Hothotレビュー

電源内蔵で0.9Lの衝撃。Core Ultra X7の性能を極限まで引き出したミニPC「GPD BOX」
2026年7月6日 06:09
GPDといえば「GPD WIN」シリーズや「GPD Pocket」シリーズに代表される、10型以下のUMPCを専門に手掛けてきた企業だ。社長のWade氏は過去のインタビューで、大手がカバーしきれない細分化したニッチ市場への集中こそが基本戦略であり、市場や会社の規模拡大は考えていないと繰り返し明言してきた。
そのGPDが2026年、初のミニPC「GPD BOX」を投入してきた。変則的なキーボードや小さな画面で用途が限られるUMPCと違い、ミニPCは母艦PCや家庭内ファイルサーバー、制御用のエッジPCとして幅広く使える、ユーザー数が多い市場。しかもMINISFORUMやGMKtec、Beelink、GEEKOMといった強豪がひしめいている。ニッチ特化をうたってきた同社が、あえてこの激戦区に切り込んでくるというニュースを見たとき、筆者は正直驚いた。
しかもその心臓部は、Intelの最新CPUであるPanther LakeことCore Ultraシリーズ3で、体積わずか0.93Lの筐体に160WのGaN電源を内蔵。下位モデルでは世界初をうたうMCIO 8iポートまで備えており、いきなり尖った仕様のミニPCとして投入。これまでのUMPC開発で培った「極限まで詰め込む」ノウハウが、本機でどう注ぎ込まれているのか、興味は尽きない。
現在Indiegogoでクラウドファンディングを実施中で、価格は下位のCore Ultra 7 356H搭載で1万1,377香港ドル(約23万6,000円)、上位のCore Ultra X7 358Hで1万2,020香港ドル(約24万9,000円)だ。今回、後者のサンプルを入手したので、レビューをお届けしたい。
電源内蔵で0.93L。これが地味に凄い
すでにPanther Lake搭載PCは過去に評価しているので、性能は後ほど見ていきたいが、本機を評価する上で筆者がもっとも推したいポイントが筐体のコンパクトさである。160WのGaN電源を内蔵していながら、本体サイズは175×134×39.5mm、体積にして0.93Lという小ささを実現している。近年のWi-Fiルーターよりも小さく、デスク上にさり気なく置けるサイズだ。
高性能なミニPCの多くは、本体が小さくてもACアダプタを利用するタイプがほとんどだ。近年はそのACアダプタも小型化してきてはいるものの、机の上や足元でアダプタがゴロゴロ転がっているようでは、せっかくの魅力もスポイルされてしまう。本機はこれを筐体内に収めているため、コンセントから本体まではメガネケーブル1本で済む。
しかも体積はわずか0.93Lだ。電源内蔵のミニPCはあることにはあるのだが、高性能にもなれば筐体も大きくなりがち。しかし本機はGaN技術を採用し高密度に実装している。これは、以前同社が投入したeGPUボックスの「GPD G1」でも採用されている手法だが、小ささを犠牲にせずアダプタレスを実現した点は評価したい。
この「電源内蔵で小さい」という特性は、持ち運びの場面で特に活きてくる。たとえば家と会社の2拠点で同じ環境を使いたい場合だ。つまり、ノートPCのようにカフェや電車内で広げるわけではなく、それぞれの拠点にモニターやキーボード、ACケーブルを据え置いておき、本体だけを持ち運ぶ、という使い方である。本機ならACアダプタを一緒に持ち歩く、あるいはACアダプタをもう1個用意する必要がない(ACケーブルは必要だが非常に安価)ので都合が良い。なんなら3~4拠点間の移動も余裕だろう。
なお、本機は面積がもっとも広く向かい合う2つの面(ここでは側面と呼ぶ)ともにファンと吸気口を設けているが、その面にゴム脚などはないため、横置きしてしまうと片方の吸気口が塞がってしまう。そのため、事実上縦置きしか選択肢がなく、それに対応するため本体を挟み込むスタンドが付属している(なくても縦置きはできる)。電源ボタンも縦置き時に上部にくるため、設置可能な方法は事実上1つだけだ。
構成は2モデル。今回は上位の358H版。最大80Wの実力は?
続いてはCPUとGPUの性能を見ていきたい。GPD BOXには、CPU違いで2つのモデルが用意されている。下位がCore Ultra 7 356Hで、上位がCore Ultra X7 358Hだ。両者とも4P+8E+4LPEの16コア構成という点は共通だが、内蔵GPUが異なり、今回入手したのは上位の358H版で内蔵GPUはXeコアが12基のArc B390。この点、下位の356H(Xeコア4基)に対するアドバンテージとなる。
比較用に、以前レビューしたGMKtecのEVO-T2Sの結果を並べてある。使用したベンチマークは、「PCMark 10」、「3DMark」、「Cinebench 2026」および「ファイナルファンタジーXIV 黄金のレガシー ベンチマーク」だ。
本機に採用されているCore Ultra X7 358HはEVO-T2Sと共通なわけだが、GPD BOXの特徴は、長期負荷時プロセッサ電力のPL1が65W、短期負荷時プロセッサ電力のPL2が80Wという値に設定されている点。EVO-T2Sは最大PL1が54W、PL2が60Wだったので、GPD BOXがいかに“クレイジーな設定”であるかお分かりいただけよう。しかもEVO-T2Sよりも小さい筐体なのに……である。
というわけで性能についてみていくと、確かにいくつかのスコアではEVO-T2Sを若干上回ったが、その項目は少なく向上幅も限定的だった。これは今回のテストスコアにおいてGPUが支配的になっている影響によるもので、GPUがTDPの早い段階で頭打ちになっているのだ。一方、CPUの速度を計測するCinebench 2026では、Multi CoreでEVO-T2Sの54Wの結果に対して6%ほど向上しているのが分かる。電力が20%も増えているので割に合わない気がするが、最後の一滴まで358Hの性能を引き出そうとする設計思想なのだろう。
ミニPCではノートPCのように電力に対してそこまでシビアに配慮しなくてもいいと言われればそれまでだが、性能に対するもう1つのトレードオフが騒音だ。GPD BOXは設定されている電力が高い上に電源まで内蔵、しかも筐体が薄いのでファンが勢いよく回る。幸い、不快な軸音ではなく風切り音なのだが、EVO-T2Sと比較するとだいぶ煩く、存在感がある印象だ。
ここはBIOS上でチマチマTDPを変更して落としても良いのだが、パッと見たところファン回転速度に関連する設定項目が見当たらない。そもそもTDPの階層が深く、あまりいじらせるつもりはないのかもしれない。もっとも、筆者が手に入れたのは試作機であり、製品化までまだ時間があるため、チューニングされる可能性は残されているといえよう。
弱点はあるものの、Lunar Lakeより速く、ポータブルゲーミングPCやミニPC市場を席巻したRyzen AI 9 HX 370の性能を大きく上回るGPU性能はやはり素晴らしい。画質設定を欲張らなければ、フルHD(1,920×1,080ドット)解像度で「NTE」といった新しいゲームタイトルも楽しめた。
ちなみにNPUは50TOPS。GPUなどと合わせたシステム全体のAI性能は最大180TOPSとされ、Copilot+ PCの要件はクリアしている。こちらはMicrosoftのFoundry Localを使うAI自作プログラムで計測したところQwen2.5-Coder-7Bで短文の応答で15tok/s前後の値が出た。同じモデルをArrow Lake-HXのNPUで計測すると5tok/s前後になるので、性能が向上したのは確実だ。
MCIO 8iは356H版のみ。358HはUSB4 Version 2.0
本機の目玉として大きく宣伝されているのが、世界初をうたうMCIO 8iポートだ。ここ数年ミニPCで普及してきたOCuLinkがPCIe 4.0 x4対応止まりだが、MCIO 8iはPCIe 5.0 x8接続を実現する。GPDの公称では双方向512Gbpsと、OCuLinkの4倍の帯域を持つ。「GeForce RTX 4090を接続してもデスクトップのPCIeスロット比で2%しか性能が落ちない」などとアピールしている。
ただし、このMCIO 8iは下位の356H版にしか搭載されておらず、今回検証した358H版には搭載されていない。理由は単純で、上位の358Hは強力なArc B390を積む代わりに、プロセッサから出ているPCIeレーン数は12レーンと少なく、周辺を考慮するとMCIO 8iが要求するPCIe 5.0 x8の帯域を外部に回す余裕がないためだ。Intelとしては、内蔵GPUで完結させたいなら358H、内蔵GPUは割り切って外付けGPUで伸ばしたいなら356Hという想定だろう。eGPUを組むユーザーは内蔵GPU性能をあまり気にしないので、合理的ではある。
とはいえ、GPDとしてはMCIO 8iの利用例としてICY DOCK製の外付けストレージシャーシ「ToughArmor MB105VP-B」、「ToughArmor MB998SP-B」との接続や、汎用PCIeカードとの接続(変換基板やドックを利用)、中古で安く出回っているSXM2モジュールタイプのNVIDIA「V100 32GB SXM2」との接続などを挙げており、eGPU以外との接続も提唱している。こういった用途では残念ながら356H版を選ぶしかない。
ただ、358H版にMCIO 8iはないが、外付けGPUがまったく使えないわけではなく、USB4 Version 2.0経由のPCIe 4.0 x4接続となる。普段はArc B390で済ませ、必要なときだけUSB4でeGPUを足す、という使い方が可能だ。
MCIO 8iとUSB4 Version 2.0両対応の相棒、「GPD G2」も用意
そしてGPDは、このMCIO 8iとUSB4 Version 2.0両方に対応し、ビデオカードの接続を前提としたオプションとして「GPD G2」というドックを新たに用意している。クラウドファンディングでの出資額は3,016香港ドル(約6万3,000円)だ。つまり358H版でも356H版でも使える両用eGPUドックという位置づけとなる。
概要をかいつまんでおくと、
- eGPUのためのPCIe 5.0 x16スロット、PCIe 3.0 x2接続のM.2スロット、USB 3.2 Gen 2 2基、Gigabit Ethernet、800W電源をコンパクトに凝縮したドッキングステーション
- ビデオカードはMCIO 8iまたはUSB4 Version 2.0で接続可能
- MCIO 8iのみ利用時、あらゆるPCIeデバイスに対応可能
- ただし、MCIO 8iのみ利用時、USB4 Version 2.0関連のドッキングステーション機能は使えない
- USB4 Version 2.0利用時はPCIe対応のビデオカードが利用可能。また、100WのUSB PD給電やドック機能も利用可能
- MCIO 8iとUSB4 Version 2.0両方利用時、PCIeデバイスはMCIO 8i接続、ドッキングステーション機能はUSB4 Version 2.0接続
といった具合である。雑にいえば、筆者が以前レビューしたMINISFORUMの「DEG2」と「GTBOX」を1つに合体させました(ただしOCuLinkではなくMCIO 8i)!的なものだが、現存するeGPUドックの中でも最強の部類に入るだろう。しかも電源コネクタも12VHPWRで、GeForce RTX 40/50シリーズでの使用を想定したのがポイントだ。
ただし、仕様的には最強なのだが、残念なポイントもいくつかある。まず、12VHPWRから従来のPCIe 8ピンへの変換ケーブルは同梱されているものの、8ピンのコネクタは2基しかない点。よって、GeForce RTX 30世代のカードはアッパーミドルまでという制限が付く(GeForce RTX 3080や3090などは3基利用するモデルも多いため)。
また、電源ケーブルが映像ケーブルと同じ方向ではなく、逆から出ているのもちょっといただけない。ユーザーがビデオカードに映像ケーブルをつながない、という使い方はちょっと考えにくく、ここは同じ向きに揃えてほしかった。
さらにいえば電源ボタンと排気口もビデオカードのバックパネル側。仮に電源ケーブルを後ろ、電源ボタンを前に……という配置にすると、映像ケーブルと排気が前面から出るという仕様だ。卓上に置くなら、ケーブルの配線は考えなければならないだろう。
なお、試作機ではブラケットが2スロット分しか入らなかったが、量産機では3スロットのビデオカードも装着できるよう切り欠けが入るとのことだ。2スロット+PCIe 8ピンコネクタ2基の制限もあって、今回は試しにPalitのGeForce RTX 3070 Ti GamingPro OCをつなげてみたが、ほぼ期待通りの性能が得られた。Core Ultraシリーズ3はモバイル向けプロセッサではあるものの、もう十分にGeForce RTX 3070 Tiの性能を引き出せるレベルに来たといっていい。
インターフェイスは充実
それ以外のインターフェイスを見ていこう。まず、内蔵ストレージはM.2スロットを2基備え、メインがPCIe 5.0 x4、2基目がPCIe 4.0 x2で容量は最大4TBまでサポートする。
前面インターフェイスはUSB4 Version 2.0が2基、USB 3.2 Gen 2が2基、3.5mm音声入出力を搭載。背面はDisplayPort 2.1、HDMI 2.1、USB 3.2 Gen 2が2基、2.5Gigabit Ethernetが2基(リンクアグリゲーション対応)となっている。そして356H版では背面にMCIO 8iも加わる。無線はWi-Fi 6EとBluetooth 5.3だ。
欲をいえば、USB4 Version 2.0にモニターを接続することを考えて、前後に1基ずつほしかったところ。また、これだけリッチな構成であるにもかかわらず、有線LANが2.5GbE止まりである点もやや惜しい点で、リンクアグリゲーション対応するぐらいなら、Realtek最新のRTL8127を採用して10GbEを搭載してほしかった。
電源は指紋センサーと兼用で、Windows Helloに対応している。近年のミニPCのトレンドなのか、本機に2W+2Wのスピーカーを内蔵している点もユニーク。万が一モニター側にスピーカーが内蔵されていなくても、ひとまず音を出すことはできるわけだ。
GPDのミニPC市場参入を歓迎
今回はメモリが32GBという関係で、特に内蔵GPUでLLMを回してみた……のようなテストは見送った。もちろん4B~9BクラスのLLMなら動作するし、同社はGPD BOXの用途としてローカルAIエージェント回りも挙げているが、基本的にメモリ64GB構成(できれば+ビデオカード)を対象とした話。しかもIndiegogoには64GBの選択肢も用意されておらず、絵に描いた餅になってしまっている。メモリの価格高騰で仕方ないのだが、いずれかのタイミングで64GB版が用意されることに期待したい。
32GBのモデルも決して安くはないが、Core Ultra X7 358Hの強力なArc B390内蔵GPUを備え、電源内蔵で0.93L、高級感がある筐体など、内容を考えれば納得のいく範囲。CPUはキビキビ動作するので、オフィスやWebブラウジングは余裕をもって対応できるし、内蔵GPUが強力なので息抜きに3Dゲームもこなせる……そんな汎用性の高い1台に仕上がっている。
筆者として一番評価したいのは、やはり電源内蔵でありながら体積わずか0.93Lの小ささだ。特に縦置きのフットプリントの小ささは随一である。インターフェイスについては若干課題を残している印象だが、GPDのミニPC市場への第一弾としては、同社らしく尖った1台に仕上がったといえるだろう。








































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