特集

格ゲー世界王者「ガチくん」の自宅配信環境をプロ並みの画質・音質に改造してきた

ガチくん個人配信環境の改造前と改造後

ガチくん個人配信環境の問題

 弊誌では、インプレスeスポーツ部というチャンネルを作り、eスポーツの配信を定期的に行なっている。その番組の1つである「ガチくんに!」では、人気格闘ゲーム「STREET FIGHTER V ARCADE EDITION」(以下、SFV)において2018年の世界王者となった「ガチくん」をお招きし、ゲームの攻略情報などをお伝えしている。

 ガチくん自身も、Twitchに個人チャンネルを持っており、SFVを中心としたタイトルのプレイ配信を自宅から行なっている。ただ、その個人配信について、ガチくんはいくつかの問題を抱えていた。

 1つはワイプ映像の画質。ガチくんは、ワイプ用のカメラとして一般的なUSBカメラを使っている。USBカメラでも、顔を映して、視聴者とじゅうぶんコミュニケーションでき、配信を行なう多くの人が利用しているが、画質は高くない。

改造前のワイプをフル画面表示したところ。全体的にダイナミックレンジが低く、ノイジーで、顔は影で薄暗い。また、背後に生活感が出すぎている

 もう1つは音声。画面には映らないが、そばにいる奥さんが、声でコメントを拾ったり、ガチくんと会話したりするのが、ガチくん個人配信の特徴であり、人気を高める要因の1つになっている。音声についても、それまでUSBカメラのマイクを使っていたのだが、声が遠くて聞き取りにくかったので、最近はゲーム用ヘッドセットのマイクを使うようにしていた。これで、ガチくんの声はクリアになったのだが、同時に奥さんの声が届かなくなってしまったのだ。

 そんな折、キャプチャ製品メーカーのAVerMediaより、配信向けのマイク製品「LIVE STREAMER MIC 133(AM133)」を新発売し、1台提供するので評価してほしいとのお話をいただいた。ちょうどガチくんの個人配信環境について相談を受けていた筆者は、これをうまく使うことで、ガチくんの配信環境を一挙に改善できるなと思い、引き受けることにした。

配信環境ビフォーと改造計画

 これまでのガチくんの個人配信環境はこんな感じだ。

  • ゲームプラットフォーム: PlayStation 4
  • カメラ: ロジクール C930E
  • マイク(ヘッドセット): HyperX製ヘッドセット
  • キャプチャユニット: AVerMedia Live Gamer EXTREME GC550
ガチくんがこれまで使っていたWebカメラ
ゲームはPS4でプレイし、その映像をキャプチャユニット経由でPCに取り込んで配信している

 おそらく、プロゲーマーを含め、多くの人がこういった環境で配信していると思われる。ゲーム配信は、基本的にゲームプレイを見せるのが主目的なので、ワイプに表示するプレイヤーの顔や声は、多少品質が悪くても、大きな支障にはならない。とは言え、ガチくんの個人配信では、「顔がイマイチ暗い」、「声が少しくぐもっている」といった指摘がコメントであったのも事実。イマドキの視聴者は、目も耳も肥えている。世界王者の名にふさわしい配信画質が要求されても無理はない。

 と言うことで、映像については一眼レフカメラあるいはミラーレスカメラを導入することにした。これらのカメラはWebカメラとは比べものにならないくらい画質が高く、HDMI出力もあるので、キャプチャユニットを使うことで、配信のカメラとして利用できる。また、こういったカメラは、音声入力端子も備えているものが多い。じつはこの点もガチくんの配信環境改造にあたって、重要なポイントだった。

 と言うのも、前述のとおり、ガチくんの個人配信では、過去、奥さんも声で出演していた。その声は、Webカメラのマイクで拾っていたのだが、ガチくんの声が聞き取りにくいということで、最近はヘッドセットをつなぎ、そのマイクで声を拾っていた。これによって、ガチくんの声は聞きやすくなったが、奥さんの声がほぼ拾えなくなってしまっていたのだ。

ガチくんの配信部屋のレイアウト

 2人の声をうまく拾うには、マイクを2つ用意すれば解決できる。そのためには、2つ以上入力があるオーディオインターフェイスを導入するという方法がある。しかし、そうすると必要以上にシステムが大げさになってしまう。

 そこで、カメラのマイク入力を使い、カメラにAVerMediaのAM133をつなぎ、基本的にはこれで声を拾うが、それでも奥さんの声がじゅうぶんに拾えない場合は、ヘッドセットのマイクを奥さんに使ってもらおうと考えた。

 カメラにつないだマイク音は、キャプチャユニット経由で映像とともに取り込まれ、ゲーム音などと同じシステム音声として扱われる。一方、配信に使うPCのマイク入力にヘッドセットをつなげば、これはマイク音声として扱われる。つまり、オーディオインターフェイスを使うことなく、マイク音声は1系統のままで、2系統入力を実現できるのだ。

 もう1つ、画質を向上させるための重要な要素として、照明の設置がある。カメラをいくら良くしても、照明環境に手を入れないかぎり、逆光のような感じで顔に影がかかって薄暗いのはそのままだ。一方、照明を導入し、活用することで、単に顔を明るくするだけではなく、画作りを行なうことができる(照明だけでここまで変わる。"映える"配信に向け、低コストで自宅をスタジオっぽくしてみた参照)。

筆者の配信はこんな感じ

 と言うことで、

  • カメラを一眼レフ/ミラーレスに変更
  • マイクをAM133に変更し、カメラに取り付け
  • 照明を導入

という計画を練った。

 ただ、カメラにマイクを取り付けた場合、ガチくんの声が遠く聞こえてしまう懸念もあった。と言うのも、カメラには中望遠レンズを使う予定なので、ある程度カメラの設置位置をガチくんから離す必要があるからだ。また、事前に筆者が狙ったように照明やカメラを設置できるかということも確認するため、導入機材を購入する前に、筆者が自宅で使っている、カメラや照明、そしてAM133をガチくん宅に持ち込んで事前検証を行なった。

 果たして、照明やカメラも問題なく設置でき、AM133 1台でガチくんの声も、カメラの背後にいる奥さんの声もじゅうぶん拾えることがわかった。

購入機材

 内見を終え、ガチくんには、以下のものを購入してもらった。

  • カメラ: ソニー「α6500」(約11万円)
  • レンズ: ソニー「SEL50F18」(約2万4千円)
  • 照明: Yongnuo「YN-600」(約1万3千円)
  • ディフューザー: Yongnuo「YN600L/YN900用ソフトボックス」(約2千円)
  • キャプチャユニット: AVerMedia「Live Gamer EXTREME 2 GC550 PLUS」(約2万4千円)
  • マイク: AVerMedia「LIVE STREAMER MIC 133」(約1万円、AVerMedia提供)

 筆者は、ソニーのミラーレスカメラ「α6300」を使っている。同じものをガチくんにも使ってもらうことで、なにか問題が起きたりしたときも解決に導きやすい。ただこれはもう古めの機種なので、上位となる「α6500」を購入してもらった。ボディだけで10万円を超えるが、出かけたときの写真撮影用にもともとカメラを買いたかったそうなので、配信以外にも活用できる。

 レンズは、F1.8 50mmの単焦点「SEL50F18」。これは、ポートレート向けで、中望遠なので(APS-Cカメラ装着時35mm換算で焦点距離75mm)、ある程度設置距離が必要となるが、F1.8と明るいので、背景をほどよくぼかせる。

 ガチくんの配信環境の問題には、背後に置いてあるものが映り込んで、生活感が出すぎてしまっているというのもあった。カメラアングルで、必要最低限のものだけ写るようにしつつ、ぼかすことでその生活感を払拭できる。

α6500とレンズのSEL50F18

 照明(キーライト)には、筆者が使っているのと同じ「YN-600」と、その専用ディフューザーを導入した。YN-600はコンパクトなので個人宅でも使いやすく、光量も4,680ルーメンとじゅうぶんある。そのまま使うと、陰影の境目が強く出るハードライトになるので、ディフューザーも使う。

ガチくんの座席から向かって右手前45度あたりに、キーライトを設置した

 α6500の映像を取り込むキャプチャユニットとして、AVerMedia Live Gamer EXTREME 2 GC550 PLUSを購入した。フルHD 60fpsの取り込みや、4Kパススルーに対応した製品。ハードウェアエンコーダは搭載していないが、その分、取り込み遅延が出ない。

PS4とカメラの2つをキャプチャユニットで取り込む

 AM133はAVerMediaより提供を受けたものだ。高感度な指向性コンデンサマイクで、カメラのホットシューに取り付けできる。机などに置くためのスタンドや、屋外で使うための風防も同梱されている。

AVerMedia LIVE STREAMER MIC 133
こんな感じでカメラに装着している

 これら以外に、いくつかの小物も購入しているので、参考にしてほしい。

「ドキュメンタリーを見てるみたい!」と称賛の声が止まなかった改造後の配信

これまでの配信画質

 購入してもらった機材もすべて揃ったので、内見から1週間後にガチくん宅を再訪問し、セッティングを済ませ、配信を行なってみた。視聴者の方からは、「ドキュメンタリーを見てるみたい!」、「こんな画質の配信みたことない!」といった称賛と驚きの声が止むことがなかった(そのときの配信アーカイブ)。写真と動画を見てもらえば一目瞭然だが、改造前とは雲泥の差となっている。シーリングライトを消したことを除いて、部屋の内装についてはなにもいじっていない。

 ワイプの画質については、ミラーレスカメラにより、クリアでダイナミックレンジが広く、解像感のある映像となっている。照明をガチくんの左手前45度あたりに設置することで顔の右半分に影ができ、立体的に描かれている。レンブラントライティングと呼ばれる照明の使い方だ。影ができているのは顔の右側3分の1程度なのだが、カメラを右手前45度あたりに設置することで、ガチくんが正面を向いたときに、影が生じている部分のほうが多く見える。ハリウッド映画でもよく見える画作りで、画に緊迫感が生まれる。イケメンキャラのガチくんに向いた画作りだ。

 なお、以下で使っている動画は、生配信したものをTwitchから再ダウンロードしたものの切り抜きだが、再ダウンロード時点で再圧縮がかかっているようで、じっさいの配信より画質が下がっている。

品質がわかるようにワイプ画像を全画面にしたところ
普段はゲーム画面をメインにして、こういったレイアウトになる
ゲームプレイ時のじっさいのレイアウトで配信しているところ
手元を大写しにしたものをみたいという視聴者からのコメントもあったので、こういう構図でも配信してみた

 同時に、画角を調整して、これまでカメラに写っていた背後の洋服は映らないようにした。また、後ろに飾ってあるトロフィーやレッドブルなどのアイテムがほどよくぼけていることも、映画やドキュメンタリー的なタッチを描写する助けとなっている。

 試しに、配信部屋のシーリングライトを点けてみたところ、照明によってできていた立体感が失われ、一気に生活感が再び顔を出してしまった。ここでも照明の重要さがわかるだろう。

試しに、配信部屋のシーリングライトを点けて、背後のものを映してみると、こんな感じに生活感が再登場してしまった

 音質についても、クリアで下の周波数から上の周波数までしっかり捉えている。AM 133は指向性があるが、それでも感度が高いので、カメラの背後にいる奥さんの声もある程度拾えている。本当は、もう少しマイクをガチくんに近づけると、より生々しいリアルな音を拾えるのだが、現状でもじゅうぶんな品質があり、設置上の問題もあることから、カメラに取り付けたままにすることにした。

マイクのAM133

 じつは、今回の改造でもう1つ照明を追加している。NEEWERの「CN-216」という製品だ。配信や動画コンテンツでは、人物だけでなく、背景も個性を作るうえで重要な要素となる。極端に言うと、第2の登場人物といってもいい。そこで、この照明にカラーフィルターを取り付け、背後の壁を赤く照らすことで、ガチくんのスポンサーであるレッドブルの演出を行なおうと考えていた。

 しかし、光量が思ったより小さかったのと、設置場所の問題からこれはうまくいかなかった。そこで、ガチくんの顔の右側をこれで照らすことにしたところ、顔の端の影の部分が肌色に対して不自然にならない感じに照らされ、フィルライトとして機能してくれた。怪我の功名的なところもあるが、ブルーのレッドブルウェアと対比を生みつつも、相まってレッドブル感を生む感じにできた。

アクセントとして用意した小型の照明は、顔のフィルライトとして使うことに

 以上のように、今回の改造で、これまでとは一線を画すワイプ映像を作ることができた。音声についても、ガチくんと奥さんの声を両方拾うという問題を解決しつつ、品質を引き上げられ、覇者の名に相応しいものにできた。もちろん、世界1位でなくても、こういった品質向上は、ストリーマーや一般ゲーマーも、取り入れると配信の評価向上につながる。

 今回、ガチくんの購入金額合計は約20万円ほどとなっているが、カメラはもう少しランクを下げてもいいし、基本的にはレンズ交換式カメラと照明1つを導入することで、個人でもドラマのような映像に仕立てられるということを知っていただければと思う。

製作協力:AVerMedia