福田昭のセミコン業界最前線
半導体メモリ大手の業績が一気に悪化
2022年11月30日 09:27
半導体メモリ大手メーカーの業績が、今年(2022年)の7月を境に一気に悪化し始めた。Samsung Electronics、SK hynix、Micron Technology、Western Digital(WD)、キオクシアが公表した2022年9月期(Micronだけは2022年8月期)の半導体メモリ事業に関する四半期業績は、キオクシアを除くとすべて、前の四半期(前期)と比べて減収減益となった。
なおキオクシアは増収減益だが、前の四半期に量産トラブル(製造工程に異物が混入したことによる操業の一時停止)による売り上げ減があったことの反動で収入が増加したことを割り引かなければならない。
2022年10月5日付けの本コラムで述べたように、DRAM価格とNANDフラッシュメモリ価格は2022年7月以降、急激に低下した。ロシアのウクライナ侵攻に端を発した世界的なインフレと、中国のロックダウンによる電子機器生産の制限よって需要の縮小が進むとともに、それまでのメモリ不足に対応するために供給が拡大した。需給バランスが想定を超えて急速に悪化し、在庫が積み上がり、メモリ価格は値崩れを起こした。
DRAM大手3社、直近の四半期売り上げと四半期利益が2桁%で減少
各社が公表した直近の四半期業績を見てみよう。まずはDRAM大手の3社だ。Samsung Electronics(以降はSamsungと表記)とSK hynixは2022年7月~9月期、Micron Technology(以降はMicronと表記)は同年6月~8月期の業績である。
Samsungの半導体事業における売上高は、前年同期比14%減、前四半期比(前期比)19%減である。前四半期は過去最高の売上高を更新していた。半導体売り上げのおよそ70%~80%はメモリ事業であり、メモリ事業の売上高が前年同期比27%減、前期比28%減と3割近く減少したことが全体に大きく影響した。なお半導体事業全体の営業利益は前期比49%減と、ほぼ半分になってしまった。
SamsungはDRAMとNANDフラッシュの売上高を公表していない。そこで市場調査会社DRAMeXchangeが四半期ごとに公表している半導体メモリ売上高のデータを使うことにする。2022年第3四半期(同年7月~9月期)のDRAM売上高は前期比33.5%減の74億ドル、NANDフラッシュ売上高は同28.1%減の43億ドルである。いずれも3割前後の大幅減となった。
続いてSK hynixである。同社の売り上げは95%以上を半導体メモリ(DRAMとNANDフラッシュメモリの合計)が占める。売上高は前年同期比7%減、前期比20%減である。営業利益は前期比61%減と激しく落ち込んだ。なおIntelから買収したNANDフラッシュ事業会社Solidigmの業績を、2022年第1四半期より連結決算に組み込んでいる。
Micronは全社売り上げの95%前後をDRAMとNANDフラッシュメモリが占める。売上高は前年同期比20%減、前期比23%減で、DRAM大手3社の中では落ち込みが最も大きい。営業利益は前期比47%減とほぼ半分になった。
NANDフラッシュ大手2社、WDは売上減、キオクシアは利益減
ここからはNANDフラッシュメモリ大手2社の業績を見ていく。前述のDRAM大手3社はいずれもNANDフラッシュ大手でもあるので、NANDフラッシュ大手5社の残り2社と表現するのが正確だろう。残り2社とはWestern Digital(以降はWDと表記)とキオクシアだ。
WDはHDD事業とNANDフラッシュ事業の2つを主要な事業とする。NANDフラッシュ事業の主要製品はSSDやUSBメモリなどのフラッシュメモリ応用品である。その売上高は2022年第3四半期(同年7月~9月期)に前年同期比31%減、前四半期比)28%減と大きく低下した。
キオクシアだけは、これまでの5社とはかなり様相が違っている。2022会計年度第2四半期(同年7月~9月期)の売上高は前年同期比2.2%減、前四半期比6.5%増である。2022年1月下旬に3D NANDフラッシュ製造工程に異物が混入し、操業を一時停止したことの影響で同年度第1四半期に売上減があり、その反動で第2四半期は売り上げが上昇した。しかし販売単価が前期比で15%前後低下したことにより、営業利益は前期比5.3%減となった。
キオクシア、Micron、SK hynixが生産あるいは投資を調整
半導体メモリの景気後退が加速する中で、メモリ大手のいくつかは既に、生産数量あるいは設備投資の調整を決めた。キオクシアは2022年9月26日に、NANDフラッシュメモリ生産ラインのウェハ投入量を同年10月1日からこれまでよりも3割ほど削減するとのリリースを配信した。
3日後の9月29日には、Micronが2023会計年度の設備投資額を前年度の約3分の2に減らすと四半期業績の公表資料で明らかにした。特にウェハ処理工程(前工程)の設備投資額は、前年度の半分に縮小するとした。さらに11月16日には、DRAMとNANDフラッシュの生産ラインに投入するウェハの枚数を2022年6月~8月期(2022会計年度第4四半期)に比べて2割ほど減らすとのリリースを配信した。
SK hynixは10月26日に四半期業績(2022年度第3四半期)の公表資料で、2023年の設備投資額を前年の半分以下に減らすと明らかにした。
対照的なのがSamsungである。10月27日に開催した2022年7月~9月期の業績発表会に伴う質疑応答の中で、生産計画と設備投資計画の調整は考えていないと明言した。2023年の設備投資計画は現在も議論していると調整の可能性をもたせながらも、これらは中長期的に判断すべき性質のものであり、短期の動きには左右されないと述べた。また仮に2023年の設備投資額を減らしたとしても、効果が出るのは2年以上先であり、現在の市況にはそもそも間に合わないと断じた。
半導体メモリ業界では、景気後退が底を打って回復に向かうのは2023年の下半期になるとの見方が多い。2023年の上半期の底打ちはあまり期待できない。もっとはっきり言ってしまうと、過去には半導体メモリ不況が始まって底を打つ時期が当事者にも明確に見えていない時に、回復が1年ほど先になるとのコメントがなされてきた。
今回の不況が過去と違うのは、新たなマイナス要因が重なっていることだ。具体的には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化に伴う急激かつ広範囲の物価上昇、中国の「ゼロコロナ政策」継続による生産活動の停滞である。COVID-19に関してはワクチン開発と「ウイズコロナ」政策への転換によってマイナス要因としての影響は弱まった。しかし残りの2つは先の見通しがきわめて難しい。だからといって歩みを止めるわけにはいかないのが、半導体産業の宿命である。足を踏み出した先に何があるのか。注意深く見守っていきたい。