イベントレポート
【Qualcomm基調講演編】
次世代Snapdragon 800の性能を公開
~サプライズゲストであの人が登場
(2013/1/9 00:18)
CES 2013開幕前日となる現地時間の7日に、米Qualcomm会長兼最高経営責任者(Chief Executive Officer)のポール・E・ジェイコブス氏が基調講演を行なった。
講演で掲げられたキーワードが「Born Mobile」(生まれつきのモバイル)というもの。どういうことかというと、現在世界にはインターネットにつながる64億のデバイスがあり、これは世界の人口に匹敵する。そして毎日、世界中で生まれる赤ちゃんより多い数のスマートフォンがアクティベートされている。つまり、モバイルデバイスは生活のあらゆる場所に存在し、現在の若い世代は、物心ついた時からそれらを利用しているということだ。世界にはまだPCを購入できない貧困な人たちが数多くいるが、そういった人たちでもスマートフォンは購入することができ、それを通じてネットにアクセスしている。この状況の中、新しいモバイルの世界を作り上げているのがQualcommなどの企業だと、ジェイコブス氏は述べた。
Qualcommの製品群の中でも旗艦製品となるのがSoCの「Snapdragon」シリーズ。現在までにSnapdragon搭載機は500製品が発売され、今後も400以上の製品が投入予定だという。実際、大手メーカーのスマートフォンにおいて、Snapdragonの採用率は圧倒的だ。
ここでジェイコブス氏は、Snapdragon採用メーカーとして、スマートフォンメーカーではないが、MicrosoftもWindows RTにおいてSnapdragonをサポートするという意味でパートナーであるとしたのだが、その発言を受けなんとMicrosoft CEOのスティーブ・バルマー氏がゲストとして、ステージ上に現われた。
直前レポートにも書いたとおり、Microsoftは2012年を持ってCESでの基調講演とブース出展を取りやめたのだが、バルマー氏は誰も予想しない形で基調講演の場に再登場した。
バルマー氏は、いつものようにまくし立てる感じで、Windows RTが、なめらかに動作し、バッテリ駆動時間が長く、ARM SoC搭載機では世界で唯一Microsoft Officeが利用できるなど、仕事にも遊びにも使えるすばらしい製品だとした。また、Windows 8/RTに続く形で投入されたWindows Phone 8についても、2011年の同時期より売上は4~5倍にも達するなど、好調であるとアピールした。
バルマー氏退場の後、ジェイコブス氏は、Snapdragonの次期製品に関する情報を公開した。
現行のSnapdragon S4 Proシリーズの後継となるのが同600シリーズ。CPUコアはクアッド構成で最大1.9GHz駆動のKrait 300コア。GPUコアはAdreno 320の高クロック版で、Adreno 225と比べ、性能は3倍超となり、OpenGL ES 3.0やOpenCLなどGPGPU APIに対応する。メモリはLPDDR3に対応。これらの改善により、600シリーズはS4 Proから、消費電力を抑制しながらも、4割の性能向上を果たしているという。同製品は現在サンプル出荷中で、搭載機は第2四半期に登場予定。
ジェイコブス氏は600シリーズについて、「その電力あたり性能は、他社の“最新”チップよりも高い」と、基調講演前日に発表されたNVIDIAの「Tegra 4」を上回ることを暗にほのめかす発言をしたが、同氏はさらに、600シリーズの上位モデルとなる800シリーズを紹介した。
800シリーズのCPUコアは最大2.3GHzという高いクロックで動作するクアッドのKrait 400。GPUは、Adreno 320より、演算性能が2倍高いAdreno 330を採用。メモリは800MHzの2x32bit LPDDR3に対応し、バンド幅は12.8GB/secに達する。製造プロセスは28nm HPm(High Performance for mobile)。
同シリーズのもう1つの特徴は「UltraHD」対応。UltraHDとは、これまで4Kと呼ばれていた、フルHD(1,920×1,080ドット)の4倍の解像度のこと。800シリーズはこの解像度での出力のみならず、動画撮影にも対応。また、7.1chのサラウンドオーディオにも対応する。
このほか、下り最大150MbpsのLTE Cat 4や、最大1GHzのIEEE 802.11acといった最新の無線技術や、USB 3.0にも対応する。
800シリーズの総合性能はS4 Proよりも75%優れるという。その証明として、800シリーズの実機を使ったリアルタイムデモが披露された。
デモの内容は中世の街中にドラゴンが現われるというものだが、水の反射や、風にたなびく布、被写界深度などが高い品質で表現されていた。ジェイコブス氏の説明によると、フルHD解像度で30fpsで動作するといい、現行の据え置きゲーム機に近いグラフィックス性能がモバイルで実現できることになる。さらに800シリーズのグラフィックの消費電力はS4 Proの半分で済むという。
ちなみに、従来のSnapdragonはS1、S2、3、S4とシリーズ名が世代を表わしていたが、次世代からは3桁の数字で製品間の性能差が示されるようになり、800、600の下には400および200シリーズがラインナップされる。800シリーズを搭載する製品は2013年後半に登場予定。
ゲームに続き、UltraHDの映像に関して、映画監督のギレルモ・デル・トロ氏がゲストに招かれ、デモが行なわれた。ステージでは2013年7月公開予定の最新作「Pacific Rim」の予告編がSnapdragon 800の実機を使ってUltraHDで披露された。
UltraHDというと、まだ将来の技術というイメージもあるが、トロ氏は、UltraVioletなどの配信サービスを利用することで、タブレット上でもストレージの容量を気にすることなく、監督が意図したのと同じ仕様の映像/音声で映画を楽しむことができるようになると述べた。
映画に関しては、Star Trekシリーズの最新作「Into Darkness」とタイアップしたAndroidアプリがQualcomm LabsのGimbalプラットフォームを利用して開発されたということで、同作に出演する女優のアリス・イヴさんを招いて紹介された。
このアプリは、音声や画像、場所の認識技術を活用し、例えばTVで流される予告編を視聴すると、アプリの音声認識機能を使って、そのユーザーが予告編を見たことが認識されたり、街中のポスターの写真を撮影すると、やはりそれが認識され、活動に応じた報償がもらえるようになっている。
さて、スマートフォンはフィーチャーフォンよりも35倍のデータを消費するという。今後、UltraHDなどよりリッチなコンテンツ配信や、ネットに接続される機器の数が増えていくことで、Qualcommでは近いうちに、データ転送量は今の1,000倍に達するとみている。
その需要に応えるためには、新しいエコシステムが必要であり、同社では「1000X CHALLENGE」という名のプロジェクトのもと、解決策を模索している。その1つがスモールセルと呼ばれるIEEE 802.11ac対応アクセスポイントを、家庭内などユーザーに近い場所に多数設置するというもの。これに、同社のStreamBoostというQoS技術を組み合わせることで、多量のデータダウンロードをしながら、高品位な動画のストリーミング視聴をするといったことが、安価に実現できるという。
このほか講演では、2012 Nascar Sprint CupチャンピオンのBrad Keselowski氏や、セサミストリートのビッグバードなど、Qualcommが関わるほかのプロジェクトに関する多彩なゲストも登壇。最後は、ロックバンドMaroon 5のメンバーがミニライブを行ないショーを締めくくった。