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ゲーム配信環境改造計画第2弾。プロゲーマー“ふ~ど”&グラビアアイドル“倉持由香”編

~機材パワーアップと設定の見直しで高画質に

ふ~どさんと倉持由香さん。自宅にて

 ふ~どさんと言えば、ストリートファイターシリーズにかぎらず、幅広いゲーマー・ゲームファンに知られている日本トップクラスのプロゲーマーだ。そんなふ~どさんが、昨年(2019年)、グラビアアイドルの倉持由香さんと結婚されたことで、さらに多くの人に知られることになった。結婚を機にふ~どさんは、配信プラットフォームTwitchで個人チャンネルも立ち上げ、日々配信を行なっており、そこには倉持さんも頻繁に登場している。

 そんな折、倉持さんがTwitterで「配信の画質をもっと上げたい」とツイートをしていたのを見かけた。筆者は以前、ストリートファイターV世界覇者である「ガチくん」の配信環境を改造し、その内容を記事で紹介した(格ゲー世界王者「ガチくん」の自宅配信環境をプロ並みの画質・音質に改造してきた参照)。そこで、倉持さんに「この記事を参考にしてみては?」とコメントしてみたところ、その直後に、倉持さんから「うちも同じように改造して記事にしてもらえませんか?」という返答があった。そこで、配信環境改造計画第2弾として、ふ~ど&倉持由香家の配信環境をパワーアップしてみることにした。

お宅訪問で問題点を分析。ハードだけでなくソフト設定にも問題が

 ふ~どさんの個人配信はすでに観ていたので、現状の画質については把握しているが、具体的な環境まではわからないので、まず現状を確認するため、お二人のご自宅にお邪魔した。その結果わかったのが、機材面と配信ソフトの設定面における問題だ。

PCゲームのプレイ&配信デスク周り

 まず、機材について、ワイプなどで顔を映すのには、一般的なWebカメラを使っていた。WebカメラはTV会議程度の用途ならじゅうぶんこなすが、色の再現性やダイナミックレンジなど映像の撮影機材という観点では力不足だ。とは言え、かなり大多数の人はWebカメラを使っているだろう。それは、一眼レフやミラーレスなどのカメラを使おうとした途端、技術的そして金額的なハードルが上がるからだ。金額面で解決可能かどうかはその人次第だが、この記事では配信においてデジタルカメラを利用する上での技術的な方法を伝授する。

これまで使っていたWebカメラ

 もう1つソフトの設定の問題だ。お二人は普段、「OBS」という配信ソフトを使っている。このソフトは無料だが、個人からある程度の業務レベルまでの配信に対応できるだけの機能を持っている。しかし、初期設定は抑えめになっているため、たとえ機材などを増強しても、そのままでは画質が上がらないのだ。まず、こちらから解説していこう。

 ソフトの問題点その1は、出力解像度。OBSでは、配信するPCの画面解像度とじっさいに配信に載せる出力解像度を分けて指定できる。多くの人は画面解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)になっていると思われ、OBSもそうなっているが、出力解像度については初期値が1,280×720ドットになっているのだ。加えて、フレームレート(FPS共通値)が、初期値では30(29.97)になっている。ゲームの基本は60fps以上なので、初期値だと配信がカクついて見える。配信場所の回線帯域との兼ね合いもあるが、基本的にはゲームならフルHD/60fpsで配信したいので、出力解像度とFPS共通値をそのように設定する。

OBSは初期値だと、出力解像度が720p、フレームレートが30になっている

 続いて、配信エンコードも適切に設定する。これは、初期値では映像ビットレートが「2,000kbps」、エンコーダが「ソフトウェア(x264)」となっていた。先に言ったとおり、映像ビットレートは配信者および視聴者の環境にも依存するので、いくらでも上げれば良いというものではない。この数値を上げると、それだけ映像圧縮の度合いが下がり画質は上がるが、極端に引き上げると、回戦の帯域幅が足りず、返ってカクついてしまう。フルHD/60fpsなら9,000kbps(9Mbps)程度が推奨値だ。ただし、Twitchでは6,000kbpsまでの設定が推奨されているので、この値にした。

 エンコーダは、配信PCにGeForceやRadeonといった外付けGPUがついていないのであれば、初期値のソフトウェア(x264)か、ハードウェア(QSV)でいい。どちらも、Intel CPUの機能を利用するものだ。しかし、ふ~ど&倉持家のマシンには、GeForce GTX 1080 Tiが搭載されている。この場合は、GPUのハードウェアエンコーダである「NVENC」を使ったほうがいい。

 昨今の8コアや12コアなどのCPUを積んでいるのであれば、CPUによるソフトウェアエンコードでも必要な性能が発揮できる。しかし、GeForce搭載PCなら、NVENCを利用することで、システム全体の負荷を抑制でき、かつ細部の画質も引き上げられるのだ。

ビットレートは2,000kbps、エンコーダはソフトウェア(x264)になっていたので、それぞれ6,000kbps、ハードウェア(NVENC)に変更した

 ここまでのソフトウェア設定の変更だけで、ゲーム画面については、より高解像度でスムーズなものとなる。ただし、今回の焦点はワイプ画質の向上にあるので、続いては今回導入した機材などを紹介しよう。

カメラはソニーの「α6400」、レンズはSIGMAの「16mm F1.4 DC DN」

 前述のとおり、Webカメラと一眼レフ/ミラーレスカメラとでは画質に雲泥の差がある。しかし、カメラについては、ただ良いものを買えばいいというわけではない。配信環境に応じた機材の選択が必要になるし、なによりカメラの潜在能力を引き出すには、照明の活用が不可欠となる。ふ~ど&倉持家で、映像の記録にはWebカメラを使っていることは事前にわかっていたが、それでもじっさいの環境改造前に訪問したのは、カメラや照明などをどのように配置できるかを確認しておくためだった。

 お二人の配信部屋は、5~6畳程度の部屋。PCデスクは部屋の隅の壁際に設置されており、前後の壁間の距離は、目測で2m程度。PC設置環境としては一般的なものだろう。Webカメラにはない一眼レフ/ミラーレスカメラの利点の1つとして、プロの写真のように背景をぼかせるというものがある。ただ、うまく背景をぼかすには、「カメラ-被写体(配信者)間」と、「被写体-背景(壁)間」の相対的距離をある程度開ける必要がある。つまり、被写体と背景の間の距離を取るか、カメラと被写体の距離をせばめたほうがいい。

 今回の部屋の場合、配信者は、前後の壁とちょうど距離は1mずつくらい離れて座っている。これは、あまり理想的距離ではない。カメラ-被写体-背景の距離をうまく調整できないのであれば、レンズを望遠タイプにするという選択肢もある。だが、前述のとおり、プレイヤーに相対する壁までの距離も最大で1mほどと、これも望遠レンズを使うのにじゅうぶんではない。加えて、ふ~ど&倉持家では、画面に登場するのが1人だけでなく、2~3人の場合もあるので、画角も確保しなくてはいけない。そのため、望遠タイプのレンズは利用できないと判断した。となると、広角で、できるだけ明るいレンズを使うことになる。

 そういった観点から、カメラにはソニーの「α6400」、レンズはSIGMAの「16mm F1.4 DC DN」を購入してもらった。アマゾンでの価格は前者が10万円ほど、後者が4万5千円ほどである。カメラは最新モデルではないが、配信にはじゅうぶんな画質を持つ。レンズは、広角タイプでF1.4と明るめながら、価格はかなりひかえめな点からこの製品を選んだ。

ソニーの「α6400」
SIGMAの「16mm F1.4 DC DN」

 ただ、お二人の場合、リビングのTVにもゲーム機が接続され、そこでのプレイの様子を配信したり、キッチンで料理する様子を配信することもある。配信部屋にカメラを設置するなら、アームなどを使ってディスプレイの上あたりに設置するのがいいが、カメラを自由に移動できるよう三脚を使うことにした。

キャプチャユニットでカメラの映像をPCに取り込む

 通常のカメラはWebカメラと違い、USBでPCにつないでキャプチャすることはできない。別途、キャプチャユニットが必要になる。お二人はRazerからスポンサードを受けているということで、同社の「Ripsaw HD」(実売約2万円)を2台用意してもらった。フルHD/60fpsでのキャプチャに対応した製品だ。2台用意してもらったのは、PlayStation 4のゲーム画面も取り込むため。

RazerのUSBキャプチャユニット「Ripsaw HD」。1台はカメラ用、1台はゲーム機用

 ちなみに、ふ~どさんは、メインタイトルであるストリートファイターVについては、PC版でプレイされている。マシンがハイエンド構成なので、PC版のゲームをやる上では、それ1台でプレイしつつ配信もできるので、キャプチャユニットは1台で済む。

お二人が使っているPCのG-Tune「MASTERPIECE i1620PA1-SP2」。3年ほど前に導入したもので、当時としてはハイエンドなCore i7-7700K、メモリ32GB、GeForce GTX 1080 Ti、SSD 480GB、HDD 3TBを搭載している

 デジタルカメラの多くはHDMI出力が可能となっている。α6400もMicro HDMI端子を備えているので、HDMI-Micro HDMIケーブルでキャプチャユニットにつなげば、その映像をそのまま取り込める。ただ、多少の設定変更が必要となってくる。

 一番大事なのが、MENU→(セットアップ)→[HDMI設定]→[HDMI情報表示]を「なし」に変更することだ。こうしないと、カメラのディスプレイ/ファインダーに表示される各種の情報がそのままHDMIにも出力される。必要なのは画面だけなので、「なし」にする。まれにカメラによっては、この表示を切れないものもあるので、ここもカメラを選ぶ上での重要な点となる。

 カメラのモードは静止画ではなく動画モードにする。カメラでじっさいに撮影するわけではなく、レンズから取り込んだ映像をそのままHDMIに流すだけなので静止画モードでもいいのだが、α6400は静止画モードだと、内蔵/外部マイクの音がHDMIから出力されない。次に説明するとおり、今回はカメラに外部マイクを取りつけるので、ダイヤルで動画モードを選ぶ。この問題がないのであれば、静止画モードにしてもいいが、キャプチャユニットが普通は16:9のフルHDを想定しているので、動画モードのほうがやりやすい。

 このほか、ISO感度を最低の100、シャッター速度を1/120秒、ホワイトバランスは照明に合わせて色温度を5,500Kに設定した。ISO感度は高くすると、映像がより明るくなるが、ノイズが増える。後に説明するとおり、今回のように照明でじゅうぶんな明るさがあるのなら、感度はなるべく下げたほうがいい。

 シャッター速度は、キャプチャのフレームレートに合わせるなら1/60秒だが、フレームレートの倍にしておくと、残像感がほどよくなる。

 これ以外に、本当はフォーカスもマニュアルにしたほうがいい。まれにカメラがフォーカスを見失って、ピンボケになるのを防ぐためだ。ゲーム配信の場合、配信者が大きく動かないので、フォーカスを変える必要はない。しかし、先にも書いたとおり、お二人の場合、カメラをキッチンに持ってったり、複数の人が同時に写ることがあるので、使いやすさを優先し、ここはオートフォーカスのままにした。α6400は、顔認識とフォーカスの追随が結構優秀なので、オートで問題が出ることはほぼないだろうという判断だ。

 もう1つ、カメラの電源についても補足しておく。配信は数時間行なうことがザラなので、カメラのバッテリでは持たない。α6400はUSB給電に対応しており、USBケーブルで給電しつつ使ってもいいのだが、小さなMicro USB端子から長いケーブルをずっと垂れさせていると、端子に負荷がかかる。そこで、電源はバッテリボックスに収納するダミーバッテリ式のものを採用した。端子への負荷はMicro HDMIケーブルも同様なのだが、これはほかにやりようがないので、ケーブルのカメラに近い側を三脚に固定させたりして、重力による負荷があまりかからないようにした。

マイクはRODEの「VideoMic GO」

 マイクはカメラに取りつけることを前提でRODEの「VideoMic GO」を選択した。じつは、配信にとって音質もとても重要な要素だ。いくら高画質でも、音が聞こえにくかったり、割れていたりしたのでは、視聴者は離れていってしまう。音質を上げるには、ある程度のマイク自体の品質に加え、なるべくマイクを口のそばに設置するのが理想だ。

RODEの「VideoMic GO」。電源などは不要で、一般的な3.5mmオーディオケーブルで接続できる

 なぜ口のそばに置いたほうがいいかというと、話者からマイクを離すと、マイクに直接届く音声と、いったん壁に当たって反響した音声が近いレベルの音量になり、音が籠もって聞こえるからだ。これはどれだけマイクの品質を上げても変わらない(集音マイクは別として)。スタジオなら、壁に吸音材などを取りつけるといった対策もあるが、個人宅では現実的ではない。

 だが、カメラをリビングに持って行ったりするので、距離は多少離れてしまうが、取り回しの良さを優先し、カメラに取りつけることにした。RODE VideoMic GOは、カメラのホットシューに取りつける前提の構造なので、カメラとマイクを一体化できる。しかしながら、予想したとおり、テスト配信をしてみたところ、声がやや小さく、遠い感じなってしまったので、最終的に普段はマイクはカメラから取り外し、配信者により近いディスプレイの上に置くことにした。

こんな感じでカメラに取りつけての利用を考えていたが、これだとマイクが少し遠すぎたので、最終的にはマイクはPCデスクの上に置いた

映像の品質に一番重要なのが照明

 ここまでで、配信ソフトの設定、カメラとマイクの設置が済んだ。この状態で配信もできるが、カメラの画質を最大限に引き出すには照明の利用が不可欠だ。静止画であれ動画であれ、品質を決定づけるのは、極端な話をするとカメラより照明だとすら言われている。さすがにWebカメラだと、照明でいくらがんばっても限界があるが、照明があれば数万円のカメラでも数十万円のカメラに近い画質を得られることもある。

 ふ~ど&倉持家には、Yongnuoの「YN-900」(約2万円)というLED照明を選んだ。ガチくん宅用に選んだ「YN600L II」よりも4千円ほど高いが、そのぶんLEDの数が1.5倍の900個ある。光量的にはYN600L IIでもじゅうぶんだと思うが、アマゾンに在庫がなかったので、上位製品を選択した。

 すでにカメラ用で三脚を設置してるのと、事前の内見でPCデスクに取りつけ可能だと判断したので、アームで机に固定することにした。このままでは、陰影のエッジがきついハードライトとなるので、専用のディフューザーボックス(約2千円)も購入した。これによって、光が柔らかくなる。理想としてはスタジオにあるような傘型の大きなモノのほうがより光が柔らかくなっていいのだが、個人宅、とくに机の上には置けないので、このあたりが無難な選択肢だろう。

YongnuoのLED照明「YN-900」に専用のディフューザーを装着。PCデスクに別途購入したアームで取りつけた

 照明の基本的な置き方は被写体の左右どちらかの45度手前で、上下は少し上のあたりがいい。これで顔にちょうど良い感じの影ができ、立体感が出る。明るくなることでカメラの性能も一層引き出せる。今回は、カメラが向かって右手前にあり、照明もその付近に置くと、角度的に影の部分があまり写らず、少し立体感が削がれてしまう。

 ただ、左手前に照明を置くと、壁の反射光がなくなり明暗のバランスが難しくなったので、元の右手前に戻した。ちなみに、YN-900の光量は40%でじゅうぶんだった。

カメラと照明の配置はこんな感じ

 最後に、それまでの環境と新しい環境での比較動画を紹介する。その差は一目瞭然だろう。ふ~どさん、倉持さんには喜んでもらえ、視聴者からの反応も上々だった。

配信環境改善前後の比較
改造前の配信の画面写真
改造後の配信の画面写真
カメラだけに切り替えたところ

ネックはコスト

 カメラと照明を使った今回の環境は、スペース的には一般的な家庭でも導入できる。ただ、その金額はネックになるだろう。キャプチャユニットを除いて約20万円ほどかかった。今回、ふ~どさん倉持さんには機材をすべて自腹で購入してもらったが、プロゲーマーでもここまでの出費は二の足を踏むかもしれない。もっとも高価なのはカメラとレンズだ。この点については、もう少し安価に抑えても、今回のものに近い環境ができるのではと思っている。それについては、また改めて紹介したい。