笠原一輝のユビキタス情報局
バックアップにブロックチェーンやAIなど最新技術を取り入れ、事業領域も拡大するAcronis
~ベロウゾフCEOにその狙いを訊く
2018年1月25日 13:51
True Imageなどのバックアップソフトウェアで知られるソフトウェア企業のAcronisは25日、新ソフト「Acronis Ransomware Protection」を無償で提供すると明らかにした。ランサムウェアを検知してランサムウェアがデータを暗号化することを防いだり、まんがいち感染した場合でもクラウドストレージから復元し、重要なデータの喪失を防ぐことができる。
新ソフトの発表に合わせて本誌インタビューに応じたAcronis CEOのセルゲイ・ベロウゾフ氏は「われわれはAcronis Ransomware Protectionを無償で提供する。これは、現在ランサムウェアによる攻撃はより激しくなっており、被害は広がっており、それはここ日本も例外ではないからだ」と述べる。
True Image Homeからクラウド型バックアップのTrue Imageへと進化
AcronisとParallels、そのどちらもおそらくリテラシーの高いPCユーザーにはお馴染みの名前のソフトウェアではないだろうか。前者はTrue Imageなどのバックアップソフトウェアを提供する企業として、後者はMacユーザーの多くがWindowsを仮想マシン環境で使う時に仮想化ソフトウェアである「Parallels Desktop for Mac」を提供する企業としてよく知られていることだろう。
だが、その2つのソフトウェアメーカーを創業したのがいずれも同じ人物だということもご存じだろうか?
その人こそが、Acronis CEO セルゲイ・ベロウゾフ氏だ。ベロウゾフ氏はロシア生まれの46歳で、現在はシンガポール国籍を取得してシンガポールに拠点を構える。ベロウゾフ氏は、若い頃からIT技術に精通しており、多くの会社を起業してきた。Parallelsでは2011年までCEOを務め、その後後任にCEOにポジションを譲り、会長に就任。2013年からAcronisのCEOに就任して、Acronisの企業戦略をリードする立場にある。
ベロウゾフ氏のリーダーシップのもと、Acronisは急速に企業の形を変えてきている。おそらく多くのPC Watch読者にとってのAcronisと言えば、「True Image」のブランド名で知られるPCクライアントのバックアップソフトウェアだろう。
True Imageの特徴は、Windows標準のバックアップツールよりも柔軟にバックアップが取れることだ。Windows 10に付属している「バックアップと復元(Windows 7)」は、起動領域なども含めてのイメージバックアップができるが、差分バックアップやバージョン管理はできない。
一方、True Imageはそれらもすべてサポートしているほか、「Win PE」と呼ばれるフルリストア時などに必要になるプリブート環境に組み込めたり、ローカルHDDだけでなく、クラウドへのバックアップ機能も備えるなど、さまざまなニーズに応えられる。
ブロックチェーンを利用した証明書を採用
一般消費者向けPCソフトウェアで先行したAcronisだが、近年は企業向けのバックアップソリューションを充実させている。企業向けのバックアップソフトウェアとして「Acronis Backup」を投入しており、サーバー、仮想マシン、そしてクラウドストレージ/環境までバックアップできる領域を広げている。
ベロウゾフ氏は「弊社が目指しているのは、個人であろうが法人であろうが、ユーザーのデータをすべて保護することだ。データ保護の重要性は個人でも法人でも同じであり、アプリケーションや保護するソリューションが違うだけだ」と述べる。また、そのソリューションは、単に保護するだけなく、高い信頼性を備え、簡単かつ確実に利用できるものでなければならないという。
そこで同社は直近の製品から、ブロックチェーンとAIの採用を開始している。たとえば、True Image 2017からはブロックチェーンの機能を利用したクラウドバックアップ機能と、Active Protectionと呼ばれるAIを利用したランサムウェア対策機能が入っている。
ブロックチェーンとは、パブリック署名機能とでも言うべきもので、あるデータが正しいことを、1つの証明書ではなく、インターネットに接続されているコンピュータ全体で証明するような仕組みだ。このため、ブロックチェーン技術を使って保存されているデータを改竄していくことは不可能とされており、ビットコインのような仮想通貨もこの仕組みを利用し、偽造できないようにしている。
Acronisでは、ブロックチェーンを、True Imageユーザーがクラウドにデータを保存するさいにデータが改竄されていないことを証明する証明書として利用している(Acronis Notaryと呼ばれる)。True Imageのような一般消費者向けソフトウェアでは、珍しい使い方と言える。
ベロウゾフ氏は「デジタル証明書としてブロックチェーンを活用している。既存企業が提供している証明書を利用すると、コストがかかるし、なによりそれが正しい証明書かどうかは、その会社がどこまで信用できるかの議論になりかねない。ブロックチェーンであれば、インターネット全体がその存在証明のようなモノであり、もっとも効率が良く信頼性が高いと言える。ネットワークのプロトコルがノベルなどのプロプライエタリなものから、オープンスタンダードなTCP/IPへと移行したように、証明書もブロックチェーンがスタンダードになっていくと私は考えている」と、ブロックチェーン採用の理由を語る。
ランサムウェア対策を実現するAcronis Ransomware Protectionを無償で提供
また、機械学習を利用したランサムウェア検知機能が、True Image 2017から「Active Protection」として搭載され、現行バージョンのTrue Image 2018ではActive Protection 2.0として実装されている。
ランサムウェアとは、昨年来猛威を振るっているマルウェアで、感染するとユーザーのデータを暗号化し、それを質にして解除料を要求する。解除料を払っても本当に解除されるかわからず、やっかいなマルウェアと言える。
Active Protection 2.0では、機械学習を利用してランサムウェアの動きを検知する。PCの環境はみな異なっており、機械学習がそれを分析してそれぞれにあったアルゴリズムを使いランサムウェアを検知。パターン検知、ホワイトリスト、ブラックリストなどさまざまな手法が利用されている。
こらまでActive Protection 2.0は、True Image 2018の1機能として搭載されていたが、今回Acronisはそれを単体ソフトウェア「Acronis Ransomware Protection」として提供していく。
ベロウゾフ氏は「われわれはAcronis Ransomware Protectionを無償で提供する。これは、現在ランサムウェアによる攻撃はより激しくなっており、被害は広がっており、それはここ日本も例外ではないからだ。われわれはランサムウェアがなくなるまで戦うつもりで、このソフトウェアを無償で提供する」と述べる。同社が商用ソフトを無償で提供するのはこれが最初となる。
Acronis Ransomware Protectionは20MB程度で動作するという比較的小さなアプリケーションになっている。多くの機能があり、メモリ占有率が高いフルバックアップソフトに対して、システムに対する負荷が小さい。また、シマンテックやトレンドマイクロなどの他社のアンチウィルスやファイヤーウォールソフトウェアなどを有効にしたままでも利用できる。
また、そうしたランサムウェアの検知ツールでも検知できず不幸にも暗号化されてしまった場合に備えて、重要なファイルのクラウドストレージへのバックアップ機能も用意され、無償で5GBのクラウドストレージの利用権も付属する。
利用率などから、ファイルの重要性をソフトが自動判断し、ユーザーに示す機能もあり、ドキュメントファイルを中心としたバックアップとしてはじゅうぶんなサイズだろう。
より大きなサイズのデータをバックアップしたい場合、有償のTrue Imageでは最大1TBのクラウドストレージを利用することができる。
Acronis Ransomware Protectionは現在Windows版が無償配布されており、将来macOS版も計画されているという。
ベロウゾフ氏は、「ITは今後もっと難しく、コストもかかるようになる。そういった障壁や管理の煩雑さを自動化により低減しつつ、すべてのデジタルデータ保護ソリューションを一般ユーザーから大企業にまで提供していきたい。そのための研究開発にも大きな投資を行なっている」と事業領域のさらなる拡大への意欲を示した。