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18~100WまでのUSB PD充電器を徹底検証!出力が違うとノートPCの挙動はどう変わる?11機種を総当たりチェック

最大出力18Wから100WまでのUSB PD充電器を用意し、10社11機種のノートPCと総当たりで検証を行なった。なお一部私物を除き、ノートPCは各メーカーから貸出の協力をいただいている

 最近のノートPCは、USB PD(USB Power Delivery)での急速充電に対応した製品が増えている。USB PDに対応していれば、ノートPC以外にタブレットやスマホとも充電器を共用できるほか、多くの場合、ACアダプタに比べてサイズも小さく軽量という利点がある。複数ポートに対応した製品もあり、複数のデバイスをまとめて充電できるのもよい。

 ところが困りものなのは、ノートPCの充電に必要な電力(W)が、ノートPCの仕様欄に記載されておらず、不明なケースが少なくないことだ。

 USB PD充電器は基本的に「大は小を兼ねる」なので、最大出力が大きな充電器を買っておけば問題ないが、あまりに差があるのも考えもの。なにより出力が大きい充電器はサイズが大きく、重いのが通例なので、せっかくのUSB PDのメリットが一部失われてしまう。

 また最大18Wや20Wなど、主にスマホ用に設計された低出力のUSB PD充電器をノートPCに接続した場合、細々と給電することでバッテリの残量を回復させられる場合もあれば、バッテリの消費に追いつかない場合、また認識されるにも関わらず一切給電されない場合もある。

 これらについてもノートPCの仕様欄に書かれているケースはほぼ皆無で、ユーザーが自力で確認しなくてはいけないのが現状だ。

 そこで今回は、10社11機種のノートPCを用意し、最大出力18Wから100WまでのUSB PD充電器と総当たりで接続。充電器の出力ごとにノートPCがどのような挙動を示すのかをチェックしてみた。

 あくまで各社の代表的なノートPCに限った検証ではあるが、ある程度の傾向は見えてくるはずなので、USB PD充電器選びの一助にしてもらえるのではないかと思う。

まずは検証に用いるUSB PD充電器を紹介

 まず最初に、検証に使用するUSB PD充電器を紹介する。本来ならばUSB IF(Implementers Forum)認証品などに統一すべきなのだが、今回は特にそれらに限定せず、またPPS(Programmable Power Supply)対応の有無など仕様にもばらつきがある。そのため最大出力が同じ別の充電器で、同じ挙動になるとは限らないことをご了承いただきたい(実売価格は2022年1月上旬時点)。

【最大100W】Baseus「CCGAN100US」

Baseus「CCGAN100US」。USB Type-C×2、USB Standard A×2を搭載。前回の100W充電器記事でも扱っている

 計4ポートを搭載しており、1ポート利用時に最大100Wの充電に対応する。そのほかのPDO(Power Data Object)は「5V/3A、9V/3A、12V/3A、15V/3A、20V/5A」で、PPSはAmazon製品ページおよび本体ともに数値の記載はないが、テスターでの計測値は「3.3-21V/5A」となっている。実売価格は6,599円。

PDOの一覧。60W以上の給電には5A対応のUSB Type-Cケーブルが必要だ

【最大65W】Anker「Nano II 65W」

Anker「Nano II 65W」。65Wクラスの製品ではコンパクトさは突出している

 最大65Wの充電に対応する。PDOは「5V/3A、9V/3A、15V/3A、20V/3.25A」で、PPSはAmazon製品ページや本体ともに数値の記載はないが、テスターでの計測値は「5-21V/3.25A」となっている。実売価格は3,990円。

PDOの一覧。記載のないPPSをサポートしていたりと、提供される情報が不正確なのは気になるところ

【最大61W】iClever「IC-WD11」

iClever「IC-WD11」。2020年時点ではかなりコンパクトな部類だったが、現在は優位性は失われている

 最大61Wの充電に対応する。PDOは「5V/3A、9V/3A、12V/3A、15V/3A、20V/3A、20.3V/3A」とされているが、Amazon製品ページに「一部デバイスの仕様により最大5V/2.4Aまで」と注釈があるようにテスターでは5V/2.4Aと表示され、USB PDの規格違反にあたる可能性がある。現在は終売。

PDOの一覧。5V時の電流が3Aではなく2.4Aなのは規格違反の可能性がある

【最大45W】Anker「Nano II 45W」

Anker「Nano II 45W」。デザインは前述の65Wモデルと同一だが一回り小さい

 最大45Wの充電に対応する。PDOは「5V/3A、9V/3A、15V/3A、20V/2.25A」で、PPSは「3.3V-16.0V/3A、3.3V-21.0V/2.25A」。実売価格は3,390円。

PDOの一覧。前述の65Wモデルと違ってこちらは当初からPPS対応と発表されており実測値とも一致している

【最大30W】AUKEY「PA-Y19」

AUKEY「PA-Y19」。Anker Nano II 45Wよりもさらに一回り小さい

 最大30Wの充電に対応する。PDOは「5V/3A、9V/3A、12V/2.5A、15V/2A、20V/1.5A」。公式ストアでの実売価格は2,699円。

PDOの一覧。12V/2.5Aがやや特殊なことを除けば癖のないシンプルな内容。PPSは非対応

【最大20W】Apple「20W USB-C電源アダプタ」

Apple「20W USB-C電源アダプタ」。後述する18Wモデルと外観は同一。背面プラグは折りたためない

 最大20Wの充電に対応する。PDOは「5V/3A、9V/2.22A」。現行のiPad ProやiPad miniに標準添付されているモデルで、後述の「18W USB-C電源アダプタ」の後継にあたる。公式ストアでの実売価格は2,200円。

PDOの一覧。PD 3.0ではなく2.0対応のようだ

【最大18W】Apple「18W USB-C電源アダプタ」

Apple「18W USB-C電源アダプタ」。背面プラグ横の林檎マークの有無が前述の20Wモデルとの相違点

 最大18Wの充電に対応する。PDOは「5V/3A、9V/2A」。第4世代の12.9インチiPad Proなどに標準添付されていたモデルで、前述の「20W USB-C電源アダプタ」へのモデルチェンジに伴い終売となっている。

PDOの一覧。こちらもPD 3.0ではなく2.0対応のようだ

ノートPC 11機種の挙動を実際にチェック

 では対象になるノートPCと、実際に接続した結果について見ていこう。

(1) Apple「13インチMacBook Pro」

Apple「MacBook Pro(13-inch, M1, 2020)」。画面サイズは13型、OSはmacOS Monterey

 最大60W(20V/3A)の給電に対応している。標準添付される61Wの汎用USB-Cアダプタを使った場合、および65Wや100W対応の充電器を接続した場合も、60Wが上限となる。一方で20Wや18Wの充電器でもきちんと認識され、低速ながらも給電が行なえる。対応の範囲を見る限り、どちらかというと低出力寄りに強いことになる。

左側面にThunderbolt 3対応のUSB Type-Cポート×2を搭載する

(2) デル「XPS 13」

デル「XPS 13」。画面サイズは13.3型、OSはWindows 10

 標準添付のACアダプタが45W対応で、USB PDの上限も45W(20V/2.25A)となる。65W、100WのUSB PD充電器を接続した場合も、この値を上回ることはない。また20W/18Wでは認識こそされるものの給電は行なわれないほか、30Wも給電能力とバッテリ消費がほぼ相殺し合っており、実質「45W専用」と言っていい仕様だ。今回試用した機種の中では対応範囲はもっとも狭い。

左右側面にThunderbolt 4対応のUSB Type-Cポート×各1を搭載する

(3) ASUS「TUF Dash F15 FX516PR」

ASUS「TUF Dash F15 FX516PR」。画面サイズは15.6型、OSはWindows 10 Home

 現行のUSB PDの上限である100W(20V/5A)をサポートする。また20Wや18Wの充電器でも、時間を掛ければバッテリを満充電まで回復させられるなど、対応の幅は広い。ただしバッテリが数%以下の場合に限り、30W以上の充電器を用いるか、電源をオフにして充電を行なう必要がある。ちなみに付属のACアダプタは最大200W対応というモンスター級の仕様。

左側面にThunderbolt 4対応のUSB Type-Cポート×1を搭載する

(4) レノボ「ThinkPad X1 Carbon Gen 9」

レノボ「ThinkPad X1 Carbon Gen 9」。画面サイズは14型、OSはWindows 11 Pro

 標準添付のACアダプタは最大45W対応だが、オプションで最大65W対応の高出力アダプタが用意されていることからも分かるように、USB PDは65W(20V/3.25A)が上限となる。また20W/18Wの充電器についても低速ながら充電が行なえる。ちなみに2世代前の「ThinkPad X1 Carbon(2019)」でもテストを実施したが、同一の結果が得られた。

左側面にThunderbolt 4対応のUSB Type-Cポート×2を搭載する

(5) VAIO「VAIO SX14」

VAIO「VAIO SX14」。画面サイズは14型、OSはWindows 11 Pro

 標準添付のACアダプタは最大65W対応だが、USB PDは最大100W(20V/5A)での充電に対応するほか、20W/18Wという低出力の充電器でも問題なく充電が可能。出力の大きな充電器を使えばトップスピードで充電でき、なおかつ低出力の充電器でも時間を掛ければバッテリ残量を回復させられるという点で、今回評価した中ではもっとも理想的な製品と言える。

右側面にThunderbolt 4対応のUSB Type-Cポート×2を搭載する

(6) マウスコンピューター「MousePro-NB420H」

マウスコンピューター「MousePro-NB420H」。画面サイズは14型、OSはWindows 10 Pro

 現行のUSB PDの上限である最大100W(20V/5A)での充電に対応するが、一方で20W/18Wという低出力の充電器は認識こそするものの給電が行なわれないほか、30Wも数秒ごとに切断と再接続を繰り返すため利用できない。全体的に45W以上の充電器での利用を想定しているようだ。ちなみに20W/18Wの充電器では、9Vではなく5Vが選択されるなど、USB PDの設計もやや特殊な印象だ。

左側面にThunderbolt 4対応のUSB Type-Cポート×1を搭載する

(7) Microsoft「Surface Pro 8」

Microsoft「Surface Pro 8」。画面サイズは13型、OSはWindows 11 Home

 最大60W(20V/3A)での充電に対応する。20Wや18Wといった低出力の充電器については、きちんと認識し給電も行なわれるが、給電能力とバッテリ消費がほぼ相殺し合っているのか、バッテリ残量が回復する様子は見られなかった。実質的に20W以下の充電器は使えず、30W以上の製品をチョイスした方がよさそうだ。

右側面(ディスプレイ側)にUSB Type-Cポート×2を搭載する

(8) Microsoft「Surface Go 2 LTE Advanced」

Microsoft「Surface Go 2 LTE Advanced」。画面サイズは10.5型、OSはWindows 10 Pro

 最大45W(20V/2.25A)での充電に対応する。低出力の充電器については、もっとも低い18Wでも低速ながら充電も可能だが、20Wについては数秒ごとにリセットされるために給電すら不可能だ。今回試した中で唯一、出力が小さい充電器で問題なく充電できたにも関わらず、より出力の大きい充電器でエラーが出たパターンだ。

右側面(ディスプレイ側)にUSB Type-Cポート×1を搭載する

(9) 日本HP「HP Spectre x360 14」

日本HP「HP Spectre x360 14-ea」。画面サイズは14型、OSはWindows 10 Pro

 標準添付のACアダプタは最大65W対応だが、実際には最大100W(20V/5A)での充電に対応している。一方で20W/18Wは認識されるものの給電が行なえず、実質的に30W以上の充電器が必要になる。ユニークなのは、他製品では電圧がより高いPDOが選択されるところだが、本製品は45Wで20V/2.25Aではなく15V/3A、30Wで20V/1.5Aではなく15V/2Aが選択されるなど、電圧が低いPDOが選択されること。USB PDの実装がメーカーごとにバラバラなことを示す事例として興味深い。

右側面および右奥の角にThunderbolt 4対応のUSB Type-Cポート×2を搭載する

(10) 富士通「LIFEBOOK UH-X/E3」

富士通「LIFEBOOK UH-X/E3」。画面サイズは13.3型、OSはWindows 10 Pro

 標準添付のACアダプタは最大45W対応だが、実際には最大100W(20V/5A)での充電に対応している。軽さが売りのモバイルノートにしてはパワフルな仕様で、外出先での使用後、バッテリを急いで回復させたいニーズに適する。また20W/18Wについても、5V/3Aという低速ながらも充電が可能。9Vではなく5Vが選択される理由は不明だが、幅広い出力に対応するのは安心感がある。

左側面にUSB Type-Cポート×2を搭載する

(11) パナソニック「レッツノートFV1」

パナソニック「レッツノートFV1(CF-FV1VUCCP)」。画面サイズは14型、OSはWindows 11 Pro

 最大100W(20V/5A)での充電に対応している。20W/18Wの充電器について細々と給電されるのみでバッテリ残量は回復しないが、これら低速の充電器を接続した場合、その旨をポップアップで知らせてくれるので、充電していたつもりが逆にバッテリが減っていたというトラブルが起こりにくい。親切な仕組みゆえ、他社にも見習ってほしいところだ。

左側面にThunderbolt 4対応のUSB Type-Cポート×2を搭載する
20W以下の低速充電器を接続するとこのようなメッセージがポップアップ表示される

最大出力「何W」のUSB PD充電器を選ぶべき?

 ここまで紹介した、USB PD充電器の接続時に各ノートPCが選択するPDO(Power Data Object)をまとめると以下のようになる。背景色が黒の部分はPDOは選択されるものの実際には給電が行なわれない(つまり実質使えない)ケース、背景がグレーの部分は給電は行なわれるがバッテリの残量は回復しないケースを指す。

 なおバッテリの残量が回復するか否かは、PCの駆動モードや画面の明るさ、起動中のアプリなどにも影響されるため、背景色が白の中にも限りなくグレーのケースがあったり、その逆の可能性もあることをご了承いただきたい。

USB PD充電器の接続時に各ノートPCが選択するPDO。今回は多くのメーカーの製品をチェックすることに主眼を置いたため、こうした傾向がメーカー単位なのか、あるいは製品単位なのかは不明だ

 これらの結果を踏まえて、USB PD対応の充電器やモバイルバッテリを選ぶ時は、何W対応の製品を選べばよいのだろうか。基本的に「大は小を兼ねる」なのだが、出力の大きな充電器ほどサイズも大きく、また重くなるので、持ち歩きに向かない。宅内利用なのか、外出先に持ち出す可能性があるのかによって、選択肢は変わってくる。

 まず宅内での利用の場合だが、最低でも45W、できれば60Wか65Wの充電器が望ましい。今回の結果を見ても分かるように、45W以上ではどのノートPCも充電が行なえているので、手持ちのノートPCが何Wまで対応するかは分からなくとも、45W以上であればまず確実だ(61W以上は5A対応のケーブルが必須)。

 なお一部のモバイルディスプレイやドッキングステーションなど、ノートPCへのパススルー充電に対応した製品では、間に挟まるデバイスも電力を消費するので、ノートPCが最大45Wまでしか対応しないからと言って45Wを選ぶのではなく、ワンランク上を選んでおいた方が使える組み合わせが広がる。「できれば60Wか65W」と書いたのはそういう意味だ。出力に余裕があるほど発熱を抑えられるという利点もある。

 一方で、外出先に持ち歩く場合は、可搬性を重視して30Wの充電器を選ぶ手もある。バッテリ残量を回復させるのではなく、バッテリの減りを緩やかにして駆動時間を延ばすのが目的ならば、そうした割り切った考え方もあるだろう。

 とは言え今回の「MousePro-NB420H」のように30Wでは給電すらできないケースもあるので、それならば45W対応の製品の中でなるべく小型軽量のモデルを選んだ方がよいのではと、個人的には思う。

 最後に、充電器ではなくモバイルバッテリの場合はどうだろうか。モバイルバッテリは屋外で使われることが多く、長時間ノートPCに挿したままにするのが難しい場合もある。ノートPCのバッテリを回復させたら速やかに取り外すという使い方を想定するならば、なるべく出力が大きめの製品が望ましいことになる。充電器とは選ぶポイントが違ってくるのがおもしろい。

 なお今回はUSB PDの信号をキャプチャする必要があったため専用のテスターを利用したが、充電器からノートPCへきちんと給電できているかを確かめるだけならば、実売2千円程度のチェッカーで十分だ。ノートPCを買ったあと、もし複数のUSB PD充電器を使い比べる機会があれば、どれだけの電力が供給されるのかをこうしたチェッカーでざっとチェックしておけば(特に下限が重要)、ノートPCをより長く使うのに役立つだろう。

今回検証に用いたテスターは「AVHzY CT-2」。現在は後継の「AVHzY CT-3(右下)」に切り替わっているが、信号のキャプチャに対応しないノートPCがあったため、今回は旧モデルにあたるCT-2を使用した
充電器からノートPCに流れている電力をチェックするだけならば、実売2千円程度のチェッカーで十分だ。上はルートアール「RT-TC5VABK」、下はPlugableの「USBC-VAMETER(現行モデルとは形状が異なる)」