福田昭のセミコン業界最前線

半導体デバイスの明日を展望するIEDM 2018が12月に米国で開催

IEDMのロゴマーク。今年(2018年)は第64回となる。IEDM実行委員会が報道機関向けに発表した資料から

 半導体の研究開発コミュニティにおける12月の一大イベントが、今年(2018年)もはじまる。半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting)」が12月1日~5日に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催される。プレイベントや基調講演、技術講演などのプログラムがこのほど、公表された。

 今年(2018年)のIEDM(IEDM 2018)は以下のようなスケジュールで進む。12月1日(土曜日)と12月2日(日曜日)は、プレイベントである技術セミナーが予定されている。1日は午後に90分の短いセミナー(IEDMでは「チュートリアル」と呼んでいる)がある。2日は朝から夕方までの1日間をかけたセミナー(IEDMでは「ショートコース」と呼んでいる)を予定する。

 メインイベントである技術講演会は、12月3日(月曜日)~12月5日(水曜日)までの3日間にわたって開催される。ただし初日(4日)の午前は、3本の基調講演(いずれも招待講演)で構成されるプレナリセッションとなっている。

 初日の午後からは、技術講演セッションがはじまる。月曜日の午後から水曜日の午後にかけ、38テーマと数多くの技術講演セッションが予定されている。最多では9本の技術講演セッションが同時に進行するという、かなりのハードスケジュールだ。

IEDMの会場となる米国サンフランシスコのHilton San Francisco Union Squareホテル。昨年(2017年)12月に前回のIEDMを取材したときに、筆者が撮影したもの
IEDM 2018の全体スケジュール。プレスリリースや公式Webサイトなどの情報をもとにまとめた(以下同じ)
プレナリセッション(12月3日(月曜日)午前)の講演テーマ一覧

最先端技術の基礎を効率良く学べるプレイベント

 プレイベントである「チュートリアル」と「ショートコース」は、最先端技術の基礎を短時間で学べる企画で、最近では非常に人気が高い。12月1日(土曜日)のチュートリアルではテーマ別に90分の講演を6本、用意した。ニューロモルフィック・コンピューティング、最先端デバイスの信頼性、量子コンピューティング、ミリ波デバイスなどの講演が予定されている。

チュートリアル講演のテーマ一覧。前半に3本、後半に3本の講演を予定している

 12月2日(日曜日)のショートコースは、2つの大きなテーマに分かれており、それぞれのテーマに関連して6本ずつの講演が朝から夕方まで用意される。今年のテーマは、「Scaling Survival Guide in the More than Moore Era(モアザン・ムーア時代のスケーリング・サバイバル・ガイド)」と、「It’s All About Memory, Not Logic!!!(メモリのすべてを見せよう、ロジックじゃないよ)」である。いずれのテーマも非常に魅力的な講演がならんでおり、両方のテーマを同時には聴講できないのが辛いくらいだ。

ショートコース(モアザン・ムーア時代のスケーリング・サバイバル・ガイド)の講演一覧
ショートコース(メモリのすべてを見せよう、ロジックじゃないよ)の講演一覧

技術講演の初日午後:3D NAND技術で強誘電体FETを試作

 ここからは12月3日(月曜日)午後から5日(水曜日)夕方までの技術講演セッションと、その注目講演を順次、ご紹介していこう。はじめは月曜日の午後である。

 月曜日の午後の技術講演セッションは、並行に進むセッションの数がかなり多いのが通例となっている。今年はとくに数が多く、「セッション2」から「セッション10」までの9本もの技術講演セッションが同時に進行する。

月曜日午後の技術講演セッション一覧(その1)
月曜日午後の技術講演セッション一覧(その2)

 この時間帯ではまず、メモリ技術に関する「セッション2」に注目しよう。IntelとMicron Technologyが、NANDフラッシュメモリの最新技術を解説するとともに、スケーリングの将来を展望する(講演番号2.1)。それから、imecほかの共同研究チームが、ハフニウム酸化物の強誘電体トランジスタ(FeFET)を3D NAND技術によって垂直に積層した構造を試作した結果を発表する(講演番号2.5)。Chinese Academy of Sciencesほかの共同研究グループは、ハフニウム・ジルコニウム酸化物の強誘電体トランジスタを埋め込みDRAMと埋め込み不揮発性メモリの両方に使う技術を開発した(講演番号2.6)。

月曜日午後の注目講演タイトル(その1)

 MEMS技術に関する「セッション4」と3次元集積技術に関する「セッション7」にも、注目すべき講演が予定されている。University of California, Berkeley はMEMSリレーで基本的な論理回路を試作し、室温で動作を確認した(講演番号4.1)。50mVときわめて低い電源電圧で動作する。

 imecほかの共同研究チームは、300mmウェハの貼り合わせ技術によって2層構造のFinFET回路を試作した(講演番号7.1)。ルネサス エレクトロニクスは、ハフニウム・ジルコニウム酸化物の強誘電体薄膜にアルミニウムのナノクラスタを埋め込んだ不揮発性メモリ技術を開発した(講演番号7.5)。

月曜日午後の注目講演タイトル(その2)

 パワーデバイスと化合物半導体高速デバイスに関する「セッション8」とイメージセンサーに関する「セッション10」にも、興味深い講演が少なくない。産業技術総合研究所は、スーパージャンクション構造とV型トレンチを組み合わせることで高い耐圧と低いオン抵抗を両立させたSiC MOS FETを試作した(講演番号8.1)。

 東京大学ほかの共同研究グループは、5Vと低いゲート電圧で動作する1200V/10A級のシリコンIGBTを開発した(講演番号8.4)。OmniVision Technologiesは、画素寸法が1.5μm角で画素ピッチが1.5μmとせまい裏面照射型CMOSイメージセンサー技術を発表する(講演番号10.1)。画素数は800万画素である。

月曜日午後の注目講演タイトル(その3)

技術講演の2日目午前 : 高濃度の浅い接合を形成する技術

 技術講演の2日目となる12月4日(火曜日)の午前は、「セッション11」から「セッション17」までの7本の講演セッションが並行して進む。この時間帯では、最先端シリコンの製造技術に関する研究成果を公表する「セッション11」に注目したい。

火曜日午前の技術講演セッション一覧(その1)
火曜日午前の技術講演セッション一覧(その2)

 KAISTほかの共同研究グループは次世代のシリコン集積回路向けに、高いドーピング濃度で浅い接合(「浅い接合」とは「きわめて薄い拡散層」という意味で使われる用語)を実現する不純物ドーピング技術を開発した(講演番号11.1)。拡散層の厚みは10nmである。ドーピング濃度(立方センチメートル当たり)はp型拡散層が10の20乗、n型拡散層が10の21乗と高い。開始剤を用いたCVD(iCVD)によってホウ素(B)を含むポリマーとリン(P)を含むポリマーをそれぞれ成膜し、p型拡散層とn型拡散層のドーパントとして利用した。

 リソグラフィ(露光)技術では2件の講演が興味深い。1件はASMLによる招待講演で、EUV露光開発の現状を解説する(講演番号11.6)。最新の露光装置「NXE:3400B」によって時間当たりウェハ140枚を超えるスループットを達成したとする。もう1件は東芝メモリとSK Hynixの共同研究による成果で、ナノインプリント技術の露光でハーフピッチ14nmのパターンを解像したというもの(講演番号11.7)。ナノインプリント技術は、従来技術であるArFスキャナの縮小投影技術に比べ、露光装置のコストが大幅に下がると期待されている。

火曜日午前の注目講演タイトル

技術講演の2日目午後:Intelが埋め込みMRAM技術を公表

 続いて2日目の午後は、「セッション18」から「セッション25」までの8本の講演セッションが実施される。この時間帯は、注目すべき講演が非常に多い。

火曜日午後の技術講演セッション一覧(その1)
火曜日午後の技術講演セッション一覧(その2)

 はじめは、埋め込み不揮発性メモリ技術に関する講演が集まる「セッション18」に注目しよう。Intelが22nm世代のCMOSロジックに埋め込む磁気抵抗メモリ(MRAM)技術を公表する(講演番号18.1)。続いてSamsung Electronicsが28nm世代のFD SOI CMOSロジックに埋め込むMRAM技術を発表する(講演番号18.2)。それからSTMicroelectronicsが、28nm世代のFD SOI CMOSロジックに埋め込む相変化メモリ(PCM)技術について述べる(講演番号18.4)。そしてGLOBALFOUNDRIESとSilicon Storage Technologyの共同開発グループが、28nm世代のHKMG(高誘電率金属ゲート)技術によるCMOSロジックに埋め込むスプリットゲート型フラッシュメモリ技術を発表する(講演番号18.5)。

 次に、シリコンの次を狙う半導体材料の1つである、ゲルマニウム(Ge)をチャンネルに使うトランジスタ技術に関する「セッション21」が興味深い。TSMCが、GeナノワイヤのnチャンネルFETとpチャンネルFETの両方に対応するゲートスタック技術を公表する(講演番号21.1)。imecは、チャンネルにひずみを入れて性能を高めたナノワイヤのGe pチャンネルFETを試作した結果を発表する(講演番号21.2)。

火曜日午後の注目講演タイトル(その1)
火曜日午後の注目講演タイトル(その2)

 それから、これもシリコンの次を狙う半導体材料の1つである、層状遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD : Transition Metal Dichalcodenide)をチャンネルに使うトランジスタ技術に関する「セッション22」にも注目すべきだろう。Purdue Universityは、層状TMD材料の二セレン化タングステン(WSe2)を使ったトランジスタでCMOSのSRAMセルを試作した(講演番号22.2)。Stanford Universityと Soochow Universityの共同研究チームは、層状TMD材料の二流化モリブデン(MoS2)を使ったトランジスタと窒化ボロン(BN)の抵抗変化記憶素子を組み合わせて抵抗変化不揮発性メモリ(ReRAM)のメモリセルを作製してみせた(講演番号22.5)。

 またシリコンフォトニクスに関する「セッション23」では、University College Londonがシリコン基板に化合物半導体のInAs/GaAs量子ドットレーザーをモノリシックに集積する技術の最新状況を解説する(講演番号23.5)。こちらも興味深い。

火曜日午後の注目講演タイトル(その3)

 火曜日の夜には、恒例のパネル討論会(パネルディスカッション)が「セッション26」として午後8時から開催される。今回のテーマは「The Next 25 Years in Electronics(エレクトロニクスにおける次の25年)」である。現在から約25年後の西暦2045年までを展望しようとする、野心的な試みとなっている。

技術講演の最終日午前 : 3nm世代のFETでSRAMセルを試作

 技術講演の3日目であり、最終日となる12月5日(水曜日)の午前は「セッション27」から「セッション34」までの8本の講演セッションが同時に進行する。この時間帯も、注目すべき講演が少なくない。

水曜日午前の技術講演セッション一覧(その1)
水曜日午前の技術講演セッション一覧(その2)

 はじめは、磁気抵抗メモリ(MRAM)と相変化メモリ(PCM)に関する「セッション27」が興味深い。前日の「セッション18」と同様に、このセッションでも、ロジックに埋め込むことを想定した不揮発性メモリ技術の発表が相次ぐ。

 GLOBALFOUNDRIESは、自動車(Auto-G1)用マイクロコントローラへの応用を想定した埋め込みMRAM技術を開発した(講演番号27.1)。22nm世代のFD SOI CMOS技術で製造する。Chinese Academy of SciencesとSMICの共同開発グループは、40nm世代のロジックに埋め込むPCM技術を発表する(講演番号27.5)。TSMCは、40nm世代の低消費電力版ロジックプラットフォームに埋め込めるPCM技術を開発した(講演番号27.6)。

水曜日午前の注目講演タイトル(その1)

 この時間帯では、CMOSロジックの微細化を極限までに進める「セッション28」と、新しい原理のトランジスタによって性能を高めようとする「セッション31」にも注目の講演が少なくない。

 Samsung Electronicsは、3nm世代ときわめて微細な製造技術で、GAA(Gate All Around)タイプのFETを開発し、SRAMセルを試作してみせた(講演番号28.7)。National Applied Research Laboratoriesほかの共同研究チームは、ハフニウム・ジルコニウム酸化物(HZrO)の負性容量Fin FETによってインバータ論理ゲート、リング発振器、SRAMセルなどを試作し、従来技術と比較する(講演番号31.7)。National Taiwan Normal Universityほかの共同研究グループは、サブスレッショルド特性が非常に良好な負性容量FETをGAA構造とFin構造の両方で作製した(講演番号31.8)。

水曜日午前の注目講演タイトル(その2)

 このほか、光検出器の研究に関する「セッション32」が興味深い。University of TwenteとEPFLの共同研究チームは、標準のCMOSロジック製造技術で光結合器をシリコンに作り込み、シリコンダイ間の光伝送を実験した(講演番号32.1)。The University of Edinburgh, とSTMicroelectronicsの共同研究グループは、深い溝で分離したフォトダイオードアレイを直列接続することで出力電圧を高める技術を開発した(講演番号32.2)。Artiluxは、シリコン基板にゲルマニウム(Ge)のロックインピクセルを形成した間接TOF(Time Of Flight)距離測定用センサーを発表する(講演番号32.5)。

水曜日午前の注目講演タイトル(その3)

技術講演の最終日午後:128Gbitの3次元クロスポイントメモリ

 最終日の午後には、「セッション35」から「セッション40」までの講演セッションを予定する。同時進行するセッションの数は6本である。

水曜日午後の技術講演セッション一覧(その1)
水曜日午前の技術講演セッション一覧(その2)

 IEDMのフィナーレを飾るこの時間帯はまず、スピンを利用したデバイス技術に関する「セッション36」に注目したい。imecとUniversity Paris-Sudの共同研究チームは、スピン波の干渉を利用した多数決論理回路を開発した(講演番号36.1)。University of California, Los Angelesは招待講演で、スピントロニックデバイスの現状と将来を展望する(講演番号36.2)。

 続いてメモリ技術に関する「セッション37」にも目を向けよう。SK-Hynixが3次元クロスポイント構造で128Gbitと大容量の相変化メモリ(PCM)を試作した(講演番号37.1)。セレクタにはカルコゲナイド材料を採用している。

水曜日午後の注目講演タイトル(その1)

 光エレクトロニクスに関する「セッション38」では、微小な発光ダイオード(LED)の高密度アレイを利用した多機能デバイスが登場する。Southern University of Science and Technologyが、ディプレイと温度センサー、光エネルギーの収穫デバイス、光検出器として使えるデバイスを発表する(講演番号38.1)。

 5G無線を想定した化合物半導体デバイスに関する「セッション39」も興味深い。Massachusetts Institute of TechnologyとUniversity of Coloradoの共同研究チームは、原子層エッチング(ALE : Atomic Layer Etching)技術と原子層成膜(ALD : Atomic Layer Deposition)技術を組み合わせることで、非常に微細な化合物半導体FinFETを開発した(講演番号39.1)。IBM Research GmbH Zürich Laboratoryは、シリコン基板にCMOS互換プロセスで量子井戸InGaAsの高周波MOS FETをモノリシックに作製してみせた(講演番号39.4)。

水曜日午後の注目講演タイトル(その2)

 このほかにも、興味深い発表が少なくない。詳しくは12月の現地レポートなどで改めてご報告したいので、ご期待されたい。