イベントレポート

QualcommがSnapdragon 800、ルネサスがbig.LITTLE対応8コアSoCをデモ

会期:2013年2月25日~28日(現地時間)

会場:スペイン バルセロナ Fira Gran Via

 Mobile World Congress(MWC) 2013の発表の花形は、端末ベンダーが発表する新型スマートフォンやタブレットなどの端末だが、その一方でインフラやプラットフォームといった端末ベンダーを支える裏方の発表も少なくない。Intelは「Atom Z2500」シリーズ(開発コードネーム:Clover Trail+)を、NVIDIAは「Tegra 4/4i」の詳細を公開しており、新製品の発表やデモが相次いでいる。

 そうしたPCユーザーにおなじみの2社だけでなく、スマートフォン向けのSoCとしては定番のSnapdragonシリーズを提供する米Qualcomm、日本のルネサス エレクトロニクスの子会社でスマートフォン向けSoCを開発/提供するルネサス モバイルなどもブースを構えて、スマートフォン、タブレット向けプロセッサのデモを行った。

 本レポートでは、そうしたスマートフォン、タブレット向けSoCの展示、デモなどに関してのレポートをお伝えしていきたい。

CESに引き続いてSnapdragon 800のデモを行ったQualcomm

 Qualcommは、1月のInternational CESにおいて新しいSnapdragonシリーズ(800/600/400/200)を発表した(別記事参照)。その時点では、どのような製品群であるのか不明だったが、MWC 2013の開催に合わせて同社サイトなどで詳細を明らかにした。

【表】Snapdragon 800/600/400/200のスペック
 Snapdragon 800Snapdragon 600Snapdragon 400Snapdragon 200
CPUKrait 400(最大QC/2.3GHz)Krait 300(最大QC/1.9GHz)Krait 200(最大DC/1.7GHz)/Cortex-A7(最大QC/1.4GHz)Cortex-A5(最大QC/1.4GHz)
メモリLPDDR3LPDDR3LPDDR2/LPDDR3LPDDR2
GPUAdreno 330Adreno 320Adreno 305Adreno 203
動画4Kx2K1080p1080p720p
ディスプレイ(内蔵/外付け)2,560×2,048ドット/4Kディスプレイ出力2,048×1,536ドット/1080p1,280×800ドット/1080p840x480ドット
DSPHexagon QDS6V5A/600MHzHexagon QDS6V4/500MHzHexagon QDS6V4/500MHzQDSP5/384MHz
モデム3G/4G/LTE(製品により異なる)なし3G/4G/LTE(製品により異なる)3G/4G/LTE(製品により異なる)
USBUSB 3.0/2.0USB 2.0USB 2.0USB 2.0
BluetoothBluetooth 4.0 ベースバンドBluetooth 4.0 ベースバンドBluetooth 4.0 ベースバンドBluetooth 4.0 ベースバンド
Wi-FiIEEE 802.11n/ac(2.4/5GHz)ベースバンドIEEE 802.11n/ac(2.4/5GHz)ベースバンドIEEE 802.11n/ac(2.4/5GHz)ベースバンドIEEE 802.11n/ac(2.4/5GHz)ベースバンド
GPSgpsOne Gen8BgpsOne Gen8AgpsOne Gen8AgpsOne Gen7A
カメラ最大5,500万画素(3D立体視)、2xISP最大2,100万画素(3D立体視)最大1,350万画素(Krait200のみ3D立体視)最大800万画素
プロセスルール28nm HPm28nm LP28nm LP45nm LP

 4つの製品群は、Snapdragon 800、Snapdragon 600、Snapdragon 400、Snapdragon 200。大別すると、Snapdragon 800とSnapdragon 600が成熟市場向けハイエンドスマートフォンやタブレット向けの製品で、Snapdragon 800はモデムありとなしの両方がラインナップされており、Snapdragon 600はモデムなし専用となる。

 Snapdragon 400はメインストリーム市場向けだが、CPUデザインは2種類が用意されており、比較的上位の製品はKraitの開発コードネームで知られるQualcomm独自設計CPUのデュアルコア版、下位製品にはCortex-A7のクアッドコアが採用されている。Snapdragon 200は、CPUにCortex-A5のクアッドコアが採用されており、成長市場などに投入される低価格スマートフォン向けという位置付けになる。

 日本市場に投入されるようなハイエンドスマートフォンやタブレットに採用されそうなのは、Snapdragon 800とSnapdragon 600になる。実際、MWCの期間中にASUSTeK Computerが発表した「PadFone Infinity」にはSnapdragon 600が採用されているなど、今後新製品が登場した時には、現在多くの製品で採用されているSnapdragon S4 Pro(APQ8064など)に替えて搭載される可能性が高い。

 スマートフォン市場におけるQualcommの強さは、他社に先駆けてモデムを内蔵したこと、さらにはモデムに関しては他社を大きく引き離す実績があるため、世界中のキャリアがQualcommのモデムの認証を行なっており、OEMメーカーが安心して利用できるという信頼性にある。この点で、2013年もその優位性は簡単には揺るぎそうにはない。なお、QualcommではSnapdragon 600を搭載した端末は2013年第2四半期、Snapdragon 800を搭載した端末は2013年半ばまでに市場に登場すると説明している。

 今回QualcommはCESに引き続きSnapdragon 800のデモを行った。CESにも設置されたシアターでSnapdragon 800のGPUを利用して7.1chオーディオを利用したビデオを再生しその迫力を体験できるというものだ。今回はそれに加えて音声認識のデモ、GPUも利用して写真の編集をリアルタイムで行なうデモ、16個のレンズを利用して撮影した静止画のフォーカスを、撮影後にも変更できるデモなどが行なわれた。いずれもSnapdragon 800の処理能力の高さをアピールするためのデモとなっていた。

 また、写真撮影は禁止となっていたが、「RF360」とよばれる1パッケージで多数の周波数をカバーするRFチップの発表を行ない、その展示も行なっていた。RFチップとは、ベースバンドチップ(モデム統合型SoCではこの部分がSoCに統合されている)と呼ばれるモデムの本体と組み合わせて利用される無線部分で、このRFチップがどの周波数に対応しているかでスマートフォンが通信できる帯域などが決まってくる。例えば、LTEでは世界中で40にも及ぶ周波数が利用されており、ある製品のRFチップでサポートできる帯域が、別の製品ではサポートできないという事例が発生していた。例えば、AppleのiPhone 5はLTEに対応しているが、対応する帯域によって2つの製品が用意されており、ユーザーが海外に持ち出してローミングしたいと思ったとき、その国のLTEの周波数に対応できないということが現実に起きている。

 そこで、RF360では複数のチップを1つのパッケージに封入する方式で、これまでは実現できていなかった、現存するすべてのLTE周波数に対応することが可能になっている。端末メーカーがこれを採用すると、自国で契約しているキャリアだけでなく、海外旅行でローミングした時でも、現地のローミングパートナーのLTEネットワークを利用できるようになる。

 また、このRF360は、QualcommがMWCで発表したカテゴリー4(150Mbps)のLTEモデム「MDM9225」と組み合わせて利用可能で、PC/タブレット向けワイヤレスWANモデムのブランドである「Gobi」シリーズとして提供される予定だ。富士通、パナソニック、LenovoなどのPCベンダーがコメントを寄せており、将来これらのメーカーのPCに採用される可能性が高くなっている。なお、QualcommによればMDM9225を搭載したシステムは2013年11月以降に登場する予定だとしている。

Snapdragon 800を搭載したスマートフォンでの音声認識のデモ。スマートフォンに向かって「Hello, Snapdragon」(こんにちはスナップドラゴン)と話しかけると、「Yes,master」(お帰りなさいませご主人様?)と答えを返してくれる。すでにこうした機能はNTTドコモの「しゃべってコンシェル」やiPhoneの「Siri」として搭載されているが、今後より充実するかもしれない
背面に用意された16個のレンズを使ったカメラ。これを利用してさまざまな処理を行なえる
最初は中央の女性にあっていたフォーカスを、手前の男性に変更可能。すべての処理はCPUとGPUで演算して実行される。デモに利用されているのはSnapdragon 800を搭載したタブレットのリファレンスデザイン
写真の合成などもCPUやGPUを利用してリアルタイム処理

big.LITTLEに対応したオクタコアSoCのデモを行なったルネサス モバイル

 ルネサス モバイルもMWCにブースを出展し、同社のスマートフォン向けSoCのデモを行なった。

 今回公開したのは、「MP6530」と「APE6」という2つの製品。MP6530は、Cortex-A15コアが2つ、Cortex-A7コアが2つというクアッドコアCPU(最大2GHz)になっており、GPUはImagination Technologiesの「PowerVR SGX544MP2」が採用されている。最大の特徴は、CPUがARMのbig.LITTLEとよばれる省電力技術に対応していることだ。CPUの負荷や放熱などの状況に応じてCPUのコアをA15からA7へと切り換えたり、その逆の動作が行なわれる。さらに、MP6530は同社のLTEモデム(カテゴリー4対応)を内蔵しており、RFチップを追加するだけでスマートフォンを製造できる。

 これに対して、APE6はCortex-A15が4コア、Cortex-A7が4コアとオクタ(8つ)コアCPUとなっている。こちらもbig.LITTLEをサポートしており、すべてのコアが同時に動いたり、一部のコアだけが動いたり、A7コアが1つだけ動いたりなどの動的にコア数を増減して性能向上と省電力のバランスをとることができる。また、GPUに関してはImagination technologiesの最新GPUであるシリーズ6(開発コードネーム:Rogue)を搭載しており、従来製品に比べて圧倒的に高いGPU性能を実現しているのが大きな特徴と言える。

 ルネサス モバイルのブースでは、MP6530とAPE6の両方が展示されており、APE6に関してはbig.LITTLEが動作する様子もデモされた。現時点では、A15、A7で合計8つのコアがあるうち、どのコアを有効にするのかはマニュアルで行なっていたが、製品になったときには、すべて自動で行なわれるようになるとのことだった。

 ルネサス モバイルによればMP6530は200~300ドル程度の価格帯となるスマートフォンをターゲットにしており、大手OEMへのサンプルが間もなく開始される予定だ。APE6は今回に関しては技術デモということで、投入時期などは未公表だが、よりハイエンドなスマートフォン向けの市場を狙っていきたいとのことだった。

MP6530を搭載したリファレンスキット。big.LITTLEに対応したSoCとしては最初の製品となる
オクタコア(A15×4、A7×4)CPUを搭載したAPE6
現時点ではコアの切替はマニュアルで行なわれていたが、製品では自動切替になる
APE6に搭載されたPowerVR Series 6のデモ

(笠原 一輝)