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任天堂とポケモンがパルワールドを著作権ではなく特許権で訴えた理由

日本弁理士会が推奨する知財ミックス戦略

 日本弁理士会は、「著作権および特許権をはじめとする知的財産権の保護と活用」について説明を行ない、ゲームソフトが、著作権だけでなく、特許権によっても保護される対象になることを指摘。「知的財産には、特許権、意匠権、商標権、実用新案権、著作権、営業秘密(不正競争防止法)などがある。特に著作権と特許権は性格が大きく異なる。それぞれの権利などの特徴を理解し、それらの権利を組み合わせてうまく利用していくことが、事業を展開する上で有効になる」(日本弁理士会 著作権委員会委員長の中 富雄氏)と示唆した。

 2024年9月には、任天堂とポケモンが、サバイバルクラフトゲーム「パルワールド(Palworld)」の開発、販売をしているポケットペアを、特許権侵害によって、東京地方裁判所に提訴するといった動きがあり、ここでは、ゲームソフトにおいて特許を取得し、それをもとに訴訟を起こした点が注目を集めている。この訴訟に併せて、権利侵害の根拠となる特許権の特許番号も公表している。

日本弁理士会 著作権委員会委員長の中 富雄氏

 中委員長は、「著作権ではなく、特許権で訴えた理由は不明だが、著作権と特許権との特徴の違いが背景にあるのではないか」と予測。「著作権は著作物が創作された時点で発生することになるが、出願したり審査を受けたりしないため、本当に著作権が存在しているのかが容易に分からない。だが、特許は出願し、審査を経て登録されると権利が発生し、特許範囲も分かりやすい。特許権は著作権と比較して侵害の主張がしやすい」と説明した。

 ゲームソフトは、これまで一般的だった著作権の保護だけでなく、特許権によって保護することが自社の事業を守るためには望ましいことを指摘しながら、任天堂とポケモンによる訴訟は、それを具体化した事例であることを示した。

 ゲームソフトは、画像や動画、音楽などが使用されており、これらが創作的に表現されているため、著作物で保護される可能性が高いとされている。

 他者が販売しているゲームソフトで使用されている音楽が、依拠かつ類似する場合には、著作権侵害が成立する可能性があり、登場するキャラクターや映像についても、依拠かつ類似するものを使用すれば、著作権侵害が成立する可能性がある。

 だが、ストーリーだけが類似しているというだけでは、著作権侵害になる可能性は低い。

 「著作物では、他人が作ったものの存在を知らずに作った音楽やキャラクターが、類似していたとしても、侵害にはならないという性質がある。また、著作権は、思想または感情を創作的に表現したものが著作権の対象であり、ゲームのストーリーのようなアイデアは著作権の対象とならない」と説明した。

特許権の対象

 その一方で、特許権の対象は「発明」とされ、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されている。発明には、「物の発明」と「方法の発明」があり、プログラムは、「物の発明」に含まれ、ゲームソフトのプログラムは発明の対象となり、特許権で保護することができる。

 また、ゲームソフトの場合、ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている場合には、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に位置づけられるという。

 さらに、特許権では、最初の出願時に明細書などに記載されている範囲であれば、権利範囲の特許権を取得できる可能性がある点も特徴だという。

 「他者が似たような商品を出した場合に、出願した内容の権利範囲であれば、相手の商品が実施している範囲を含めるように変動させ、侵害していると訴えることもできる。一定の条件のもと、戦略的に操作することが可能であり、より確実に侵害の主張を行なうことができ、自社の事業を守り、相手を排除することができる」とした。

説明会の様子

知財ミックス戦略

 中委員長は、「特許権は、そもそも産業の発達に寄与するという目的を持った法律である」と前置きし、「ゲームソフトに関わらず、事業における知的財産戦略においては、著作権よりも、特許権が有効である。また、1つの製品を複数の権利により保護することが有効である」と提言した。

 複数の異なる知的財産権を利用し、多面的に保護することを「知財ミックス戦略」と呼び、1つの製品について、特許権や意匠権、商標権によって保護するほか、実用新案権や不正競争防止法などの利用も、製品を強力に保護することにつながり、自社事業の強化に役立つという。

 ゲームソフトの場合、用いられている音楽や映像については、著作権で保護されているが、それに加えて、プログラムなどを特許権で保護し、ゲームの名称などを商標権で保護することが大切だとした。

 「出願および審査が必要になり、提出する書類も難しく、弁理士に依頼すると費用もかかる。また、出願したら必ず登録できるというものではない。だが、権利の内容や発生時期などが明確になり、著作権に比べて事業活動に有効に利用しやすい」と述べた。

 一方で、「他者の権利を侵害していないかという点にも注意が必要である」とも語る。

 「自社製品に近い内容の出願がされている場合は、特許権が付与されているか、権利範囲はどうなっているかなどについて、検討することが好ましい。さらに、分割出願がされていないかなど、継続して追っておくことが望ましい。加えて、他者の著作物に依拠して創作することがないように、社内の体制を整えておく必要もある」と警鐘を鳴らした。

 今回の説明では、生成AIでゲームソフトの制作する際の留意点についても触れた。

 中委員長は、「生成AIを利用する場合には、意図せずに著作権侵害を行なってしまう可能性がある。そのようなトラブルを避けるためには、学習するデータに、著作権を侵害するようにものを使っていないモデルを利用するなど、著作権侵害をしにくい生成AIを選択すること、生成AIに入力したプロンプトなどや生成過程の状況を残しておくことが好ましい」と提案した。

 また、「生成AIを利用して制作したものは、特許権などには、審査を経た後に権利として認められるので、その点では、生成AIの利用には慎重になりすぎなくてもいい。生成AIを利用しても問題が生じにくい部分については、積極的に生成AIを利用することを検討することが好ましい」とした。

 さらに、「他者の特許権などの内容を調査したり、特許公報の内容を把握して整理したりする作業の際に、生成AIを利用することで、作業時間を大幅に短縮できる」といった活用方法も紹介した。