福田昭のセミコン業界最前線
業績回復の兆しが見えてきた半導体メモリ大手3社
2019年10月9日 06:00
半導体メモリの大手メーカー3社、すなわちSamsung Electronics(以降はSamsungと表記)、SK Hynix、Micron Technology(以降はMicronと表記)の業績に回復の兆しが見えつつある。
大手3社の半導体事業における四半期ごとの業績は、昨年(2018年)の夏をピークに秋以降は急降下を続けてきた(半導体メモリ大手3社の業績が急速に悪化参照)。
それが今年(2019年)の夏には、急速に下げ止まりつつある。直近の四半期業績では大手3社のなかで2社(SamsungとMicron)が、前の四半期に比べて売上高をわずかながら、増やしたのだ。残る1社(SK Hynix)は売上高を減らしたものの、その比率は小さくなっている。今年の冬までには、営業利益も前四半期比では増加に転じる可能性が出てきた。
昨年(2018年)秋から業績が急速に落ち込む
昨年(2018年)秋以降の四半期業績の変化(増減)を振り返ろう。メモリ大手3社が過去最高の売上高と営業利益を記録したのは、SamsungとSK Hynixが2018年第3四半期(2018年7月~9月期)、Micronが2018会計年度第4四半期(2018年6月~8月期)である。ここから売上高と営業利益は、ワイヤーが切れたエレベーターのように恐ろしい勢いで落下してきた。
過去最高を記録した四半期の次はどうなったか。Samsungの半導体売上高とメモリ売上高はそれぞれ前四半期比で24%減と26%減、SK Hynixの売上高は13%減、Micronの売上高は6%減となった。半導体メモリではトップのSamsungが真っ先に大幅減となっている。Micronは決算期が違う(1カ月早い)ので、やや傷が浅い。なお本格的な景気後退は、2018年10月にはじまったと見られている。
この四半期は営業利益も大きく減らした。Samsungの半導体営業利益は前四半期比で43%減、SK Hynixの営業利益は32%減、Micronの営業利益は12%減である。すでに販売価格が低下していたNANDフラッシュメモリに加え、この四半期からDRAMの販売価格が値下がりに転じたことで、利益が大きく損なわれた。
さらに次の四半期業績を見ていこう。SamsungとSK Hynixは2019年1月~3月期、Micronは2018年12月~2019年2月期の業績である。前四半期比の売上高はSamusungが23%減(半導体)/26%減(メモリ)、SK Hynixが32%減、Micronが26%減といずれも20%を超える大幅減となった。営業利益はさらに酷い。順番に47%減、69%減、46%減である。
この結果、2四半期でSamsungの半導体売上高はピークの6割に縮小し、半導体営業利益は3割に急減した。SK Hynixの売上高もピークの6割に縮小し、営業利益はわずか2割に急落した。Micronの売上高はピークの7割に減り、営業利益は5割に低下した。
直近の四半期売上高が前期比で増加に転じる
この降下速度は、今年(2019年)の半ばになると、ゆっくりになってくる。一部では反転して上昇する局面すら見られるようになってきた。
各社が公表した直近の四半期業績を見ると、状況の変化がよくわかる。Samsungが発表した2019年4月~6月期(2019年度第2四半期)の業績は、3四半期ぶりに売上高の前四半期比が増加に転じた。半導体売上高が11%増、メモリ売上高が7%増である。Micronが発表した2019年6月~8月期(2019会計年度第4四半期)の業績は、4四半期ぶりに売上高の前四半期比が増加に転じた。2%増である。SK Hynixの売上高は2019年4月~6月期(2019年度第2四半期)に前四半期比5%減とまだ減少が続いているものの、減少の比率そのものは1桁と小さくなった。
売上高は全体としては増加に転じた。ただし、営業利益はまだ減り続けている。2019年4月~6月期(2019年度第2四半期)におけるSamsungの半導体営業利益は前四半期比17%減、SK Hynixの営業利益は同53%減である。2019年6月~8月期(2019会計年度第4四半期)におけるMicronの営業利益は同37%減となった。
メモリ事業の業績を計る「ビット需要」と「平均販売価格」
半導体メモリ大手3社の主要製品は2つ。DRAMとNANDフラッシュメモリである。これらのメモリ製品の売上高と損益を左右するおもな要因も2つ。ビット数に換算した需要の伸び(ビット需要)と、メモリ1個当たりの販売価格(平均販売価格(ASP))である。ビット需要は数量ベースの市場規模の変化、平均販売価格(ASP)は需要と供給のバランスを反映している。両者の掛け算(積)が、金額ベースで見た市場規模(売上高)の相対的な変化とみなせる。
たとえばビット需要が四半期で1.2倍に増加し、平均販売価格(ASP)が四半期で同じだったとすると、売上高は単純計算で1.2倍に増える。前四半期期比20%増である。なおここではビット需要の伸びと出荷したビット数の伸びは同じであり、メモリ製品の記憶容量は一定だと仮定している。
このとき、営業利益は単純計算で1.2倍を超える。なぜかというと、メモリチップの出荷数量が1.2倍に増えるので、量産効果(チップ1個当たりの固定費の減少)によって製造コストが下がるからだ。
DRAMとNANDフラッシュメモリの基本的なトレンドは以下のようになる。ビット需要はDRAMもNANDフラッシュメモリも歴史的には伸び続けてきた。伸び率(成長率)はNANDフラッシュメモリが高く、DRAMが低い。平均的にはNANDフラッシュメモリが年率30%~40%、DRAMが年率20%前後というのが最近の傾向である。
平均販売価格(ASP)はDRAMもNANDフラッシュメモリも歴史的には下がり続けてきた。低下率はNANDフラッシュメモリが大きく、DRAMが小さい。NANDフラッシュメモリは2017年に一時的に値上がりしたことがあったものの、基本的には価格の低下が続いている。DRAMは値上がりと値下がりを繰り返すことが多い。2017年~2018年前半は値上がりが続いた。2018年末以降は値下がりに転じている。
DRAMのビット需要と平均販売価格(ASP)の推移
メモリ大手3社はビット需要と平均販売価格の変化を四半期ごとに公表している。この数値から、DRAMとNANDフラッシュメモリの売上高と収支の傾向を把握できる。2018年7月~9月期(2018年第3四半期)から2019年4月~6月期(2019年第2四半期)までの推移を振り返ろう。なお決算期の違いから、Micronだけは2018年9月~11月期(2019会計年度第1四半期)から2019年6月~8月期(2019会計年度第4四半期)の数値となっている。
まずはDRAMである。最初の2018年7月~9月期では、売上高と営業利益が過去最高を記録した。当然ながら数量ベースの市場規模は拡大した。Samsungのビット需要(成長率)は15%前後の増加、SK Hynixのビット需要は5%の増加である。この四半期は需給バランスがまだ堅めだったので、平均販売価格(ASP)はまだ下がっていない。SamsungのASPは横ばい、SK HynixのASPは1%の上昇である。
Micronは2018年9月~11月期からはじまる。DRAMの需給バランスが急激に緩んだとされる2018年10月以降を含んでいるので、ビット需要は横ばい、ASPは7%~8%の低下となっている。
続く2018年10月~12月期は、DRAM市況が急速に悪化しはじめたことを反映している。ビット需要はSamsungが17%~19%の減少、SK Hynixが2%の減少である。ASPはSamsungが7%~8%の低下、SK Hynixが11%の低下と値下がりした。SamsungのDRAM売上高を単純計算すると18%減×7.5%減で、24%減となる。
Micronの続きは、2018年12月~2019年2月期である。ビット需要は10%~30%の減少、ASPは22%~23%の低下となっており、DRAMの売上高が急速に縮小していることがうかがえる。
次の2019年1月~3月期では、ビット需要の減少が止まりはじめる。Samsungが横ばい、SK Hynixが8%の減少である。ASPはSamsungが25%前後の低下、SK Hynixが27%の低下であり、値下がりはまだ止まっていない。
Micronの続きは2019年3月~5月期である。ビット需要は横ばい、ASPは20%近い減少で、ほかの大手2社と同様にビット需要の減少が止まるものの、値下がりが続く。
そして直近の2019年4月~6月期は、ビット需要が増加に転じる。Samsungが15%前後の増加、SK Hynixが13%の増加である。ASPはSamsungが20%台前半の低下、SK Hynixが24%の低下とまだ厳しい。
Micronの直近は2019年6月~8月期である。ビット需要は30%の増加、ASPは20%の低下となっている。ビット需要が増加基調に戻ったことがうかがえる。
NANDフラッシュのビット需要と平均販売価格(ASP)の推移
続いてNANDフラッシュメモリを見ていこう。NANDフラッシュは2018年の前半から、値下がりがはじまっている。このため過去最高の業績を記録した2018年7月~9月期も、NANDフラッシュの平均販売価格(ASP)は前の四半期に比べて低下した。
2018年7月~9月期のビット需要は、Samsungが20%台前半の増加、SK Hynixが19%の増加である。ASPはSamsungが15%前後の低下、SK Hynixが10%の低下となっている。同年9月~11月期のMicronはビット需要が11%~16%の増加、ASPが11%~16%の低下である。SamsungとSK HynixのNANDフラッシュ売上高は前の四半期を上回っていることがうかがえる。
続く2018年10月~12月期はビット需要の成長が弱まった。Samsungが7%~8%弱の増加、SK Hynixが10%の増加である。ASPは低下傾向が強まる。Samsungが20%台前半の値下がり、SK Hynixが21%の低下である。2018年12月~2019年2月期のMicronはビット需要が7%~8%の増加、ASPが25%前後の値下がりとなった。大手3社とも、NANDフラッシュの売上高は前の四半期に比べて減少したと推定できる。
次の2019年1月~3月期(Micronは2019年3月~5月期)は、2社のビット需要がマイナス成長になった。これはかなり異例のことだ。SK Hynixが6%の減少、Micronが5%前後の減少である。Samsungは5%前後の増加となり、成長を維持した。ASPは値下がりがさらに酷くなっている。Samsungが25%前後の低下、SK Hynixが32%の低下である。Micronは15%前後の低下となり、低下率の弱まりが見える。
そして直近の2019年4月~6月期は、ビット需要が急激に増加へと戻った。Samsungが30%前後の増加、SK Hynixが40%の増加である。Micron(2019年6月~8月期)は11%~14%の増加となった。ASPはSamsungが15%前後の低下、SK Hynixが25%の低下、Micron(2019年6月~8月期)が6%~9%の低下である。大手3社とも、NANDフラッシュの売上高は前の四半期から増加したことがうかがえる。
NANDフラッシュメモリのビット需要と平均販売価格(ASP)の推移からわかるのは、直近の四半期では売上高と営業利益が増加しているということだ。この傾向が続けば、NANDフラッシュ事業はより健全な方向へと進む。
DRAMは直近の四半期でも値下がりが止まらず、利幅(マージン)が縮小傾向にある。ここから、大手3社の売上高営業利益率を下げているのは、DRAMの値下がりだと推定できる。DRAMのシリコンダイ縮小による製造コスト削減とDRAM販売価格のバランスが、2019年後半のDRAM事業の収支を大きく左右することになりそうだ。