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QLCのSSDは微妙って本当?TLCとの比較で見えた実用性の差。実は意外と……
2025年3月4日 06:04
現在SSDのNAND型フラッシュメモリで主流となっているのが「TLC」と「QLC」だ。 速度や信頼性はTLC、耐久性はTLCほど高くないが低価格なのがQLCというイメージが強い。とはいえ、実用面で本当に大きな違いがあるのだろうか? もしもあまり変わらないのであれば、安いQLCのほうがお得なのでは?
ここでは、TLCとQLCのSSD合計4製品を用意し、基本性能や大容量データのコピー、連続書き込み時の挙動などをチェックする。SSD選びの参考になれば幸いだ。
TLCとQLCの違いとは?
まずは、TLCとQLCの違いを解説しておこう。
SSDはデータの読み書きにNAND型フラッシュメモリを使用している。このNAND型フラッシュメモリは「セル」と呼ばれる領域が無数にあり、そこにデータを記録するが、その方式として主にSLC(Single Level Cell)、MLC(Multi Level Cell)、TLC(Triple Level Cell)、QLC(Quad Level Cell)の4種類がある。
違いは1セルに記録するビット数で、SLCは1bit、MLCは2bit(2bit以上を差す場合もあるが本稿では2bitセルとして扱う)、TLCは3bit、QLCは4bitになる。1セルに記録するビットが増えれば、耐久性は下がり、書き込みに時間がかかるようになるが、そのぶん安価に大容量化できるという大きなメリットがある。
そのため、現在では耐久性、速度、容量、コストのバランスから「TLC」が主流となっており、価格の安さを重視するエントリー向けや一部の大容量モデルで「QLC」を採用というパターンが多い。
ここで気になるのは、QLCの実用性だろう。どうしても耐久性が低く、データの転送速度も遅いというイメージが強いQLCだが、最近では改良が進んでおり、SLCキャッシュ(領域の一部をSLC方式で書き込むことでデータ転送速度を向上させる技術)との連携で速度を維持し、セルへの書き込みを効率化することで耐久性をTLCと変わらないレベルを実現している製品も登場している。
なお、SSDがTLCやQLCといったどのNAND型フラッシュメモリを採用しているか、それを公表しているかどうかはメーカーや製品によって異なる点に注意したい。
というのも、エントリー向けSSDでは、基本的にはカタログスペックの速度と耐久性があればよい、という考えで出荷ロットによってTLCとQLCが変わる場合もあるようだ。
絶対TLCにしたい、という場合はそれを公表している製品を選べばよいが、確実なのは現状Western Digital(WD)のSSDだ。WDでは、データシートにNAND型フラッシュメモリの種類を明記している。WD Green SN350 NVMe SSDの1TBではQLCとTLCの製品が存在しているが、しっかり型番を分けており、ユーザーが判別しやすい。
というわけで、前振りが長くなったが、本稿ではTLC、QLCを明記しているWDのSSDを使って、それぞれの違いをチェックしていく。用意したのは以下の4製品だ。
製品名 | WD_BLACK SN850X NVMe SSD | WD_BLACK SN7100 NVMe SSD | WD Green SN350 NVMe SSD | WD Blue SN5000 NVMe SSD |
---|---|---|---|---|
インターフェイス | PCI Express 4.0 x4 | PCI Express 3.0 x4 | PCI Express 4.0 x4 | |
容量 | 1TB | 4TB | ||
NANDフラッシュメモリ | 3D TLC NAND | QLC NAND | ||
DRAM | 搭載 | なし | ||
シーケンシャルリード | 7,300MB/s | 7,250MB/s | 3,200MB/s | 5,500MB/s |
シーケンシャルライト | 6,300MB/s | 6,900MB/s | 2,500MB/s | 5,000MB/s |
総書き込み容量(TBW) | 600TB | 100TB | 1,200TB | |
保証期間 | 5年 | 3年 | 5年 | |
実売価格 | 1万2,000円前後 | 1万3,000円前後 | 9,000円前後 | 3万6,000円前後 |
WD_BLACK SN850X NVMe SSD
まず1つ目は「WD_BLACK SN850X NVMe SSD」だ。2022年8月の発売以来、Gen 4(PCI Express 4.0)対応のSSDとしてトップクラスの性能を持つハイエンドモデルとしてロングセラーとなっている。112層3D TLC NANDを採用し、キャッシュ用のDRAMも搭載、耐久性も高い。
WD_BLACK SN7100 NVMe SSD
2つ目は「WD_BLACK SN7100 NVMe SSD」。2025年2月に発売されたばかりのゲーミング向けSSDだ。手頃な価格と高い性能で大ヒットしたWD_BLACK SN770の後継と言える製品で同じくDRAMレスだが、WD最新の3D TLC NANDを採用しており、WD_BLACK SN850Xにどこまで迫れるか注目したい。
WD Green SN350 NVMe SSD
3つ目は「WD Green SN350 NVMe SSD」。QLC NANDを採用する1TB、2TBモデルは2021年10月に発売された。QLCのエントリーSSDとしては古い部類で、1TBモデルのTBWは100TBと低め。今回のテストでは“QLCのイメージと合致する製品”と言える。
WD Blue SN5000 NVMe SSD
4つ目は「WD Blue SN5000 NVMe SSD」。500GB/1TB/2TBモデルが3D TLC NANDで4TBだけ3D QLC NANDというクリエイター向けのモデルだ。2024年7月発売と比較的新しいだけに、QLCでもTBWは1,200TBと耐久性は高い。ここでは大容量QLCとして4TBモデルを用意した。
TLCとQLCの性能を多角的にチェックする
ここからは、4製品の性能を比較していこう。検証環境は以下の通りだ。それぞれCPU直結のGen 4(PCI Express 4.0)対応M.2スロットに装着してテストを実行している、ヒートシンクはマザーボード標準搭載のものを使用した。
CPU : Core i9-14900K(24コア32スレッド)
マザーボード : ASRock Z790 Nova WiFi(Intel Z790)
ビデオカード : MSI GeForce RTX 4060 VENTUS 2X BLACK 8G OC(NVIDIA GeForce RTX 4060)
メモリ : Micron Crucial DDR5 Pro CP2K16G56C46U5(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2)
システムSSD : Western Digital WD_BLACK SN850 NVMe WDS200T1X0E-00AFY0(PCI Express 4.0 x4、2TB)
OS : Windows 11 Pro(24H2)
CrystalDiskMark 8.0.6
まずは、データ転送速度を確かめる「CrystalDiskMark 8.0.6」から。最大速度を見るSequential Read/Write(Q8T1)、OSやアプリの処理に対する影響の大きいRandom Read/Write(Q1T1)の結果を掲載する。
SN350はGen 3対応かつ古いQLC製品ということもあって、速度は遅めだ。 その一方でSN5000は新しい製品かつ並列処理で有利になる大容量モデルということもあって、QLCでもランダムリード、ライト性能はTLCのハイエンドクラスと変わらないレベルだ。 そしてSN7100は最新製品だけあってDRAMレスながら、SN850Xを上回る速度を記録した。SSDの進化が見える部分だ。
PCMark 10-Full System Drive Benchmark
続いて、クリエイティブ、ゲーム、オフィスなどさまざまなアプリをエミュレーション処理してストレージのレスポンス性能を測定する「PCMark 10-Full System Drive Benchmark」を試そう。そこから、ゲームの起動速度、Adobe製品の処理速度部分を抜粋した結果も掲載する。
CrystalDiskMarkと同じ傾向だ。 SN7100はDRAMレスだが、NANDもコントローラも最新世代だけあってアプリに対するレスポンスも優秀。SN5000も新しめの製品だけあってQLCでもSN850Xに迫るスコア。 個別の処理速度を見ると、SN850XとSN7100はゲーミング向けだけあって、ゲームで強さを見せている。
3DMark-Storage Benchmark
次にゲームの起動やコピー、録画しながらのプレイなどをエミュレートする「3DMark-Storage Benchmark」を実行する。スコア2,500以上が高速モデルの目安だ。同じくゲーム系として「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」のローディングタイムもチェックしよう。
SN350以外は目安となるスコアをクリア。ここでは2022年発売ながらDRAM搭載のハインエンドモデルの意地を見せてSN850Xがトップスコア。ゲーミングに関しては、まだまだ高性能と言ってよいだろう。ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマークも同じ傾向だ。
ファイルコピー
ファイルのコピーはどうだろうか。ゲームのインストール容量が不足してきたので、新しくSSDを追加して、そちらに移動しよう。という用途はよくあるだろう。
それを想定してここでは、3本のゲーム合計209GB、717ファイルのデータをシステムSSD(SN850)からそれぞれのSSDへとコピーするのにかかった時間、空き容量が100%(未使用の状態)と510GB使用済み状態の2パターンで計測した。空き容量が少ない場合のコピー時間がどうなるのかにも注目したい。
未使用の状態では、SN7100が234秒で一番高速だったが、QLCのSN350も308秒と極端に遅いわけではない。209GB程度の容量なら古い世代のQLCでも実用性は十分と言える。
その一方で、 510GBをすでに使用している状態、つまり1TBモデルなら空き容量が半分以下になった場合、SN350はコピー時間が1,516秒と約5倍に跳ね上がる。これは空き容量が少なくなり、SLCキャッシュ容量が減ったためと見られる。 QLCは空き容量が少なくなると、大きく速度低下しやすいというのがよく分かるポイントだ。
SN5000はQLCでも4TBの容量があるので、SLCキャッシュも大きく速度が維持できている。
速度と温度の推移
次は、TxBENCHを使ってSSDに対してシーケンシャルライトを連続10分実行した際の速度推移をチェックしてみる。
SSDを高速化するSLCキャッシュが何GB書き込むと切れるのか、そして切れた後の速度がどうなるのかを確かめるためのテストだ。また、合わせて温度推移も確認した。
209GBのコピーでは極端な遅さは見られなかったSN350だが、連続書き込みでは約229GBの時点でSLCキャッシュが切れたようで、その後は100MB/s前後とHDD並の速度まで低下。QLCの弱点である“素”の速度の遅さが思いっきり出てしまっている。
その一方で、 同じQLCでもSN5000は4TBもあるためSLCキャッシュ容量が大きく、約858GBまで5,000MB/s近くの速度を維持。その後も500MB/s前後をキープと強烈な遅さにはなっていない。大容量かつ新しい世代の製品ならQLCの弱点は出にくくなった。
SN850Xは約275GBまで書き込んだ時点で速度低下したが、その後も910MB/s前後の速度を維持しており、さすがハイエンドモデルと言える。
SN7100は約345GBで速度低下と1TBモデルとしては、速度維持ができており、その後も570MB/s前後と十分実用レベル。新世代だけあってキャッシュや速度のコントロールが優秀だ。
温度推移については、SN5000だけ若干高いがそれでも最大53℃。テストに使ったM.2スロットはマザーボード付属のヒートシンクがあるとはいえ、ビデオカードの直下にあって冷えにくい場所であったが、今回の4製品はどれもまったく心配のいらない温度。運用面の不安はないと言える。
大容量の最新QLCは実用性十分
QLCはTBW(書き込めるデータの総容量)が少なく耐久性が低い、SLCキャッシュが切れて“素”の性能になると極端に遅くなる、これは今回のテストだとSN350の1TBモデルが当てはまる。とはいえ、価格は安く、大容量のデータを一気に書き込まなければ問題なく利用は可能だ。
そして、 QLCでもSN5000のように4TBの大容量になれば、SLCキャッシュ容量が大きくなり、並列処理にも強くなるので弱点はかなりカバーできる。それでいて4TBのGen 4対応SSDとしては低価格なので、実はおトクなのでは?というのが今回のテストで見えた重要なポイントだ。
しかしながら、TLCのSN850XやSN7100が最高速度でもアプリのレスポンスでも優秀なのは間違いない。性能優先ならTLCのSSDを選ぶべきだろう。結局のところ、ごく一般的な結論に落ち着いてしまったが、改めてTLCとQLCの違い、最新SSDの性能を見るよい機会になった。最近はあまり話題性がなくなったSSDだが、着実に進化しているのだ。
なお、Western Digitalはフラッシュ事業の分社化により、HDDはWD、SSDはSandiskが担うことを発表している。すぐに影響はないと思われるが、今後はSSDの製品名やブランド名が変更されていくことだろう。