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【Intel Connection 2023レポート】新技術導入を妨げるアナログ規制など真のDcXがテーマ
- 提供:
- インテル株式会社
2023年6月27日 06:00
インテル株式会社は6月19~20日にかけて、経営者向けプライベートイベント「Intel Connection 2023」を東京ミッドタウンで開催した。
インテルが提唱している「DcX」(データセントリックトランスフォーメーション)を推進し、多種多様な業界/企業間の連携を促すのが主旨。イベントのテーマは「技術とビジネスをつないで新しいことを始めよう」。インテル株式会社代表取締役社長の鈴木国正氏は開会挨拶の中で「Connection」というイベント名の由来について「人と人、企業と企業、業種と業種をつなぐネットワーキングの場になればと思い命名した」と説明している。
本稿では19日に実施した基調講演「これから問われる真のトランスフォーメーションとは」と、20日の「企業変革とDX/データ・セントリック・トランスフォーメーション」の模様を中心にお伝えする。
ムーアの法則はIntelの"道標"
鈴木社長は開会に際して、インテルが現在力を入れている3つの領域「進化するムーアの法則」、「レジリエンスを備えたサプライチェーン」、「AIの民主化」について説明。このうちムーアの法則についてはインテルの"道標"と位置づけ、限界までムーアの法則を追求するとした。
レジリエンスを備えたサプライチェーンとは、コロナ禍を経て回復へ向かう業界全体を安定させるためにインテルが採る行動のこと。近年までほぼ独占に近い状況であった半導体の受託製造事業を業界の不安定化要因と捉え、2021年より展開している半導体の製造受託事業について紹介した。
また、近年急速に高性能化/普及が進むAI関連事業については、「クラウド/エッジ」と「学習/推論」の2軸で成長していくとの見解を明らかにし、この中で、全ての人々が安心/安全にAIを使う環境づくりについて言及している。具体的には、透明性/公平性/プライバシーに代表されるような倫理的/社会的責任を考慮に入れて行動するAIの運用を掲げ、取り組みの一例としてディープフェイクをリアルタイム検出する「FakeCatcher」を挙げた。
新技術の導入を妨げるアナログ規制を取り除く
初日の基調講演「これから問われる真のトランスフォーメーションとは」では、ゲストスピーカーとして衆議院議員自由民主党副幹事長の小林史明氏と、株式会社デジタルガレージ取締役/共同創業者/チーフアーキテクトの伊藤穰一氏、インテルからは鈴木社長のほか、執行役員経営戦略室長の大野誠氏が登壇した。
小林氏のパートでは、同氏が現在取り組んでいる「政府のDX」とその具体的な施策について話した。ここでは、民間のDXを加速するための大前提となる「政府のDX」を進める施策の1つとして、デジタルを軸に規制改革と行政改革を行なう「デジタル臨時行政調査会」を紹介。取り組みの主な内容としては「アナログ規制の一括改正」、「テクノロジーマップ」、「デジタル法制局」を挙げた。
「アナログ規制の一括改正」としては、デジタル技術の導入障壁となっている規制の改正を進めている。ここでは導入障壁となっている規制として、機械設備などの点検に人の直接目視を必要とする「目視規制」や、資格者が現場にいる必要がある「常駐専任」などを例示した。
小林氏によれば、調査の結果これらのアナログ規制が法令/通知/通達/ガイドラインの中に約1万条項見つかったとしており、これを2024年6月までにすべて見直すことで、民間のデジタル化と市場の成長促進、生産性の向上を図るとした。アナログ規制の見直し事例としては2020年に実施した「押印の見直し」を挙げ、結果として電子契約市場が拡大し、テレワークなど働き方の選択肢が増えたという成果を紹介。今後は約1万条項におよぶアナログ規制に対しても同様の見直しを行なうとしている。
「テクノロジーマップ」は、見直す予定のアナログ規制に対応するデジタル技術の関係を整理したもので、アナログ規制の文脈においては「目視」や「対面」に「カメラ」や「センサー」などが対応する。対応関係が埋まらない部分については技術公募を行なう。今後自治体のシステムを共通化することによって、技術が実証実験を経て認可を得た場合は、自治体を問わず認可が得られるとしている。
自治体システムの共通化は、国が用意したクラウドの上に、すべての自治体が業務アプリケーションを置くことで、各自治体における行政サービス内容の統一と向上、集約化と、IT事業者による公共サービスへの参入障壁を下げる試み。中小企業やスタートアップにも参入のチャンスが生まれるとともに、リスキリングなど事業転換のサポートも行なうとしている。小林氏はこれによって日本のIT産業が構造転換をするきっかけにしたいと話した。
このほか、スタートアップ5カ年計画や女性議員の育成/登用計画についても言及。鈴木社長との問答では「デジタル人材を増やす鍵は人々のモチベーションを上げること」との考えを示した。具体的な施策の例としては、個人に対するリスキリングの助成金支援や、転職時の退職金に対する減税などを挙げていた。
新しいアーキテクチャこそが世界を変革する
伊藤穰一氏の講演は、鈴木社長の質問に伊藤氏が回答していく形で進行した。問答ではまず「アーキテクチャ」というキーワードを建築物(Architecture)に例えて説明。素材や技術が変わると建てられるものも変わるが、ことDXにおいては、行政窓口のオンライン化などを指して「『木』と『紙』と『石』で造るのが正解だった平屋建てを鉄筋コンクリート造のビルが建てられる素材で造っているようなところがある」と指摘し、「建築家」は素材が変われば新しいものを提案すべきであるとの考えを示した。
アーキテクチャの「素材」として重要視されている半導体についてはニューラルネットワークを例に挙げ、半導体の性能が上がった結果、初めて可能になったことの1つであると評価した。ただしAIはハードウェアと深く結びついており、AIの限界もハードウェア性能の限界によってもたらされるのではないかとの予測も明らかにしている。また国家レベルの安全戦略については現時点ですでにAIと半導体それぞれの戦略を理解している必要に迫られているとしており、引き続き半導体の性能を向上させることの重要性を示唆していた。
このほか「Web3」をどのように捉え、扱うべきかについての質問には、Web3を「かつて専用回線からインターネットに切り替わったときと同じくらい重要」であると位置づけた上で「ブロックチェーン」と「スマートコントラクト」に注目しているとの見解を示した。
「ブロックチェーンの重要なところは、誰でも読み書きができて、誰のものでもない公共性。合意を必要とせず、勝手に標準化が起きていく非中央集権的なデータベースであるが、コストが高く、速度は遅く、不安定です。今は現行の仕組みと比べて非効率で不便に思える部分も多いですが、かつてインターネットがさまざまなものを解き放ったのと同じように、結局は新しいアーキテクチャが世の中を変えるのではないかと期待しています。
スマートコントラクトは確実で透明性が高くシンプルであることが重要。お金を渡したら商品がもらえるというシンプルな決済が、みんなから見えるところでできる。これは今までの会計を超えるまったく新しいシステムです。僕自身は、将来的に民主主義そのものが変わる仕組みだと思っています」(同氏)。
企業変革とDX/データ・セントリック・トランスフォーメーション
2日目の基調講演「企業変革とDX/データ・セントリック・トランスフォーメーション」では、富士通株式会社執行役員 SEVPグローバルビジネスソリューション ビジネスグループ長の高橋美波氏、株式会社日立製作所執行役専務クラウドサービスプラットフォームビジネスユニットCEOの阿部淳氏、日本電気株式会社Corporate Senior Vice Presidentマネージドサービス部門デジタルプラットフォームビジネスユニットの繁沢優香氏が登壇。Intel側は鈴木社長と、執行役員技術本部長の町田奈穂氏が進行役を務めた。
講演は鈴木社長と登壇三者によるパネルディスカッション形式。富士通、日立製作所、日本電気それぞれのDX事業を紹介し、DXに関する各々の考え方について議論を交わしていた。
阿部氏は、DXソリューション「Lumada(ルマーダ)」やクラウド運用サービス「HARC(Hitachi Application Reliability Centers)」について事例を交えつつ概要を説明した。Lumadaは「顧客の経営課題の理解」、「IT/OTプロダクトによる解決方法の創出」、「解決方法の実装」、「保守運用」のサイクルを回して顧客の課題解決を図るフレームワークであり、このうち経営課題理解の部分では、2022年に買収したGlobalLogicとの協業(アジャイル開発)によって強化を図っているとした。またHARCについてはLumadaにおいて保守運用の部分で利用しており、西友やヤオコーといった小売業での事例を挙げた。
繁沢氏は、NECにおけるDX推進事業の軸として「テクノロジー」、「組織/人材」、「ビジネスモデル」の3つを挙げた。顧客の経営計画やDXの目的を把握し、コンサルティング/SIの構築運用/教育といった各フェーズでサービスをカスタマイズしながら提供するという。
このほかNECが展開する人材育成サービスについては、DXやAIの分野でNECへ出向する形での教育プログラムが人気だという。また産学提携の取り組みとしては、筑波大学、東京大学、早稲田大学とパートナーシップを締結し、学生に実際のプロジェクトへ参加してもらい、報酬も支払う形での育成手法を紹介した。
富士通ではDXに加えてサステナビリティも視野に入れた「Uvance」を展開。高橋氏は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を背景に、今後数年でサステナビリティ・トランスフォーメーション(企業と社会の持続可能性を両立した経営・事業変革)の市場が大きく成長すると予想しており、具体的な社会課題の可視化だけでなく、どのように課題を解決するかの道筋も明らかにしていくことが重要であるとの考えを示した。
Uvanceは社会課題を解決する4分野を縦軸に、それを支える3つのテクノロジー基盤を横軸に据えた7つの重点分野からなるソリューション。コアとなるテクノロジーとして「コンピューティング」、「ネットワーク」、「AI」、「データ&セキュリティ」、「コンバージングテクノロジー(異なる技術や化学分野の融合)」を掲げている。
具体的な取り組みとしては、「Healthy Living」分野におけるコンピューティングを用いた創薬や、「Sustainable Manufacturing」分野における温室効果ガスの削減などを挙げた。
講演の中で鈴木社長は、日本企業がDXを推し進めるにあたってのヒントとして、DXが進んでいる/進んでいない企業への調査でギャップとなっている項目について言及。代表的なものとして「経営層のリーダーシップ」、「データドリブン経営の実践」、「外部との連携」を挙げた。また繁沢氏は、DXの成否を評価する指標を業績(利益が上がっているか、コストが下がっているか)に置く見方も示していた。
いずれの企業も業界/業種の垣根を超えた協業が必要であるとのスタンスは共通しており、協業を行なう外部事業者が得意な分野の見極めや、課題を素早く特定する速度感の重要性についても議論された。