福田昭のセミコン業界最前線
2022年の半導体市場、不況の中Qualcomm、Broadcom、AMDが大きく躍進
2023年1月30日 09:35
Samsungが2桁のマイナス成長ながらもトップを維持
2023年1月17日(米国時間)に市場調査会社のGartnerは、2022年の半導体売上高ランキング(速報値)を発表した。Gartnerは例年、半導体の売上高上位10社のランキングを発表してきた。1月に速報値、4月に確定値を公表するという流れだ。
トップは前年に続き、Samsung Electronics(以降はSamsungと表記)である。2022年後半のメモリ不況の影響で成長率はマイナス10.4%と振るわなかったものの、2位のIntelがマイナス19.5%とさらに悪かったため、Samsungが2年連続の首位となった。ちなみに売上高はSamsungが約656億ドル、2位のIntelが約584億ドルで、前年(2021年)よりも差が開いた。
通信用半導体が売り上げを大きく伸ばす
3位は前年と同じくSK hynixだ。半導体メモリ大手にも関わらず、売上高は前年比2.6%減とSamsungに比べて傷が浅い。金額は約362億ドルである。なお2022年第2四半期(4月~6月期)には四半期ベースで過去最高の売り上げを記録した。
4位は移動体通信向け半導体大手のQualcommである。前年の5位からランクアップした。成長率は28.3%ときわめて高い。ランキング上位5社の中で、売上高を伸ばしたのはQualcommだけだ。金額は約348億ドルである。
5位は半導体メモリ大手のMicron Technology(以降はMicronと表記)で、前年の4位からランクダウンした。成長率はマイナス3.7%であり、マイナス幅はあまり大きくない。前半の伸びが大きかったことがうかがえる。金額は約276億ドルとなった。
6位は通信・ネットワーク向け半導体大手のBroadcomである。順位は前年と変わらないものの、成長率は26.7%できわめて高い。金額は約238億ドルである。
前年に10位でランキング入りしたAMDが2022年は7位に躍進
7位以下は8位を除き、順位に変動があった。前年に10位となって12年ぶりにトップ10社入りしたAMDが、2022年は7位にランクアップした。成長率は42.9%と非常に高い。ランキング上位10社の中で成長率ではトップに位置する。金額は約233億ドルとなった。
8位はTI(Texas Instruments)である。順位は前年と同じで、成長率は8.9%と堅い。金額は約188億ドルである。続く9位にはMediaTekが付けた。前年の7位からランクダウンした。成長率は3.5%と近年の同社としてはかなり低い。金額は約182億ドルである。
10位にはAppleが入った。前年の11位からランクアップした。成長率は20.4%とかなり高い。金額は約176億ドルである。前年に9位だったNVIDIAはランク外となった。
2022年第1四半期はAMDの半導体売上高が前期比で32%増と急伸
続いて四半期ごとのランキングを見ていこう。市場調査会社のOmdiaが、不定期に四半期ごとの半導体売り上げ上位10社のランキングと世界半導体市場(金額)を発表してきた。以下に紹介するのは2021年第4四半期~2022年第3四半期のランキングである。
2021年第4四半期(10月~12月期)と2022年第1四半期(1月~3月期)の上位10社ランキングは、2022年6月23日にOmdiaが発表した。偶然にも、上位10社の顔ぶれは両四半期で変わらない。順位の変動だけが生じた。
1位から5位までは両四半期のランキングは変わらない。トップから順に、Samsung、Intel、SK hynix、Qualcomm、Micronである。6位以降は変動がある。2021年第4四半期に8位だったAMDが2022年第1四半期には6位にランクアップした。前四半期比で売り上げを32%も伸ばすという、急成長の結果である。
AMDのランクアップにより、2021年第4四半期で6位のBroadcomと7位のNVIDIAは2022年第1四半期にはいずれもランクを1つずつ下げた。9位のMediaTekと10位のTIは両四半期とも同じ順位だった。
2022年第2四半期の上位10社は変わらず、6位~8位で順位が変動
ところがOmdiaが2022年9月22日に発表した2022年第1四半期と同年第2四半期(4月~6月期)のランキングでは、第1四半期の順位の一部が変更されていた。6位がNVIDIA(6月23日の発表時点では7位)、7位がBroadcom(同8位)、8位がAMD(同6位)になっていた。具体的にはNVIDIAとBroadcomの売上高を上方修正した結果、順位の修正が発生した。NVIDIAの売上高は64億6,900万ドル(前期比は5.0%増から12.5%増に上方修正)、Broadcomの売上高は63億500万ドル(前期比は5.0%増から8.9%増に上方修正)に上方修正された。一方、AMDの売上高は62億5,600万ドルのままで確定した。前期比の修正はなかったものの、順位には修正が生じた。
結局のところ、2022年第1四半期のランキング上位10社で順位の変動があったのは、NVIDIAとBroadcomだけだった。NVIDAが7位から6位にランクアップし、Broadcomが6位から7位にランクダウンした。AMDは8位のままである。
市場調査会社が発表した半導体企業の売上高などのデータでは、最新の数値に対して後から修正が加えられることが、しばしば見られる。最新の調査データを信じて安易に評価を下すと、後でしっぺ返しを受けることになるので、注意を払いたい。
さらに指摘すると、2022年第1四半期の世界市場は6月23日の発表時点では1,593億400万ドル、前期比マイナス0.03%だったのが、9月22日の発表時点では1,612億2,400万ドルへと上方修正されている。修正後の数値から計算した前期比は1.2%増となる。
話題をランキングに戻そう。2022年第2四半期(4月~6月期)のランキングで変化があったのは、上記の3社、NVIDIAとBroadcom、AMDである。NVIDIAはマイナス成長で順位が6位から8位へと下降した。BroadcomとAMDはいずれも1桁成長ながら、順位を1つずつ上げた。
10社中6社が前期比でマイナスとなった2022年第3四半期
2022年第3四半期(7月~9月期)は、すでに知られているように様相が一変した。Omdiaが2022年11月22日に発表した同四半期のランキングでは、半分を超える6社が前期比でマイナス成長となった。残る4社で2桁成長は1社もなく、3社が前期比で5%前後の増加、1社が横ばいである。
第1四半期のマイナス成長は2社、第2四半期のマイナス成長は3社だった。第3四半期で市況が一気に悪化したことが分かる。上位10社合計の前期比は12.2%減と2桁減となり、世界市場は前期比7.0%減と四半期ベースでは大きなマイナスを記録した。
市況の激変により、第3四半期のランキングはすべての順位で変動が起きた。しかも隣接する順位のペアがすべて入れ換わるという、不思議な結果となった。「トップと2位」が入れ換わり、「3位と4位」が入れ換わり、「5位と6位」が入れ換わり、「7位と8位」が入れ換わり、「9位と10位」が入れ換わった。
「トップと2位」はIntelとSamsungである。Intelは3四半期連続で前期比がマイナスとなったものの、Samsungが前期比28.1%減という大幅なマイナス成長となったために、前期のトップ(Samsung)と2位(Intel)が入れ換わった。
「3位と4位」はQualcommとSK hynixである。Qualcommは前期比5.6%増と売り上げを伸ばしたのに対し、SK hynixは同26.2%減と売り上げを大きく減らした。「5位と6位」はBroadcomとMicronである。Broadcomは前期比5.9%増と堅実な伸びを見せたのに対し、Micronは同27.7%減と著しいマイナス成長となった。
「7位と8位」はNVIDIAとAMDである。NVIDIAは前期比4.0%増、AMDは同15.2%減となり、NVIDIAは7位にランクアップし、AMDは8位にランクダウンした。「9位と10位」はTIとMediaTekである。TIは横ばい、MediaTekは前期比11.6%減と2桁減となった。このため、前期の9位(MediaTek)と10位(TI)が入れ換わった。
ランキングを公表してきたIC Insightsが2022年12月で休業
ここからはランキングそのものではなく、ランキングを調査している企業の話題になる。細かな話題だが、どうかご容赦されたい。
まず本コラムで例年はGarnerのランキングに加え、市場調査会社IC Insightsのランキングを報告してきた。今回はIC Insightsのランキングがない。IC Insightsの社長であるBill McClean氏がIC Insightsの閉鎖を決めたからだ。
市場調査会社のTechInsightsはIC Insightsの主要事業である調査レポート「The McClean Report」を買収した。このことは2022年10月20日に公表された。
またTechInsightsは最近、積極的に半導体調査会社の買収を進めてきた。VLSI Research、Linley Group、Strategy Analytics、IC Knowledgeを2021年8月~2022年12月に相次いで買収した。この結果、老舗とも呼べるいくつかの調査会社が消えていった。寂しいことだが、やむを得ないことなのかもしれない。