福田昭のセミコン業界最前線

半導体の主役はウェハからパッケージへ。ECTCの熱気が示す研究開発の地殻変動

ECTC 2026会場ロビーのディスプレイで流された、スポンサー各社のプロモーションビデオ画像例。IBMは自らを「The Largest OSAT in North America」(北米最大のOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)企業)と名乗っていた。このキャッチコピーにはかなり驚かされた。IBMがパッケージングおよびテスト請負サービス事業を重視していることの現れだからだ。現地時間2026年5月29日に筆者が撮影したもの

 半導体開発の主役が交代しつつある。これまで脇役扱いだったパッケージング技術が、主役に躍り出ようとしている。2026年5月26日から29日に米国フロリダ州オーランドで開催されたパッケージング技術に関する世界最大の国際学会「The 2026 IEEE 76th Electronic Components and Technology Conference」(略称は「ECTC 2026」)では、ウェハからパッケージへの「主役交代」が起きつつあることがはっきりと見えてきた。

 半導体製造と開発の主役はこれまで、ウェハプロセス(前工程)に関する技術であり、主に微細化技術とトランジスタ技術と配線技術、そしてこれらに付随する要素技術の改良が半導体の性能向上、つまり回路の大規模化、高密度化、高速化、低消費電力化を推し進めてきた。1970年代~2000年代はウェハが半導体の主役であり、パッケージは脇役だった。粗く言ってしまうと、シリコンダイの性能を維持しつつ、温度や湿度、機械振動などの外的な環境からダイを保護するための容器(まさに「パッケージ」)である。パッケージに起因する寄生抵抗や寄生容量、寄生インダクタンスなどの寄生素子は、シリコンダイの性能を損なう存在として嫌われており、寄生素子を極力小さくすることが求められていた。

 しかし2010年代に入ると、微細化・トランジスタ・配線の技術改良による性能向上が鈍化し始める。一方で、先進パッケージング技術の開発と普及など、パッケージング技術にブレークスルーが生じて性能向上に大きく貢献し始めたことで、半導体チップあるいは半導体モジュール全体としての性能向上ペースが維持されるようになった。主役交代の兆しが見え始めた。

 そして2020年代に入ると、デバイス・プロセス関連技術の開発による性能向上ペースはさらに鈍化し、性能を高めるためには先進パッケージング技術の開発と採用が不可欠となってきた。主役交代は「兆し」から、「近未来に実現」の段階へと進んだ。

研究コミュニティはデバイス・プロセスとパッケージともに活発さを増す

 「ウェハからパッケージ」への流れを定量的に示すのは、研究開発コミュニティの動きだろう。具体的には、各コミュニティを代表する国際学会の開催規模と発表件数である。ここではデバイス・プロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting)」と、パッケージ技術に関する世界最大の国際学会ECTCを比較する。

 IEDMは近年、学会での発表を目指して応募した論文の投稿件数が急激に増加している。2025年開催の投稿件数は923件で、2年連続で過去最多を更新した。投稿件数は学会発表への意欲の現れであり、研究開発コミュティの活発さを示す重要な指標でもある。

デバイス・プロセス技術に関する世界最大の国際学会IEDMの投稿件数と採択件数の推移(2004年~2025年、開催年ベース)。2025年12月8日にIEDM実行委員会が開催した報道機関向け説明会のスライドから

 一方、パッケージ技術に関する世界最大の国際学会ECTCの投稿件数も増加しつつある。2026年に開催されたECTCの投稿件数は918件で、3年連続で過去最多を更新した。

IEDMとECTCの投稿件数推移(直近の3年のみ)。公表資料から筆者がまとめたもの

 上記の数値からは、ウェハとパッケージの両方ともに、研究開発が活発さを増しているといえよう。

国際学会の参加者数ではパッケージがデバイス・プロセスを抜く

 次に参加登録者数の推移を比較しよう。参加者数の規模(絶対値)とその変化は、国際学会が担う研究開発分野への関心の強さを反映する。半導体の研究開発コミュニティでは数多くの国際学会が毎年、開催される。参加者数が1,500名前後を超える規模の学会はあまり多くない。上記2学会のほかに良く知られているのは「International Solid-State Circuits Conference(ISSCC)」と「Symposium on VLSI Technology and Circuits(VLSI Symposium)」だろう。筆者の調べでは、2024年2月に開催されたISSCC 2024の参加者数は2,806名(2024年2月19日時点)、2025年6月に開催されたVLSI Symposiumの参加者数は1,874名(2025年6月7日時点)だった。

 デバイス・プロセス技術の研究開発を代表する国際学会IEDMの参加者数(開催年ベース、技術講演会初日時点の数値)は、2022年に1,771名、翌2023年に1,919名、続く2024年に2,160名と順調に増加してきた。直近の2025年は2,123名で、前年とほぼ同じ、高い水準を維持した。

 一方、ECTCの参加者数は、IEDMを超える勢いで増加している。2023年の1,619名(過去2番目に高い参加者数)から、2024年には2,007名と過去最多を更新した。翌2025年には2,516名とさらに増加し、2024年および2025年のIEDMを超える参加者を集めた。わずか2年でECTCの参加者数は1.55倍に激増したことになる。当然というか、2025年の会場は異様な混雑ぶりだった。

 さすがに2,500名を超える参加者数は異常であり、翌年は一段落すると予想する参加者は少なくなかった。しかし予想に反し、2026年のECTC会場は初日から、前年を超えるのではないかと感じるほどの混雑ぶりを呈していた。そして最終日に参加者数は2,730名、すなわち前年を200名強ほど超えていたことが明らかになった(ECTCでは最終日の昼食会で参加者数が発表されることが恒例となっている)。3年連続で過去最多を更新するとともに、IEDMの参加者数を完全に超えてしまった。

ウェハ処理技術の研究開発を代表する国際学会IEDMと、パッケージ技術の研究開発を代表する国際学会ECTCの参加登録者数推移(2022年~2026年)。各学会の公表資料から筆者がまとめたもの
2026年のECTC会場ロビー。技術講演会前日(講演会のおおよそ半分の人出)にも関わらず、かなりの混雑ぶりを呈していた。2026年5月26日(現地時間)に筆者が撮影

デバイス・プロセス・設計のトップ級企業がパッケージも手掛ける

 パッケージ技術の国際学会ECTCにおける最近の重要な変化は、研究開発成果を発表する企業の顔ぶれだ。先進パッケージング技術が開発される以前のECTCは、パッケージング技術を専門とする企業と、大手メインフレーム企業の研究部門が発表の主体だった。「OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)」と呼ばれる、パッケージング工程とテスト工程を請け負う企業群と、OSATを支える装置メーカーと材料メーカーによる発表が大半を占めていた。

 ところが最近では、ウェハ処理技術の研究開発をけん引してきた企業群が、ECTCで先進パッケージング技術の研究開発成果を続々と発表しつつある。さらには半導体の設計企業(ファブレス企業)も、ECTCの発表企業に名を連ねるようになってきた。

 そこで直近の国際学会における発表件数を比較してみる。比較の対象としたのは、デバイス・プロセス技術を代表する2025年12月開催のIEDM 2025と、パッケージ技術を代表する2026年6月開催のECTC 2026である。企業や大学など組織の発表件数は開催年ごとのばらつきが少なくないので、単純な比較は難しい。それでも参考資料にはなると考える。

Intelはパッケージ学会にデバイス・プロセス学会の4倍近い研究成果を発表

 比較した結果は、かなり驚くべきものだった。設計・デバイス・プロセスを手掛ける垂直統合型半導体メーカー大手の大半が、パッケージの学会ECTCに少なくない数の研究成果を発表していた。たとえばIntelは、2025年12月のIEDMに5件の研究成果を発表したのに対し、パッケージの学会2026年5月のECTCには、講演だけで2倍を超える12件の成果を発表していた。7件のポスター発表まで含めると、発表件数は19件に達する。IEDMの4倍に近い。

 Samsung Electronicsの発表も少なくない。IEDMでは25件と大量の研究成果を発表した。ECTCでは講演14件、ポスター4件の発表を実施した。ECTCでの発表数は合計で18件とかなり多い。TSMCはIEDMが15件、ECTCが4件(講演3件、ポスター1件)である(筆者の調べでは前年のECTC 2025におけるTSMCの発表件数は10件を優に超えており、今年はかなり少ない)。

 imecはIEDMが19件、ECTCが15件(講演12件、ポスター3件)といずれも多い。デバイス・プロセスの研究開発で良く知られるimecは、パッケージング技術の研究開発にもしっかりと取り組んでいることがうかがえる。

 IBMはIEDMが6件、ECTCが8件(講演6件、ポスター2件)とECTCの発表数がIEDMを上回る。IBMはメインフレーム最大手として最先端半導体チップの設計から製造、パッケージング、放熱モジュールまで手掛けてきた実績を有する。今では自らを「The Largest OSAT in North America」(北米最大のOSAT企業)と名乗り、パッケージング請負サービスに力を入れる。

IEDM 2025とECTC 2026における半導体関連企業の発表件数。いずれも筆者が論文集のインデックスなどからカウントしたもの。公式の数値ではない

 このほかECTC 2026での発表件数がIEDM 2025の発表件数を上回る半導体メーカーには、ソニーセミコンダクタソリューションズ、ルネサス エレクトロニクス、Marvell Technology、Texas Instrumentsがある。さらに半導体製造装置メーカー大手では、東京エレクトロン(TEL)、Applied Materials、Lam Researchが、ECTC 2026での発表件数がIEDM 2025の発表件数を超えた(厳密にはTELとLam ResearchはIEDM 2025での発表がない)。

IEDM 2025とECTC 2026、一般講演発表だけを比較した際の半導体関連企業の発表件数。いずれも筆者が論文集のインデックスなどからカウントしたもの。公式の数値ではない

 半導体関連の国際学会は最近、いずれの研究分野でも盛況に見える。大規模な国際学会では投稿件数の急増によって採択率が急低下し、反動(採択率があまりに低いと、投稿を控える動きが出かねない)が心配されるほどだ。しかし表面をめくって中を吟味すると、質的な変化が起きていることが分かる。研究開発の地殻変動は、すぐそこまで来ているのかもしれない。