福田昭のセミコン業界最前線
TSMCの16AやIntelの高性能版18Aなどの先端CMOSが披露されるVLSIシンポジウム
2026年6月18日 06:18
半導体のデバイス・プロセス技術と集積回路技術に関する研究開発成果を披露する国際学会「VLSIシンポジウム(2026 IEEE Symposium on VLSI Technology and Circuits: VLSI 2026)」が今年も始まった。開催地は米国ハワイ州ホノルル、会場はリゾートホテル「Hilton Hawaiian Village」である。開催期間(現地時間)は6月14日から18日。
本コラムの前回でご報告したように、6月14日から15日はプレイベント(ワークショップとショートコース)、6月16日から18日はメインイベント(技術講演会)を実施する。
今回と次回、メインイベントで発表される数多くの研究成果の中から、VLSIシンポジウムの実行委員会が選出した注目講演(ハイライト講演)をご紹介する。
シンポジウムは、「デバイス・プロセス技術分野」(「テクノロジ」分野あるいは「技術」分野と呼ぶことが多い)と、「回路技術分野」(「サーキット」分野あるいは「回路」分野と呼ぶことが多い)に分かれている。
今回は「デバイス・プロセス技術分野」の注目講演と、論文投稿・採択状況を紹介する。そして次回は「回路技術分野」の注目講演と、論文投稿・採択状況を述べる。
なお本稿の注目講演は、実行委員会が選出したハイライトのすべてを紹介しているわけではない。あらかじめご了承願いたい。
2027年の本格量産を狙うサブ2nmノードのCMOSロジック技術
「デバイス・プロセス技術分野」ではハイライトとして、CMOSロジックの研究成果を述べたい。
1つは2027年の本格量産を目標とする次世代のCMOSロジック技術である。サブ2nmノードのCMOSロジック技術をIntelとTSMCがそれぞれ発表する。
もう1つは、次々世代以降の実用化を目指したCMOSロジック向けトランジスタ技術(CFET(相補形FET))である。Intel、Samsung Electronics、IBM Researchがそれぞれ、研究成果を報告する。
ナノシートFETと裏面電源供給網によってサブ2nmのCMOSロジックを実現
初めはサブ2nmノードのCMOSロジック技術に関する講演を簡単に紹介しよう。
Intelは、高性能版の18AノードCMOS技術プラットフォーム(Intel 18A-P)を開発した(講演番号T1.2)。従来プロセスである「Intel 18A」と比べ、同一動作周波数での消費電力は18%減少し、同一消費電力での動作周波数は9%向上した。低消費電力版FETと高性能版FETを新たに開発してライブラリに追加している。しきい電圧の追加、配線抵抗の削減、熱伝導率の向上、動作スキュー幅の縮小といった要素技術を駆使した。
なおIntelは、前年のVLSIシンポジウムで「Intel 18A」の概要を発表済みだ。同社が「リボンFET」と呼ぶナノシートFET技術と、パワービア技術(裏面電源供給技術)を採用しており、両技術は高性能版の「Intel 18A-P」にも引き継がれている。
TSMCは、16A級CMOSロジック技術(A16)の開発成果を報告する(講演番号T1.5、レイトニュース)。改良版のナノシートFETと裏面電源供給網を採用した。2nmノードの高性能CMOS技術(N2P)と比べて同一消費電力での動作速度が8%~10%向上し、同一動作速度での消費電力は15%~20%減少した。N2Pと比べてFETの面密度は8%~10%高まる。量産開始は2026年第4四半期を予定する。
次々世代CMOSを目指すCFETの研究が大きく前進
ここからは次々世代以降の実用化を目指したCMOSロジック技術向けトランジスタ技術(CFET(相補形FET))のハイライトを簡単にご報告しよう。なおCFET(相補形FET)とは、CMOSロジックの基本単位であるnチャンネルFETとpチャンネルFETを垂直方向に積層することでFETの面密度を高めるトランジスタ技術である。
理論的には、nチャンネルFETとpチャンネルFETを水平方向に並べる従来のCMOSロジックに比べ、FETの面密度が1.6倍~1.7倍に高まる(上下のFETを接続する配線が必要なので、2倍の面密度は達成できない)。技術原理はかなり単純だが、実用的な集積規模の製造はきわめて難しい。
製造方法はモノリシック積層とハイブリッド(シーケンシャル)積層に分かれる。モノリシック積層でまず問題となるのが先に作成するFET(ボトム側FET)の性能劣化である。後で作成するFET(トップ側FET)の高温処理(熱処理)によってボトム側FETの性能(静特性と動特性の両方)が低下する恐れが高い。
次に、FETの性能が最高となる基板の結晶配向がnチャンネルFETとpチャンネルFETでは異なるという問題がある。nチャンネルFETは(100)基板、pチャンネルFETは(110)基板が望ましい。
しかしモノリシック積層ではどちらかの基板を選ばなければならない。比較的多く見られる組み合わせは、(100)基板、ボトムはpチャンネルのSiGeナノシートFET、トップはnチャンネルのSiナノシートFETというものだ。pチャンネルのSiGeナノシートFETには歪みシリコン技術によってキャリア移動度を高めやすいというメリットがあり、ボトムに選ばれることが多いとされる。
一方、ハイブリッド(シーケンシャル)積層では、異なる基板(ウェハ)に別チャンネルのFETを形成してからウェハの貼り合わせによってCFETを製造する。このため、ボトムFETが高温処理によって劣化する恐れがない。さらにはnチャンネルに(100)配向基板、pチャンネルに(110)配向基板と、チャンネルのキャリアごとに最適な基板を選べるというメリットがある。
ただしウェハの貼り合わせに伴う位置合わせのずれを考慮するので、隣接するCFET間の距離(ゲートピッチ)はモノリシック積層に比べると長くなる。
上記のような課題を突破する取り組みが、VLSIシンポジウムでは披露される。Intelは、Si(110)基板にナノシート構造のnチャンネルFET(ボトム)とpチャンネルFET(トップ)をモノリシック積層したCFETを2個形成し、インバータでの動作を確認した(講演番号T5.2)。ゲートピッチは45nmとかなり狭い。さらに、Si(100)基板にナノシートnFETを、Si(110)基板にナノシートpFETを別々に作成してから基板同士を接合したハイブリッド積層のCFETも試作した。
IBM ResearchはCFET向けに、900℃を超える高温処理に耐えるSiGeナノシートpチャンネルFETを開発した(講演番号T5.4)。SiGeナノシートpチャンネルFET(ボトム)の上にSiナノシートnチャンネルFET(トップ)を形成してCFETを試作し、耐熱性を確認した。
Samsung Electronicsはゲートピッチが42nmと狭い3次元積層FET(CFET)を試作した(講演番号T1.1)。CFETを構成するナノシートFETのシート数を3層に増やすことでFETの性能を高めながら、ゲートピッチを42nmに縮めた。ナノシート各層のGe組成を調整してチャンネルの欠陥密度を低減している。なおCFETの試作発表ではこれまでナノシートのシート枚数が1枚のFETを積層することが多かった。
投稿件数は469件で過去最多を大きく更新
ここからは、「デバイス・プロセス技術分野」(「テクノロジ」分野)の論文投稿・採択状況を説明していく。VLSIシンポジウム(VLSI 2026)での発表を目指して投稿された論文の件数は469件で、過去最多となった。昨年(VLSI 2025)の京都開催では349件、一昨年(VLSI 2024)のハワイ開催では355件だったので、120件近くと大幅に増えたことになる。
発表の機会を得た採択論文の件数は99件で、前回のハワイ開催と比べて5件増えた。とはいうものの、採択率は21%と過去最低に下がっている(前回のハワイ開催では26%)。
投稿論文件数を国・地域別に見ていくと、中国(香港とマカオを含む)が161件と最も多い。投稿全体の3分の1強(34.3%)を占める。中国の投稿件数は前年に109件だったので、増分は52件に達する。
2番目に多いのは韓国で、101件の投稿があった。前年は66件だったので、韓国も投稿が大幅に増えた。増分は35件である。3番目は米国の74件、それから台湾が50件、欧州が34件、日本が24件と続く。
採択論文件数を国・地域別に見ていくと、韓国がトップで23件と多く、僅差の22件で米国が続く。3位は中国と日本でいずれも14件、5位は欧州で13件、6位は台湾で9件となっている。
技術分野別ではデバイス物理とメモリの投稿件数が多い
技術分野別の投稿・採択状況を説明しよう。VLSI 2026の技術分野別の投稿件数では「デバイス物理と特性、モデリング、信頼性」が最も多く、109件を数えた。2番目は「メモリ」で107件、3番目は「プロセスと材料」で46件、4番目は「先端CMOSプラットフォーム」で35件を数えた。
技術分野別の採択件数では「メモリ」が25件と最も多い。2位は「プロセスと材料」で20件、3位は「先端CMOSプラットフォーム」で17件、4位は「デバイス物理と特性、モデリング、信頼性」で11件である。
大学の採択件数が2年連続で産業の採択件数を上回る
大学界(大学、大学院、大学付属機関)と産業界(企業と研究機関)の投稿件数と採択件数では近年、大学の躍進が目立つ。2024年以降の投稿件数急増をけん引したのは大学からの投稿増である。
投稿件数は過去10年の間、大学が産業を上回っていた。採択率では産業が高いので、採択件数になると産業が大学よりも多かった。しかし前年(2025年)と今年は、大学の採択件数が産業よりも多くなった。
発表機関別の採択件数はSamsung Electronicsが3年連続で首位
発表機関別の採択件数では、Samsung Electronicsが14件でトップを占める。3年連続の首位となった。2位は10件のimecである。imecは2021年から2023年は採択件数でトップに位置していた。
以降はGeorgia Institute of Technologyが6件、National Univ. of SingaporeとIntelが5件、IBMとキオクシアが4件と続く。
このほかにも興味深い研究開発成果が少なくない。機会があれば本コラムでご報告するので期待されたい。





























