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「半導体を売るだけの商売」をやめたインテル

インテルの新しいスローガン「it starts with Intel」

 インテル株式会社は8月1日、都内で記者会見を開き、同社の今後の社内文化醸成ならびにマーケティングについて説明。この中で同社代表取締役社長の鈴木国正氏は、「半導体を顧客に売るだけというこれまでのやり方をやめ、顧客の立場に立って課題をともに考えて解決していく企業」という、日本発の社内文化をグローバル規模で展開していく考えを明らかにした。

 パット・ゲルシンガー氏が米Intelに戻って、CEOに返り咲いたのは2021年のこと。鈴木氏によれば、それ以降のインテルは社内文化が大きく変化し、それまでの文化では実行できなかったこを実行しつつあるという。たとえば地理的な問題を解決するサプライチェーンの改善、ムーアの法則の推進、そしてAIの民主化といった点を挙げ、これらはマネジメントによって変革がもたらされているとした。

 一方、日本法人の活動としては、独自に掲げている企業におけるDcX=データセントリックトランスフォーメーション(データを意義のあるものにして、それによって企業のビジネスに変革をもたらす)を推進してきた。その例として7月19日~20日に開催したIntel Connectionを挙げ、各企業とともにDcXの課題の列挙や解決法について討論してきたという。

代表取締役社長の鈴木国正氏
インテルのフォーカスエリア

 ではなぜ、そのDcXを他社ではなく、インテルが実行/推進しているのかという疑問について鈴木氏は「インテルは中立的な立場にあるから」だと答える。たとえばIntel Connectionの1日目の基調講演では、自由民主党幹事長とデジタルガレージの取締役を交えたトークを実施できたし、2日目の基調講演では富士通や日立、日本電気の重役の三者が語り合った。これだけ幅広い人物を一同に集められるのはなかなかない。

Intel Innovationイベント
DcXの推進

 「インテルはこれまで半導体(CPU)を顧客に売って、すごいでしょ! とアピールするだけだった。しかしこれからは顧客の立場に立って、自社が持っているものを見せるのではなく、顧客が何を求めているのかに答え、自社が持つ技術が顧客の課題解決のためにどう役に立つかを訴求していくやり方にする。

 これはバリュー・ベース・セリングという、辞書にもある言葉なのだが、パッド・ゲルシンガーが掲げた目標を達成のために、重要な企業文化であると私は認識している。この日本発の社内文化を今後、グローバルでも広めていきたい」と鈴木氏は説明する。

 もちろん、「自社が持つ技術」の中にCPUのような半導体も当然あるのだが、それを組み込んでいるさまざまなパートナーの製品(ハードウェア/ソフトウェア)も含まれ、それらを含めて顧客にソリューションとして提案できるのがインテルの利点だという。

 さらに言えば、現在インテルが注力しているファウンドリサービス(IFS)という選択肢もある。顧客の問題を解決するのが半導体そのものではなく半導体製造技術なのであれば、バリュー・ベースド・セリングの考え方で、そちらも提案していくことが可能になるというわけだ。

インテルの価値創造
バリュー・ベースド・セリング(あるいはバリュー・ベース・セリングとも

人々が本来すべきことをする時間を増やす

上野晶子氏

 続けて同社マーケティング本部長の上野晶子氏が、このバリュー・ベース・セリングの考え方に基づく2023年下期のマーケティングプランについて紹介した。

 既に述べている通り、インテルはまず企業内の課題を解決していくことが目標となるわけだが、その中でまず注力していきたいとするのがIT部門の改善だという。IT部門こそがDX(デジタルトランスフォーメーション)とDcXのカギになり、それこそが企業成長のために必要なものであるのだが、リモートワークへの対応や端末の管理業務の増大、サーバー運営コストの増加といった課題を抱えており、その課題解決に苦心するあまり、IT部門が本来すべき提案を経営陣にできていない現状があるという。

 そこでビジネスPCでは、管理が容易なvPro技術を引き続き推進していき、VTuberを起用したプロモーションや、実際の利用者のコミュニティ形成などを通して認知度を高め、導入機会を増やす。一方サーバー向けでは、さまざまなワークロードに適したアクセラレータの提供、最新サーバーのメリットを分かりやすく解説する記事の用意、ソリューションに触れられる機会を増やしていくことで認知度を高めていく。

ビジネスPCの課題とマーケティング
vPro搭載PCの施策
サーバー製品の施策

 一方、国にとっては現在デジタル人材不足も課題となっており、「デジタル人材を育成するための人材の育成」に取り組んでいるほか、自治体の導入事例を増やし、その導入のノウハウをほかの自治体に学んでもらう機会の増加、政府や各民間企業といった“点”と“点”をインテルが結び、マッチメイキングしてデジタル人材の創出に取り組むという。

デジタル人材育成の課題
点と点を結ぶインテルの役割

 個人向けのマーケティングも同様に顧客視点に立って展開する。実際、「PCを買いたいためにPCを買うのではなく、何かやりたいことを実現するためにPCを買う」のがほとんどだろう。しかしその過程で「実現したいことを達成できるPCはどれなのか? で迷ってしまって、相談相手がいなくPC選びが面白くない……と感じてほしくない」と言い、Evo準拠PCを一覧できるWebコンテンツの提供でこの課題を解決していきたいという。

 最近若者を中心にPC自作が再びブームになっているそうなのだが、ある店員から「自作PCについて久々に聞かれ答えられなかった」と聞かされたのだという。そこでインテルは近々マイスター研修を行なう予定で、初級/中級/上級の3つのコースを用意。初級に関しては小学生でも取得できるレベルだと言い、こうした活動を通じて自作PCの楽しさも伝えていきたいとした。

消費者向けのマーケティング
EVO準拠PCの推進

 ちなみにインテルはMeteor LakeからCPUのブランドを「Core Ultra」と「Core」に二分化し、「i」のブランドを外すが、これも消費者により分かりやすく訴求するための施策だとしている。

Meteor Lake世代から導入される新しいブランド

 また、「PCで実現したいこと」のより具体的な例として、「ゲームのプレイ」と「コンテンツ制作」の2つが挙げられるのだが、前者は東京ゲームショウ2023年の出展、後者はBlue Carpet Clubプログラムを介してクリエイターへのパートナーの機材提供を通じて広めていきたいと述べた。

ゲームのプレイとコンテンツ制作向けの施策
これまでのIntel Blue Carpetの実績

 「it starts with Intel」。これがインテルが掲げる新たなスローガンだ。日本語にすると「はじまりはインテルと」になるというのだが、この訳の中で「と(つまりwith)」がキーワードだと上野氏は強調する。

 「少し前に半導体の後工程のファブを見学したのだが、地域の人々を支えている、支えてもらっているのがファブであると、改めてファブを持つ意味と責任について感じた。同じことはマーケティングでも同じで、“半導体ができました”で売って終わりにするのではなく、その半導体を使って製品を作るパートナー、販売するパートナー、使っているパートナーを支えていくことが大切だと改めて認識した。やっていることはこれまでのDo something wonderfulと変わらない、でも“with”がついたフレーズになったことで、その意味は深まる」。

 インテルの単なる半導体企業からの脱却が加速する。