Ubuntu日和
【第68回】Ubuntu派生版、Linux Mintの共通点と差異
2025年2月1日 06:13
Ubuntuという自由なOSは、派生版を作成するのも自由だ。公式派生版とも呼ぶべきフレーバーも多数存在し、非公式な派生版は枚挙に暇がない。そんな中でも、一番人気といってもいいのはLinux Mintだろう。
Linux Mintは、ベースとなるUbuntuのリポジトリに独自のリポジトリを追加しているので、派生版となる。なおDebianベースのLMDE(Linux Mint Debian Edition)もある。今回詳しく紹介しないが、何らかの理由でDebianベースのほうが都合がいい場合は、こちらの採用も検討するといいだろう。
Linux Mintが採用しているデスクトップ環境は、自身で開発しているCinnamonのほか、XfceとMATEがあるが、今回はCinnamonのみ取り上げる。
対象のバージョンは、執筆時点の最新版である22.1とする。ベースとなるUbuntuのバージョンは24.04 LTSとなる。
Cinnamon
まずはCinnamonについて説明しておこう。前述の通り、CinnamonはLinux Mintが開発しているデスクトップ環境だ。GNOMEからフォークし、ルック&フィールをWindowsに似せていて親しみやすいのが特徴だ。
またCinnamon Spiceで、さまざまな機能を追加できるのも特徴だ。
Wayland対応は開発中で、現在は実験的(Experimental)サポートに限られる。そもそも現状日本語入力(インプットメソッド)に必要な機能が実装されていないため、実用性はまったくない。
Cinnamonは、ほかのLinux Mintの独自ツールと同じくオープンソースソフトウェアなので、ほかのLinuxディストリビューションでも使用できる。具体的にはCinnamonを採用したUbuntuフレーバーのUbuntu Cinnamonもある。Linux Mint最新版のCinnamonよりは古いバージョンになるが、Linux MintでなくてもCinnamonを使用できることは伝えておきたい。
共通点
それでは本題に入る。
Linux MintはUbuntuのリポジトリにあるパッケージを利用しているため、バイナリ互換性がある。すなわち、22.1であればUbuntu 24.04 LTSと共通のパッケージが使用できる。
それに伴い、Ubuntu LTSと同じく5年間のサポートがある。独自に延長サービスを提供したりはしていないので、長くとも5年後にはアップグレードする必要があるが、デスクトップOSであれば通常は2年ごとにアップグレードするだろう。
DebianとUbuntuは、ソースパッケージレベルでは互換性はあるものの、バイナリ互換性はない。そのあたりUbuntuとLinux Mintは共通だ。
あとは全部“差異”となる。共通点が多ければわざわざ別のディストリビューションを用意する、などという手間をかけることもないので、これは当然のことだ。
リリースポリシー
Ubuntuは半年ごとにリリース、2年に一度偶数年の4月にLTS(Long Term Support)をリリースするが、Linux Mintは、現在はLTSをベースに約半年ごとにリリースし、最新のLTSがリリースされたらそちらにベースを移行する。最新のLTSがリリースされたら、その一つ前のメンテナンスバージョンはリリースされない。リリース時期は決まりはなく、準備ができたらリリースとなる。
すなわち、24.04 LTSベースだと22、22.1、22.2、22.3がリリースされ、次は2年後となるので26.04 LTSベースの23となり、その後22.4や22.5がリリースされることはない。
UbuntuだとYY.MM.2からHWスタックが採用されるが(詳しくは第47回参照)、Linux Mintではリリース時点のカーネル据え置きとなる。24.04 LTSだとカーネルのバージョンは6.8のままとなる。第67回で紹介したように、カーネル6.8は第1世代のCore Ultraシリーズでも動作させるのが厳しいので、新しいPCにインストールするにはLinux Mintは向かないということになる。
インストーラ
第51回で紹介したように、Ubuntuは新しいインストーラに移行したが、Linux Mintは従来のインストーラ(Ubiquity)をカスタマイズしたものを、24.04 LTSベースの22になっても採用し続けている。
インストーラは新しいほうがいいというものでもないが、かといって古いコードベースなのでメンテナンスは大変だと思われる。このまま使用し続けるのか、あるいはUbuntuベースのものにするのか、あるいは汎用インストーラに変更するのか注目されるところだ。
独自ツール
Linux Mintは多数の独自ツールがある。Ubuntuもそれなりにはあるが、Linux Mintのほうが遥かに多い。
ログイン時に表示されるThe Linux Mint Welcome Screenからしてそうで、Ubuntuの場合はGNOME Initial Setupをアレンジして使用しており、独自には用意していない。
The Linux Mint Update Managerも、Ubuntuのものとは全く異なる。ミラーサーバーへの切り替えを促すバナーが表示されるなど、なかなかに親切だ。
また、最初にアップデートマネージャー自体のアップデートを促されるのもなかなかにユニークだ。
「ソフトウェアソース」というUbuntuと同名のツールもある。Ubuntuのものよりも高性能だが、それはさて置いて、当然のことではあるもののミラーはUbuntuとLinux Mintの2種類を設定する。前述のとおりではあるものの、改めてここで確認できる。
Ubuntuではインストール時に日本語を選択すると日本語入力に必要なパッケージが一通りインストールされるが、Linux Mintではそのようになっていない。「入力方法」という独自ツールを起動して、インストールと設定をする必要がある。
説明文ではFcitxを使用するべきであるかのように読み取れるが、ここではIBusを使用することを強くおすすめする。というのも、Fcitxはすでに開発停止となっている。現在は後継のFcitx5が活発に開発されている。Fcitx5対応を促す旨の報告はあるが、本稿の執筆段階では未対応だ。ざっとソースコードを確認した限りでは、難易度はあまり高くなさそうなので、実装に挑戦してみるのもいいだろう。
アプリケーション
GNOMEのアプリケーションはGNOME Human Interface Guidelinesというガイドラインに沿ったユーザーインターフェイスであることが求められる。確かにどのアプリでもルック&フィールが統一されているのはとっつきやすさを感じるが、やはりエディタはアイコンがたくさん並んでいるほうが便利じゃないかと思うこともある。
Linux MintではXAppsという伝統的なユーザーインターフェイスを維持したアプリケーションを独自にメンテナンスし、提供している。もともとはGNOMEまたはGNOMEからフォークしたMATEの古いバージョンのアプリケーションをベースにしていることが多い。
Timeshiftというバックアップアプリもインストールされている。もともとは別のプロジェクトだったが、オリジナルの開発者から開発を引き継いで今も継続している(穏当な表現)。
筆者もお気に入りのアプリで、日々利用している。
ユニークなところでは、Warpinatorというお手軽にLAN内でファイルのやり取りをするアプリがインストールされている。
Warpinatorが興味深いのは、非公式とはいえAndroid版とWindows版がリリースされていることで、Timeshiftと同様Linux Mintユーザーでなくても親しまれていることが分かる。ただしTimeshiftとの違いは、WarpinatorはLinux Mintが発祥のプロジェクトという点だ。
snapパッケージ不採用
Ubuntuでは広く使われているsnapパッケージは、毛嫌いする人も多い。確かにUbuntu 22.04 LTSのリリース時点でsnapパッケージとなったFirefoxはかなりひどいものだった。しかしあれから2年余りで開発も進み、今となっては特に大きな支障がなくsnapパッケージ版Firefoxが使用できている。
実は筆者も24.04 LTSへのアップグレードを機にsnapパッケージ版Firefoxを使用するようになった。22.04 LTSでは、公式に提供されているバイナリを使用していた(参考記事)。使用頻度が高いFirefoxでそうなら、ほかのsnapパッケージも軒並み使いやすくなり、以前はよくあった日本語入力すらできないsnapパッケージも、筆者が確認している範囲では見かけなくなった。
ではLinux Mintではどうかというと、snapパッケージは採用していない。22.04 LTS(性格にはその前の21.10)からFirefoxが、24.04 LTSからThunderbirdがsnapパッケージ化されているが、Linux Mintではsnapパッケージはまったくインストールされず、FirefoxやThunderbirdは独自のパッケージとして提供している。その証拠に、「アップデートマネージャー」で独自のバージョンが付加されたFirefoxとThunderbirdのパッケージがアップデート可能となっている。
さて、評価は
以上Linux Mintを主にUbuntuとの違いという観点で紹介したが、どのよう感想を抱いたであろうか。Ubuntuユーザーである筆者にとっては、Linux Mintは保守的でいささか頑固が過ぎるように思える。かといってCinnamonはわりと気に入っているので、Ubuntu Cinnamonはかなりいい落としどころだと考える。しかし2025年という今を鑑みるに、やはりWaylandセッションが苦なく(実際には苦はあるが、それはさておき)使用できるUbuntuがベストという評価だ。
かといってUbuntuデフォルトの「テキストエディター」はマジでもう少しどうにかならんかと強く考えているのは否定し難く、それがOS全体に及ぶのも意見としては理解できる。
筆者はUbuntu愛好者ではあるが、それ以上にオープンソースソフトウェア愛好者である。オープンなOSを使用してくれるのであれば、Ubuntuでなくても一向に構わない。そんな第一歩目として、親しみやすいLinux Mintから入ってもらえるのであればこの上ない喜びである。