福田昭のセミコン業界最前線
12月のIEDM 2019で3nm世代の半導体技術の姿形が浮上
2019年10月28日 13:22
半導体の研究開発コミュニティにおける一大イベントが、今年(2019年)もはじまる。半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting)」が12月7日~11日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催される。会場は前回と同じ、Hilton San Francisco Union Squareホテルである。
2019年のIEDM(IEDM 2019)は、前回と同様に12月7日(土曜日)~8日(日曜日)の前半2日間がプレイベント(セミナー)、12月9日(月曜日)~11日(水曜日)の後半3日間がメインイベント(テクニカルカンファレンス)となっている。
プレイベントで注目技術の動向を効率良く把握
半導体技術の進歩はかなり速い。わずか数年でも現場から離れていると、かなりの遅れが生じる。さらには新しい要素技術が急激に脚光を浴びることで、技術の概要を把握する必要に迫られることが少なくない。そこでIEDMのプレイベントでは、先端技術や注目技術などの動向を短時間で学べるセミナーを実施している。
12月7日(土曜日)は午後に「チュートリアル(Tutorials)」と呼ぶセミナーを開催する。テーマ別に90分の講演を合計で6本(3本×2セッション)用意した。今年のテーマは前半の3本が「酸化物半導体」、「人工知能向けインメモリコンピューティング」、「磁界センサー」、後半の3本が「極低温環境でのMOS FETモデリング」、「強誘電体メモリ」、「積層型の3次元集積化」、である。
12月8日(日曜日)は1日がかりで「ショートコース(Short Courses)」と呼ぶ講義を予定する、2つの大きなテーマに分かれており、それぞれのテーマに関連して6本ずつの講演が朝から夕方まで用意される。今年のテーマは、「Technology Scaling in the EUV Era and Beyond(EUV以降の微細化技術)」と、「Technologies for Memory-Centric Computing(メモリ中心型コンピューティング)」である。
基調講演ではムーアの法則、リソグラフィ、不揮発性メモリを展望
メインイベントがはじまる12月9日(月曜日)の午前は、恒例のプレナリーセッション(基調講演セッション)となっている。今年は3つの基調講演を予定する。最初の基調講演では、ムーアの法則を継続させるプロセスとイノベーション、それからムーアの法則を超えるプロセスとイノベーションについてIntelが展望する。次の基調講演では、半導体製造の微細化を牽引するリソグラフィ(露光)技術の進展をASMLが解説する。最後の基調講演では、不揮発性メモリの将来をキオクシアが論じる。
2日半で238件の研究成果を発表
12月9日(月曜日)の午後からは、メインイベントであるテクニカルカンファレンス(技術講演会)がはじまる。12月11日(水曜日)の夕方まで、2日半にわたって238件の研究開発成果が発表される。
テクニカルカンファレンスの講演セッション数は37本とかなり多い。このため、同時並行で進行する講演セッションの数は最大で9セッションにおよぶ。以下は時間帯別に、講演セッションのテーマを見ていく。
12月9日(月曜日)の午後は、セッション2からセッション10までの9本の講演セッションが同時に進行する。9本のセッションが同時に進むのは、2日半のなかでこの時間帯だけである。参加者にとってもっとも忙しいセッションだとも言える。
講演セッションのテーマはセッション2からセッション10まで順番に、「STT-MRAM(スピン注入型磁気メモリ)」、「Monolithic 3D Integration and BEOL Transistors(モノリシック3次元集積化とバックエンドプロセスのトランジスタ)」、「Advances in GaN Power Devices and GaN Monolithic Integration(窒化ガリウムパワーデバイスとモノリシック集積化の進化)」、「Back End and Advanced Characterisation(バックエンドと最先端のキャラクタライゼーション)」、「Neuromorphic Session I-Device Focus(ニューロモルフィック セッション1 : デバイス)」、「Physics of Ferroelectric and Negative Capacitance Devices(強誘電体デバイスと負性容量デバイスの物理)」、「Circuitry for Optoelectronics(光エレクトロニクス向けの回路)」、「Compound Semiconductors and Novel Materials for RF and mmWave(RFおよびミリ波向けの化合物半導体と新材料)」、「Focus Session: Human Machine Interface(フォーカスセッション : ヒューマンマシンインターフェイス)」である。
12月10日(火曜日)の午前は、セッション11からセッション18までの8本の講演セッションが同時に進む。前日の午後ほどではないものの、参加者にとってかなり忙しいことは変わらない。
講演セッションのテーマはセッション11からセッション18まで順番に、「Gate-All-Around Device Technologies(ゲートオールアラウンドデバイス技術)」、「Advances in Silicon and Gallium Oxide Power Device Technologies(シリコンパワーデバイス技術とガリウム酸化物パワーデバイス技術の進化)」、「Focus Session: Reliability and Security in Circuit and Systems(フォーカスセッション : 回路とシステムの信頼性とセキュリティ)」、「Neuromorphic Session II-Architecture Focus(ニューロモルフィック セッション2 : アーキテクチャ)」、「Ferroelectrics(強誘電体メモリ)」、「Image Sensors(イメージセンサー)」、「III-Nitride Devices and Co-Integration(III族窒化デバイスとその集積化)」、「Biomedical Sensors and Neural Interfaces(バイオメディカルセンサーと神経インターフェイス)」である。
続く12月10日(火曜日)の午後も、8本の講演セッションが同時に進行する。セッション19からセッション26である。講演セッションのテーマは順番に、「BEOL and 3D Packaging Innovation(BEOLと3次元パッケージのイノベーション)」、「SiC Power Devices(SiCパワーデバイス)」、「Emerging Transistor Reliability and Pertinent Strategies(次世代トランジスタの信頼性と適切な戦略)」、「Focus Session: Emerging AI Hardware(フォーカスセッション : 次世代のAIハードウェア)」、「Emerging Devices for Extending Moore’s Law(ムーアの法則を延命する次世代デバイス)」、「Ab Initio Simulation of Materials, Devices, and Interconnects(材料とデバイス、配線の第一原理シミュレーション)」、「Advanced Si and Packaging Technologies for 5G and Beyond(5G以降の携帯電話システムに向けた先端Si技術とパッケージング技術)」、「Integrated Energy Devices and Sensors(集積化エネルギーデバイスと集積化センサー)」である。
パネル討論のテーマは人工知能(AI)のハードウェア技術
10日の夜には、パネル討論(パネルディスカッション)のセッション(セッション番号は27)が予定されている。討論のテーマは「Rest in Peace Moore’s Law, Long Live AI (ムーアの法則よ安らかに眠れ、人工知能バンザイ)」である。とても刺激的なテーマだ。半導体業界が仮に王国だとすれば、現王(ムーアの法則)が崩御し、王子(人工知能)が新王として歓呼されるという図式だろうか。
人工知能(AI)を支える半導体技術とコンピューティング技術は混沌とした状況にある。人工ニューラルネットワークと大量のデータをフォンノイマン型コンピュータで処理するには、メモリアクセスが大きなボトルネックになる。メモリのすぐ近くでコンピューティングを実行するアーキテクチャに期待がかかるものの、最適なハードウェアはまだ見えていない。
続いてテクニカルカンファレンスの最終日である12月11日(水曜日)の午前の部を紹介したいのだが、少し困ったことが起きた。公式Webサイトのプログラムではセッション28からセッション35までの8本の講演セッションが進むことになっている。ところが、各セッションのプログラム(PDF形式のファイル)を読むと、セッション35は水曜日の午後になっているのだ。
ここでセッション35の会場(会議室)をプログラムで見ると、午前のセッション28と同じ会議室が予定されている。これはおかしい。そこで本稿では、セッション35は午後に開催されるものと仮定して話を進める。すなわち水曜日の午前は、セッション28からセッション34までの7本の講演セッションを予定する。講演セッションのテーマは順番に、「Charge Based Memory and Emerging Memories(電荷ベースメモリと次世代メモリ)」、「High Mobility Ge-Based Channel Devices(高移動度のGeベースチャンネルデバイス)」、「Memory Reliability and Applications(メモリの信頼性とアプリケーション)」、「Focus Session: Quantum Computing Infrastructure(フォーカスセッション : 量子コンピューティングのインフラストラクチャ)」、「Modeling of Emerging Memory Systems(次世代メモリシステムのモデリング)」、「Silicon Photonics(シリコンフォトニクス)」、「Micro and Nano-electromechanical Resonant Sensors and Relays(マイクロ/ナノ電気機械共振センサー/リレー)」である。
最後の時間帯である12月11日(水曜日)の午後はセッション35からセッション39まで、5本の講演セッションが同時に進行する。昨年(2018年)のIEDMと同様に、最後の時間帯はセッション数がやや少ない。講演セッションのテーマは順番に、「Selectors and RRAM: Technology and Computing(セレクタと抵抗変化メモリ : 技術とコンピューティング)」、「CMOS Platform Technologies(CMOSプラットフォーム技術)」、「Nano Devices for Low-Power Technologies(低消費電力技術を支えるナノデバイス)」、「Memory for Neural Network(ニューラルネットワーク向けメモリ)」、「Multiscale Modeling of Devices and Circuits(デバイスと回路のマルチスケールモデリング)」である。
メモリの注目講演 : 1Gbit大容量MRAMの発表が相次ぐ
ここからは、注目したい発表をいくつか紹介していこう。まずはメモリの研究成果に関する講演である。STT-MRAM(スピン注入型磁気抵抗メモリ)、3D NANDフラッシュメモリ、FeRAM(強誘電体不揮発性メモリ)、人工知能(AI)向けメモリの講演が興味深い。
とくに盛りだくさんなのが、STT-MRAMに関する講演である。1Gbitと磁気メモリとしては大容量のSTT-MRAMをEverspin Technologies(以降はEverspinと表記)(講演番号2.1)とSamsung Electronics(以降はSamsungと表記)(講演番号2.2)がそれぞれ発表する。Everspinは単体メモリ(スタンドアロンメモリ)、Samsungは埋め込みメモリを想定している。
Intelは、4次(L4)キャッシュに向けたSTT-MRAM技術を開発した(講演番号2.4)。2MBのMRAMセルアレイを試作している。TSMCは、自動車用の埋め込み用STT-MRAM技術を発表する(講演番号2.7)。動作温度範囲はマイナス40℃~プラス150℃と広い。Samsungは、1個のシリコンダイにデータ保持期間が長いMRAMマクロとアクセス時間が短いMRAMマクロを作り込む、埋め込みメモリ技術を公表する(講演番号2.5)。前者のマクロは埋め込みフラッシュの代替、後者のマクロは埋め込みSRAMの代替を狙う。
メモリの注目講演 : 3D NANDの記憶密度を2倍に増やす
3D NANDフラッシュメモリでは、円筒状のメモリホールを垂直方向に分割することで単位面積当たりのメモリセル数を約2倍に増やす技術が興味深い。キオクシアとWestern Digitalの共同開発チーム(講演番号28.1)、Macronix International(講演番号28.2)がそれぞれ研究成果を発表する。
強誘電体不揮発性メモリ(FeRAM)では、多値記憶に関する研究成果の発表が相次ぐ。Fraunhofer IPMS-Center Nanoelectronic Technologies (CNT)とFerroelectric Memoryの共同研究チームは、1個の強誘電体トランジスタ(FeFET)型メモリセルに3bitのデータを記憶させた(講演番号28.7)。University of Notre DameとKurt J. Lesker、University of California, San Diegoの共同研究グループは、超格子構造の強誘電体薄膜によってメモリセルを試作し、2bitのデータ記憶を確認した(講演番号28.8)。
メモリの注目講演 : NANDフラッシュをニューラルネットワークに利用
人工知能(AI)向けメモリでは、NANDフラッシュメモリを人工ニューラルネットワークのシナプスあるいは重み付けメモリに利用する試みが目立つ。Macronix Internationalは、シングルレベルセル(SLC)方式の3D NANDフラッシュ技術を畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の画像認識モデルVGG16に適用してみせた(講演番号38.1)。40TOPS/Wと74.6fpsの性能を得ている。Peking Universityは、多値記憶方式フラッシュメモリのばらつきとデータ保持特性が深層ニューラルネットワーク(DNN)の性能に与える影響を調査した(講演番号38.2)。
University of MinnesotaとAnaflashの共同研究グループは、ロジック埋め込み型3D NANDフラッシュを8bit CNNのシナプスに適用し、8bitの積和演算を実行した結果を報告する(講演番号38.3)。Seoul National Universityは、バイナリニューラルネットワーク(BNN)のシナプス用メモリにNANDフラッシュを適用し、排他的論理和の否定(XNOR)の演算機能を内蔵させたコンピューティングインメモリ技術を発表する(講演番号38.4)。
ロジックの注目講演 : 3nm以降のCMOSデバイス技術
続いてロジックの研究成果に関する講演をいくつか紹介していこう。3nm以降のCMOSデバイス技術、5nm世代の量産用CMOSプラットフォーム、CMOSロジックの3次元化をテーマとする発表に注目したい。
3nm以降のCMOSデバイス技術では、imecの研究成果がとくに目立つ。ここでは4件の発表を紹介する。最初の発表は、CMOSロジックを2nm以下に微細化するトランジスタ構造の研究成果である(講演番号36.5)。p型FETとn型FETの分離幅を縮めるトランジスタ構造「Forksheet(フォークシート)」を考案した。2番目の発表は招待講演で、サブ5nm以降のCMOSロジック用デバイス技術を展望する(講演番号29.4)。3番目の発表は3nm以降のロジックに向けた配線プロセスである(講演番号19.3)。配線ピッチは21nmとせまい。配線材料はルテニウムで、バリアメタルを使わない。4番目の発表は、縦型ゲートオールアラウンド(GAA)FETの試作結果である(講演番号11.1)。pチャンネルとnチャンネルの両方のFETを試作し、性能を評価した。
ロジックの注目講演 : 5nm世代の量産用CMOSプラットフォーム
5nm世代の量産用CMOSプラットフォームでは、TSMCが開発成果を発表する(講演番号36.7)。モバイルSoC(System on a Chip)およびコンピューティングSoCに向けた5nm世代のCMOS技術であり。製造にはEUV露光を使用する。トランジスタはFinFETである。7nm世代に比べ、ロジックの密度を1.84倍に増やし、動作速度を15%向上し、消費電力を30%低減したとする。量産の開始時期は2020年の上半期である。
ロジックの注目講演 : CMOSロジックの3次元化
pチャンネルFETとnチャンネルFETを積層するCMOSの3次元化では、IntelがpチャンネルのGe MOS FETとnチャンネルのSi MOS FETをモノリシックに積層する研究の成果を発表する(講演番号29.7)。300mmウェハの製造プロセスを使用して試作した。Taiwan Semiconductor Research Instituteほかの研究グループは、ゲートオールアラウンド(GAA)構造のFETによる3次元CMOSの基本回路を試作した(講演番号11.7)。CMOSインバータ回路と6トランジスタSRAMセル回路を試作した結果を発表する。
このほかにも、興味深い発表が少なくない。詳しくは12月の現地レポートなどで改めてご報告したいので、期待されたい。