17日)の朝にチェアパーソンによる開会挨拶(フォーマルオープニングオブザカンファレンス)が最初に実施される。ここで通常は講演会の概要が示されるのだが、今年はかなり違っていた。まず全体講演(プレナリー講演)を兼ねるこの会場は例年、かなりの参加者で埋められる。最前列付近はおおむね満席に近い。ところが今年は空席が目立っていた。個人的な印象では、明らかに人数が昨年(2019年)よりも少ない。

開会挨拶に続いて全体講演(プレナリー講演)が開催される会場の様子。5枚のスクリーンがならべられる広い会場は、最前列付近からかなりの空席が目立っていた。2月17日午前8時35分ころに筆者が撮影

 そしてチェアパーソンが最初に提示したスライドは、米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention : 疾病管理予防センター)による新型コロナウイルス感染予防のガイドラインだった。参加者に対して握手の自粛や手洗いの励行(石けんを使って20秒以上かけて洗う)、洗っていない手で目や鼻、口に触れないこと、などを求めていた。

米国CDC(疾病管理予防センター)による感染予防ガイドラインのまとめ

 続いて33件の発表で講演者が参加できないことが明らかにされた。そしてこのすべての発表について何らかの対策が取られたことが示された。9件は共著者が講演することになった。7件は共著者ではないが、北米在住で講演内容について明るい人間が代理で講演する。残りの17件は録画ビデオによる講演とSkypeによる質疑応答を併用することになった。

 つまり、中止となった発表は1つもなかった。この短い期間にこれだけの対応策を実施できたのは、すごいことだ。関係者の多大な努力に敬意を表するとともに深く感謝したい。

当初の講演者が参加できない33件の発表に関する対応策のまとめ

参加登録者数は例年と同様の3,000名前後と推定

 開会挨拶はここからは通常モードに戻った。まず、ISSCCの歴史がまとめて紹介された。はじめの50年と、最近の10年に分けている。ここ10年は移動体通信およびインターネットの高速化とスマートフォンの普及によって、めまぐるしいほどの変化があった。テクニカルダイジェスト(論文集)には印刷版のほかにPDF版が加わり、講演スライドはPDF形式で配布されるようになった。

 またスマートフォンのアプリが登場した。技術講演の内容を有志がテーブルトップ形式で展示するデモンストレーションセッション(デモセッション)が、技術講演会の初日と2日目の夕方に設けられた。

ISSCCの歴史。左がはじめの50年、右が最近の10年。ここには記述されていないが、今年は印刷版のテクニカルダイジェスト(論文集)が廃止された

 続いて1996年以降の参加登録者(有料参加者)数がグラフで示された。過去最大の参加者となったのは2001年で、3,796名を数えた。2009年はリーマンショックの影響で、参加者が2,274名と例年の3分の2近くにまで落ち込んだ。2011年以降は、3,000名前後でほぼ一定に推移してきた。

 今年(2020年)は初日の時点で2,850名の登録があった。最終的には例年と同じく、3,000名前後の参加者になると推定していた。プレナリー講演の空席を見るといささか心配だが、最終的には例年どおりになることを期待したい。

1996年~2020年の参加登録者(有料参加者)数の推移

 次は2010年以降の投稿論文数(投稿件数)と採択論文数(採択件数)の推移である。投稿件数のピークは2011年で、669件に達した。2012年以降は漸減傾向にあり、2016年には595件と600件を割り込んだ。しかしここから投稿件数は増加に転じた。2017年は641件に増加し、以降は600件を超えている。採択件数はほぼ一定で、197件~211件と200件前後を維持してきた。

2010年~2020年の投稿件数(青色)と採択件数(赤色)の推移

 続いて、地域別と所属別の採択論文数と比率である。地域は米州、欧州、極東の3地域で、米州が73件で36%、欧州が32件で16%、アジアが97件で48%となった。アジアが半分近くを占める。所属は企業と大学、研究機関を中心とする共同研究グループ、企業を中心とする共同研究グループの4つに分かれる。企業が64件で32%、大学が90件で44%、研究機関を中心とするグループが10件で5%、企業を中心とするグループが38件で19%を占める。

地域別と所属別の採択論文数と全体に占める比率

昨年のISSCCには364の企業と195の大学から3,009名が参加

 最後は、昨年に実施されたISSCC 2019のまとめである。参加登録者数は3,009名、そのなかで学生が721名である。企業数は364、大学数は195と多岐にわたる。地域別の参加者比率は米州が63.5%で3分の2近くを占める。残りはアジアが25.9%、欧州が10.6%である。

昨年(2019年)に実施されたISSCC 2019のまとめ

 講演セッション別で入場者が多かったのは、セッション16(周波数シンセサイザ)、セッション3(ナイキスト周波数のA-D変換器)、セッション7(機械学習)、セッション9(レーダーおよび通信向けの高周波トランシーバ)だった。

 なお会場でマスクをしている参加者はきわめて少ない。そして例年と同様に、休憩時間にはロビーが大混雑し、参加者同士が熱心に情報交換する様子が見られた。