福田昭のセミコン業界最前線
2020年の半導体ベンダーランキング、2年連続でIntelがトップを守る
2021年2月3日 09:50
今年(2021年)も、半導体市場調査会社による半導体ベンダーの売上高ランキングが出そろった。昨年(2020年)の半導体ベンダー売上高ランキングは、上位5社のランクが前年(2019年)とほとんど変わらなかったのに対し、6位以下のランクが大きく変動した。変動の要因は複数あり、そのいくつかは明らかだ。5G携帯電話システムの商用化と、COVID-19の世界的な大流行が半導体市場に大きな影響を与えた。
半導体業界では、市場調査会社IC Insightsが毎年11月に発表する売上高ランキング予測と、同じく市場調査会社Gartnerが翌年1月に発表する売上高ランキング(速報値)を参考とすることが多い。
今シーズンは、IC Insightsが2020年11月23日(米国時間)に上位15社の売上高ランキングを、Gartnerが2021年1月14日(同)に上位10社の売上高ランキングを発表した。
5G携帯電話とCOVID-19がランクアップに寄与
発表時期の順番とは逆になるが、半導体業界では歴史が長く知名度が高いGartnerの売上高ランキングを先に紹介しよう。2020年の首位は前年と同じくIntelである。2位は前年と同じくSamsung Electronics(以下Samsung)、3位は前年と同じくSK Hynix、4位は前年と同じくMicron Technology(Micron)となっており、上位4社のランキングは前年と変わっていない。そして上位4社はすべて、売上高を伸ばしている。
Intelはマイクロプロセッサ、SamsungとSK Hynix、MicronはDRAMおよびNANDフラッシュメモリを主力商品とする。COVID-19の世界的流行によってテレワークが普及したことが、ノートパソコンの需要を押し上げた。このことが、ノートパソコンの主力部品であるマイクロプロセッサとDRAM、NANDフラッシュメモリの成長を促した。
5位以降のランキングは変動が多い。5位はQualcommで、前年の6位からランクアップした。6位はBroadcomで前年の5位からランクダウンした。7位はTexas Instruments(TI)で、前年と変わらない。8位はMediaTekで、前年の13位から5つもランクアップした。9位のキオクシアも、前年の14位からランクを5つ上げている。10位のNVIDIAは、前年の16位から大幅にランクアップした。
QualcommとMediaTekのランクアップは、5Gシステムの商用化によるものだろう。5G対応スマートフォンの量産が本格化しており、単価の高い5G対応スマートフォン用SoC(System on a Chip)の販売増が両社の30%を超える成長に貢献した。NVIDIAはデータセンター向けチップとパソコンゲーム向けチップの両方が前年に比べて大きく伸びた。テレワーク需要と巣ごもり需要の拡大が同社の高い成長に寄与した。
AMDが販売を4割増と大きく伸ばして上位15社にランクイン
続いてIC Insightsのランキング上位15社である。同社のランキングには、半導体を製造しているものの半導体製品を市販していない企業(ファウンダリ企業)や自社ブランドの半導体を設計しているが市販はしていない企業(内製企業)を含んでいる。
ランキングを具体的に見ていこう。首位はIntelである。前年からの首位を維持した。2位はSamsungで、これも前年と変わらない。3位はTSMC、4位はSK Hynix、5位はMicronであり、上位5社はいずれも前年と同じ順位を守った。またTSMCを除くと、ランキングの順位はGartnerが2021年1月に発表した速報値と変わらない。
6位はQualcomm、7位はBroadcomである。両社の順位は前年と入れ換わった。ここも順位はGartnerの速報値と変わらない。
8位はNVIDIAである。前年の10位からランクアップした。推定販売額は158億8,400万ドルとなっており、Gartnerの発表値である販売額100億9,500万ドル(10位)とは金額が大きく違う。Gartnerの発表値は外販をベースにしているのに対し、IC Insightsは内製(NVIDIAのビデオカード「GeForce」など)を含んでいるために販売額が大きく異なり、順位の違いが生じているとみられる。
9位はTI、10位はInfineon Technologiesである。両社とも前年から順位を1つ下げた。11位はMediaTekである。前年の16位から順位を大きく上げた。12位はキオクシアで、日本企業としては最上位に位置する。前年の14位からランクアップした。13位はApple(内製企業)である。前年の15位からランクアップした。14位はST Microelectronicsである。前年の11位からランクダウンした。15位はAMDである。前年の18位から順位を上げた。販売額は前年比41%増と大きく伸び、極めて好調だったことがうかがえる。Intelの販売額が前年比4%増とわずかな成長にとどまったのとは、対照的だ。
コロナ禍にも関わらずランキング上位企業は好調を維持
ランキング上位の半導体大手で売上高を2割以上伸ばした企業はすべて、5G携帯電話システム、ノートパソコン、クラウド、次世代ビデオゲーム機のいずれかをおもな応用分野としている。一方で組み込みや車載、有線通信などの応用分野と関わりが深い半導体企業は売り上げが伸び悩んだ。それでもランキング上位企業の販売減少率は、最大でも5%未満にとどまっている。
前年のランキング上位では、半導体メモリ大手3社(Samsung、SK Hynix、Micron)が販売額を3割前後と大きく減らした。2019年に比べると、2020年における上位企業の業績は良好だと言える。コロナ禍がランキング上位企業に与える悪い影響は小さく、部分的には業績を押し上げた。
IntelとSamsungの首位争いは続く
前年の半導体売上高ランキングでは、半導体メモリ不況の影響でSamsungとIntelの順位が入れ換わり、Intelが再びトップを奪還した。昨年もIntelはトップを維持した。
しかしIntelの売上高は最近、成長率が鈍っている。Gartnerの発表値によると2019年の成長率は2.2%、2020年の成長率は3.7%といずれも微増だった。ちなみ2017年の成長率は8.6%、2018年の成長率は12.9%である。
ただし母数が700億ドル前後という巨大な金額なので、微増でも金額の増分は大きい。仮に700億ドルとすると4%成長でも28億ドル(約3,000億円)が増える計算になる。中堅どころの半導体メーカーの売り上げに匹敵する金額だ。IC Insightsの発表値によると、Intelは2020年に売り上げを30億9,700万ドル増やした。AMDの売り上げ増は27億8,800万ドルで、Intelよりも増分は少ない。
それよりも問題なのは、Samsungの成長率だろう。2020年の成長率はGartnerの発表値によると7.7%で、Intelよりも高い。今年も半導体メモリ市場は比較的高い成長率が見込まれており、Samsungの成長力はIntelにとって脅威だ。
また成長率とは別に、IntelはNANDフラッシュメモリ事業をSK Hynixに譲渡する予定となっている。2022年あるいは2023年のランキングでは、NANDフラッシュ譲渡の効果が出る可能性が高い。
いずれIntelはNANDフラッシュの販売額を減らし、SK HynixはNANDフラッシュの販売額を増やす。2021年にはNANDフラッシュ譲渡の影響は出にくいものの、成長市場であるNANDフラッシュを手放すことが中長期的にはIntelの売上高にはマイナス要因となる。
半導体市場全体を見渡すと、2021年は5G携帯電話向け半導体が急成長すると期待される。COVID-19の行方は見通しづらい。世界的な半導体不足の解消も課題に上る。2021年の半導体ランキングは、すでに波乱含みだ。