Samsung Graphics Memory Technical MarketingのJimmy Chung氏 |
会期:9月30日~10月2日(現地時間)
会場:米国カリフォルニア州サンノゼThe Fairmont San Jose
NVIDIAのFermiアーキテクチャでは、同社としては初めてGDDR5がサポートされるのも大きな特徴になっている。これを受けて、このGTCにおいてもGDDR5に関連するセッションがSamsungによって開催された。
このセッションではまず、グラフィックスメモリのマーケット調査の結果が示された。まず、ディスクリートのビデオカードは年々それほど変わらない状態で一種の停滞状態にある。しかしながら、ビデオカードあたりのグラフィックスメモリ容量に対する要求が増すことで、次の数年間に向けてグラフィックスメモリの出荷量が大きく増すというアグレッシブなTAMを、マーキュリーリサーチが提示しているという。
一方、ゲームコンソールの分野では、本体出荷数は飽和した状態に達してしまっている。こちらはGDDR3が使われていおり、短期的にはグラフィックスメモリの出荷数増も見込める状態にはない。しかし、2011~2012年に新しい世代のゲームコンソールが登場することで、大きなジャンプが発生する可能性があり、これに期待がかかる。
次にSamsungのGDDR5への取り組みが示された。まずチップあたりの容量については、現在は512Mbitから1Gbitの転換点にある。こうしたメインストリームの変化は2.5年ごとに起きており、今年中には1Gbitがメインストリームに躍り出るだろうとした。併せて、来年の早い時期に2GbitのGDDR5を出荷することが紹介された。
グラフィックスメモリの種類については、今年前半はGDDR3/DDR3がメインボリュームであったものが、今年後半にはハイエンドデスクトップで4.0~5.0GbpsのGDDR5、メインストリームデスクトップ向けでも4.0GbpsのGDDR5が主力の一翼を担うほどに出荷量を増しているという。一方、モバイルの分野では、ハイエンドノートPC向けで4.0GbpsのGDDR5の出荷量が増しているものの、まだまだGDDR5やDDR3がメインボリュームになっている。
Cheng氏は、GDDR3に対するGDDR5のアドバンテージとして、電力効率とスペース効率の2つを挙げている。前者はデバイス単体では高速で動作する分、電力が多くなるものの、得られるパフォーマンスが大きいので効率が良くなる。後者は同じような帯域を得ようとすると、2.6GbpsのGDDR3なら16個必要なチップが、5.0GbpsのGDDR5なら8個で済む、ということだ。こうしたことは、同じスペックを得ようとした場合に、グラフィックスメモリを搭載する製品のBOMコストや全体の消費電力に効果があることを表で紹介している。
さらに、GDDR5はx16モードとx32モードを切り替えて利用できる点をメリットとして紹介した。GDDR3はこうしたモードを持たず、x32モードとのみとなる。これは、例えば256bitのグラフィックスメモリインタフェースに接続する場合、x32モードのGDDRは8枚のメモリチップを搭載するわけだが、x16モードで動作させることで16枚のメモリチップを接続できるのである。同じ容量のメモリチップを使って2倍の容量を搭載することができるわけだ。
さらに、Cheng氏はLow Voltageモードのサポートについて紹介。現在の製品では最高5.0Gbpsの転送速度を持つが、これは1.5V駆動となる。これに加えて1.35Vで3.6Gbpsまでの転送速度を利用できるLow Voltageを持っているということだ。1.5V駆動で6.0Gbpsの製品が登場した際には、1.35Vで4.0Gbpsないし5.0Gbpsを利用可能にしたいとしている。
●次世代グラフィックスメモリに向けてTSV技術を提案
さて、GDDR5はこの先も転送レートを増していくが、プランでは7.0Gbpsが最高速度となる予定だ。現在の最高速チップである5.0Gbpsを512bitメモリインタフェースで使用した場合の帯域幅は320GB/sec。そして、7.0GbpsのGDDR5を512bitのメモリインタフェースを持つGPUに接続した場合、帯域幅は448GB/secとなる。
しかし、Chung氏は、「我々はさらに広い帯域幅を必要としている」と述べており、さらなる次世代のGPUでは512GB/secを超える帯域幅が要求されていることを紹介した。つまり、7.0GbpsのGDDR5では512GB/secの帯域幅を実現するのに不十分なわけだ。
そこで次世代のメモリ技術がクローズアップされる。Chung氏によれば次世代グラフィックスメモリは2013年のリリースを予定しているという。
問題はそのアーキテクチャである。メモリ周りのアーキテクチャでは、ディファレンシャル方式を使ったものと、シングルエンデッド方式をつかった2つの方式の、どちらが次世代メモリに採用されるかで注目されている。
Chung氏は、ディファレンシャル方式による高転送レート化の目処としては、現在のDRAMのプロセスに則っていけば、2011年に3xnmプロセスで10Gbps、2014年には14Gbpsのグラフィックスメモリを提供することは可能という。しかし、それでもグラフィックスメモリに求められる高帯域化はシングルエンデッド方式のほうが現実的であるとした。
現行の方式であるシングルエンデッド方式は、ノイズの影響を受けやすいなどの理由でピンあたりの転送レートを上げづらいという一面を持った方式だ。しかし、TSV技術を用いることでバスを増やし、一気に高帯域化するというのがChung氏が示した方向性である。
TSVとはシリコン貫通電極と言われる、ダイスタッキング技術の1つで、高密度化が可能で、電力的なロスも少ない。ダイをスタッキングすることでI/Oインターフェイスを増やし、高帯域化を実現できる。Samsungはこの技術の実装に数年をかけて取り組んできたという。もちろん、現状ではコストの問題は残っている。
しかし、4枚のチップをスタッキングしたDDR3のプロトタイプサンプルでは、スタンバイ電力を50%、アクティブ電力を25%削減でき、転送速度も高速化することができたテスト結果を紹介。TSV技術は従来と同じシングルエンデッド方式であることから、これまでと同じソケットにスライドして使えるというメリットもアピールしている。
サーバーやモバイルの分野では、TSVを使ったシングルエンデッド方式がスタンダードに組み入れられるようディスカッションが行なわれている最中だ。次世代のグラフィックスメモリに付いては、まだ研究の段階であり、まだどのような方式がスタンダードになるか未知数ではある。
しかし、メモリ業界に大きな影響力を持ち、GDDR5でも他社よりいち早く最高速製品を投入し続けているSamsungが、TSVを用いたシングルエンデッド方式を次世代グラフィックスメモリの方式として提案していることに、重大な意味を持つのは確かだろう。
(2009年 10月 5日)
[Reported by 多和田 新也]