イベントレポート
ブーツのかかとに埋め込む、GPS不要の超小型ナビゲーションシステム
2018年2月15日 13:18
ナビゲーションシステムは普通、GPS衛星の電波を受信して位置を把握する。GPSナビゲーションは優れた技術であり、広く普及している。ただしいつでも、GPS衛星の電波を受信できるとはかぎらない。GPS電波を受信せずとも、位置の把握が可能になるシステムがあると、ナビゲーションの利便性が高まる。
GPS衛星を使わないで位置を把握する手法としては古くから、慣性測定(Inertial Measurement)方式がある。ジャイロセンサーや加速度センサー、磁気センサーなどを組み合わせて移動方向と移動距離を測定し、現在位置を知る。大規模な高精度の慣性測定ユニットは、潜水艦や航空機などの航法装置に使われる。
市販の小さな慣性測定ユニット(IMU:Inertial Measurement Unit)は、ロボットや工作機械などで動きの計測や姿勢の制御などに使われている。ただし、ナビゲーションシステムには使いづらい。IMUを稼働させ続けていると、誤差が累積することがある。精度を高めるため、何らかの工夫を盛り込むことが望まれる。
そこで米国のUniversity of Utahを中心とする研究グループ(ほかに米国のUniversity of California at BerkeleyとCase Western Reserve University、トルコのOzyegin Universityが参加)は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の圧力センサーとIMUを組み合わせたGPS不要の超小型ナビゲーションシステムを考案・試作し、ブーツのかかとに埋め込んで動作を確認した。その概要を国際学会ISSCCで発表した(講演番号10.2)。
試作したシステムは、MEMSの圧力センサー、小型のIMU、半導体チップ(ASIC)などで構成される。MEMSの圧力センサ―と小型IMUはブーツ(右足のみ)の底、かかとの下に埋め込んである。IMUは3軸の加速度センサーと3軸の角速度センサー(ジャイロセンサー)、3軸の磁気センサーを内蔵する。
発表によると、IMUは測定を継続しつづけると、誤差が蓄積するという欠点がある。この欠点を解消するためには、適切なタイミングでリセットをかける必要があるという。そこで歩行者が地面を蹴るタイミングをMEMSの圧力センサーで把握してIMUにリセットをかけ、誤差の蓄積を防ぐ仕組みを考案した。
なぜこのタイミングなのか。地面をブーツが蹴っているときに、蹴っているブーツそのものはほとんど移動しない。このためIMUにリセットをかけても、このタイミングであればIMUの測定値に与える影響が少ない。歩行者がブーツで地面を蹴ったときの反力(床反力)をMEMSセンサーが検出し、検出したタイミングでIMUをリセットする。
MEMSセンサーアレイでかかとが地面を蹴るタイミングを検知
MEMSの圧力センサーは26素子×13素子のセンサーアレイで、大きさは57×54mmである。シリコーンのPDMS(Polydimethylsiloxane:ポリジメチルシロキサン)フィルムに2次元マトリクスアレイ状の孔を開けて電極アレイを設けてあり、下地であるフレキシブル基板に埋め込んだ電極アレイとの間でキャパシタアレイを形成する。ブーツのかかとが地面を踏むとPDMSが変形し、キャパシタの静電容量が変化する。このようにして床反力(圧力)を検出する。
ブーツのかかとが地面を踏みはじめてから、地面を蹴り出すまでの間に、床反力の分布が変化する。この変化をセンサーアレイで捉えることで、ブーツのかかとが地面を踏みはじめるタイミングと、踏みつける期間、踏み終わって蹴り出すタイミングを把握する。これらのタイミングに合わせてIMUを制御する。