笠原一輝のユビキタス情報局

「来年以降、PC出荷は成長に復調」とLenovo PC部門トップ ルカ・ロッシ氏

Lenovo Group 上級副社長 兼 Intelligent Devices Group(IDG、インテリジェントデバイス事業部) President(事業部長) ルカ・ロッシ氏

 既に多くのPC業界のリーダーたちが言及してきた通り、2023年はPC産業にとっては谷底の年になることが明確になってきた。4月9日に調査会社のIDCが発表したリポートによれば、2023年第1四半期(1月~3月期)のPC出荷状況は、前年同期に比べて約29%の下落になったという。2023年の年間の総出荷台数に関しても、1月にIntelが2億7,000万台~2億9,500万台という予想を明らかにしていたが、どうやらその下限の方も2億7千万台という出荷数になりそうな気配だ。

 そうした2023年のPC出荷台数の見通しに関して、LenovoのPCやスマートフォンを統括する事業部「IDG(Intelligent Devices Group)」の事業部長で、Lenovo Group 上級副社長のルカ・ロッシ氏は「今起きていることは、コロナ禍でデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展などによりPCの需要が一時的に高まったことの反動だ。今四半期と次四半期に関しては引き続きマイナスとなる可能性が高いが、本年の末から反転に転じ、2024年、2025年は1桁台の穏やかな成長になるだろう」と述べ、現在のマイナス成長は一時的な現象で、2024年、2025年には穏やかな成長に転じるだろうという見通しを明らかにした。

2023年第1四半期もPCの出荷数は減少とマイナス成長に、要因はコロナ禍の需要増の揺り戻し

2023年第1四半期のメーカー別PC出荷台数(出典:IDC)

 調査会社のIDCは、4月9日に報道発表を行ない2023年第1四半期(1月~3月期)のPC出荷状況を発表した。それによれば、2023年第1四半期のグローバルなPC出荷台数は5690万台で、前年同期(2022年第1四半期)の8,020万台と比較して約29%の大幅下落になったという調査結果を明らかにした。

 既に今年(2023年)のPC出荷が厳しいものになりそうなことは、多くの業界のリーダーが言及しており、1月にIntelが開催したWeb形式でのセミナーでも、2023年のPC出荷は2億7,000万台~2億9,500万台と、2022年実績となる3億台から落ち込むことになる見通しで、これだけの落ち込みが続くと、下限の方になる2億7,000万台に近づくか、それを割るというストーリーも十分現実性を帯びてきたと言える。

 そうしたIDCの発表を受けて、Lenovo Group 上級副社長 兼 Intelligent Devices Group(IDG、インテリジェントデバイス事業部) President(事業部長) ルカ・ロッシ氏は、IDCが発表したようなPC出荷数の現象は、COVID-19により発生したパンデミックによる混乱(コロナ禍)により引き起こされた、DXの進展や、自宅待機などの状況が発生したことで一般消費者がPCやスマートフォンを競って購入するような旺盛な需要が発生した状況の反動だと指摘した。

 ロッシ氏は「コロナ禍が発生する前の最後の通常年となる2019年のPC出荷数は2億6,000万台の規模だった。しかし、2020年にコロナ禍に突入すると企業のレベルではDXを強いられることになり、新しいPCの導入が進んだ。また、家庭ではデジタルコンテンツの消費やリモートワークのためにPCやスマートフォンを導入する動きが加速し、結果として2021年には3億5,000万台という記録的な出荷数になった。PCに求められる要件も大きく変わり、たとえばコロナ前には誰も注目していなかったWebカメラの画質が急に注目を浴びるなどしたのも大きな変化だったと言えし、そうしたことも新しいPCの出荷を後押しした。

 そうした2年が終わって、昨年の第2四半期(4月~6月期)には、コロナ禍はほぼ終わり、経済活動も復活しはじめ、人々の注目はデジタルからほかのことに移っていった。要するにPCやスマートフォンなどの購入にかけていた予算がほかの用途に使われるようになったということだ。

 また、PC業界にとって運が悪いことに、昨年からグローバル経済が景気後退局面に入っている。歴史的に見てPCの出荷台数はグローバルなGDPと同期しているのはよく知られている事実だ」と述べ、現在市場で発生している、出荷台数の大幅な減少は、2020年~2021年のコロナ禍で発生した、PCの旺盛な需要に対する揺り戻しであると説明した。

2024年、2025年に関しては1桁台の穏やかな成長予想とLenovoのロッシ氏

LenovoがMWC 2023で発表したThinkPad X13 Gen 4(左)とThinkPad X13 Yoga Gen 4(右)

 それでは、今後もこうしたPC市場の減少は続くのだろうか? ロッシ氏は「短期的にはそうだ。おそらく今四半期や第3四半期に関しては減少となる可能性が高い。しかし、本年の終わり(第4四半期)からはそれが上向いていくことになると予想している。現在我々は本年のPC出荷台数は2億7,000万台±5%になると予想している」と述べ、第4四半期あたりから反転しプラス成長に変わっていくと予想していると説明した。

 そうした予想をしている理由としてロッシ氏は、PCがビジネスや一般消費者のデジタルライフにおいて中心的な役割を果たすようになっており、既に「PCはスマートフォンに置きかえられる」といった“過去に予想されている未来”は来なかったということを指摘した。

 「コロナ前とコロナ後ではPCに与えられる役割は明白に変わった。既にPCは法人向けではビジネスの中心あるデバイスであり、一般消費者向けであればコンテンツを楽しみ、クリエイティブな活動を支えるデバイスとして利用されるようになっている。そうした役割はこれからも変わらないだろう」と述べ、PCはPC、スマートフォンはスマートフォンとユーザーは完全に別のカテゴリーのデバイスと認識しており、今後もスマートフォンがPCを置きかえるような未来は来ないだろうと指摘した。

 また、ロッシ氏は、昨年(2022年)後半から半導体逼迫などが解消されて、パーツのサプライなどが解決したこともありPCメーカーは制限なく生産できるような環境が整ったことを指摘し、その結果として、流通の段階で過剰在庫が積み上がっている可能性を指摘した。

 「我々の出荷台数とアクティベーションされたPCの数を比較してみたところ、後者の方が多かった。つまり、今はそうした市場在庫が売れていると考えている。このため、我々だけでなく競合も含めて生産を調整しており、出荷を絞っている側面もある」と述べ、第1四半期の出荷台数が大きく減った側面の1つとして流通段階での調整が起こっているとも説明した。

 そうした諸々の影響が解消されていくのが2023年第4四半期で、そこからLenovoも含めたPCメーカーの出荷台数は上向いていくだろうとロッシ氏は予想していると説明した。

 そして2024年以降に関しては「1桁台の成長といった穏やかな成長をしていくと考えている。特に2024年に関しては大企業でのWindows 11への本格的なシフトが始まると予想されており、それが成長の要因になるだろう。また、コロナ禍で買われたPCのリプレースも始まる。最近のPCのリプレースは3年から始まるので、2024年にはそれが本格化していくことになる」と、2つの要因が成長のドライバーとなり1桁成長という比較的穏やかな成長を遂げるだろうと述べた。

 前述のIntelの会見でも2023年は減るが、その後は3億台前後で安定するとIntelは予測している。たとえば、2023年がロッシ氏の予想通り2億7,000万台だったとすれば、2024年の1桁成長という予測が7%だと仮定すると2億8,900万台という計算になるから、3億台前後というIntelの予想とも合致すると言える。

 むろん、この数字はグローバルの経済が、現状の景気後退局面から来年は復活するという予測に基づいている。ロッシ氏が言うとおり、PCの出荷台数はグローバルGDPの成長に比例しているので、グローバル経済が復活すればという前提条件がつくことになるのだが。

LenovoのPC事業成長ドライバーはプレミアムPC、DaaSのようなサービス、ゲーミングPC

Lenovoが2月のMWC 2023で発表したThinkPad Z13 Gen 2。プレミアムセグメント向けのノートPC

 そうしたロッシ氏が率いるLenovoのPCビジネスだが、今成長のドライバーになっているものが3つあるという。その1つ目がプレミアムPCへのシフト、2つ目がPCをよりよく使えるためのサービス、そして3つ目がゲーミングPCだ。

 たとえば同社の一般消費者向けのPCブランドはYogaシリーズやIdeaシリーズだが、そうした一般消費者向けのPCでもより高付加価値の価格帯製品へのシフトが起きているという。「コロナ前には299ドルや399ドルというレンジの製品が一番の売れ筋だった。しかし、今はプロシューマやクリエイターなどが一般消費者向けPCを購入する例が増えており、かつプレミアムな価格帯の製品が売れるようになっている」と述べ、グローバルでもよりプレミアムな価格帯のPCが売れるようになっていると説明する。

 実は、以前から日本の一般消費者向けPC市場はグローバルにはプレミアムPCと呼ばれる999ドル(日本円で約13万円)を超える価格帯の製品が売れ筋の中心だった。というのも、日本一般消費者向けPCは、ビジネスパーソンが自分で仕事用のPCを買う(そうしたユーザー層をプロシューマーと呼んでいる)、あるいは漫画家やイラストレーターといったクリエイターが一般消費者向けとして販売されているPCを店頭で購入するのが一般的で、それが日本の一般消費者向けPCの平均購買価格(Average Sales Price)がほかの地域よりも高い理由の1つになっている。そうした状況にグローバルの市場も近づきつつあるということだろう。

 また、サービスという意味では、Lenovoは拡張保証や保険などの各種サービスに関しては以前から取り組んできたが、近年ではDaaS(Device as a Service)のような保守や保険などを1つのパッケージにしてサブスクリプションとして提供する取り組みにも積極的に取り組んでいる。ロッシ氏は「我々は既に独立の事業部としてSSG(Solutions & Services Group、ソリューション・サービス事業部)を作り、デバイスや保守などをセットにしてサブスクリプションで提供することを始めている。今後はそちらの方が主流になっていく可能性があると考えている」と述べ、特に法人向けには月額や年額の固定料金でデバイスと保守などがセットになっていく販売方法がPC業界にとっては新しい成長の柱になるだろうとした。

Lenovoが3月に参考展示したLOQ(ロック)ブランドのゲーミングノートPC

 そして、最後にゲーミングPCに関しても新しいブランドを3月に発表し夏頃に製品を投入することを明らかにしている。Lenovoはこれまで「Legion」というブランド名でゲーミングPCを提供してきた。しかし、3月24日に新しいメインストリーム向けのゲーミングブランドとして「LOQ」(ロック)を今後導入することを明らかにしている。

 こうしたブランドを分けるのは1つの流行になっており、Dellで言えばプレミアム向けが「Ailenware」、メインストリーム向けが「Dell G」シリーズ、HPではプレミアム向けが「OMEN」、メインストリーム向けが「Victus」となっている。Lenovoもプレミアム向けを「Legion」、メインストリーム向けを「LOQ」としたことで、その列に連なったことになる。

 ブランドを分離した理由に関してロッシ氏は「Legionに関してはゲーミングPC単体だけでなく、周辺機器やソフトウエアなども含めてエコシステムとしてさまざまなソリューションをゲーマーに提供するブランドになる。LOQに関しては初めてゲーミングPCを買うユーザーなどに向けたもので、より分かりやすくしてほしいというエンドユーザーの要望を伺った結果だ」と述べ、LegionはeSportsの大会にでるようなプロやプロに準じたハイエンドゲーマーなどをターゲットに、そしてLOQに関してはゲーミングPCを始めたいユーザーやよりカジュアルにAAAタイトルを楽しみたいゲーマーなどに向けた製品になると説明した。

今後もフォルダブルPCやローダブルPCのような、新しいフォームファクタ開発に投資を続けるLenovo

 また、ロッシ氏はPCフォームファクターの革新に関する取り組みに関しても説明した。ロッシ氏は「PCの世界に新しい2in1のフォームファクターとして“Yoga”を持ち込んで以降も、Lenovoはさまざまなフォームファクターの革新に取り組んでいる。最初のフォルダブル(折り曲げ可能)なPCをThinkPad X1 Foldとしてリリースしたし、MWCではローダブル(巻取型)なPCを参考展示した」と述べ、近年LenovoがPCの世界に持ち込んだ革新的なフォームファクタを振り返った。

2022年のIFAで発表したThinkPad X1 Fold Gen 2

 Yoga型と呼ばれることも多い、360度回転ヒンジによりディスプレイが360度回転することで、クラムシェル、テント、ビュー、タブレットという4つの形に変形する2in1デバイスは、Lenovoが「Yoga」ブランドで最初に公開したフォームファクタとなる。この「Yoga型」の2in1デバイスはPCの世界では既に市民権を得ており、Lenovoに限らず多くのPCメーカーが採用している。

 そして、まだ市民権を得たまでとは言えないが、ThinkPad X1 Fold Gen 1で最初にリリースされたフォルダブルなPCも、既に第2世代となるThinkPad X1 Fold Gen 2もリリースしており、同時期にはほかのメーカーからも対抗製品が出るなどしているのが現状だ。

ローダブル(巻取型)なディスプレーを採用したノートPCのPoC

 そして、MWCでLenovoが実機を公開したのが、ローダブル(巻取型)なディスプレイを採用しているノートPCだ。

 現時点ではローダブルなPCに関してはPoC(Proof of Concept、技術的に実現可能かどうかを探るために行なわれる試作のこと)として作られた段階で、これがそのまま製品化されるという段階ではない。

 ロッシ氏は「我々は数年前に研究開発への投資を2倍にすると明らかにしており、今もその取り組みは続いている。ローダブルなPCなどはその成果の1つで、今後もこうした新しいフォームファクタの開発を続けて行く」と述べ、今後もLenovoが新しいフォームファクターの開発へ積極的に投資を続けていくという姿勢を強調した。