福田昭のセミコン業界最前線
急落する半導体メモリ価格
2022年10月5日 06:26
DRAMとNANDフラッシュの値下がりが止まらない
半導体メモリ価格の値下がりが止まらない。半導体メモリの主力製品であるDRAMとNANDフラッシュメモリの平均販売価格は、昨年(2021年)の上昇基調から今年(2022年)は一転して下降気味の基調へと転じた。今年の夏以降は、価格低下が一段と強まりつつある。
ハイテク市場調査会社であるTrendForceが定期的に発表してきたDRAMとNANDフラッシュメモリの価格予測(前四半期との比較値)によると、昨年にDRAM価格は第1四半期から第3四半期まで3期連続で上昇した。上昇幅は3四半期で1.32倍(32%増)である。
しかし第4四半期以降は、4四半期連続で下がり続けている。今年第3四半期の価格は昨年第3四半期と比べ、0.73倍に低下した。続く第4四半期も15%前後のかなり大きな値下がりをTrendForceは予測している。ここ2年ほどでは最大の下げ幅だ。予測通りだと、昨年第3四半期と比べて価格は0.62倍に下がる。言い換えると1年と3カ月で38%の値下がりとなる。
なおTrendForceは「DRAMeXchange」のブランドで半導体メモリとフラッシュストレージの価格を随時、Webサイトに掲載するとともに、定期的に価格の見通しを公表してきた。半導体メモリ業界では最もよく知られている価格情報と言える。
NANDフラッシュメモリとその応用品の価格は、昨年(2021年)には値上がりと値下がりを繰り返した。同年第1四半期から第4四半期までを通じての価格変化は、1.04倍(4%増)である。価格は安定していたと言えよう。
しかし今年の第1四半期以降は、第2四半期を除くと価格は相対的に低下してきた。昨年の第4四半期を1とすると、今年第3四半期のNANDフラッシュ価格は0.83倍に低下した。そして第4四半期は価格がさらに下がるとTrendForceは予測している。予測通りに推移すると、昨年の第4四半期から今年の第4四半期までで価格は0.68倍に下がる。言い換えると1年間で32%の値下がりとなる。
2022年7月に始まった急激な値崩れ
DRAMとNANDフラッシュメモリに共通しているのは、極端な値崩れが2022年7月から始まっていることだ。
2022年第3四半期(7月~9月期)にはDRAM価格が前四半期比12.5%減、NANDフラッシュ価格が同15%減といずれも2桁と大きな値下がりとなった。続く同年第4四半期(10月~12月期)は、DRAMが同15.0%減、NANDフラッシュが同17.5%減と値下がりがさらに酷くなるとTrendForceは2022年9月下旬に予測した。
業績悪化が避けられない半導体メモリ大手
DRAMとNANDフラッシュの急激な値下がりにより、半導体メモリ大手の業績悪化は避けられない状態になってきた。半導体メモリ業界で注目されるのは、DRAM大手とNANDフラッシュ大手を兼ねるMicron Technology(以下Micron)の四半期業績である。同社は8月を決算月とする変則的な会計年度を採用しており、四半期決算の期末がほかの大手メーカーよりも約1カ月早い。このため、半導体メモリ業界では、Micronの四半期決算が景気動向の先行指標となっている。
そのMicronは2022年6月30日に四半期(2022会計年度第3四半期、2022年3月~5月期)業績を発表した中で、次期(2022会計年度第4四半期、2022年6月~8月期)の業績がかなり悪化するとの見通し(ガイダンス)を示していた。
具体的には、売上高が72億±4億ドル、粗利益率(Non-GAAPベース)は42.5±1.5%である。中央値で比較すると売上高は前四半期比17%減、粗利益率は前四半期からマイナス6.9ポイントとなる。
2022会計年度第4四半期(2022年6月~8月期)の業績をMicronが発表したのは、9月29日のことだ。売上高は66億ドル、粗利益率(Non-GAAPベース)は40.3%でガイダンスを下回った。当初の予測よりも業績が悪化している。あまりよい傾向とは言えない。
もう少し詳しく述べると売上高が前四半期比23.1%減、前年同期比19.7%減の66億4,300万ドルである。営業利益(Non-GAAPベース)は前四半期比47.1%減、前年同期比45.9%減の16億6200万ドルとほぼ半分近くにまで減少した。売上高営業利益率は25%とまだ高いものの、前の四半期からはマイナス11ポイントと大きく減らしている。
そして次期(2023会計年度第1四半期(2022年9月~11月期)の業績見通し(ガイダンス)では、売上高と粗利益率をさらに減らした。売上高は42億5,000万±2億5,000万ドル、粗利益率(Non-GAAPベース)は26±2%である。中央値で比較すると売上高は前四半期比36%減、粗利益率はマイナス14ポイントとなる。
半導体メモリ大手は減産と設備投資の先送りを開始
半導体メモリ価格の急激な値下がりは、需要が急速に冷え込んだことによる在庫の急増が主な要因だとされている。半導体メモリ大手メーカーは2020年後半からの需要増と供給不足に応える形で供給数量を増やしてきた。ところが欧州(特にドイツ)のエネルギー危機、世界的なエネルギー価格の急激な上昇と消費者物価の急激な上昇によって、2022年夏以降は個人消費が大幅に冷え込んだ。スマートフォンとPCおよびストレージの需要が縮小した。続いて秋に入るとデータセンターに代表されるエンタープライズ向け設備投資の手控えが顕著になり、堅調と見られた企業向け半導体需要の伸びが止まった。
在庫の急増による発注量の急減により、現在の供給量では大幅な供給過剰が続いてしまう。すなわち値下がりが続く。対策として一部の半導体メモリ大手は供給を絞り始めた。9月29日(米国時間)にMicronは四半期業績の説明テキストの中で、供給増を基本とする現在の方針を直ちに改め、需要に応じた供給へと生産数量を調整すると述べた。
ほぼ同じタイミングの9月30日(日本時間)にキオクシアは、NANDフラッシュメモリ工場へのウェハ投入量を10月以降は約3割削減するとともに、需要動向に沿った生産調整を実施すると発表した。
またMicronは四半期業績の説明テキストの中で設備投資額を2022会計年度の120億ドルから、3割以上減らして2023会計年度は約80億ドルにすると述べた。生産量を左右するウェハ処理装置への投資額に関しては、2023会計年度は前年度の50%程度に減らすとする。
10月以降に明らかになる半導体メモリ大手各社の業績
Samsung ElectronicsやSK hynix、キオクシア、Western DigitalなどのMicron以外の半導体メモリ大手は四半期業績(2022年7月~9月期)を10月以降に公表する。あまりよい業績ではないのはすでに明らかだ。
市場調査会社のIC Insightsは2022年9月7日に、同年第3四半期(2022年7月~9月期)は、半導体ファウンドリ最大手のTSMCが半導体メモリ最大手のSamsung Electronicsとマイクロプロセッサ最大手のIntelを抜いて、半導体売上高でトップになるとの予測を公表した。前四半期比の売り上げではTSMCが11%増、Intelが1%増であるのに対し、Samsungは19%減と大きく下げるという。
過去に戻ると前回の半導体メモリ不況は、2018年末から2019年前半に生じた。
今回の景気後退は、前回よりも酷くなる可能性が少なくない。Micronが予測する2022年9月~11月期の売上高は前回のメモリ不況期よりも低く、2016年の景気後退期に並ぶ。メモリ価格低下と半導体メモリ大手の業績悪化の底はまだ、見えていない。