イベントレポート
最新プロセッサの技術講演がサンフランシスコに集結
~ISSCC 2020直前レポート
2020年2月18日 11:29
最先端の半導体技術に関する世界最大の国際学会「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)」が今年(2020年)も、米国カリフォルニア州サンフランシスコではじまった。ISSCC(読み方は「アイエスエスシーシー」)は半導体回路技術の研究開発コミュニティにとって最大のイベントだ。およそ200件の優れた研究成果の内容を知るため、北米、欧州、アジアなどから約3,000名の研究者と技術者がサンフランシスコに集まってくる。
ただし今年は、新型コロナウイルスによる感染症の拡大が、影を落としている。講演やセッションチェアなどのために中国から米国に入ることが、事実上困難になっているからだ。中国の機関による研究発表や参加者の人数には、なんらかの影響があると思われる。
今年のISSCC(「ISSCC 2020」)は2月16日(日曜日)から2月20日(木曜日)(米国太平洋時間)までの5日間にわたって開催される。初日の16日と最終日の20日はサブイベント(フォーラムやチュートリアルなど)に割り当てられている。
メインイベントである技術講演会(テクニカルカンファレンス)は、2月17日(月曜日)~19日(水曜日)に実施される。技術講演会の講演セッションは、1つのプレナリーセッション(基調講演セッション)と33個の技術講演セッションで構成される。
講演で披露される研究成果の範囲は幅広い。プロセッサ、デジタル、メモリ、アナログ、パワーマネジメント、データ変換、高周波(RF)、無線(ワイヤレス)通信、有線(ワイヤライン)通信、イメージセンサー、MEMS、メディカル、ディスプレイ、機械学習などがある。
注目すべき技術動向には、「機械学習」、「大規模プロセッサ」、「量子コンピューティング」などがある。とくに「機械学習」は、4件の基調講演すべてが機械学習に関連していること、ISSCCとしては機械学習の研究成果を扱うサブコミッティを設けてはじめて2つの講演セッションを実施すること、サブイベントのフォーラム6テーマ中2テーマが機械学習を扱うなど、異様な盛り上がりを見せている。
629件の投稿から優れた202件の論文を選出
今年のISSCCで発表することを目指して投稿された研究開発成果(投稿論文)の件数は629件である。前回(2019年)の609件から20件ほど増えた。そのなかから、評価の高い202件の論文(採択論文)が実際に発表される。採択率(採択論文数/投稿論文数)は32.1%で、ほぼ一定を維持している。
採択論文を技術分野(先程のテーマ)別に見ていくと、高周波(RF)が13%でもっとも多い。ついで無線(ワイヤレス)通信が12%とかなり多い。第5世代(5G)移動通信システムがミリ波帯(28GHz帯)と既存の移動通信システムよりもはるかに高い周波数を扱うことや、低消費長距離無線通信(LPWA)技術の普及などが影響していることがうかがえる。
地域別の比率ではアジアが北米を抜く
202件の発表論文(採択論文)を地域別(北米、欧州、アジア)に見ると、アジアが97件で48%と最大比率を占める。最近は北米が最大比率を占めてきた。北米は発表件数が73件(比率は36%)と、前回の87件(45%)から減少した。大学の研究発表が前回の66件から今回は49件に減少したことが大きな理由だという。欧州の発表件数は32件、比率は16%である。前回の29件からわずかに増えた。
発表論文の第1著者(論文の著者が複数のときに、最初に記述された氏名)が所属する地域から、地域別の状況をもう少し詳しく見ていこう。アジアが日本を含めて7カ国・地域、北米が2カ国、欧州が8カ国である。合計すると17カ国・地域となる。
国・地域別の詳しい件数は公表されていない。最近の傾向としてはトップは米国で群を抜いているのだが、件数そのものは減少してきた。アジア地域では中国本土の台頭が目立つ。2020年の採択数は過去最大の15件である。日本は韓国や台湾、中国よりも少なく、しかも漸減傾向が続く。
大学と企業では企業の比率が4年ぶりに増加
発表論文(採択論文)の所属を企業と大学、研究機関に分けると、最近は企業の発表が減少しており、大学の発表が増加している。今回の採択件数に占める比率は、企業が34%、大学が62%、研究機関が4%である。前回に比べると企業が6ポイント増加し、大学が5ポイント減少した。企業の比率が増えるのは2016年以来で4年ぶりのことである。
地域別に企業と大学、研究機関の採択件数を見ていくと、企業と大学のいずれもアジアが多い。アジア企業の採択件数は前回の30件から今回は38件に増えており、企業の比率を押し上げる原動力となった。
日本の採択件数は12件でさらに減少
ここからは、日本の発表論文数を見ていこう。日本の採択件数は、2012年~2016年には25件~30件前後と米国に次ぐ件数を維持してきた。しかし2017年に採択件数が14件と急減してから、回復していない。2018年の採択件数は13件、2019年の採択件数は16件である。2020年(今回)の採択件数は12件とさらに減少した。企業の件数は前年の9件から今年は10件に増えたものの、大学の件数が前年の7件から今年は2件と大幅に減少した。
なお第1著者だけでなく、共著者を含めると日本の採択件数は14件となる。件数別では企業が多い。ソニーセミコンダクタソリューションズが4件、東芝グループが3件、ルネサス エレクトロニクスと日立グループがそれぞれ2件である。
最新プロセッサ製品の招待講演セッションを新設
技術講演会で注目すべきは、プロセッサ製品の招待講演セッションが新たに設けられたことだ。セッション8の「Highlighted Chip Releases」である。半導体回路の研究開発コミュニティによる関心の高い、最新プロセッサ製品の技術概要を講演してもらう。
近年、ISSCCでは半導体企業によるプロセッサの講演が減少傾向にある。とくに前回は少なかった。この反省から、設けられたセッションである。ISSCCが製品チップを招待講演で呼ぶようになった、ということだ。
1980年代のISSCCは「製品発表されたチップは投稿されても採択しない」として「最初の発表機会がISSCC」という方針を貫いていた。それがだんだんと緩んできたのが1990年代~2010年代である。今回の招待講演の新設は、筆者にとっては隔世の感がある方針転換だ。
これらのほかにも注目すべき講演は少なくない。順次、レポートしていくのでご期待されたい。