笠原一輝のユビキタス情報局
「PC市場は年間3億台前後で安定」とIntel。新設計Luna Lakeでさらなる開拓
2023年1月13日 10:41
Intelは1月12日(現地時間、日本時間1月13日未明)に「Intel PC TAM and Platform Roadmap Investor Webinar」というタイトルのPCのTAM(潜在最大市場規模)と同社のクライアントPCロードマップに関するウェビナーを開催した。
この中でIntelは、2022年のグローバルのPC市場が3億台前後と、2021年までの約3億5,000万台に比べて大きく台数が減ったことを明らかにした。これは2022年のインフレや不況の発生という経済状況やパンデミックの巣ごもり特需の揺り戻しという状況が影響しており、2023年も引き続き2億7000万~2億9500万台と3億台を切る市場レベルになると予想した。しかし、同時にIntelは長期的には、PC市場は3億台前後で安定した市場になるという見通しを明らかにした。
また、IntelはPC向けのロードマップに関しても追加の情報を明らかにし、2024年に予定されているLunar Lakeは、CPU、GPU、NPUのすべてをフルスクラッチで開発、より薄型のノートPCなどモバイル器機向けの製品になると説明した。
2020年、2021年はパンデミックによる巣ごもり需要にけん引されていたが、2022年はその揺り戻しで需要減
2022年のPC市場が、前年に比べて出荷台数が減少したというのは別に秘密でも何でもなく、既に昨年の半ばからPC市場は調整モードに入っていることは、Intelに限らず多くのPCエコシステムに関わる企業が指摘してきた。
Intel 上級副社長 兼 セールス・マーケティング・コミュニケーション事業本部 最高コマーシャル責任者 クリストフ・シェル氏は「2020年はCOVID-19のパンデミックの年で、今年はその揺り返しが来た年になった。中国でゼロコロナ政策が始まり、世界中で経済不況が発生した。その結果、我々が業界では初めて指摘したように需要の減少が発生した結果、2022年のPC出荷台数は減少することになった」と、2022年のPC出荷台数が(競合他社分も含めて)3億万台前後になり、ここ2年の成長基調から減少基調へと局面が変わったことを明らかにした。
こうした状況はある程度は予想されていたことだ。というのも、2020年と2021年の出荷数の増加は、COVID-19のパンデミックが発生して、リモートワークやテレワークなどと呼ばれるいわゆる「巣ごもり需要」が増え、それにより一般消費者向けPCも、企業向けPCも需要が増加したため、それらが追い風になって実現されたからだ。
さらに、そこには学校がリモート授業になったことによる追い風も加わっており、それが台数に反映された結果、2020年は3億2,000万台前後、2021年は3億5,000万台前後と、ここ10年で最もPCが売れた年になったのだ。
しかし、2022年には状況は大きく変わっていた。依然としてパンデミックの終結宣言は出されていないが、欧米各国は「ウィズ・コロナ」などと総称される経済復興優先にかじを切っており、先週ラスベガスで行なわれたCES 2023が象徴するように、12万人を超える参加者を集めてほぼ通常モードで展示会が行なわれていた。
それだけでなく、昨年(2022年)の後半には同じように企業のプライベート・カンファレンスも通常通りに開催されるようになっており、欧米各国ではウィズ・コロナどころか、完全にコロナ前に戻ったような印象を受ける状況だ。
そんな中で巣ごもり需要が一段落し、通常の状況に戻ったそれが2022年の約3億台前後という数字が象徴していると言えるだろう。
2023年は2億7,000万台~2億9,500万台のTAMに、Windows 8.1のEoSもあるが影響は大きくない
問題はそのトレンドが、今後どうなるかだ。少なくとも今年(2023年)に関しては、昨年に比べてさらに減るだろうという予想をIntelは出している。Intelのシェル上級副社長は「2023年のTAMは2億7,000万台から2億9,500万台の間になると予想している」と述べ、PC市場全体のTAM(潜在最大市場規模、獲得可能な最大の市場規模のこと)は2億7,500万台~2億9,500万台の間になると予想していると明らかにした。つまり、2023年も引き続きPCの市場規模は減少するとIntelは予想している。
このことも、正直にいって別に驚きではない。2020年~2021年の出荷台数が増えたのは、先述の通りその先の需要を先取りしたものである。
PCの需要というのは、基本的には「置きかえ需要」だ。PCは既に必要な人には行き渡っており、それが何年かに1度に発生する置きかえ需要に合わせて置き換えが発生する、そういうビジネスである。
それを端的に示しているのが、Windows OSのEoS(End of Support、パッチの提供などソフトウェアのサポート期間が終了すること)に合わせてPCの需要が高まることで、2014年のWindows XPのサポート終了、2019年のWindows 7のサポート終了などのWindows OSのEoSに合わせてPCの需要が増加し、出荷台数も増えてきたというのは歴史が証明している(特にその傾向は日本市場で著しい)。
例えば、今年はWindows 8.1のEoSの年になる。
その意味では今年にリフレッシュ需要が発生しておかしくないのだが、そうした需要が2020年や2021年に先食いされ、3億1,000万台や3億5000万台という数字が実現されたと考えられており、今年はWindows 8.1のEoSがあっても大きく伸びることはない、そう考えられているのだ(もちろん、Windows 8.1ベースの多くのマシンがWindows 10に無償でアップグレード済みという事情も影響している)。
また、需要の先食いという意味では教育向けのPC市場も同じことが言える。日本でも文部科学省が推進した小中での1人1台PCを実現する「GIGAスクール構想」に象徴されるように、COVID-19のパンデミック下で教育機関のデジタル化は急速に進展した。
Intelのシェル副社長が公開した資料では、2019年の段階では2,900万台だった市場は、2020年には4,700万台に、2021年には5,400万台に拡大し、2022年には3,600万台に減少している。その減少分が大きく影響して、2022年はPC全体の出荷台数が減少したものと考えられることができる。
日本もそれはグローバルと同様で、GIGAスクール構想の影響は2020年と2021年に集中しており、2022年は市場の減少の大きな部分が教育向けだったと考えられている。
潜在性、密度、教育の3つがこれからのPC市場を安定的に引っ張っていき3億台前後で推移とIntel
しかし、Intelのシェル上級副社長は、こうした2023年のTAMのさらなる減少という市場動向は一時的なもので、長期的には3億台前後というTAMで推移するという予想を明らかにした。
その要因としては3つのことをあげた。それが「潜在性」、「密度」、そして「教育PCのインストールベース」だ。
1つ目の「潜在性」とは一般消費者がPCを使うアクティブ時間がパンデミック前に比べて増えていることだ。Microsoftのサティヤ・ナデラ CEOが2022年10月25日に行なわれた同社の2022年7月~9月期の決算の中で「PC出荷は減少しているが、Windowsの利用率はむしろ上昇している。Windows 10/11のユーザーは2年半前に比べて8.5%より長くPCを利用している」というのだ。これはPC離れが叫ばれた2010年代後半とは状況が大きく異なってきていることを意味している。
2つ目としてシェル副社長はPCを利用するユーザーの「密度」が上がっていることを指摘している。以前であればPCは家庭に1台しかなく、それが5~6年に1度更新されるというのがリフレッシュのサイクルだった。
しかし、パンデミックを経た結果、それまでPCにはあまり興味がなかった若いユーザーを中心にPCに対する認知度が高まり、家庭内でのPCの位置づけも一家に1台から、一家に数台という形になっていることだ。PCの買い方もシフトしており、お父さんやお母さんが仕事用に買ったPCを新しくした時に、古いPCが子どもに渡される……そういう買い方が一般的になってきていて、結果的にPCの台数が増えているという。
実際、PCメーカーはそうした若いユーザー向けにデザインコンシャスなPCを増やしており、Dellで言えば「XPS 13 Plus」、HPで言えば「Dragonfly」、Lenovoで言えば「ThinkPad Z」などがそれに該当する。そうした新しいセグメントのPCはPCメーカーにとって次の新しい成長を実現する余地を示している。
また、GIGAスクール構想に象徴されるような各国政府の教育向けPCの取り組みにより、教育向けPCのインストールベースは増えている。つまり、この増えた分の教育向けPCのリフレッシュがいつかは来るということだ、早ければ2~3年で、遅くとも5~6年で教育向けPCのリフレッシュタイミングがやってくる。
こうした要因が積み重なることで、年によってプラスマイナスはあるものの、今後も3億台前後というPCのTAMは安定的だとIntelは考えており、確かに2023年は低い方に触れる可能性が高いが、長期的には3億台前後を維持できると考えているとシェル氏は説明した。
Lunar Lakeは、新設計のCPU/GPU/NPUを搭載し、新しいフォームファクタを切り開く
Intel 上級副社長 兼 クライアントコンピューティング事業本部(CCG) 事業本部長 ミッシェル・ジョンストン・ホルトス氏は、IntelのクライアントPC向け製品のロードマップなどに関して説明した。
Intelは先週ラスベガスで行なわれたCESに合わせて、第13世代CoreのノートPC版を発表したばかりで、CESでは多数の搭載製品が発表された。その中心は第13世代Core HXを搭載したゲーミングノートPCで、今年も引き続きゲーミングノートPCが市場をけん引していく存在であることを示唆している。
ジョンストン氏によれば2023年中に300を超える搭載システムの出荷が予想されており、今回のCESでは発表されなかった製品も、今後OEMメーカーから発表される可能性がある。
また、今回のCESでは発表されていないが、vPro対応版の第13世代Coreに関しても、今後数カ月の間に発表される計画だと明らかにし、その中でvProのハードウェアセキュリティーを利用してCrowdStrikeと協業を深めていくと明らかにした。
「CPUハードウェアを利用したメモリスキャン機能、ハードウェアベースの複雑な攻撃などの脅威検出などの機能を利用してより高いセキュリティーを実現する」と述べ、そうした機能をISVとも協業して提供していくことで、vPro CPUを搭載したPCのセキュリティを高めていくとアピールした。
そうしたジョンストン氏の講演の中でのハイライトは、IntelのクライアントPC製品のロードマップに関する説明だ。基本的なロードマップは昨年パット・ゲルシンガーCEOが公開したものと同じで、2023年にFoverosを利用した3Dチップレット技術を利用したMeteor Lakeをリリースし、2024年にはそのアップデート版となるArrow Lakeをリリースする。さらに2024年にはより電力効率を高めた製品となるLunar Lakeを投入し、薄型軽量のノートPCなどのモバイル向けの製品向けに投入するというアウトラインは同じだ。
今回ジョンストン氏がさらに明らかにしたのは、Lunar Lakeの設計が、第13世代Coreの延長線上にあるMeteor LakeやArrow Lakeとは異なり、「Lunar Lakeにはゼロから設計したCPU、GPU、VPUなどを採用している、それにより非常に電力効率がよくなっている。我々はOSメーカーと非常に密接に協力して開発を行なっており、性能を犠牲にすることなくオールデーバッテリ駆動時間を実現する」と明らかにした。
また、Lunar LakeはそうしたPCだけでなく、これまでPCではカバーされてこなかったようなモバイル機器もカバーするとジョンストン氏は説明した。例えば、ウルトラポータブルなゲーミングデバイスや小型PCなどが流行になっているが、そうした製品をLunar Lakeでカバーする、そうした展開が期待できるだろう。
なお、このLunar LakeはRibbon FETやGAA(Gate All Around)と呼ばれる新しい形状のゲートを備えたトランジスタを採用している「Intel 18A」というプロセスノードと、外部のファウンダリのプロセスノードが利用されて製造される計画で、Intelが最近強調している「4年間で5つのプロセスノード」というプロセスノード開発の前倒し戦略の中で重要な位置を占める製品となる。そちらも予定通り出荷できるのかどうかも含めて、大きな注目が集まる製品となるだろう。