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MRAMの市場規模、2024年には2018年の40倍へと急伸
~「MRAM開発者デー2019」レポート
2019年8月7日 15:10
次世代の不揮発性メモリとして期待される「MRAM(磁気抵抗メモリ)」の技術と製品、市場を議論するイベント「MRAM Developer Day(MRAM開発者デー)」が米国カリフォルニア州サンタクララで2019年8月5日(現地時間)に開催された。
「MRAM Developer Day」はフラッシュメモリとその応用に関する世界最大のイベント「Flash Memory Summit(FMS)」のサブイベントとして、FMSの前日に同じ会場(サンタクララコンベンションセンター)で開催された。昨年(2018年)に始まった新しいイベントで、今年は第2回となる。
午前は1つの部屋を利用した全体講演セッション(キーノート講演とプレナリ講演)である。昼食休憩を挟んで午後は2つの部屋を利用した2本の講演セッションが並行して進む。夕方は再び1つの部屋でパネル討論会が催された。
その中でとくに興味深かったのが、フランスの市場調査会社Yole DeveloppmentによるMRAMの技術と市場に関する講演「MRAM Technology and Market Trends(MRAMの技術動向と市場動向)」である。そこで本稿では、講演の概要をご紹介したい。講演者はYole DeveloppmentでTechnology and Market AnalystをつとめるSimone Bertolazzi氏である。
Yole Developpmentは、半導体メモリの技術動向と市場動向を調査したレポートを定期的に発行している。すべての半導体メモリを対象としたレポートのほか、DRAMとNANDフラッシュメモリに関するレポート、MRAMに関するレポート、次世代不揮発性メモリ(MRAMと相変化メモリのPCM、抵抗変化メモリのReRAM)に関するレポートがある。
Bertolazzi氏は講演で、2018年の半導体メモリの世界市場は前年比26%増の1,650億ドルに達したと述べていた。過去最大の市場規模である。今年(2019年)の市場予測は説明しなかったものの、講演スライドからは約1,100億ドルと大幅減になると予想していることがうかがえた。
半導体メモリ市場の特徴は、DRAMとNANDフラッシュメモリが市場のほとんどを占めていることだ。2018年のシェアはDRAMが61%、NANDフラッシュメモリが36%となっている。両者の合計で97%を占める。残りはわずか3%しかない。
3%の内訳は、NORフラッシュメモリが1.6%、不揮発性SRAMと強誘電体メモリの合計が0.6%、次世代不揮発性メモリ(エマージングNVM)が0.2%、そのほかのメモリ(標準型EEPROMやマスクROMなど)が0.6%である。
次世代不揮発性メモリの市場規模は5年で26倍と急拡大
続いて次世代不揮発性メモリ(エマージングNVM)の市場予測である。すでに述べたように、2018年の半導体メモリ市場における次世代不揮発性メモリの割合は0.2%と非常に小さい。ここから5年後の2023年でも、同メモリの割合は3%以下にとどまる。市場規模そのものは大きく伸びるが、DRAMとNANDフラッシュメモリによる寡占化の状況は変わらない。
次世代不揮発性メモリ(エマージングNVM)の市場規模は、2018年に2億8,000万ドルと推定した(単体メモリと埋め込みメモリの合計)。これが2023年には、72億ドルへと急拡大する。年平均成長率は104%と極めて大きい。急成長を牽引するのは、3D XPointメモリに代表される大容量メモリ(ストレージクラスメモリ)である。
2020年以降は、埋め込みメモリ(Embedded Memory)の比率が増加する。2018年には全体に占める埋め込みメモリの比率は2%だった。2020年は、埋め込みメモリの市場規模は急速に拡大するものの、比率は2%で変わらない。それが2023年には16%と増加する。言い換えると、2020年以降の次世代不揮発性メモリ市場は、埋め込みメモリが牽引する。
価格の高さと記憶容量の少なさがMRAMの弱点
ここからは、講演の主題であるMRAM(STT-MRAM)を扱う。Bertolazzi氏はMRAM技術を、ほかのメモリ技術と比較して見せた。ほかのメモリ技術とは、DRAM、NANDフラッシュメモリ、NORフラッシュメモリ、PCM(3D XPointメモリ)、ReRAMである。
2018年における単体のメモリ製品で比較すると、MRAMは速度と書き換え回数で優れるものの、価格(記憶容量当たり)と記憶容量で劣る。6種類のメモリ技術の中で、価格(記憶容量当たり)は2番目に高く、記憶容量は2番目に少ない。
MRAMの記憶容量は今後5年で8倍に増大
ただしMRAMの弱点は、今後5年でかなり緩和されるとBertolazzi氏は予測する。DRAMの記憶容量(シリコンダイ当たり)は16Gbitから32Gbitへと2倍の増加にとどまる。微細化が大きくスローダウンしているからだ。2018年時点での製造技術は15nm世代であり、2024年時点でも11nm世代にとどまる。
これに対して、MRAMは微細化の余裕がまだある。2018年時点での製造技術は40nm世代であり、これが2024年には16nm世代へと一気に微細化する。記憶容量(シリコンダイ当たり)は1Gbitから8Gbitへと8倍に増えると予測する。
埋め込みメモリでは微細化とともにMRAMの優位が強まる
MRAMは単体メモリだけでなく、埋め込みメモリ(マイクロコントローラやSoCなどのロジックと同じシリコンダイに埋め込むメモリ)としての市場拡大も期待できる。埋め込みメモリとしての特性をほかのメモリ技術(フラッシュメモリ/DRAM/SRAM/PCM/ReRAM)と比較すると、優れた点が多い。最大の特長は、これといった大きな弱点がないことだ。
とくに埋め込みフラッシュ(eFlash)は微細化が限界に達しつつあることから、埋め込みMRAMが最初に置き換える分野として注目されている。またSRAMも微細化のペースが鈍化しつつあり、しかもシリコン面積が大きいことから、低速のワーキングメモリでMRAMがSRAMを置き換えることが次の応用分野となりそうだ。さらに将来は、ラストレベルキャッシュ(LL Cache)で高速SRAMと埋め込みDRAMを置き換えるという期待がある。
そして有力なシリコンファウンダリのすべてが埋め込みMRAMのマクロを提供しつつあるほか、大手シリコンファウンダリが単体MRAMの微細化で協力関係にある。さらにはMRAMの量産用成膜装置と量産用エッチング装置を、大手の製造装置ベンダーが開発済みだ。
こういった積極的な活動により、MRAMの市場規模は今後、急激に拡大するとYole Developpmentは予測する。市場規模は2018年から2024年までの間に年平均85%で成長し、2024年には17億8,000万ドルに達する。2018年に比べ、40倍に急増する。内訳は単体メモリが5億8,000万ドル、埋め込みメモリが12億ドルである。
講演スライドには2018年の市場規模が掲載されていなかったが、筆者の計算によると市場規模は約4,400万ドルとなる。
ここから6年で17億ドルを超える市場規模に拡大するというのは、相当に強気な予測だ。実際にはこの半分でも、かなりの成功と言えるだろう。行方を見守って行きたい。