イベントレポート

ルネサス、自動車用マイコン向けに192Mbitの大容量埋め込みフラッシュを開発

~2019 VLSIシンポジウムレポート

開発した大容量埋め込みフラッシュメモリ技術によって試作したシリコンダイの写真。4MBのプログラムコード格納用マクロを6個と、256KBのデータ格納用マクロを4個、搭載した。シリコンダイの面積は公表していない。2019 VLSIシンポジウムの論文集から

 ルネサス エレクトロニクスは、記憶容量が24MB(192Mbit)と大きな埋め込みフラッシュメモリ技術を開発し、国際会議「VLSIシンポジウム」で6月12日にその概要を講演発表した(講演番号および論文番号はC17-5)。自動車用マイクロコントローラ(マイコン)の制御用ソフトウェア(プログラムコード)を格納するためのメモリである。

自動車用マイコンが埋め込みフラッシュの大容量化を要求

 自動車用マイコンでは、制御ソフトウェア格納用メモリを内蔵する。外付けメモリは基本的に使わない。外付けメモリだと、マイコンとメモリを接続する配線が一定以上の長さとなり、外部から来る雑音の影響が大きくなる。これを防ぐため、オンチップであることが求められる。

 最近の自動車用マイコンは電子制御機能の複雑化と統合化により、制御ソフトウェア格納用メモリに対する大容量化の要求が依然として強い。さらに最近では、無線通信によって制御ソフトウェアの内容を更新する「オーバーザエア(OTA:Over-The-Air)」に対応することが求められている。

 OTAでは、更新版の制御ソフトウェアを無線通信経由で格納するために、制御ソフトウエア格納用メモリにあらかじめ空き領域を設けておく必要がある。利用中の制御ソフトウェアが必要とする記憶容量と、更新版の制御ソフトウェアが必要とする記憶容量は、ふつうはあまり違わない。言い換えると、利用中の制御ソフトウエアが必要とする容量の約2倍の記憶容量を、埋め込みフラッシュメモリとして用意しなければならない。

自動車マイコン用大容量フラッシュメモリ開発の背景。ルネサス エレクトロニクスが筆者に提供した資料から
自動車マイコン用大容量フラッシュメモリ開発の背景(続き)。ルネサス エレクトロニクスが筆者に提供した資料から

240MHzの高速読み出しと3.3MB/sの高速プログラムを実現

 ルネサス エレクトロニクス(以降はルネサスと表記)が発表した埋め込みフラッシュメモリの製造技術は、28nm世代のスプリットゲート型金属酸化窒化酸化シリコン(SG-MONOS:Split-Gate Metal-Oxide-Nitride-Oxide-Silicon)技術をベースとする。ルネサスは2015年2月に国際学会ISSCCで、28nm世代のSG-MONOS技術をベースとする4MB(32Mbit)の埋め込みフラッシュメモリを自動車用マイコン向けに公表しており、今回の開発はその改良版に相当する。

 メモリの性能における違いは、メモリセル面積の縮小(0.053平方μmから0.045平方μmへ)、ランダム読み出し周波数の向上(200MHzから240MHzへ)、プログラムにおける低雑音モードと高速モードの2つのモードを設けたこと、データ格納用マクロの記憶容量拡大(64KBから256KBへ)、などである。高速モードのプログラムにおけるスループットは3.3MB/sと、2015年の試作チップにおける2.0MB/sから1.65倍に向上した。

試作した埋め込みフラッシュメモリの概要。左の「Conv. eFlash Macro」はルネサス エレクトロニクスが2015年に国際学会ISSCCで発表した埋め込みフラッシュメモリ。中央と右の「Proposed eFlash」がVLSIシンポジウムで発表した埋め込みフラッシュメモリ。中央はマクロ、右はシリコンダイ。いずれも動作温度範囲が-40℃~170℃と広く、自動車用マイコンに適応する。2019 VLSIシンポジウムの論文集から

 試作したシリコンダイでは4MBの制御ソフトウエア格納用マクロ(コード格納用フラッシュ(CF))を6個、256KBのデータ格納用マクロ(データ格納用フラッシュ(DF))を4個内蔵した。

 制御ソフトウエア格納用マクロが6個あるのは、2個のCPUコアを対とするCPUクラスタに2個のマクロがつながり、全体として3個のCPUクラスタを内蔵する自動車用マイコンを想定しいてるからである。またデータ格納用マクロには、OTAを高い信頼性で実行するためのデータを収容する領域(HPA: Hardware Property Area)を内蔵する。

開発した埋め込みフラッシュメモリを内蔵する自動車用マイクロコントローラ(マイコン)のブロック図。2019 VLSIシンポジウムの論文集から

電源電圧低下を抑制するプログラム技術

 発表で興味深かったのは、プログラム(書き込み)で高速モードと低雑音モードの2つのモードを設けたことだ。プログラムでは数多くのメモリセルに並列にデータを書き込むので、大電流による電源電圧の低下が問題となりやすい。そこで従来に比べてプログラム電流を半分に減らすことを考えた。これが低雑音モードである。

 ただしプログラム電流を半分に減らすと、プログラム後のしきい電圧が仕様の範囲に入らないメモリセルがわずかに生じる。そこでプログラムを2段階に分けて実行することにした。はじめは、従来の半分のプログラム電流で書き込みを実施する。それからしきい電圧を検証する。このとき正常範囲に達しないセルの割合はおよそ1%以下だという。

 次にこの1%以下のセルに対し、従来と同じプログラム電流で書き込みを実行する。プログラム電流は従来と同じであるものの、並列に書き込むセルの数が非常に少ないので、電源電流は小さく、したがって電源電圧の低下はほとんど起きない。

 なお高速モードのプログラムでは、プログラム電流は従来の半分にし、並列に書き込むセルの数を従来の2倍にする。そして低電圧モードと同様に検証を実行し、1回目の書き込みで正常範囲に入らなかったセルに対して従来と同じプログラム電流で書き込みを実行する。さらに、2個のマクロに対して並列に書き込みを実行可能とすることで、書き込みのスループットを高めている。