特集
数千円のWebカメラと照明で、ビデオ会議やゲーム配信ワイプの画質を高級カメラに近づける
2021年1月15日 06:55
コロナ禍による世のなかの大きな変化として、ビデオ会議や自宅でのゲームの需要が大きく増したというのがある。ゲームについては、すべての人ではないが、プレイするだけでなく、配信する人も多い。そういったなか、ビデオ会議や配信のワイプに写す自分の映像の画質を少しでも高めたいという需要もまた増している。
PC Watchでは、ゲーム配信について、過去、プロゲーマーである「ガチくん」、「ふ~どさん&倉持由香さん」、「ネモ」さんの画質改善を行ない、記事化してきた。
ここではいずれも、ある程度高価なミラーレスカメラを使うことで、プロのような画質を実現した。しかし、プロではないゲーマーや、ビデオ会議用途で、10万円も20万円も出せる人は少ない。そこで、今回は一般的なWebカメラと、安価な照明だけで、その画質をミラーレスや一眼レフに近づけるということに挑戦してみる。
画質向上にいちばん重要なのは照明
一口にミラーレスカメラや一眼レフカメラと言っても、グレードはさまざまあるが、Webカメラと比べたときの大きな違いは、光を捉えるセンサーサイズの大きさや、感度、レンズによるボケ味などだろう。センサーが優秀なので、精細で色彩豊かな画像/映像を記録できる。また、適したレンズを使うことで、背景がボケ、プロっぽい画となる。
しかし、どれだけ良いカメラを使っても、照明が不十分だと、カメラの持つ能力を十分に引き出せず、お粗末な画質となってしまうのだ。
そして、逆を言うと、しっかり照明を用意することで、Webカメラであっても、ノイズが少なく、立体感のある画作りを実現できる。もちろん、フルスクリーンで表示したときの画質は、Webカメラではどれだけがんばってもミラーレス/一眼レフには敵わないが、ビデオ会議やワイプでは、本人が写る部分が縮小されるので、質感など細かい部分はある程度丸め込まれ、Webカメラでも本格カメラに近い映像にできる。
機材の紹介
今回用意した機材は、ロジクールのWebカメラ「C922n Pro Stream Webcam」(約9千円)、2個で4,500円の安価なNeewer製の照明「Tabletop LED Video Light」だ。パソコンはマウスコンピューターのノート「mouse X4-i7-E」を使った。ビデオ会議では、ノートパソコンとその内蔵カメラを使うことも多いので、内蔵カメラによる検証も行なう。ちなみに、比較用に使ったのはソニーのミラーレスカメラ「α6600」、1万5千円と1万円ほどの照明となる。
映像の取り込みには無償の配信ソフト「OBS」を使っている。このソフトは、単体で配信をするためのものだが、「仮想カメラ」機能というものがあり、カメラからキャプチャした映像をそのままZoomやMeet、Teamsなど各種ビデオ会議ソフトにも出力できるので、OBSで設定を済ませてしまえば、ほかのソフトでの設定は不要となる。
まずは、α6600を使った場合の完成形を観てみよう。カメラ映像のキャプチャ用にElgatoの「CamLink 4K」、レンズはソニー「SEL20F28」を使っている。加えて、α6600のピクチャープロファイルを[S-Log3]ガンマと[S-Gamut3.Cine]に設定し、OBSのカラーグレーディング機能などを使って、色味などを調整している。
あまり明るくないレンズなので、ボケ感はそこまでではないが、カメラからは4K出力していることもあり、精細で雰囲気のある画になっている。背景を青っぽくしているのは、普段ゲームの配信を行なっている環境で、サイバーっぽさを演出するのもあるが、青は顔の肌色の補色となるので、人物がより引き立つという効果も狙っている。カメラ+レンズ+照明+キャプチャユニットで30万円ほどかかっているので、「そりゃあきれいで当たり前ですよね」という感じだ。
しかし、ここから照明を部屋のシーリングライトだけにするとどうか? シーリングライトが電球色であるため、ホワイトバランスが崩れているのもあるが、顔のほぼ全体が影に覆われ、ノイズも目立つ画となっている。30万円近くをかけても、適切な照明設定を行なわないとこうなってしまうのだ。
このまま、カメラをC922nにすると、やはりかなり残念な映像となる。だが、色合いはα6600のときよりマシになっている。原因はシーリングライトにある。これを適切な照明で改善していこう。
先に見せたミラーレスでの完成形の写真は、いわゆる昼光色と呼ばれる色温度5500Kの照明を使い、ホワイトバランスもそれにあわせている。その後、あえてそのままのホワイトバランスで電球色と呼ばれる色温度3300Kあたりのシーリングライトに切り替えたので、全体的にオレンジがかった色合いとなってしまった。
しかし、Webカメラは初期設定でホワイトバランスがオートになっているので、その色被りをうまく解消してくれている。しかし、顔は暗く、平坦で、ノイズものってしまっている。これは、光源、つまりシーリングライトの場所がまずいからだ。
今回検証を行なった部屋もそうだし、ほかの多くの人も、パソコンは壁際にテーブルを設置して使っているだろう。そうすると、光源が頭の裏の上に来るため、顔が影に隠れてしまうのだ。これこそが、カメラの画質を下げている最大の要因と言っていい。
ということで、顔に対して前面に照明を設置する必要がある。シーリングライトは消してしまってもいい。シーリングライトを消すことで、部屋全体は暗くなってしまうが、顔が影になるよりはマシだ。
今回購入した照明は、プロ向け製品も開発しているNeewer製。光源演色性の正確さの指標値であるCRIは公開されていないが、色温度は5600K固定、光束は1,000LMで、試した感じはまずますの品質。なにより2個セットで、ディフューザーパネルと三脚、カラーフィルタまで付属し、4,600円というお手頃な価格がいい。電源はUSBから給電する。
照明の設置と、カメラの設定
設置方法だが、まずこれを左右両脇から顔を均等に照らすように設置する。
これで顔は明るくなったが、シーリングライトがオフで、部屋全体が暗いため、Webカメラが明るさを持ち上げており、そのせいで顔が白飛びしてしまっている。照明の輝度を下げてもいいのだが、カメラの自動調整に任せていると、ディスプレイからの照り返しなど、光環境に変化があるたびに全体の明るさや色合いが変わってしまう。それを防ぐためには、可能なかぎりカメラを手動設定にすることをお勧めする。
カメラの設定方法は、映像ソースから使っているカメラの「プロパティ」を開き、「映像を構成」を選択する。これで、明るさ、コントラスト、ホワイトバランスなどを手動で変更できる。
C922nの場合(おそらくほかの大半のWebカメラも)、デフォルトでは、「画像の調整」タブの「ホワイトバランス」、「カメラ制御」タブの焦点、露出、低光量補正が「自動」になっている。これらはすべて自動のチェックを外し、手動制御にしていく。
焦点については、顔にピントがあう値にする。これで、何かの弾みに、ピントの自動調整が働き、一瞬全体がぼやけて、ちょっとしてからピントが合うというのが起きなくなる。もともと、配信やビデオ会議では被写体の距離が変わらないが、Webカメラは被写界深度が浅いので、決め打ちして問題ない。
次に、低光量補正の自動調整を切った上で、露出についてもチェックを外し、顔の明るさがちょうど良くなるようにする。今回の環境では-6でちょうどよくなった。
続いて、ホワイトバランスも自動のチェックを外し、照明にあわせて変更する。今回使った照明だと5600にすべきだが、この製品のCRIが低いのか、5600ではやや赤が強く5000あたりが自然に見える。これについては、4000くらいまで下げて青みがかった感じにしてクールさを演出するなどしてもいいが、まずは標準からはじめよう。
これで、シーリングライトのときからは見違えて、顔全体がくっきりと写り、ノイズも大幅に減った。
ノートパソコンの内蔵カメラについても、設定方法は同じだ。多くの場合、C922nより一段品質が下のものが搭載されるが、それでも、照明と手動調節でぐっと映像の質を高められる。
照明のさらなる調整
シーリングライトと比べると、専用の照明を使うだけで、大きく画質を上げられることがわかった。だが、もう1つ上の照明の使い方も覚えたい。
先の写真では、確かに顔は明るくなったし、ノイズも減った。だが、人がぼーっと写っていて、やや不気味な感じがする。それは、部屋が暗いせいもあるが、最大の原因は照明の位置が低いことだ。今回の照明に付属する三脚の全高は20cm程度で、照明の机の上からの高さは25cmほどになる。これだと、照明が顔の高さより低くなるので、下から煽ったかたちになる。
人の生活環境は、屋外でも屋内でも、ほとんどの場合、光源(太陽やシーリングライト)は人より上にあるので、眉毛や鼻、顎などの下に影ができ、それが人間にとって自然に見える陰影なのだ。そのため、光源が顔より下にあると、ホラー映画のような雰囲気となってしまう。
ということで、照明の高さを高くして撮影したのが下記の写真だ。部屋が暗いのは変わっていないが、幽霊のようにぼーっと写っている感じは払拭できた。なお、これについては、照明に付属の三脚では高さが足りないので、別途高さのある三脚が必要となるが、1つ2千円くらいから購入できる。
もう1つのテクニックとして紹介したいのが、照明のバランスだ。片方の明るさを30%程度に落としてみよう。あるいは、距離を離してもいい。こうすることで、顔に陰影が生まれ、立体的になり、存在感が増す。あるいは、この照明には、赤、黄、青のカラーフィルタが付属するので、それを使うと映画のワンシーンのような雰囲気も出てくる。
また、カメラの位置を正面ではなく、少し斜めからにずらすのもいい。Webカメラは被写界深度が深く、平坦な画になりがちだが、斜めから撮るとパースがつき、奥行きが増す。
この時、2つある照明のどちらを暗くするかによって、イメージはまたがらりと変わる。ビデオ会議では影の面積が少なくなるようにしたほうがいいかと思うが、ゲーム配信でなら、あえて影の面積が多くなるように照明の輝度のバランスを変えることで、よりドラマチックにもなる。
なお、先にシーリングライトは消してしまおうと書いたが、照明のセッティングが完了し、シーリングライトが昼光色(5500K前後)なら、つけてもいい。照明があるので、もう顔は影にならないはずだ。
ここまで書いた設定方法などは、基本的にすべてそのままノートパソコンの内蔵カメラでも活用できる。カメラの取り回しはできないのだが、1つ覚えておくといいのは、パソコンの下に箱でも辞書でも置き、高さを上げることだ。普通のデスクの高さだと、カメラが人物を見上げるかたちになり、美しくない。カメラを目線と同じ高さにすると、好印象な画角となる。
背景を削除して背景にボケ味を追加する裏技
ここまででWebカメラでもだいぶ画質が上がったが、一眼レフやミラーレスのような背景のボケはWebカメラでは無理だ。しかし、それを仮想的に実現する技もあるので、最後にそれを紹介しよう。
まずは、背景(自宅の場合、壁面)の写真を、Webカメラを設置する位置からカメラで撮る。これはスマホで撮影してもいい。その写真を必要に応じて16:9にトリミングなどしたあと、写真加工ソフトでガウスブラーを軽くかける。Photoshopなら、フィルタ→ぼかし→ぼかし(ガウス)だ。これで、それっぽいボケた写真になる。
続いて、Webカメラの背景を削除するソフトを使う。パソコンに搭載しているGPUが、GeForce RTXシリーズなら、NVIDIAのサイトから「NVIDIA Broadcast」が無償で利用できる。それ以外だと、有償となるが、「XSplit Vcam」というソフトもある。あるいは、グリーンバックが用意できるなら、それを使い、OBSにてクロマキーフィルタを使って背景を消す方法もある。
Webカメラの背景を削除できたら、OBSのソースに先ほど撮影したボカした写真を追加する。これで、一眼レフで撮影したように、人物にはピントがあっているが、背景はボケた映像になる。リアルタイム背景削除は、まだそこまで精度が高くないので、輪郭部分がたまにぼやけたりすることがあるが、ワイプやビデオ会議などの縮小したサイズになれば、それは目立たなくなる。完璧ではないものの、工夫次第でこういったこともできる。
なお、NVIDIA Broadcastの出力に対しては、先にやったような「映像を構成」によるホワイトバランスの調整などが働かない。これについては、今回は細かい説明は割愛するが、OBSの色補正や、サードパーティのカラーグレーディングプラグインなどで解決できる。
今回、Webカメラ+背景合成の画は、ホワイトバランスと露出の詰めが甘かったのだが、数千円の照明とテクニックで30万円の設備に対してだいぶ差を縮められたと思う。細かく説明したが、基本的に行なうのは、適度な照明を適切な位置に置き、カメラの設定を手動で変更することだ。ビデオ会議や配信を頻繁に行なう人は、画質向上のため最初から一眼レフやミラーレスに飛びつくのもいいが、まずはこのような照明の導入とカメラの設定を行なってみるといいだろう。
[モデル:奥村 茉実]