笠原一輝のユビキタス情報局

さらに“日本語を極めた”2020年版一太郎とATOK。ATOKのアップデートは明日公開

株式会社ジャストシステム ソリューションストラテジー事業部 企画開発グループ セクションリーダー 下岡美由紀氏

 ジャストシステムは、2019年12月4日に記者会見を行ない、同社の35周年(1979年創業)を記念する製品として「一太郎 2020 プラチナ[35周年記念版]」を2月7日に発売することを発表した(ジャストシステム、35周年を迎えた日本語ワープロソフト「一太郎 2020」参照)。

 本誌の読者であれば説明する必要もないと思うが、一太郎はワードプロセッシング(いわゆるワープロ)ソフトウェアであり、1985年に登場した最初のバージョン以来、とくに日本語環境での文章作成を行なうユーザーに支持されている。

 まもなく販売が開始される一太郎 2020、そしてそれに同梱されるATOK for Windowsの製品担当者に話をうかがう機会を得たので、新製品に関するジャストシステムの意気込みをお伝えする。

スマホでメモを取り、PC上の一太郎にWi-Fiで飛ばすという「一太郎Pad」

一太郎 2020のパッケージとATOK Passportのパネル

 ジャストシステムと言えば1979年に徳島市で創業した我が国の代表的なISV(独立系ソフトウェアベンダー)としてよく知られている。その代表的な製品と言えばワープロソフトの「一太郎」と日本語IMEとなる「ATOK(Advanced Technology Of Kana-Kanji transfer)」であることに論を俟たないだろう。

 1982年にATOKの原型となる日本語処理システム「KTIS(Kana-Kanji Transfer Input System)」を発表し、1985年には一太郎の最初のバージョンが登場した。それらをバージョンアップし続けてきており、現在でも多くのファンを獲得している。

 今回ジャストシステムは、最新版の一太郎とATOKを含む「一太郎 2020」を2月7日に発売する。「一太郎 2020 プラチナ[35周年記念版]」と通常版の「一太郎 2020」が用意されており、それぞれの違いは以下のようになっている。

【表】 一太郎 2020の製品の違い
一太郎 2020 プラチナ[35周年記念版]一太郎 2020
一太郎 2020
ATOK for Windows 一太郎 2020 Limited
フォトモジ
昭和・平成・令和 時をかけるイラスト70
モリサワフォント26書体
大辞林4.0 for ATOK
詠太10
花子2020
JUST PDF 4 [作成・編集・データ変換]
JUST Calc 4/R.2
JUST Focus 4/R.2
Shuriken 2018

 一太郎 2020のパッケージには一太郎本体、ATOK、フォトモジ、イラスト集が含まれており、それ以外の花子2020、モリサワフォント26書体やJUST Calc 4/R.2などはプラチナ版のみに付属してくる。前者はワープロ単体で、後者はそのほかのソフトウェアもパッケージにしたオフィススイートのようなかたちと理解するといいだろう。

株式会社ジャストシステム ソリューションストラテジー事業部 企画開発グループ 佐々木孝治氏(徳島の同社オフィスから電話会議で参加)

 そのなかでも大きな目玉になるのは一太郎 2020だ。ジャストシステム ソリューションストラテジー事業部 企画開発グループ 佐々木孝治氏は、「スマートフォン、タブレットが普及している状況のなかで、文章を書いたり、読んだりすることが変化をしている。とくにスマートフォンで文字を入力してメモを取ったり、カメラで撮影してメモの代わりにしたりするが一般的になっている。そこで、一太郎でもスマートフォンで書いた文章を一太郎に持ってこられるようにするツールとして、『一太郎Pad』の導入を決めた」と語る。一太郎 2020の大きな目玉として、「一太郎Pad」というスマートフォン向けアプリを導入したのだ。

一太郎Padの画面、音声入力しているところ(画像提供 : ジャストシステム)

 一太郎PadはiOS(12以上)/iPadOS(13)、Android(6以上)で動作するモバイルアプリで、それぞれのアプリストアから導入できる。ただし、利用するには一太郎 2020をユーザー登録済みのジャストシステムのID(Justアカウント)でログインする必要がある。

一太郎PadでOCR機能を利用しているところ(画像提供 : ジャストシステム)

 一太郎Padはメモとして文字データを残したり、カメラで撮影した文章をOCR機能でテキストデータへ変換したりすることができ、そうして作成したデータをWi-Fiを利用してPC上の一太郎へと転送できる。2つのデバイスは同じWi-Fiアクセスポイントに接続されている必要があり、その場合に一太郎Padから一太郎へとデータを転送できるようになっている。

 直接の競合となるMicrosoft Wordではこうしたコンパニオンアプリではなく、フルバージョンのWordのモバイル版をスマートフォン向けに提供している。ジャストシステムにもそうした一太郎 Mobile的なアプローチの方法があったと思うのだが、佐々木氏は「小さなスマートフォンの画面で一太郎を動かしてそれで文章を作ることには疑問があった。それよりはモバイルデバイスでは柔軟にメモを作成する役割に徹してもらい、それをPC上の一太郎に転送して仕上げるほうが現実的と考えた」とする。

教育市場や日本語入力を使うユーザーにフォーカスして改良を施した一太郎 2020

自動でふりがなを振る機能を利用した例、難しい漢字に自動でふりがなを振ってくれる。漢字に弱い上司が答弁で読み上げる文章を作らないといけない人などにはうれしい機能(画像提供 : ジャストシステム)

 佐々木氏は、「一太郎は教育関係でのシェアが高く、たとえば教職関係の方などに一太郎をずっと使っていただいている。縦書きの文化や日本語を大事にしている記者や小説家の皆様などにもよく使っていただいている。そうした日本語を扱う職業の皆様に使いやすいと思っていただけるような機能強化を目指している」と述べる。

 今回の一太郎のバージョンアップのコンセプトは、日本語をよりよく扱える一太郎の特長を、さらに伸ばすことにあるということだ。これは一太郎のソフトウェアとしての成り立ちに大きく影響していることだが、ジャストシステムは創業時から日本語をコンピュータ上で扱うときの快適さ、利便性などを追求したソフトウェアを開発してきた日本の企業だ。

 外資系、具体的には米国のソフトウェア企業がどうしてもグローバルを意識して英語と日本語のバイリンガルである必要があるのに対して、日本のユーザーのことをだけを考えていればいい一太郎では、何よりも日本語命でソフトウェアの設計ができる。

 前述したように、一太郎のユーザーは教育関係、小説家、記者職といった言葉を重要視するユーザーが多い。実際、筆者も仕事柄新聞記者の方と同席することが少なくないが、何のアプリを使って記事を書いているのかと聞いてみると、「一太郎」と答える人が多い。その理由としては、「縦書きするときの使い勝手では一太郎が一番だから」で、なるほどと思ったことがある。

 今回のバージョンアップでもそうした日本語にフォーカスした改良が含まれている。たとえば誤読しやすい用語に自動でふりがなを振る機能、子供や外国人にも読みやすいように文節を理解して改行する「文節改行」、住所表記のルールなどにしたがって住所を校正したり株式会社と(株)が混在していないかなどの日本語特有の文書校正を行なう機能などが入っている。

自動ふりがな機能の設定と振られるふりがなの例(画像提供 : ジャストシステム)

 たとえば文節改行に関しては、「教育関係の文章作成では子供や外国人などでも読みやすいように文章を書く必要があり、それが注目を集めている。横組みで文章を書いたときに行送りが途中で途切れたりすると子供や外国人にとって読みにくい文章になってしまう。そこで文章の内容を解析して、適切なところで行送りができるようにしている」としており、誰にとっても読みやすい日本語の文章を作るという一太郎のコンセプトを強化した機能になる。

文節改行の設定画面(画像提供 : ジャストシステム)
文節改行を利用する前の文章、おかしな文節で改行されてしまうと読みにくくなってしまう(画像提供 : ジャストシステム)
一太郎が自動で改行した例、シンプルで見やすくなっている(画像提供 : ジャストシステム)

 また、文章校正に関しては、たとえば「新宿区西新宿」という表記があったときに「東京都新宿区西新宿」という正しい住所表記にする。佐々木氏によれば「住所というのは公的文書などにはルールがある。たとえば政令指定都市では都道府県は書かないなどの細かなルールを一括してチェックできるようにしている」という。

 ビジネス文章では当然ながら公的なルールにしたがったほうがいいし、そうした日本の「ローカルルール」にもきちんと対応しているのが一太郎の強みと言える。

Tech Ver. 31で据え置かれる「ATOK for Windows」。サブスク化で随時機能強化

 今回の一太郎 2020 プラチナ[35周年記念版]と一太郎 2020には、どちらにも「ATOK for Windows 一太郎 2020 Limited」というATOKの最新版が搭載されている。「あれ、ATOKって年号がついてるんじゃなかったっけ?」という人は往年のATOKユーザーだと思うが、最近はバージョンアップしていなかった方だろう。

 ATOKに年号がついてバージョン表記の代わりになっていたのは、2017年の2月に販売開始されたATOK 2017までで、現在は「ATOK for Windows」とだけ呼ばれている。

 この点に関してジャストシステム ソリューションストラテジー事業部 企画開発グループ セクションリーダー 下岡美由紀氏は、「パッケージとしてのATOKの最後のバージョンが2017年に販売したATOK 2017。その後ATOKの単体販売は2011年から開始しているサブスクリプション版となるATOK Passportのみになっている。引き続き店頭でお買い求めになりたいというお客様もいらっしゃるのでPOSAカードを提供している」と述ベた。

ATOK PassportのPOSAカード。クレジットカードを持っていない人やクレジットカード課金がいやという場合には店頭でこのPOSAカードを購入すると定額制でATOK for Windowsを利用できる

 ただし、例外としてパッケージで提供されているのが一太郎にバンドルされている「ATOK for Windows一太郎20xx Limited」なのだ。つまり、サブスクリプション版ではなく最新版のATOKをパッケージ版として入手したいと考えているユーザーの唯一の選択肢が一太郎のパッケージ版ということになる。

 なお、年号でバージョンを表記されることはなくなったが、ソフトウェア内部のバージョンはもちろん存在している。ATOKの場合はそれが「Tech Ver.」と呼ばれるバージョン表記で、2020年1月の記事執筆時点では「バージョン31」が最新版だ。

 下岡氏によれば、2020年2月に提供予定の新バージョンでも「Tech Ver.はバージョン31のままになる」とのことだ。バージョン31は、2018年2月にディープラーニングの仕組みが導入されるなど、変換エンジンに大幅な改良が施されたときにつけられた番号だ。今回のアップデートでは変換エンジンに大きな手を入れず、従来からもあった連想変換を強化したり、推測変化を強化したりなどの機能強化が中心になっているため、据え置きにしたという。

推測変換の機能を強化。より長い文章を学習してくれるようになっているので、二度目に同じ文章を入れようとしたら推測変換にその候補が表示される(画像提供 : ジャストシステム)
連想変換の機能を強化。より正しい日本語を提案してくれたりする(画像提供 : ジャストシステム)

 Windows 10 October 2018 Update(バージョン1809)以降でサポートされているダークテーマへの対応も機能強化の1つとして説明されているが、じつはこの機能は昨年9月に提供されたアップデートですでに提供済みだ。

 つまり、ATOKのアップデートはすでに年次ではなくなっており、機能強化は随時行なわれるようになっている。これこそがサブスクリプションへ移行したメリットだと言えるだろう。

 通常ATOKのアップデートは一太郎の発売に先立って行なわれることが多く、下岡氏は今年(2020年)も「2月1日に公開したい」ということなので、もうまもなくアップデートが開始されるはずだ。なお、ATOK Passport契約者であれば、ATOKをインストールしたときに同時に導入される「JUSTオンラインアップデート」経由でアップデートが振ってくるので、配布開始後にそちらをチェックしていただきたい。