イベントレポート

GPUこそムーアの法則に代わる性能向上手段

~NVIDIAのフアンCEOが語る

ジェンスン・フアンCEO

 NVIDIAは、CESの開幕前々日にあたる1月6日に記者会見を開催し、同社の新製品としてデスクトップPC向けのGeForce RTX 2060、ノートPC向けのGeForce RTX 20シリーズといった新製品を発表した。

 ここ数年、NVIDIAのCESの記者会見や基調講演は自動車にフォーカスした内容になっており、時間のほとんどを自動車関連の話題に割くことが通例になっていたが、今年の記者会見では自動車関連の内容はなく、2時間のうち前半を昨年8月にSIGGRAPHで発表したリアルタイム・レイトレーシング関連技術の振り返りに時間を割き、後半はGeForce RTX 2060とノートPC版GeForce RTX 20シリーズの発表を行なうなど、PCゲーミングにだけフォーカスした内容になっていた(その翌日に自動車関連の話題はプレスリリースというかたちで報道発表された)。

 それを受けて1月9日には、CESに来ている報道関係者、アナリストを対象としてジェンスン・フアンCEOを囲んで質疑応答が行なわれたので、その時の模様をお伝えしていきたい。

ムーアの法則はすでに終焉。GPUはそれに代わる新しい性能向上の手段

司会:まず初めにフアンCEOからCESでの発表のまとめを

フアン氏:今回我々はゲーミング向けには2つの大きな発表を行なった。1つはGeForce RTX 2060だ。リアルタイムレイトレーシングをサポートしており、次世代のゲームではサポートされるようになる。深層学習を活用したDLSSも大きなアドバンテージだ。

 2つめはノートPC版GeForce RTX 20シリーズの発表だ。40超えるゲーミングノートPCに採用され1月29日以降に販売開始される。今ゲーミングノートPC市場は記録的な成長を遂げている。我々は2年前のCOMPUTEX TAIPEIでMax-Qを導入した。Max-Qは性能と省電力をギリギリのバランスで実現する技術。PlayStation 4の2倍の性能をゲーミングPCが持つようになる。

 重要なことは、ゲーミングノートPCではゲームをするだけでなく、3Dデザインをしたり、写真編集、あるいはRAWデータをもとに高解像度のビデオを編集できることだ。

Q:ヘネシー教授とパターソン教授は新しい彼らの著書の中で、ムーアの法則が減速する中で、ドメインスペシフィックアーキテクチャ(筆者注:ヘテロジニアスコンピューティングのように、汎用のプロセッサだけでなく、特定の処理を行なう演算器を追加することでSoC全体の性能を上げていくこと)を提唱している。NVIDIAはどう思うか。

フアン氏:いい質問だ。初めに両教授はとても尊敬すべき研究者で、NVIDIAにとっていい友人だ。基本的な認識としてドメインスペシフィックアーキテクチャという考え方は、ムーアの法則が限界を迎えつつある中ででてきた概念だということだ。

 ムーアの法則は18~24カ月の間にトランジスタの性能が2倍になるというのが合理的という考え方だったが、すでにコスト、消費電力の観点から実現は不可能だ。2倍の性能を手に入れようと思えば2倍のコストがかかるし、2倍の性能を手に入れようと思えば2倍の消費電力が必要になる。

 ムーアの法則では5年で10倍の性能を実現してきたが、今の現実は1年あたり数パーセントにとどまっているのがその何よりの証拠で、以前は10年で100倍だったのに、今は10年で2倍にしかなっていない。ムーアの法則はすでに変わってしまっているのだ。

 GPUのGはGeneralのGではなくて、GraphicsのGだ。つまりGPUはすでにドメインスペシフィックなプロセッサなのだ。GPUはリニアに性能が上がり続けているし、仮想的にマルチに均質化を実現している。

 このドメインスペシフィックなグラフィックスプロセッサは、ほかのドメインの処理にも使うことができる。それを実現するのがCUDAで、CUDAとGPUの組み合わせは世界初のドメインスペシフィックなプロセッサだと言っていい。その証拠にヘネシー教授とパターソン教授もかならずGPUの例に触れてくれる。

 我々はドメインの選択には注意深くなくてはならないと考えており、3つの特定のドメイン言語を持っている。それがDSL、そしてSeeQL、そしてCuDNNだ。CuDNNを使えばSeeQLで深層学習を処理できる。さらにOptiXをRTX向けに提供しており、これもドメイン言語の1つと言っていいだろう。

 つまり我々はすべてのセグメントの市場に向けてドメイン言語を用意しており、そして今後はそれをさらに注意深く増やしていく計画だ。そのため、我々はCPUのような汎用のチップは検討していない。

G-SYNCとAdaptive Syncは競合しないとフアンCEO

Q:ついさっきAMDが7nmで製造されるGPUを発表しましたが(筆者注:フアン氏の会見はAMDの基調講演の直後に行なわれた)

フアン氏:基本的には他社の製品に関してはコメントすることはできない。しかし、我々の製品には彼らの製品にはない強みがある。それはRTXによるリアルタイム・レイトレーシングだし、我々のRTXはAIで高い性能を持っていてDLSSのような高度な機能を提供している。

Q:このところIntelがAIやグラフィックスに力を入れているが。

フアン氏:Intelのグラフィックスチームというのは、AMDのグラフィックスチームのことではないか(笑)?

 冗談はともかく、私はIntelをとてもリスペクトしている。もちろん競合している分野もあるが、ノートPC向けの製品などではコラボレーションしたりしているし。AIに関しては、深層学習、機械学習、そしてデータの処理などは未来のコンピューティングを定義する。多くのユーザーはまだトラディショナルなコンピューティングを使っているが、我々は未来のコンピューティングはそこにあると考えている。

Q:RTXはたしかに素晴らしいが、対応のソフトウェアはまだほとんどない。

フアン氏:すべてはゼロから始まる。テッセレーションも初め出てきた時には対応するソフトウェアはゼロだった。何もかもステップバイステップに進展していくものだ。

Q:1月6日の記者会見ではNVIDIAがAdaptiveSyncをサポートすると発表したのには正直驚いた。なぜ競合する技術をサポートすることを決めたのか?

フアン氏:G-SYNCとAdaptiveSyncは競合していない。NVIDIAはG-SYNCで、リフレッシュレートの同期を取るという技術を発明した。その後ディスプレイ業界の各社と協力してユーザーに最高の体験を提供できるように品質を上げてきた。

 だが、残念なことにAdaptiveSyncに対応したディスプレイの品質は上がっていない。そして多くのFreeSyncディスプレイをテストしてきたが、ほとんどのディスプレイはちゃんと動かなかった。AMDのビデオカードとの組み合わせでは動くのかもしれないが、でも誰もテストしていない。それで顧客が買ってみたらちゃんと動かないというのはよくないことだと考えている。

 そこで我々はすべてのビデオカード、すべてのディスプレイ、すべてのゲームでテストしてみてちゃんと動作したものをリスト化し、動くものは動く、動かないものは動かないと自動的に認識できるようにした。これが現段階でのAdaptiveSyncのサポートである。