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ネット回線は10Gbpsにアップグレードすべきか?1Gbpsとの違いや環境構築方法を解説

 Web会議やオンラインゲーム、YouTubeなどでの映像配信など、インターネットを利用したサービスのリアルタイム化によって、一般家庭向けでもより高速な回線へのニーズが高まっている。

 1Gbps回線が標準となった今、さらに高速な10Gbps回線は魅力的な存在と言える。しかし、果たして10Gbps回線は乗り換えるほどの価値があるのだろうか?そもそも、10Gbps回線を活用するためのPC環境はどう整備すればいいのか?本稿で詳しく解説していこう。

10Gbps回線に乗り換えるべきか?

 10Gbpsに対応したインターネット接続サービスに乗り換えるべきか?一般的な家庭で考えると、これは正直難しい問題だ。

 もちろん、回線の“理論上の“最大速度は従来の1Gbpsよりも、10Gbpsのほうが速い。その一方で、料金に大きな違いがあるわけでもなく、1Gbpsサービスと10Gbpsサービスの差は、マンションタイプの場合で2,000円前後、戸建てタイプの場合で1,000円前後となっている(一定期間の利用が条件となる場合もあるので詳細は要確認)。

ドコモ光の価格の例。10Gbpsは月額6,380円から、1Gbpsは同4,400円(マンション)もしくは5,720円(戸建)からとなっている

 このため、速度と価格の関係で考えると、現状は1Gbpsの回線サービスを利用するより、10Gbpsの回線を利用するほうがコストパフォーマンスで有利となる。しかしながら、物価高が家計を圧迫する中、少しでも通信費用を削減したいという人もいるはずだ。そうなると、現状速度に不満がないのであれば、無理に10Gbpsの回線サービスに移行する必要はないとも言える。

 では、積極的に移行を検討すべきなのはどのようなケースかというと、現状の1Gbpsサービスに何らかの問題を抱えている場合だろう。

 「Web会議が頻繁に途切れる」、「ゲームのダウンロードやアップデートが終わらない」、「Webサイトですら表示に時間がかかる」といったケースでは、回線を変更してみる価値はある。

 特に、現在のインターネット接続サービスがPPPoE方式のままとなっている場合は、プロバイダの設備の問題で混雑が発生している可能性が高いため、IPoE IPv6+IPv4 over IPv6環境への移行ついでに、10Gbps回線への変更を検討する価値がある。

 ただし、10Gbpsサービスに移行したからと言って、必ずしもインターネット接続状況が改善されるとは限らない。

 いわゆるピーク時間帯となる平日夜(20時から23時)など、純粋に利用者が多い状況では、接続先のサーバーが混雑しているため、回線速度が1Gbpsだろうと、10Gbpsだろうと、特定のサービスを快適に利用できない状況は同じだ。また、YouTubeなどの配信サービスは、配信者側の回線速度も影響するため、視聴者側の回線だけが10Gbps対応となっても、配信の途切れを回避できない場合もある。

JPIXが公開している首都圏と大阪のトラフィックの状況。18時以降の時間帯にアクセスが集中する大きな山が発生しているのが分かる

 実際、筆者も測定サイトで上下4~5Gbpsほど出るauひかりの10Gbps回線を利用しているが、それでも月曜日の20時にINTERNET Watchで掲載している「イニシャルB」のYouTubeチャネルのライブ配信を実施すると、タイミングによっては「受信している動画が少ない」というメッセージが出て、配信が一時的に途切れることがある。このため「絶対に10Gbpsの回線を選んだほうが快適」と言い切ることはできない。

 詳細は後述するが、PCやスイッチングハブなどのネットワーク機器をきちんと10Gbps対応に揃えた状態で、スピードテストなどを実行すれば、実効で4~5Gbps、環境によっては6Gbps以上の速度が表示されるケースもある。

 しかし、その速度が「どんな時間帯であっても常に」、「どの接続先に対しても実現可能」かというと、そういうわけではない点に注意が必要だ。

10Gbps回線にする意味はないのか?

 もちろん、だからと言って10Gbps回線を選ぶ意味がないのかというと、そういうわけではない。接続先によるが、シンプルにファイルのダウンロードやアップロード速度が高速化される可能性は高い。

 回線の整理によって筆者宅に1Gbpsの回線がなくなってしまったため、古いデータで申し訳ないが、以下が回線速度の違いによるファイルのダウンロード速度の違いだ。2018年に筆者宅にauひかりを敷設した際、10Gbpsのauひかり、1GbpsのNURO光(回線は2GbpsだがPC接続は1Gbps)、1Gbpsのフレッツ光ネクスト(PPPoE)で、4.5Gbpsのファイル(Windows 10のISOファイル)をMicrosoftのサイトからダウンロードした際の速度の比較となる。

4.5Gbpsのファイルをダウンロードした場合

 ダウンロードやアップロードの速度は、前述したようにコンテンツ配信ネットワークなども含めた接続先の状況にもよるので参考程度に考えてほしいが、状況によっては2倍ほどの速度でデータを転送できる(さすがに10倍にはならない)。

 また、筆者宅でもよくあるケースだが、家族がリビングでNetflixなどの動画を見ている最中に、仕事部屋からWeb会議をすることがある。2系統程度の同時利用なら、1Gbps回線でも問題ないが、さらに家族が多い環境で、より多くの同時利用が発生する場合は、10Gbps回線の帯域の太さが生きてくる。

 在宅勤務やテレワーク、オンライン授業などは、むしろインターネットのピーク時間帯以外に実施される場合がある。こうしたサービスを快適に利用するという意味では、10Gbps回線を利用するメリットはあるだろう。

回線だけ10Gbpsでは意味がない?

 10Gbpsの回線を導入した場合は、そこに接続するスイッチングハブやPCなどの機器の10Gbps対応も必要になる。ただ、これはよく言われることだが必須というわけではない。

 道路にたとえると分かりやすいが、10Gbps回線が高速道路だとすると、1Gbpsで接続する機器はそこに合流する一般道というイメージになる。複数の1Gbps一般道から、同じ1Gbpsの高速道路に合流するとなると渋滞が発生しやすいが、10Gbpsの高速道路になれば複数の1Gpbs一般道から合流があってもスムーズに流れる。

 なので、10Gbpsの回線を複数台の機器でシェアするという考え方においては、PCが1Gbps接続のままでも、トータルで10Gbpsという回線容量を生かすことができる。

 ただし、最高速度を求めるのであれば、一般道も10Gbps化し、すべて10Gbpsで通信できるようにすべきなので、家庭内LANの構成要素となるスイッチングハブ、ネットワークアダプタ、ネットワークケーブルなどを10Gbps対応にする必要がある。

スイッチングハブ

 スイッチングハブは、必須というわけではない。10Gbps回線でレンタル提供されるルーターなどの機器にも10Gbps対応のLANポートが1ポートは搭載されている。このため、10Gbpsで接続するPCが1台のみならこのポートを利用し、ほかのPCは1Gbpsで接続すればいい。

 もしも、複数台のPCを10Gbpsで接続したいのであれば、10Gbpsに対応したスイッチングハブを購入する必要がある。

 以前は5万円前後することもあったが、近年低価格化が進んできた。たとえば、TP-LinkのDS105Xは、実売価格3万円台で購入できる。5ポートすべてが10Gbpsに対応しており、ファンレスとなっている。

 また、中国の新興ブランドの格安製品(XikeStor、FOXNEO、KeepLinkなど)であれば、8ポート対応でも3万円以下で購入可能となっている。8ポート対応の製品は、比較的音の大きいファンが搭載される。家庭用としてはおすすめできないが、音とサポートを気にしないのであればお買い得だ。

XikeStorの10Gbps対応8ポートスイッチ

 なお、スイッチングハブ、ネットワークアダプタともに、ポート形状はRJ45(一般的なLANケーブルで採用されている形状)のものをおすすめする。SFP+というポートもあるが、こちらは光ファイバーなどを接続するためのもので、別途、トランシーバーモジュールやトランシーバー付きケーブルの購入が必要になる。

スイッチやアダプタを購入する際は、一般的なRJ45対応製品を選ぶのが無難
SFP+は主に光ファイバーでの接続に利用。トランシーバーやトランシーバー一体型のケーブル(AOCやDAC)が必要になる

ネットワークアダプタ

バッファローのLGY-PCIE-MG2

 ネットワークアダプタは、拡張スロットに空きがあるデスクトップPCであれば、PCIe接続の製品を利用する。こちらもIntelチップ(X540)を搭載した中国製の新興ブランド製品が存在するが、一般的にはTP-LinkのTX401(実売1万円前後)、バッファローのLGY-PCIE-MG2(実売1万円前後)、ASUSのXG-C100C(実売1万7,000円前後)あたりを購入するといいだろう。

 ノートPCの場合は、Thunderbolt 3/4、USB4接続のアダプタを利用する。NASベンダーとして知られるQNAPのQNA-UC10G1T(実売5万円前後)や1世代前のQNA-T310G1T(実売4万5,000円前後)、OWCのThunderbolt 3 10G Ethernet Adapter(実売3万3,000円前後)などがある。いずれも高価なので、低価格で済ませたいのであれば、新興メーカーのORICOのThunderbolt 3 10GbE Ethernet Adapter 10gbps(実売2万7,000円前後)や、AliExpressで販売されている製品なども選択肢として考えたい。

AliExpressで購入したThunderbolt 3/4、USB4接続の10Gbps対応ネットワークアダプタ。実売で1.5万円ほどだった

 ただし、Thunderbolt接続のアダプタは、Windows 11のセキュアブートとの組み合わせに注意が必要だ。Windows 11はセキュアブートによって起動時にPCの構成が変更されたことを検知すると、TPMがリセットされてシステムが保護される。

 このため、Thunderbolt接続のアダプタの着脱を繰り返すと(前回の起動時とThunderboltアダプタの接続状態が異なると)、起動時にBitLockerの回復キーの入力が求められたり、PINの再設定が発生したりする。これはセキュアブートの正常なセキュリティ機能だ。

 メーカーによってはUEFI設定で起動時にThunderboltを無効にするなどの設定で回避できる場合がある。また、セキュリティレベルが大幅に低下するので、おすすめはしないが、セキュアブートを無効にすることでも回避できる。さらに筆者は試していないが、Windows 11 ProであればグループポリシーでTPM platform validation profileの項目を変更することでも回避できるという海外の掲示板の書き込みもある。

 いずれにせよ、セキュアブートでトラブルが発生する可能性があるため、何等かの対処が必要だ。

ネットワークケーブル

10Gbps通信にはカテゴリ6Aのケーブルを利用する

 ネットワークケーブルは、基本的にカテゴリ6Aを利用すればいい(55mまでならカテゴリ6でもOK)。

 もちろん、市販されているカテゴリ8(8.1)などを利用しても構わないが価格が高く、品質的にも過剰となる。また、カテゴリ5eなどでも接続することは可能となる。ケーブルの品質によっては10Gbpsでリンクする場合もあるが、長距離通信でエラーや再送が発生する可能性もあるため、カテゴリ6Aを利用することをおすすめする。

Wi-Fiルーター

Wi-Fi 7対応のバッファロー「WXR9300BE6P」

 Wi-Fiルーターに関しては、現状10Gbpsのスピードをフルに生かすことは難しい。

 Wi-Fi 7であれば、6GHz帯で最大11,520Mbpsに対応した製品もあるが、これはアクセスポイント2台をメッシュ構成で接続した場合の速度となる。ノートPCに内蔵されているWi-Fi 7は、現状最大でも320MHz幅、2ストリーム対応となるため、最大5,764Mbpsが限界となる(スマホは2,882Mbps)。

 とはいえ、Wi-Fi 6では最大2,402Mbpsまでとなるため、Wi-Fi 7に変更しておくことをおすすめする。

 このように、10Gbpsでの速度をPCから回線まですべてで実現するには、機器の準備が必要になる。費用的にはトータルで5~6万円以上かかる場合もあるため、予算の確保が必要だ。そこまで費用をかける価値があるかどうか、慎重な検討が必要と言えるだろう。

10Gbp回線だからと言って10Gbpsの速度が出るわけではない

 最後に、筆者宅に敷設済みの10Gbps回線について紹介しておく。

 筆者宅では、先にも少し触れたauひかりと、フレッツ光クロスの2本の10Gbps対応回線を敷設している。それぞれの回線速度は、以下の通りだ。

auひかり
auひかりの速度。おおむね4Gbps前後
フレッツ光クロス
フレッツ光クロスの速度。いつでも1Gbpsちょい

 まず10Gbps回線と言っても、帯域が確保されているわけではなく、ベストエフォートのサービスとなるため、10Gbpsで通信できるわけではない。条件が極めて良好でも6~8Gbps前後となる。

 筆者宅ではもう少し状況が悪く、auひかりで4~5Gbps前後、フレッツ光クロスでは1.3Gbps前後となる(もちろん前述した10Gbps対応スイッチやアダプタを利用した状態)。フレッツ光クロスに関しては明らかに遅いため、サポートに連絡してONU(光回線終端装置)の交換なども実施したが、今のところ状況は変わってない。

 いずれも快適に利用できているので、実用上の問題はないのだが、フレッツ光クロスに関してはせめて2Gbps台を見てみたいものだ。

NTT東日本の10Gbps回線サービス「フレッツ光クロス」のWebページ

 ちなみに、筆者宅のauひかり10Gbpsと、フレッツ光クロス10Gbpsの速度の差だが、スピードテストでは数倍の違いとなるが、実際の利用シーンではそこまで大きな差にはならない。

 以下は、SharePointからのファイルダウンロード速度の比較だ。同じサーバー上の同じファイル(3.66GB)を、実効1.3Gbpsのフレッツ光クロスは3分でダウンロードし、実効4Gbps前後のauひかりは2分15秒でダウンロードできた。速度換算すると、フレッツ光クロスは約162Mbps、auひかりは約216Mbpsとなる。

3.66GBのファイルをダウンロードした場合

 Webの閲覧、動画配信サービスの利用、YouTubeでのライブ配信など、日によって回線を使い分けながらしばらくテストしてみたが、実質的な違いはほぼ分からない(意識しないとどっちでつないでいるのか判別不能)。

 実質1.3Gbpsで頭打ちのフレッツ光クロスでも差を感じないので、冒頭でも触れたように、今現在特に困っていないのであれば1Gbpsのまま使い続けるという選択肢もアリだ。

徐々にステップアップするのも手

 以上、10Gbps回線のメリットや利用するための環境、実際の使用感などについて紹介した。回線によって差はあるものの、1Gpbsよりも高速なのは確かだが、実用環境に大きな違いがあるかどうかは環境や利用シーン次第と言える。

 むしろ大変なのは、自宅のネットワーク環境を10Gbpsに対応させることだ。スイッチングハブやアダプタもだいぶ安くなってきたが、それでも多額の投資が必要になる。とりあえず回線だけ10Gbps化しておき、PCの対応はもう少し後、10Gbps対応のスイッチングハブやネットワークアダプタが安くなったタイミングまで待つ、というのも悪くないだろう。