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Qualcomm、下り最大11.6Gbps対応のPC向け5Gモデム「X85」

Qualcomm X85 5G Modem-RF System(X85)、MAC、トランシーバー、RF、ミリ波などから構成されている(写真提供:Qualcomm)

 Qualcommは3月3日からスペイン・バルセロナ市で開催されているワイヤレス通信業界向けのイベント「MWC 25」にあわせて報道発表を行ない、下り最大11.6Gbps/上り最大3.7Gbpsという通信速度を実現するモデム「Qualcomm X85 5G Modem-RF System」(以下X85)を発表した。PCおよびモバイルWi-Fiルーター向けと位置づけており、既にサンプル出荷を開始しており、搭載製品は今年(2025年)の後半に登場する見通しだ。

 Qualcommは、元々ワイヤレス通信技術を中心に発展してきたという歴史もあり、モデムは同社の中核製品の1つだが、先日Appleが発表した「iPhone 16e」にはApple独自の5Gモデム「Apple C1」(以下C1)が採用され、モデムに注目が集まっている中での発表となる。

X85の概要

X85の概要(写真提供:Qualcomm)

 X85は、同社がこれまで「Snapdragon Xxx 5G Modem-RF System」という製品名で提供してきた単体5Gモデム(MACチップとRFチップで構成される)製品の後継製品となる。今回から「Snapdragon」のブランドがなくなり、シンプルにX85だけになった。

 発表に先立って2月25日(米国時間)にQualcommはブランドの再編を明らかにしており、クライアント向けのSoC(スマートフォンやPC、自動車など)は従来通りのSnapdragonを利用し、基地局やネットワークインフラ向けの製品や、IoT向けには新しいブランドとして「Dragonwing」を導入することを明らかにしており、単体モデムのブランド名が「Qualcomm Xxx」とSnapdragonが付かない形になったのもその一環だと考えられる。

新しいブランド名としてDragonwingが導入される(出典:Intelligent Computing Everywhere、Qualcomm)

 X85は、従来モデルとなる「Snapdragon X80 5G Modem-RF System」(以下Snapdragon X80)に比べて上りも下りも通信速度が高速になっている。

 Snapdragon X80では下り10Gbps、上り3Gbpsの通信速度を実現していたが、X85では下り11.6Gbps、上り3.7Gbpsと高速化されており、サブ6(6GHz以下の通常の5G)の6つのCA(キャリアアグリゲーション)とミリ波(28GHzなどのUWB)などを組み合わせて利用して実現できる。なお、利用するには、通信キャリア側も必要なインフラを用意する必要がある。

 Qualcommの5Gモデムは、同社のスマートフォン向けSoCであるSnapdragon 8シリーズにMAC部分が統合されて搭載されているほか、これまではAppleのiPhoneシリーズで単体モデムが採用されてきた。しかし、先日発表されたiPhone 16eでは、Appleが自社開発したC1が採用されており、今後はiPhoneの上位モデルも含めて、Qualcommのモデムから自社モデムへ切り替えていく意向だと考えられており、今後両社の競争はより激しくなっていきそうな気配だ。その意味で、QualcommにとってX85は技術的な優位性を確立する意味でも非常に重要な製品だと言える。

 X85は、従来製品となるSnapdragon X80でも採用されていたNPUが内蔵されており、AIを利用した各種の性能向上機能が入っている。また、2つのSIMを同時にアクティブ状態でデータ通信/音声待ち受け(通話時はどちらかだけ)で利用できるDSDA(Dual Sim Dual Active)において、データ通信速度を従来の方式に比べて倍にする「Turbo DSDA」をサポートしている。

 Turbo DSDAは3つのCC(Component Carrier、キャリアアグリゲーション時に定義される帯域のこと)を束ねたデータ通信と、1つのCCでのデータ通信とを同時に行ない、合計で4つのCCで帯域を束ねて通信することが可能になり、データ通信のスループットが(理論上)倍に向上する。

 また、伝送速度などの具体的なスペックは発表されていないが、X85の廉価版となる「Qualcomm X82 5G Modem-RF」(以下X82)も同時に発表されている。Qualcommによれば数Gbpsの上り/下りの転送速度を実現しており、メインストリーム向けの製品などをカバーする。

 X85、X82はともにPCやCPE(いわゆるホームルーター)、モバイルWi-Fiルーターなどが搭載製品のターゲットになっており、既に顧客となるOEMメーカーなどにサンプル出荷が開始されている。商用製品に採用されるのは本年の後半が想定されている。

新ビジネス向けブランドDragonwingを冠したFWA向け製品や、IoT向けの超低消費電力LTEモデムなども発表

Qualcomm Dragonwing FWA Gen 4 Elite Platform(写真提供:Qualcomm)

 Qualcommは、前述の2月25日に発表された新しいブランド「Dragonwing」を関した製品としてFWA(Fixed Wireless Access)向け製品、およびIoT向けのLTEモデムなどを発表した。

 FWAは、一般法人や現場といったビジネスシーンで従来は有線で提供されてきたようなブロードバンド回線を、セルラーに置きかえていくソリューションのこと。建物の都合で高速な回線が引けない場合や、臨時の現場(たとえば建築現場)などに高速なブロードバンドを提供するためのソリューションとして注目を集めている。Qualcommによれば、2029年にはグローバルに3億3,000万件の契約が想定されているとのことで、今後大きく成長する市場の1つと考えられている。

Dragonwing FWA Gen 4の概要(写真提供:Qualcomm)

 今回Qualcommが発表したのは「Qualcomm Dragonwing FWA Gen 4 Elite Platform」(以下Dragonwing FWA Gen 4)で、無線周りはX85の機能をベースにして、10Gbイーサネットや40TOPSのNPUなどのFWAに必要な機能を追加したものになる。通信速度はX85よりも若干速く下りは12.5Gbps、上りは3.7Gbpsになる。

E41、E51、E52の各製品(出典:Intelligent Computing Everywhere、Qualcomm)

 IoT機器向けのLTEモデムとなる「Qualcomm E41 4G Modem-RF」、「Qualcomm E51 4G Modem-RF」、「Qualcomm E52 4G Modem-RF」はいずれもIoT機器向けにLTEモデムで、SIMの機能がチップに統合されているiSIMの機能やNB-IoTやCat 1 bisなどに対応することで、超低消費電力でLTE通信の機能をIoT機器に追加することが可能になる。