福田昭のセミコン業界最前線

DRAM値上がりで、空前の利益を享受するメモリ企業

Samsung Electronics、SK Hynix、Micron Technologyの業績(直近の四半期)。各社の公表資料を基に、筆者がまとめたもの。「過去最高」の売り上げと営業利益、そして40%を超える売上高営業利益率(営業利益/売上高)がならぶ

 DRAMとNANDフラッシュメモリが大半を占める半導体メモリ市場が、空前の好景気に沸いている。Samsung Electronics、SK Hynix、Micron Technologyの半導体メモリ大手ベンダーがいずれも今年(2017年)に入ってから、売上高と営業利益の史上最高額を更新しつつある。

 そのおもな理由は、半導体メモリ需要全般の堅調な伸びと、DRAMの急激な値上がりだ。それに付け加えると、NANDフラッシュメモリの値上がりがある。

 大手の半導体ベンダーが市場規模を把握するために結成している業界団体WSTS(世界半導体市場統計)は2017年の8月19日に、半導体メモリ市場が50.5%という異常なほどの高い成長率を今年、達成するとの予測を公表した。この予測は同年6月6日に30.4%成長と発表していた数値を上方修正したものだ。わずか2カ月で成長率の予測値が20ポイントも積み増されている。半導体メモリ市場の急速な拡大ぶりがうかがえる。

 なお市場調査会社のGartnerも、同年10月12日付けの半導体市場予測に関する発表資料で、2017年の半導体メモリ市場は前年比で57%増になると予測している。この数値は同年7月11日付けで52%増と発表していたのを、上方修正したものだ。

WSTSによる製品分野別市場の成長率予測(2017年)の変化。WSTSの公表値を筆者がまとめたもの。メモリ(半導体メモリ)の上方修正が際立っている

今年のDRAMは74%成長、NANDフラッシュは58%成長へ

 半導体メモリ市場の急速な拡大で特徴的なのは、2大製品分野であるDRAMとNANDフラッシュメモリがともに、急激に販売金額を伸ばしていることだ。

 過去、DRAMの好況と不況のサイクルと、NANDフラッシュメモリの好況と不況のサイクルは、必ずしも一致してはいなかった。DRAMとNANDフラッシュメモリの両方を手がけているベンダーでは、DRAMの値下がりが激しくなって収支が急速に悪化するのをNANDフラッシュメモリが緩和したり、あるいはDRAMの生産を控える代わりにNANDフラッシュメモリの生産を増強して業績の悪化を抑えたりといった光景が見られた。

 ところが今年の活況は、DRAMとNANDフラッシュメモリの両方で品不足が発生し、供給が追いつかないという、かなり珍しい状況になってしまった。半導体メモリのユーザーにとっては、相当に頭の痛い事態である。

 DRAMとNANDフラッシュメモリのどちらが急激に伸びているか、あるいはどちらが半導体メモリのユーザーにとって厳しい状況下か。あえて断言してしまうと、市場規模が急伸しており、なおかつ価格の上昇が激しいのはDRAMである。といってもあえて比較したときの結果であり、いずれも異常に高い市場成長と、異常な値上がりが今年は続いている。

 市場調査会社のIC Insights は10月18日に、今年のDRAM市場は74%成長、NANDフラッシュメモリ市場は58%成長になるとの予測値を発表した。これらの値は、8月15日に同社が発表した今年のDRAM市場は55%成長、NANDフラッシュメモリ市場は35%成長になるとの予測値を更新したものだ。2カ月でいずれも20ポイント前後も上方修正していることが分かる。

 DRAM市場の74%成長に至っては、呆れるほどの急激な伸び率だ。ちなみに10月18日時点における金額の予測値は、DRAM市場が720億ドル、NANDフラッシュメモリ市場が498億ドルである。

1年で2倍に急上昇したDRAMの平均価格

 価格上昇の実態を見てみよう。市場調査会社のGartnerは2017年4月13日付けの半導体市場予測に関する発表資料で、2016年半ばには12.5ドルだった4GBのDRAMモジュールの価格は、2017年4月には25ドルに倍増したと述べている。

 また市場調査会社のDRAMeXchangeは2017年10月30日づけの発表資料で、4GBのDDR4 DRAMモジュールの価格は、2016年第2四半期末に13ドルだったが、2017年第4四半期には30.5ドルに上昇したと説明する。1年半で2.3倍に上昇したことになる。

 同じく市場調査会社のIC Insigtsは、2017年9月12日付けのDRAM価格に関する発表資料で、2016年7月には2.45ドルだったDRAMの平均販売価格は、2017年7月には5.16ドルと2倍強に上昇したと報告した。1年で2倍もの価格上昇は、異例のことだ。

 同社は同年10月18日付けの発表資料で、DRAMの平均販売価格は2017年に77%上昇し、NANDフラッシュメモリの平均販売価格は2017年に38%上昇するとの予測を述べている。NANDフラッシュメモリの値上がり率はDRAMに比べると低いものの、4割近くも平均価格が上昇するというのは、これもかなり珍しい事態だ。

IC InsigtsによるDRAM平均販売価格の推移。2017年9月12日付けの発表資料から

半導体メモリ大手のDRAM販売が過去最高を連続して更新

 DRAM販売の金額別トップシェアはSamsung Electronics、2位はSK Hynix、3位はMicron Technologyである(調査会社のDRAMeXchangeによる)。この3社でDRAM市場全体の95%を占める。残りは台湾や米国などのごく小規模なDRAMベンダーだ。

 大手3社のDRAM販売額を四半期ごとに見ていくと、最近では2015年にDRAMの販売が伸びなくなり、前四半期比でマイナスに転じた。そして2016年第1四半期(1月~3月期)に売上高の低下が止まる。これまでと違うのはそこからだ。底を打った四半期売上高は、6四半期連続で急速に増加を続ける。2017年第3四半期(7月~9月期)には、大手3社のすべてが、底を打った2016年第1四半期に比べ、2倍を超える販売額を記録するまでに達した。

大手DRAMベンダー3社のDRAM販売額。調査会社DRAMeXchangeの公表数値を基に筆者がまとめたもの

モバイルDRAMとPC用DRAMの販売価格が逆転

 DRAM全体ではなく、スマートフォン用途が主体のモバイルDRAMの販売額を四半期ごとに見ていこう。モバイルDRAMの金額別トップシェアはSamsung、2位はSK Hynix、3位はMicronである(調査会社のDRAMeXchangeによる)。この3社でモバイルDRAM市場の98%を占める。残りは台湾のベンダーである。

 DRAM全体に比べると、モバイルDRAMのアップダウンは緩やかだ。PC用DRAMに比べると、モバイルDRAMは2015年の時点では高値で取り引きされていたことが緩やかなダウンに結びついたと見られる。

 そして2016年後半にDRAMが品不足になるとPC用DRAMが急速に値上がりした。調査会社のDRAMeXchangeによると、2017年前半のDRAM価格はGbit単価(ドルベース)で見るとモバイルDRAMよりもPC用DRAMの方が高かったという(2017年10月12日付けの発表資料による)。

 つまり、モバイルDRAMはPC用DRAMに比べると値上がりが激しくなかった。このことが、2016年後半から2017年のモバイルDRAM販売額における、やや緩やかなアップに結びついたとみられる。

 2017年第3四半期(7月~9月期)の販売額を見ると、トップ2社のSamsungとSK Hynixはいずれも、底を打った2016年第1四半期に比べて2倍弱に増えている。DRAM全体に比べるとアップの勢いが弱いことが分かる。

大手DRAMベンダー3社のモバイルDRAM販売額。調査会社DRAMeXchangeの公表数値を基に筆者がまとめたもの

NANDフラッシュ市場は2016年後半から異例の速度で成長

 NANDフラッシュメモリ販売の金額別トップシェアは、DRAMと同じくSamsungである。シェアは35%強になる。これに東芝とWestern Digital(SanDisk)がほぼ横並びで続く。シェアはいずれも17%~18%である。

 それからMicronとSK Hynix、Intelの順番になる。Micronは約12%、SK Hynixは約10%、Intelは6%~7%のシェアを維持している(いずれも調査会社のDRAMeXchangeによる)。NANDフラッシュメモリ市場は、これらの6社でほぼ100%を占める。

 NANDフラッシュメモリ6社の販売額を四半期ごとに見ていくと、2011年第1四半期(1月~3月期)から2015年第4四半期(10月~12月期)までは、堅調な拡大傾向を見せていた。わずかなアップダウンはあるものの、穏やかな成長を見せていた。

 それが2016年に入ると、成長ペースが速くなっていく。2016年第1四半期~第2四半期をスタート台として、ほぼ一直線に2017年第3四半期まで、ベンダー各社の売り上げが伸びている。

NANDフラッシュメモリのベンダー別売上高。調査会社DRAMeXchangeの公表数値を基に筆者がまとめたもの。なお2015年第1四半期だけは公表数値が見つからなかったため、空白となっている

Samsungの売上高営業利益率は50%に到達

DRAMとNANDフラッシュメモリの値上がりが続いた結果、半導体メモリ大手3社の決算は、過去最高の売り上げと利益を計上している。少し詳しく見ていこう。はじめは最大手のSamsung Electronicsである。

 Samsungの半導体事業はメモリだけではない。半導体事業全体の売上高と半導体メモリの売上高、半導体事業の営業損益は四半期ごとに公表しているものの、半導体メモリ事業そのものの営業損益は公表していない。

 それでも、半導体事業のかなりの割り合いをメモリ事業が占めているのは確かである。筆者が計算したところ、半導体メモリの売り上げ比率は過去8年を見ると、約50%~約80%の間で推移してきた。そして半導体メモリの市況が良好な時期は、メモリの売上高が半導体事業に占める比率も、高まる傾向があった。

 Samsungの半導体事業は2014年以前は、順調に拡大してきたとは言い難い。DRAMが好況に沸いた2010年の第3四半期に、10兆6,600億ウオンという過去最高の売上高と、3兆4,220億ウオンという過去最高の営業利益を計上した。売上高営業利益率は32.1%。半導体メモリの売上高は7兆4,900億ウオンで、メモリの売上高比率は70.4%となっていた。

 その直後、DRAM価格の急速な低下によってSamsungの半導体メモリ売り上げは減少し、半導体事業全体の売上高も減少し、営業利益率も低下した。四半期集計で半導体事業の売上高が過去最高を塗り替えるのは、2015年第2四半期のことだ。売上高は11兆2,900億ウオンである。営業利益は3兆4,000億ウオンで、過去最高に近い水準に達した。半導体メモリの売上高は8兆4,900億ウオン、メモリの売上高比率は75.2%である。このとき、半導体事業の4分の3がメモリとなっていた。

 そして2015年末から2016年初頭にかけてSamsungの半導体メモリ事業はDRAM不況によって一時、落ち込んだ。しかし2016年第2四半期からは、一気に半導体メモリの売り上げが伸び、半導体事業の売り上げ拡大と利益の増加に貢献した。すなわち、半導体メモリ事業の売上高は2016年第2四半期以降、6四半期連続で上昇した。販売金額は2016年第1四半期の7兆9,400億ウオンから、2017年第3四半期には2倍を超える16兆3,000億ウオンに急上昇した。

 当然ながら、半導体事業の売り上げと営業利益は大幅に伸びた。2016年第4四半期以降、4四半期連続で過去最高の売上高と過去最高の営業利益を更新し続けている。直近である2017年第3四半期(7月~9月期)の半導体売上高は19兆9,100億ウオン(約169億ドル)、半導体メモリの売上高は16兆3,000億ウオン(約144億ドル)。メモリの売上高比率は過去8年で最高の81.9%に達した。

 そして半導体事業全体に対する売上高営業利益率は、2016年第4四半期に33.3%に上昇して2010年の第3四半期の数値を更新した。その後も売上高営業利益率は上昇を続け、2017年第3四半期には50%に達した。売り上げの半分が営業利益という、「儲かって笑いがとまらない」状況だとも言える。

Samsung Electronicsの半導体事業の業績。四半期の売上高と営業利益、英売上高営業利益率の推移。同社の公表資料を基に筆者がまとめた
Samsung Electronicsの半導体メモリ売上高と、半導体事業全体に占める売上高比率の推移。同社の公表資料を基に筆者がまとめた

SK Hynixは4四半期連続で過去最高の売上高を更新

 続いてSK Hynixである。半導体メモリベンダーとしては、Samsungに次ぐ2位に付ける。SK Hynixはほぼ半導体メモリ専業と言って良い事業構造で、売上高の約98%をDRAMとNANDフラッシュメモリが占める。直近の四半期(2017年7月~9月期)では、DRAMの売上高が77%、NANDフラッシュメモリの売上高が21%という内訳だった。

 SK HynixもSamsungと同様に、2010年にDRAMの価格上昇による好業績を経験している。2010年第2四半期(4月~6月期)に、売上高3兆2,800億ウオン、営業利益1兆160億ウオン、売上高営業利益率31%という当時としては最高の数字を残した。そして2年後の2013年第2四半期には早くも、売上高と営業利益の記録を更新している。

 SK Hynixが半導体メモリ企業としては整理統合の結果によって2001年に再出発している(当時の名称は「Hynix Semiconductor)ことと、2011年秋に韓国財閥のSKグループ入りしてから、本格的な設備投資を開始したことが、早めの過去最高業績更新に結びついたとみられる(SK Hynixの歴史については本コラム既報「逆襲のSK Hynix」を参照されたい)。

 そしてこれまたSamsungと同様に、2015年末から2016年始めにかけて業績の悪化を経験し、その後、売り上げと利益を急激に拡大させている。対前四半期で2016年第2四半期以降は6四半期連続で、売上高と営業利益はいずれも上昇した。2016年第4四半期以降は売上高が過去最高を更新し、2017年第1四半期以降は営業利益が過去最高を更新し続けている。直近の四半期である2017年第3四半期の売上高は8兆1,000億ウオン(約71.6億ドル)、営業利益は3兆7,370億ウオン(約33.0億ドル)に達した。売上高営業利益率は46.1%で、恐ろしく高い比率だ。

SK Hynixの四半期業績推移。同社の公表資料を基に筆者がまとめた

Micron Technologyは過去最高の営業利益を更新中

 最後にMicron Technologyの業績推移を見ていこう。Micronは四半期業績の区切りが複雑で、やや分かりにくい。期末は8月とかなり変則的だ。このため、四半期の期末が11月(第1四半期)、2月(第2四半期)、5月(第3四半期)、8月(第4四半期)となっている。そして「2017年度(会計年度)」は、2017年8月が期末となる。

 もう1つ、半導体メモリ大手3社の中では、Micronが最も赤字になりやすい。2015年末から2016年始めにかけてのDRAM不況期では、売上高営業利益率の最悪値がSamsungが21.2%(2015年10月~12月期)、SK Hynixが11.5%(2016年4月~6月期)であったのに対し、Micronは2016年2月期と同年5月期に営業赤字を計上している。

 そのMicronも、2016年8月期以降は、業績を急回復させてきた。2017年2月期には過去最高の売上高と営業利益を達成した。その後も、過去最高記録を続けて塗り替えている。直近の四半期である2017年8月期の売上高は61.38億ドル、営業利益は25.46億ドルである。売上高営業利益率は41.5%で、SamsungとSK Hynixには及ばないものの、数字そのものは極めて高い。

Micron Technologyの四半期業績推移。同社の公表資料を基に筆者がまとめた

半導体メモリの供給不足はいつまで続く

 DRAMの品不足と価格上昇、具体的に言い換えるとDRAMの供給不足はいつまで続くのだろうか。DRAM市場を撹乱する要因の1つは、台湾のDRAMベンダーである。過去、DRAMが不足したときに台湾のDRAMベンダーが生産を急いで増やし、DRAMが供給過剰になり、DRAM価格が暴落するということがあった。結果として台湾ベンダーは大赤字を出してしまうのだが。

 DRAMのトップスリーであるSamsung、SK Hynix、Micronは現在の寡占に近い状態、あるいは競争優位を維持したい。そのためにトップスリー企業は現行の20nm世代から、18nm~17nm世代(1X世代)へと微細化を進めている。同じ記憶容量のDRAMシリコンダイであれば、シリコンの面積が減り、ウェハ1枚当たりの取れ高が増加し、生産能力の拡大と生産コストの削減に結びつく。ただし大幅な増産とはなりにくい。

 新しい生産ラインによる増産が確定しているのは、トップスリーではSK Hynixだ。同社は中国でDRAM工場を建設中であり、2018年には量産を始める。また調査会社のDRAMeXchangeは10月30日付けの発表資料で、SamsungがDRAM生産能力の増強を検討していると伝えた。早ければ2018年の後半に、DRAMの増産が始まるとする。ただし「検討中」との情報なので、不確かさは残る。

 NANDフラッシュメモリまで含めると、Samsungによる半導体設備投資の増強が目立つ。調査会社のIC Insightsは11月14日付けの発表資料で、Samsungが2017年に前年の2倍を超える、260億ドルもの設備投資を計画していると述べた。内訳は3D NANDフラッシュ向けが最も多く、140億ドルを占める。それからDRAM向けが70億ドル、ファウンドリその他が50億ドルである。

Samsungによる半導体設備投資(年間総額)の推移。IC Insightsによる2017年11月14日付けの発表資料から

 供給側の事情だけから考察すると、需給緩和はNANDフラッシュメモリが早く、DRAMが後に続くようにも見える。来年(2018年)、あるいは再来年(2019年)になるかもしれない。むしろ心配なのは、需要側の事情だ。

 とくにスマートフォンの出荷台数がほとんど伸びなくなってきたことと、サーバーが載せるDRAM容量を手控える動きが気にかかる。需給バランスの緩和は供給側の事情ではなく、需要側の事情から、始まるのかもしれない。