笠原一輝のユビキタス情報局
Xperia新機種の背後に見え隠れする“新Premium”の存在
2018年2月27日 13:24
ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(以下ソニーモバイル)は、通信業界向けの展示会MWC(Mobile World Congress)18の初日にあたる2月26日(現地時間)に記者会見を行ない、新しい同社のフラグシップスマートフォンとなるXperia XZ2、Xperia XZ2 Compactの2製品を発表した。
その発表の概要に関しては、上の別記事を参照していただくとして、本記事では読者の多くが抱いているであろう疑問点に関して、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社 商品企画 染谷洋祐氏に取材した内容を紹介していきたい。
XZ2とCompactのおもな違い
今回ソニーモバイルは5.7型のXperia XZ2と5型のXperia XZ2 Compactという2つの製品を発表し、3月から販売を開始すると明らかにした。
それぞれのスペックを表にまとめると以下のようになる。
Xperia XZ2 | Xperia XZ2 Compact | |
---|---|---|
SoC | Snapdragon 845 | |
メモリ | 4GB | |
内蔵ストレージ | 64GB(UFS) | |
ストレージ拡張 | microSDXC(最大400GB) | |
ディスプレイ | 5.7型 フルHD+(18:9比)/HDR対応 | 5型 フルHD+(18:9比)/HDR対応 |
モデム | Cat18(5CA、最大下り1.2Gbps、4x4 MIMO) | Cat15(4CA、最大下り800Mbps、4x4 MIMO) |
Wi-Fi | IEEE 802.11ac(MIMO) | |
Bluetooth | 5.0(LDAC/aptX HD対応) | |
NFC | 搭載 | |
I/O | USB Type-C | |
背面カメラ | ||
CMOSセンサー | 1,900万画素MotionEye(1/2.3") | |
ISO最大(写真) | 12800 | |
ISO最大(動画) | 4000 | |
4K HDRビデオ録画 | ○ | |
960fps フルHD スーパースローモーション | ○ | |
先読みキャプチャー | ○ | |
3Dクリエイター機能 | ○ | |
前面カメラ | ||
CMOSセンサー | 500万画素(1/5") | |
3Dクリエイター機能 | ○ | |
オーディオ機能 | ||
ソニーダイナミックバイブレーションシステム | ○ | |
ハイレゾオーディオ対応 | ○ | |
DSEE HX | ○ | |
ステレオスピーカー(S-FORCE対応) | ○ | |
フロントサラウンド | ○ | |
ステレオ録音 | ○ | |
バッテリ容量 | 3,180mAh | 2,870mAh |
QI対応 | ○ | - |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 153x72x11.1mm | 135x65x12.1mm |
重量 | 198g | 168g |
カラバリ | ||
黒系 | リキッドブラック | ブラック |
銀系 | リキッドシルバー | ホワイトシルバー |
青系 | ディープグリーン | モスグリーン |
ピンク系 | アッシュピンク | コーラルピンク |
OS | Andorid 8.0 |
スペック表からもわかるように、両者の違いは、大きく4つある。
- 液晶ディスプレイとそれに伴う本体サイズ
- バッテリ容量の違い、Qi対応
- LTEの下り速度
- カラバリの違い
液晶ディスプレイはXZ2が5.7型/フルHD+であるのに対して、XZは5型/フルHD+となっており、いずれも最近流行の18:9(2:1)アスペクト比になっているのが大きな特徴だ。ただし、最新のハイエンドスマートフォンでは標準になりつつある狭額縁のデザインにはなっていない。
この点についてソニーモバイルの染谷氏は「18:9のアスペクト比を採用したのは大画面化したかったため。狭額縁にしなかったのはアンテナのために上下にスペースが必要だったのと、バランスの関係だ」と説明する。
今回の18:9比のパネルを採用したことは、Xperia XZ2 Compact側に恩恵が大きいと言える。液晶サイズが4.6型から5型に大型化しつつも、縦方向に液晶が伸びただけで横方向のサイズは65mmと従来モデルと変わっていない。このため、従来製品のCompactで好評を博していた片手で持って操作できるという特徴(というよりは存在意義とも言っていい)は引き続き健在だ。
Xperia XZ2のほうが大型の液晶を採用しており、その分底面積が大きく、より大型のバッテリを搭載できるのは当然だろう。さらに、XZ2のみの特徴としては、ワイヤレス給電(Qi)に対応する。
どちらの製品もSnapdragon 845に内蔵されているモデム(正確にはベースバンド、RFは外付けになる)を利用している。そのため、モデムの機能としては等しくLTE-Advancedのカテゴリ18に対応できるが、アンテナの実装面積、コストや市場のニーズの問題で、Compactではフルの実装は必要がないと判断。XZ2のみが下り1.2GbpsのCat.18対応となっている。
もっとも、これに関しては通信キャリア側の対応が必須となるので、仮に日本で両製品が発売されても日本のユーザーにとってはさほど重要な違いにはならないかもしれない(現時点でCat.18に対応している通信キャリアがないため)。
カラバリはどちらも、黒系、銀系、青系、ピンク系の4色が用意されているが、名前は異なっている。その理由は、XZ2は背面のパネルはガラスとアルミフレームの組み合わせであるのに対して、XZ2 Compactは樹脂とアルミフレームの組み合わせになっており、色味や見え方などが若干異なるからだ。
質感という点ではガラスのXZ2のほうが高級に見えるが、ある程度雑にあつかっても割れにくい樹脂のXZ2 Compactのほうが神経質になる必要がないというメリットがあるとも言える。
HLGで4K HDR動画を撮影可能
今回のXperia XZ2、Xperia XZ2 Compactではいくつかの機能が強化されている。具体的に紹介していくと以下のようになっている。
- 4K HDRの動画撮影に対応
- スーパースローモーションのフルHD対応
- X-Reality for MobileのHDR対応
- スピーカーの音圧の強化
- ダイナミックバイブレーションシステム
4K HDRの撮影時にはソニーの4K HDR対応カムコーダーFDR-AX700で採用している4K HDR-HLGフォーマットで4K HDRの動画を撮影できるようになっている。つまり、20万円弱という価格がつけられているソニーの民生用ハンディカムのフラグシップモデルと同じフォーマットの4K HDRの映像が撮影できるということだ(無論ズームなどはないし、機能としてはハンディカムのほうがはるかに上だが)。
これにより、色の階調表現が豊かになり、色域も広くなっているので、表現力が上がっている。実際にTVでXperiaで撮影した4K HDRを見ることができたが、さすがと思わせる説得力があった。
HDR機能はは昨年(2017年)のXperiaから採用されているMotionEye(DRAM積層CMOSセンサー)とSnapdragon 845のISPの機能を利用して、1フレームに対して明るめのショットと暗めのショットを合成し実現している。
スーパースローモーションは、昨年MWCで発表されたMotionEyeモデルで実現された機能で、960fpsというスローモーションの動画を撮影する機能だ。昨年のモデルではHD解像度において6秒間の再生で0.2秒を表現するという機能だったものが、今年(2018年)のモデルではフルHD解像度において3秒間の再生で0.1秒を表現することが可能になっている(解像度が上がった分だけスローモーションの時間が減っている)。
X-Reality for MobileはXperiaに搭載されている動画のアップスケーリング機能だが、従来はSDの映像をHDにアップスケーリングして表示するときに補正を入れることで、高品質な動画を楽しめるという機能だった。
今回の製品ではHDにアップスケールするだけでなく、HDR向けの補正も同時に行なう。XZ2/XZ2 CompactともにHDRに対応したパネルになっており、SDR動画を再生したときにも高輝度、高コントラストで楽しめる。
このほか、スピーカーの音圧の強化、なっている音を解析してそれに併せてバイブレーションをならすダイナミックバイブレーションシステムなどの機能が追加されている
一方で、3.5mmのヘッドフォン端子は今回発表された両製品で廃止されている。3.5mmのヘッドフォン端子が必要な場合は、標準添付されるUSB Type-Cの変換ケーブルを利用する必要がある。この変換ケーブルはハイレゾにも対応しており、従来のXperiaとハイレゾ対応ヘッドフォンで有線で楽しんでいたというユーザーも引き続き安心して利用できる(変換ケーブル式がうれしいかどうかは別の話だが)。
もう1つ大きな変化は指紋センサーが側面から背面に場所が変更されていることだ。この点に関して染谷氏は「これまで片手でのオペレーションがいいと説明してきたが、一方でそれぞれの手への対応という課題もあった。お客様からはそろそろ新しい世界観を見せてほしいというご意見もあり、どういうデバイスがいいのかよく検討した結果としてこういうデザインになった」と説明する。
個人的には指紋認証センサーの位置は、好みと慣れの問題だと思うが、これまで右側の側面にあったものを背面に移動するというのは、ソニーモバイルの内部でもかなり議論されたようだ。そして総合的に考えて背面がいいだろうという決定が下されたとのことだった。
複眼カメラと新設計のISP単体チップとの組み合わせでレンズ交換式に迫る超高感度撮影の参考展示が行なわれる
ソニーモバイルは、今回のXperia XZ2/Xperia XZ2 Compactでは採用しなかったが、最高ISO感度51200(静止画時)/12800(動画撮影時)の超高感度撮影を可能にする複眼カメラと新しいISP(Image Signal Processor)の参考出展を行なった。
こうした超高感度撮影は、レンズ交換式デジタルカメラを使わないと難しかったのだが、今回それをスマートフォンで実現する技術を開発、参考出展している。
染谷氏は「複眼カメラがスマートフォンのトレンドになっていることは認識しており、弊社としてもそれをどのように実装するかは検討してきたが、他社のように単なるテレ側、ワイド側としてだけ使うのではなく、もっとソニーらしい提案をしたいと考えてきた。そこで、新しく開発したISP単体チップと組み合わせることで暗所における超高感度撮影を可能にした」と説明する。
2つのレンズで撮影した画像を合成するにあたり、一般的にはCPUやGPUを利用してソフトウェアで処理している。静止画であれば問題ないが、動画の場合、1秒間に30~60枚の静止画を処理するため、1フレームごとに合成してたのでは、CPUやGPUには高い負荷がかかる。
そこで、「フュージョンISP」という独自のISPを用意し、ハードウェア的に処理。CPUやGPUにかかる負荷をオフロードすることで、高いISO感度を実現する。
染谷氏はそれ以上詳細な説明をしなかったが、静止画と動画でISO感度が違うところを見ると、おそらく静止画の場合には2つのレンズがそれぞれ1ショットに対し、複数枚の静止画を撮影してフュージョンISPが合成する、ということだろう。
ブースで行なっていたデモは暗所での動画撮影をXperia従来機種と見比べる内容だったが、報道関係者向けのデモでは、筆者が持参した他社製のスマートフォンとの比較を試すことができた。ライブプレビューだけでISPが動いていない状態では、他社のスマートフォンでもたいして変わらなかったが、録画を開始してみたところ、確かにソニーモバイルが試作した製品では、暗所でも動画がしっかりと撮影できていた。
はたしてXperia XZ2 Premium(仮称)は登場するのか?
この複眼レンズ+フュージョンISPは、なぜ今回発表されたXperia XZ2やXperia XZ2 Compactには採用されなかったのだろうか?
そこに、今回Xperia XZ Premiumの後継が登場しなかった理由があるように思えてならない。近年のソニーのハイエンド機は、4KパネルのPremium、フルHD級のパネルを採用した無印のXZ、HD級のパネルのCompactという3本立てだった。いずれもハイエンドに位置づけられているが、そのなかでもプレミアムなフラグシップ製品と位置づけてきたのがPremiumがついた製品だ。
今回Xperia XZ Premiumの後継が投入されなかった理由について染谷氏は「Xperia XZ Premiumは4Kなどほかの製品にない特徴を備えており、今後も販売を継続する。今回はさまざまな理由で後継製品の投入はないが、今後もないというわけではない。具体的な計画について今は説明できない」と述べた。
その“さまざまな理由”がなんであるかの説明はなかったが、いずれにせよ今回は出さないが、ロードマップには後継製品があることは暗示していると言えるだろう。
昨年Xperia XZ Premiumで採用したスーパースローモーションは、今年のほかのメーカーの製品でも採用され、ある種のトレンドになっている。ある意味、ソニーモバイルは独自の道を行き、新しいアプリケーションのトレンドを作り出したとも言える。
その一方で、複眼カメラや狭額縁というトレンドでは周回遅れになっているとも言えるわけで、複眼カメラ+新ISP搭載のXperia XZ2 Premiumを期待したい。