イベントレポート

Samsungが1Gbitの大容量埋め込みMRAMを開発

~IEDM 2019 イベントレポート

試作した1Gbit埋め込みMRAMの主な仕様(製品仕様ではない)。このほか、2bitの誤り訂正回路(ECC)を搭載している。SamsungがIEDM 2019で発表した論文から(講演番号2.2、以下同じ)

 Samsung Electronics(以降Samsung)は、記憶容量が1Gbit(128MB)と非常に大きな埋め込みMRAMを開発し、その技術概要を米カリフォルニア州サンフランシスコで開催された国際学会「IEDM」にて、2019年12月9日(現地時間)に発表した(講演番号および論文番号は2.2)。

 マイクロコントローラやSoCなどで埋め込みフラッシュメモリおよび埋め込みDRAMを置き換えることや、SSDの高速バッファメモリに応用することなどを狙う。

 Samsungは昨年(2018年)12月に同じくIEDMで8Mbitの埋め込みMRAMを開発し、製品レベルの信頼性を備えていることを示していた(Samsung/GF/Intel/東北大学が明らかにしたMRAMの最新技術)。

 そして今年(2019年)の3月には、この8Mbit埋め込みMRAM(eMRAM)の量産を開始したと発表した(Samsung、埋め込みフラッシュを置き換える磁気抵抗メモリ「eMRAM」の量産を開始)。8Mbit、すなわち1MBという記憶容量は、埋め込みフラッシュメモリを内蔵したマイクロコントローラ(フラッシュマイコン)製品の大半を置き換えられる容量でもある。

 そしてSamsungはeMRAM量産を3月に発表したさいに、2019年中に記憶容量を1Gbit(128MB)に拡大したeMRAMをテープアウトすると告げていた。今回のIEDMにおける発表は、この予告を実現したといえる。

 今回のIEDMでSamsungははじめに、量産を開始した8Mbit eMRAMの現状について報告した。量産の歩留まりは97%前後を安定に得ているという。製造技術は28nm世代のFD-SOI(完全空乏型シリコン・オン・インシュレータ)CMOSロジック、MRAM技術は垂直磁気記録方式のスピントルク注入磁気メモリ(pSTT-MRAM)である。メモリセル面積は0.0364平方μm。動作温度範囲は-40~105℃、データ保持期間は105℃で10年、書き換えサイクル寿命は100万サイクルである。

 この8Mbit MRAMマクロを128個と数多く搭載したシリコンダイを開発することで、1Gbit(128MB)と非常に大きな記憶容量を達成した。現在のフラッシュマイコン製品が内蔵する埋め込みフラッシュの記憶容量が最大で4MB~8MBなので、128MBという記憶容量はその32倍~16倍に相当する。

 学会発表レベルでも、ルネサス エレクトロニクスが2019年6月に国際学会VLSIシンポジウムで発表した大容量埋め込みフラッシュ内蔵マイコンの192Mbit(24MB)が最大で(ルネサス、自動車用マイコン向けに192Mbitの大容量埋め込みフラッシュを開発)、Samsungが開発した埋め込みMRAMの記憶容量は、学会発表レベルでも埋め込みフラッシュの5.3倍と大きい。

試作した1Gbit埋め込みMRAMのシリコンダイ写真(左)とレイアウト(右)。シリコンダイの寸法は公表していない
試作した1Gbit埋め込みMRAMのメモリセル構造(左)と磁気トンネル接合(MTJ)部分の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した画像(右)。メモリセルは、配線工程の途中でMTJを形成する「1T1R(1個のトランジスタと1個の磁気抵抗素子)」タイプ。MTJの直径は38nm~45nm

試験生産では90%を超える製造歩留まりをすでに確認

 1Gbit(128MB)ダイの開発で重点を置いたのは、製造バラつきと欠陥密度の低減による高い歩留まりの維持である。8MbitのMRAMマクロを単純に数多く並べただけでは、製造歩留まりが大幅に低下してしまう。

 たとえばビット誤り率が3ppm(3✕10-6)だと、8Mbitのマクロでは99%の歩留まりが期待できる。ところが1Gbitのマクロになると、歩留まりは60%に低下してしまう。そこで記憶素子である磁気トンネル接合(MTJ)の均一性を高めて、抵抗値と書き込み電流のバラつきを減らした。さらに、製造プロセスを最適化することでMTJに悪影響を与える欠陥の密度を低減した。

 この結果、1Gbitと記憶容量を128倍に拡張したにもかかわらず、試験生産では90%を超える高い歩留まりを得た。

試作した1Gbit埋め込みMRAMの製造歩留まり。読み出しと書き込みの動作が正常であること、105℃で10年間のデータ保持期間があること、書き換えサイクル寿命が106サイクルあることを良品(パス品)の判定基準とした。動作温度が-40℃、30℃、105℃のいずれも90%を超える良品率を得ている

 このような改良は、長期信頼性の向上をもたらした。105℃で10年のデータ保持期間を維持できる書き換えサイクル寿命は、1億サイクル(108サイクル)に延びた。8MbitのeMRAMに比べ、およそ2桁の改善である。

 85℃だと、書き換えサイクル寿命は1010サイクルに延びる。最終的には、1012サイクルが実現可能だと講演の質疑応答では述べていた。

10年のデータ保持期間を維持する温度と書き換えサイクル寿命の関係。125℃で100万サイクル(106サイクル)、105℃で1億サイクル(108サイクル)、85℃で100億サイクル(1010サイクル)を達成している