山田祥平のRe:config.sys

充電と給電についての気の長い話

 マルチポートの充電用アダプタが増えてきた。数多くの充電が必要なデバイスを毎日使うのが当たり前になっている中ではうれしいことだ。でも、メーカーや製品ごとに異なるポートの振る舞いに困惑してはいないだろうか。USB PDという標準的な規格に準拠していることが、かえって話をややこしくしているという面もある。

Ankerのマルチポート対応新ブランドGaNPrime

 AnkerがGaNPrimeシリーズとして、マルチポート装備の充電器を新たにラインナップ、順次出荷が開始される。現時点で6製品が発表済みだ。

 GaNPrimeは2ポート以上を装備したマルチポートの充電アダプタが冠するAnkerのブランドだ。同社の製品が3桁の数字を使うようになって久しいが、最初の1桁がシリーズ名、2桁目がポート数、3桁目がパフォーマンスを示すのだそうだ。

 複数ポートの充電アダプタが、どのように振る舞うのが使いやすいのかは、とにかく模索が続いている。現状では、

  • 対応電力で区別されたポートをユーザーが使い分ける
  • 電力供給を先にスタートしたポートが優先されて希望電力を得て、余った分を別のポートがもらう

を組み合わせた仕様のものが多い。

 これを分かっていないと痛い目にあう。本当は全ポート独立制御が理想的で、それには単ポート充電器を積層すればいいのだが無駄も多くなる。

 今回、発売前のAnker新製品を試用することができた。上記の振る舞いのハイブリッド的な仕様になっている。

 737 Chargerは合計最大出力120Wの製品でUSB PD対応のUSB Type-Cポートが2つ装備されている(USB Type-A×1と併せて3ポート)。1つのポートだけを使って充電する分には、どちらのポートを使っても最大100Wが供給される。2つのポートを同時に使うときは上段ポートが優先される仕様だ。

 優先されたポートにつながったデバイスがフル充電になれば解放されて、別のポートに電力が回ればいいのだが、充電される側のシンクデバイスは満充電になってもポートを解放しない。したがって、個々のポートが使える電力は最初のままだ。

 これがどう不便かというと、両方のポートにデバイスを接続して充電しているとき、片方が満充電になったら、余った電力をもう片方に回すということができない。

 もっとも737 Chargerは合計120Wという大電力をサポートしているので、60W×2を確保できればモバイルノートPCなどの充電ではあまり不自由を感じないかもしれない。

 一方、65Wの733 Power Bankではどうだろう。この製品は充電器とバッテリが一体化されている製品で充電器として使う場合は合計最大65W、バッテリとして使う場合は合計最大30Wの出力になる。USB PD対応のUSB Type-Cポートは2つ装備されている(USB Type-A×1と併せて3ポート)。

 1ポートで使う場合は何も考えることはない。充電器としてなら65W、バッテリとしてなら30Wを確保できる。ただ、2ポートを使う場合は上段ポートが優先され、そちらが大きな電力を確保する。

 737 Chargerと同じ仕様なので、ACに接続して合計最大65Wの充電器として使っているときに、30W超の電力が必要なデバイス2台をそれぞれのポートに接続した場合、上段ポートが45W超を確保し、下段ポートはそれを差し引いた分しか確保できず、まったく充電ができないという状況が続く可能性がある。

 そしてその状況は上段ポートに接続されたデバイスが満充電になってもそのままなのだ。

 この振る舞いをよく分かった上で使わないと、1日の予定を終えて自宅やホテルの部屋に戻ってきたところで、1日使ってバッテリが空になったデバイス2台を接続して充電を開始した場合、翌朝起きても片方のデバイスは空っぽのままという結果になる可能性がある。

 電力が数ワットでも供給されれば、それで充電を継続しようとするデバイスもあるが、ノートPCのようなデバイスの場合は20W未満の電力ではスリープ状態でも充電ができないこともある。

 マルチポート利用では、PCとスマホなど要求電力が大きく異なる組み合わせで、ポートを使い分けるのが無難だし、そのために自分の手持ちの充電器の特性と充電されるデバイスの仕様を学習し、その組み合わせ運用のために多少のノウハウが必要になる。

 今は18W程度の電力で十分なスマホ充電も、急速充電の需要が高まり、PCと同等の大電力を求めるようになるのも時間の問題だ。さらにPCもGPU利用のピークに一時的に大電力を求めるようになってきているのが悩ましい。そのときに、人間が充電用アダプタのポートごとの振る舞いを考えなければならないくらいなら、単ポートの充電器を複数用意した方が間違いがないということにもなりかねない。

マルチポート充電器は単ポート充電器の合体版ではない

 マルチポート装備の充電器と、単ポート装備の充電器を複数持つのとどちらが便利だろう。重量的なアドバンテージは微妙だ。

 例えばAnkerのNano II 65Wは、112gで、2つあれば2つのデバイスを両方とも65Wで充電できる。Nano II 65Wを2個分の重量は187gの737 Chargerよりも重い224gで、単一ポートのみで最大100Wという大電力も得られない。

 一方、バッテリと合体した733 Power Bankは320gある。バッテリの容量は10,000mAだ。この容量のバッテリは概ね170gくらいが最軽量の部類となるが、この製品なら30Wでの充電をサポートするので、容量的には心許ないがPCへの充電もできる。
 計算すると充電器分は150g相当だ。AnkerのNano IIシリーズで150gを構成しようとすると、

  • Nano II 30W 34g
  • Nano II 45W 68g
  • Nano II 65W 112g

なので、45W×2の136gか、34gの30W+112gの65Wで146gといったところだ。これに軽いバッテリを組み合わせると重量は同じくらいになるだろう。こちらの方が使いやすいユースケースもありそうだ。

充電を超えた給電を目指して

 Ankerには、マルチポートの製品のさらなる軽量化を望みたいし、同時に従来通りの単ポート製品もあわせて進化させていってほしい。

 充電しなければならないデバイスは増える一方で、急速充電や一時的な高負荷に備えるために大きな電力を要するようにもなっている。また、充電する場所も、自宅などの固定ロケーションから、移動中の線モバイル、移動先の点モバイルとシチュエーションも多岐に渡る。

 基本的にバッテリを内蔵していないデバイスは、電力供給源としてのUSB PDアダプタを完全には信用していないようにも思う。運用途中で供給電力が切り替わるなどで瞬断が起こったりして、それでリブートするといったことは許されないからだ。

 本当は、バッテリを持たないデバイスに電力を供給するために、USB PDの上位互換の規格が欲しい。充電という行為がUSB PDによって汎用的なものになったのはこの10年に起こったことの中で、もっともうれしいことの1つだ。次は、電子機器汎用の給電規格の標準化を強く望む。