イベントレポート

Microsoft、Build 2018でドローン/ロボット対応のProject Kinect for Azureなどを発表

Day1の基調講演を担当するMicrosoft CEOのサティヤ・ナデラ氏

 Microsoftのソフトウェア開発者向けのイベント「Build 2018」が、アメリカ合衆国ワシントン州シアトル市にあるワシントン州会議センター(Washington State Convention Center)にて、5月7日午前8時半(現地時間)からはじまった。

 5月7日~5月9日の3日間にわたって行なわれるBuild 2018では、同社CEOのサティヤ・ナデラ氏をはじめとした幹部が登壇し、今後の同社プラットフォームの方向性を開発者に向けて語る機会となっている。

クラウドファースト/モバイルファーストからインテリジェントクラウド/インテリジェントエッジへ

 3日間の日程のうち、5月7日(Day1)、5月8日(Day2)にそれぞれ基調講演があり、Day1にはサティヤ・ナデラ氏と、クラウド & エンタープライズグループ上級副社長(EVP)のスコット・ガスリー氏が登壇。ナデラ氏はMicrosoft全体の戦略を語り、ガスリー氏は担当分野であるAzureなどのクラウドに関する講演となる。

 5月8日(Day2)の基調講演では、Microsoft 365が開発者にもたらすメリットについて、執行役員(CVP)のジョー・ベルフィオーレ氏が説明する。

 ナデラ氏の講演では、昨年(2017年)のBuild 2017でMicrosoftが新しい概念として明らかにした「インテリジェントクラウド/インテリジェントエッジ」のより進んだ戦略について説明する。これは、“より進化したクラウドプラットフォーム、より進化したIoT(Internet of Things)”という意味で、従来のサーバー/クライアント型のコンピューティングモデルから大転換を図るものとなる。

 ここ数年、Microsoftは「クラウドファースト/モバイルファースト」というスローガンを推進してきた。これは、従来のPCを中心としたコンピューティングモデルから、クラウドをより活用して、PCをモバイルに、そしてスマートフォンなどのモバイル機器を取り込んだかたちの提案というものだった。

 昨年からMicrosoftが盛んに使っている「インテリジェントクラウド/インテリジェントエッジ」というスローガンは、クラウドファースト/モバイルファーストに、マシンラーニング(機械学習)を活用したAIによる機能を追加して、よりインテリジェントに進化したクラウドファースト/モバイルファーストを実現するプラットフォームを提供していくという意味になる。

 つまり、クラウド(インターネット側のサーバー)とエッジ(ユーザー側の端末)にAIの機能を付加して、新しいサービスをより迅速に提供していくプラットフォームをMicrosoftが提供していくといった構想と言える。

AIを利用して障碍者の自立と生産性の向上を目指すAI for Accessibilityを発表

 クラウドサーバーも急速に発展しており、たとえば、MicrosoftがAzure上で提供しているコンテナ型のオープンソースプラットフォームとなるKubernetesは、昨年のBuildのときに比べて利用数が10倍になったという。

 Kubernetesのようなコンテナ型のソフトウェアは、クラウド側のアプリケーション開発とその展開を容易にする。Kubernetesはインフラ(クラウドサービスやCPUのアーキテクチャなど)から独立しており、Google CloudやAzure、Amazon Web Serviceといった複数のクラウドサービスに対応している。その利用数が増えたということは、それだけクラウドでアプリケーションを展開するサービスプロバイダが増えたということだ。

昨年発表されたAmazon AlexaとCortanaの連携デモ。CortanaからAlexaを呼び出されている。現在ベータテスト中でこちらのサイトから申し込むことができる(日本から利用可能かどうかは不明)

 ナデラ氏はこの基調講演でAIを利用した社会的解決を目指す取り組みの次の段階として、AI for Accessibility(アクセシビリティ向けAI)を発表する。

 5年間で2,500万ドル(1ドル=110円換算で27億5,000万円)もの費用を費やして行なわれるこのプログラムでは、身体的なハンディキャップを持つユーザーに向けて、新しいAIを利用してそれを助けるソリューションの開発を促していく。

 すでにMicrosoftは昨年のBuildで「Seeing AI」、「Microsoft Translator」を利用してハンディキャップを持つユーザーに自立性と生産性の向上を実現する取り組みを紹介しているが、AI for Accessibilityはそうした取り組みの継続となる。

 ナデラ氏はBuildの基調講演ではいくつかのデモを行なう予定だ。たとえば、RockwellがAzure IoT Edgeを利用して行なうドローンが故障箇所を自動認識するデモが披露される。

 これは、Qualcommのカメラを搭載したDJIのドローンが、5本のパイプの上を飛行し、カメラで撮影した画像を元に自動で破損しているパイプを認識し、それを別のクラウドサービスへと通知するというものだ。

 また、新しいセンシングデバイスとして、「Project Kinect for Azure」の計画を発表する。これは次世代のセンサー(おそらくカメラなど)とコンピューティングモジュールからなる新しいデバイスと、AzureのAIプラットフォームを組み合わせて利用することにより、高い電力効率で機械学習の推論をエッジ側で利用できるデバイスを構成可能になる。

 たとえば、ドローンやロボットなどに搭載することで、安価で高性能な自動マシンを作成できるようになる。Project Kinect for Azureは来年(2019年)投入される予定だ。

ナデラCEOの基調講演でデモされたDJIのドローン
Project Kinect for Azure

Visual Studio Live Shareのプレビュー版など開発ツールの進化を紹介、GitHubとの提携も発表

 ガスリー氏の基調講演では「Visual Studio Live Share」がプレビューとなったことを紹介する。

 Visual Studio Live Shareは複数の開発者がソースコードをシェアしながらソフトウェア開発を行なうツールだ。ソフトウェア開発者は、オフィスワーカーがMicrosoft のeamやSlackでコラボレーションするような感覚で、ほかのソフトウェア開発者と一緒にソフトウェアコードを書いたり、修正したりということが可能になる。

Microsoft クラウド & エンタープライズグループ上級副社長(EVP) スコット・ガスリー氏
Visual Studio Live Share

 また、ガスリー氏はGitHubとの提携に関しても言及する。MicrosoftはAzure DevOps ServicesをGitHubユーザーに対して提供するほか、Visual Studio App CenterをGitHubに統合し、GitHubの開発者がMicrosoft DevOps Servicesを利用して、Android、iOS、macOS、Windowsといったマルチプラットフォームのアプリを簡単に作れるようにする。

 ガスリー氏の講演ではふれられない予定だが、「Microsoft Azure Blockchain Workbench」というブロックチェーンのアプリケーションの開発プラットフォームを立ち上げる計画であることも明らかにされた。これは、これまでバラバラに提供されてきたブロックチェーンのソフトウェア開発環境を1つにまとめることで、ブロックチェーンを利用したアプリケーションの開発を容易にするというものだ。

Windows 10 PCとAndroid/iPhoneとのシームレスなやりとりをさらに拡張する

 5月8日(現地時間)に行なわれるベルフィオーレ氏の基調講演では、Microsoft 365やクライアントに関する発表が行なわれる予定だ。

 Microsoft 365とは、今年(2018年)Microsoftが推進している新しいクラウドサービスで、従来のOffice 365(の法人版)にWindows 10、Enterprise Mobility + Security (EMS、企業向けのモバイル/セキュリティ機能)をセットにしたものとなる。

 ここで言うWindows 10というのは、Windows 10の単体ライセンスという意味ではなく、Windows 7/8などからの無償アップグレード権になる。まだWindows 7ベースのPCをメインに使っている企業に低価格でWindows 10への無償アップグレード権とEMSを提供することでWindows 10への移行する促すというボーナスパックのようなサービスだと考えるとわかりやすい。

 現在、日本の大企業などでも、従来のボリュームライセンスのOfficeから、Office 365への移行が進んでおり、そうした企業をターゲットにした製品となる。

Microsoft 365

 Microsoft 365(およびOffice 365)の拡張という観点では、コラボレーションツールのTeamのGraph APIがアップデートされ、Teamの作成やTeamの設定を行なえるようになる。このほか、SharePointページをTeamに直接埋め込んだり、企業はカスタムアプリをTeamのストアアプリに公開可能になる。

Your Phone UWP App

 Windowsプラットフォームの進化という意味では、昨年発表されたAndroidやiPhoneとのシームレスな連携機能のアップデートが発表される。

 Microsoftが導入する「Your Phone UWP App」を利用すると、ユーザーは自分のPCからテキストや写真、通知などをスマートフォンに表示できる。もうWindows PCとスマートフォンを連携させるのに、サードパーティのソフトウェアを導入する必要がなくなるわけだ。

 また、MicrosoftがAndroid OS向けに提供しているランチャー(シェル)アプリのMicrosoft Launcherに、Windows 10 April Update 2018(RS4)で導入されたTimelineの機能がサポートされるようになる。

 Windows PCで見ているTimelineの機能がそのままAndroidのスマートフォンなどでシームレスに見えるようになるということなので、Windows PCとAndroidの両方を使っているユーザーには非常にありがたい機能となるだろう。

Timelineの機能がスマートフォンでも利用可能に

 このほか、ベルフィオーレ氏はMicrosoft Storeの新しい収益シェアモデルについて説明する。

 Microsoft Storeのようなアプリのストアでは、プラットフォーマー(Apple/Google/Amazon/Microsoft)とソフトウェア開発者が売り上げをシェアする仕組みを採用しており、ソフトウェア開発者の取り分はプラットフォーマーによって異なっている。

 ベルフィオーレ氏は、Microsoft Storeにおけるソフトウェア開発者の取り分を最高で95%にする新しい仕組みの導入について説明する予定だ。

スマートフォン時代の終わりのはじまり、次を見据えてインテリジェントクラウド/インテリジェントエッジに注力へ

 このように、今回のBuild 2018で発表される内容を見ていると、非常に多岐にわたっている。1つ言えることは、Microsoftがもっとも注力しているのは、明らかにナデラ氏の講演でふれられる「インテリジェントクラウド/インテリジェントエッジ」だというだ。

 今後のコンピューティングモデルがAI抜きには語れないことは、もはや筆者がここで繰り返すまでもないだろう。クラウド側、そしてエッジ側に実装される機械学習を利用したAIは、とくにエッジ側(従来の言い方をすればクライアント側)の環境を大きく変える可能性を秘めている。

 これまでの数十年間、PCやスマートフォンなどの強力なプロセッサ+プログラマブルなソフトウェアというデバイスが主役だった時代から、いわゆるIoTと呼ばれる強力なプロセッサやプログラマブルなソフトウェアは持たず、クラウド側のプロセッサとアプリケーションを活用する機器が主役の時代へと転換しつつある。

 それをわかりやすく体現しているのがAmazon Alexaであり、自動運転車だ。今後はそうしたIoTが主役となる時代が来る、それが明日のデジタルの世界だ。

 PCの時代がスマートフォンの時代になったように、今まさにスマートフォンの時代がまもなく終わり、これからIoTの時代に入りつつある。スマートフォン時代に敗者になってしまったMicrosoftにとっては、ポストスマホ時代に勝者になるためには、AmazonやGoogleといった競合との激しい競争に打ち勝っていく必要がある。

 今回のBuild 2018で、Microsoftがインテリジェントクラウド/インテリジェントエッジにフォーカスしたのも、そうした未来を見据えて続々と手を打っているためと考えれば理解しやすいのだろう。