笠原一輝のユビキタス情報局
チタンを生かし、どの形態でも違和感なく使える「ThinkPad X1 Titanium」
2021年4月26日 06:55
ThinkPad X1(シンクパッドエックスワン)は、Lenovo社のビジネス向けノートPCブランドThinkPadシリーズのなかでもフラッグシップに位置づけられている製品群で、プレミアムユーザー向けのハイエンド仕様のノートPCとなっている。第11世代Coreを搭載したモデルとして、「ThinkPad X1 Nano」、「ThinkPad X1 Carbon Gen 9」、「ThinkPad X1 Yoga Gen 6」、そして今回取り上げる「ThinkPad X1 Titanium」の4つの製品がある。
ThinkPad X1 TitaniumはA面(天板)がチタンという、ノートPCとしては新しい素材になっていることが最大の特徴で、13.5型のアスペクト比3:2のペン対応のタッチディスプレイに対応していることなどが特徴になっている。CPUはUP4の第11世代Coreで、メモリは最大16GB、M.2 2242のSSDに対応しており最大1TBまで搭載可能になっている。
そうしたThinkPad X1 Titaniumについで、ThinkPadの開発を担当しているエンジニアにお話を伺ってきた。
四兄弟の中でより軽量で2in1/ペンバージョンとなるThinkPad X1 Titanium
レノボ・ジャパン合同会社 大和研究所 システムイノベーション エグゼクティブディレクター Distinguished Engineer 塚本泰通氏は、新しいThinkPad X1の第11世代Core搭載製品4製品について、4つのキーフォーカスエリアに注力しながら開発を進めたと説明する。
塚本氏によればその4つのエリアとは、以下の4つだという。
1.モダンデザイン
2.オールデーバッテリ
3.先進のセキュリティー・プライバシー
4.XaaSに最適化
モダンなデザインという観点では新しい働き方、またGen.Zと呼ばれるような若いユーザー層にアピールするようなデザインを重視したという。塚本氏は「働き方改革というトレンドのなかで、新しい世代はツールとしてのPCを重視しはじめているし、ITのディシジョンメークする年齢層も下がってきている。そうしたユーザー層にアピールするようなデザインが大事だと考えている」と述べ、以前に比べてビジネスPCでも一般消費者向けPCのようにデザイン性が重視されるようになってきているとした。
以前のビジネスPCと言えば、確かにデザイン的には武骨ではあるが、「質実剛健」と表現した方がいい頑丈で壊れそうにないというデザインを採用していることが多かった。しかし、近年、別にLenovoだけがということではなく、DellやHPなどのほかのメーカーも含めてデザイン性を重視したビジネスPCが増えている。
特に、DellのLatitudeシリーズの9000番台やHPのDragonflyといった製品はその代表例で、普通に一般消費者向けとして販売してもじゅうぶんに受け入れられるような製品が増えている。良い悪いの問題ではなく、それがトレンドだと言うことだ。
ThinkPadで言えば、そうした領域をカバーするのがThinkPad X1シリーズで、特にモバイル向けとされている13~14型のディスプレイを搭載した製品はその端的な例と言える。それがThinkPad X1 Nano(13型/UP4/クラムシェル)、ThinkPad X1 Carbon Gen 9(14型/UP3/クラムシェル)、ThinkPad X1 Titanium(13.5型/UP4/360度回転ヒンジ2in1型)、ThinkPad X1 Yoga Gen 6(14型/UP3/360度回転ヒンジ2in1型)の4製品になる。
このうち、ThinkPad X1 NanoやThinkPad X1 Carbon Gen 9とThinkPad X1 Yoga Gen 6に関してはすでに以前の記事で紹介済みだ。
ThinkPad X1 Nano | ThinkPad X1 Titanium | ThinkPad X1 Carbon Gen 9 | ThinkPad X1 Yoga Gen 6 | |
---|---|---|---|---|
CPUパッケージ | UP4 | UP4 | UP3 | UP3 |
メモリ | 最大16GB(LPDDR4x-4266) | 最大16GB(LPDDR4x-4266) | 最大32GB(LPDDR4x-4266) | 最大32GB(LPDDR4x-4266) |
ストレージ | M.2 2242 | M.2 2242 | M.2 2280 | M.2 2280 |
ストレージ最大容量 | 1TB | 1TB | 2TB | 2TB |
ディスプレイ | 13型 | 13.5型 | 14型 | 14型 |
解像度 | 2,160×1,350ドット | 2,256×1,504ドット | 3,840×2,400ドット/1,920x1,200ドット | 3,840×2,400ドット/1,920×1,200ドット |
タッチ/ペン | タッチ(オプション)/- | タッチ/ペン | タッチ(オプション)/- | タッチ/ペン |
アスペクト比 | 16:10 | 3:2 | 16:10 | 16:10 |
バッテリ容量 | 48Wh | 44.5Wh | 57Wh | 57Wh |
バッテリ駆動時間(JEITA測定法2.0) | 約22.8時間 | 約16.8時間 | 約26時間 | 約23.9時間 |
厚さ | 13.87mm | 11.5mm | 14.9mm | 14.9mm |
重量 | 907g~ | 1.15kg~ | 1.13kg~ | 1.399kg~ |
こうした4つの製品を並べて見ていると、第11世代CoreのUP4(より小型のパッケージで、TDPのレンジが7~15Wになっている製品)を搭載し、メモリも最大16GBで、ストレージも2242サイズのM.2になっているThinkPad X1 NanoとThinkPad X1 Titaniumがより薄型・軽量にフォーカスが当てられている製品で、第11世代CoreのUP3(TDPのレンジが12~28W用と通常の薄型ノートPC用)が搭載され、メモリも最大32GB、ストレージは2280サイズのM.2になっているThinkPad X1 Carbon Gen 9とThinkPad X1 Yoga Gen 6は性能重視に振ったモバイルノートであるという特徴が見えてくる。
つまりThinkPad X1 TitaniumはThinkPad X1のモバイル製品の中でもより軽量・薄型にふった製品で、かつタッチやペンが使えるという位置づけが見えてくると言えるだろう。
アルミニウムやカーボンのA面カバーが多いプレミアムモバイルの中でも珍しいチタンを素材として採用
そうしたThinkPad X1 Titaniumについて、レノボ・ジャパン合同会社 ThinkPad製品技術 Senior TM. Dev PM 山崎記稔氏は「ThinkPad X1 Titaniumをデザインする上でこだわったのは薄型化。特にタブレットモードにした時に本当にタブレットとして使えるように薄くしタブレットで一般的に使われている3:2のアスペクト比のディスプレイを採用した」とそのコンセプトについて説明する。
確かにThinkPad X1 Titaniumは、モバイルX1四兄弟のなかでももっとも薄くなっている。兄貴分とも言えるThinkPad X1 Yoga Gen 6は14.9mmと約15mmの厚さになっているのに対して、ThinkPad X1 Titaniumは11.5mmと、約30%薄くなっている。このことが「タブレット」としての使い勝手に与える影響は小さくない。タブレットとしてはやや重めな1.1kg台の重要だが、それが気にならなければ薄いために持っていて違和感がないのだ。
そうした「タブレットらしい薄型化」というテーマに重要だったのが、その製品名にもなっている「Titanium」だ。今回のThinkPad X1 Titaniumでは、A面(天板)がチタンとカーボン、B面がカーボン(ディスプレイ面)、C面(キーボード面)とD面(底面)はマグネシウム+アルミニウムの合金という素材が利用されている。
一般的にプレミアム市場向けのノートPCで使われているA面の素材はアルミニウムとカーボンが多い。AppleのMacBook ProやDellのXPS 13ならアルミニウムだし、ThinkPad X1 Carbonならカーボン、ThinkPad X1 Yogaならアルミニウムという素材が利用されている(いずれも天板部、それ以外には別の素材が利用されていることが多い)。その意味でA面にチタンという素材が利用されているのはめずらしく、あまり聞いたことがないというのが正直なところだ。
A面がチタンになっているThinkPad X1 Titanium、ディスプレイ閉じている時もタブレットでも一体感を確保
その狙いについてレノボ・ジャパン合同会社 デザイン&ユーザーエクスペリエンス インダストリアルデザイナー 中垣佳士氏は「最大の目的はデザイン面での訴求にある。タブレットモードにしたときにタブレットらしくみえ、かつ高級感のあるデザインということで今回はチタンを生かした新しいCMF(筆者注:Color、Material、Finishの略語で、最終的な仕上がりのこと)を採用することにした」と、特にデザイン面での要求が大きかったと説明する。
その過程では、LenovoのUS側の副社長の肝入りということもあり、今回はハードルが高くてもやってみようというプッシュがあり、新しい素材へのチャレンジを行なったのだという。特に重視されたのが「質感」だった。目指したのはアウトドア用に販売されているようなチタンカップで、その金属らしい光沢を生かしたままA面カバーを作りたいというのがLenovo開発陣の目標だったという。
そこで、さまざまな表面処理を試し最終的に今の処理に落ち着いたということだが、具体的にどのような処理を行なっているかは残念ながら企業秘密ということで今回は公開できないという。ただ、従来のチタンと一線を画すような高光沢、高品位になるような特殊処理を行ない、最後に特殊コーディングを行うことで対指紋性能も向上している。
またLenovoやThinkPadのロゴの処理にもこだわっており、チタンの材質を活かしたようなロゴの処理がされており、前出のチタンカップに見られるような「金属らしいつや感」を出すことを目指しているという。
実際の製品で確認すると、確かにアルミともカーボンとも違う質感になっている。アルミが「クール感」がするし、カーボンは「繊維感」があるのに対してチタンは「しっとり感」とでも表現すればよいだろうか、そんな質感になっている。その意味で、今までのアルミやカーボンとはとは違う質感で、人と違うのがいいと感じるユーザーには訴求するだろうと感じた。
また、Lenovoのもう1つのこだわりとしてはクラムシェル型としてディスプレイを閉じたときも、そしてディスプレイを360度回転させてタブレットモードにしたときも、閉じた状態で本体の前後がそろうようになっている。これにより、タブレットとして使っているときはタブレットとして、逆に閉じている時には普通のノートPCとして違和感無く持ち歩くことができる。
UP4の第11世代Coreを選択することで超小型の基板を実現、冷却ファンもThinkPad史上最薄型に
そうした新しい素材を採用したThinkPad X1 Titaniumだが、A面カバーは実のところチタンとカーボンの2枚重ねとなっている。このため、カーボンだけで構成されている場合などに比べてどうしても厚くなってしまう。そこで、ThinkPad X1 Titaniumでは内部の構造を見直すことで、徹底的に薄型化が実現しており、そんなハンディがあっても11.5mmという薄型を実現しているのだ。
そのマジックにはいくつかの「種」があるのはもちろんのことだ。レノボ・ジャパン 合同会社 Advisory Mechanical Engineer 長谷川英明氏によれば、その魔法の種は薄型ファンなど熱設計の工夫、さらに内部コンポーネントのレイアウトの工夫、さらに厚みの違うセルを採用したユニークな薄型バッテリ、そして最後に薄型キーボードとタッチパッドの採用などにあるという。
熱設計では、ThinkPad史上で最も薄いというファンを採用している。それが実現できた要素は2つあり、1つは高性能ベアリングを採用したことであり、もう1つはファンケース自体を堅牢化することにより薄型化を実現できたのだという。そしてもう1つの工夫としては、CPUなどからファンヘ熱伝導するヒートパイプには銅板が追加されており、その銅板自体がパッシブ冷却、つまりシステム内部を通過する風などにより自然に放熱することにより効率よく放熱できるように工夫されているという。
内部コンポーネントのレイアウトの工夫ではUP4の第11世代Coreを選択したことで、システムボード自体をかなり小さく作れており、さらにシステム厚を減らすためにシステムボードとM.2の拡張カードが重ならないようにするため、別のサブボードにして、カードを実装してもほかのコンポーネントと同じ高さになるように工夫したということだった。
タッチパッドと重ねるために内部のセルの高さが異なるバッテリを採用、タッチパッドも感圧式に
そしてユニークな取り組みとしては、高さの違うバッテリセルの採用がある。通常のノートPCのバッテリでは、製造を容易にする目的もあって、バッテリパックには1種類のバッテリセルを採用している。
しかし、このThinkPad X1 Titaniumでは「真上にタッチパッドがくるため、その場所を稼ぐ必要があった。そこで、タッチパッドが来る部分のバッテリセルは薄型セルを利用して、高さ方向を稼ぐことにした」(長谷川氏)との通りで、高さの違うバッテリセルが採用されていることがわかる。その上に薄型のタッチパッドを重ねることで、バッテリ駆動時間を短くすることはなく、薄型も実現するという二律背反を実現しているのだ。
さらにそのタッチパッド自体もユニークな構造になっている。一般的なタッチパッドは静電容量方式と呼ばれる指先から発せられる静電気を検知して、クリックされている場所を判別している。
しかし、このThinkPad X1 Titaniumに採用されているタッチパッドは感圧式になっており、圧力がかかるとそれを認識する仕組みになっている。感圧式であるため、例えば手袋をつけたままでも操作できるし、タッチパッドを傷つけずに圧力を掛けられるものであれば(例えばゴムつきのスタイラスペンなど)何でも操作することができる。
なお、ハプティックの機能も持っており、マウスでいうところの左ボタンの代わりとなるクリックボタンは、右下だけでなくタッチパッド全体を押すことで代替できるようになっている。慣れてくるとこれはこれで便利だ。
もちろんWindows 10のタッチパッドの標準機能である1本指のダブルタップでマウスの左ボタンの代わり、2本指のタップで右ボタンの代わりなどの機能も使うことができるので、Windows 10のタッチパッド操作に慣れているユーザーなら違和感なく使いこなすことができるだろう。そして、もちろんThinkPadの象徴でもあるスティック型のTrackPointも使うことが可能だ。
このように、ThinkPad X1 Titaniumは新しい素材を採用した事による、これまでのPCとは趣が違う外装を採用しており、他とは違うテイストの製品になっている。そして、360度回転ヒンジでタブレットモードにしても違和感がないようなデザインを採用していることも見逃せないメリットだ。
確かにタブレットとして考えると1.1kg強という重量は決して軽量ではないが、クラムシェル型として使うときにはしっかりとしたキータッチで定評があるThinkPadのキーボードを脱着型とは異なるどっしりと固定された本体で利用することができることはメリットと言える。PCとタブレットを1台で済ませたいユーザーには新しい選択肢であると言える。