福田昭のセミコン業界最前線
2019年の半導体ランキングが決定、3年ぶりにIntelがトップを奪い返す
2020年1月20日 11:58
今年(2020年)も、1月恒例の半導体ベンダー売上高ランキングをお届けする。2019年の半導体ベンダー売上高ランキングは、半導体業界では2019年前半から予想されていたとおり、Intelが3年ぶりにSamsung Electronicsからトップを奪い返した(2019年の半導体ランキング、Intelが3年ぶりに首位を奪還へ参照)。
市場調査会社のIC Insightsが2019年11月18日(米国時間)に発表したランキング予測値と、同じく市場調査会社のGartnerが2020年1月14日に発表したランキング速報値はともに、売上高のトップをIntel、2位をSamsung Electronics(以降はSamsungと表記)と位置づけた。
トップ交代が3年ぶりに生じたのは、Samsungの半導体売上高が前年に比べて大幅に減少したことによる。Gartnerの速報値ではマイナス29.1%、IC Insightsの予測値ではマイナス29%と、減少幅はいずれも3割に近い。一方、Intelの半導体売上高は前年比でほぼ横ばいだった。Gartnerの速報値はマイナス0.7%、IC Insightsの予測値はプラスマイナスゼロである。
IntelとSamsungの売上高推移をGartnerの発表値で見ていくと、2016年の時点では首位Intelの売上高が2位Samsungを35%も上回っていた。ところが2017年にSamsungが半導体売上高を前年比49.3%と驚異的に伸ばしたことから、ギリギリでのトップ逆転が発生した。Intelの半導体売上高は8.6%伸びたので、不調とは言えない。両社の差はわずか11億ドルにすぎなかった。
2018年にはSamsungが前年比20.4%増と売上高をさらに大きく伸ばした。Intelも同12.9%増と売上高を伸ばしたものの、両社の差は74億ドル近くにまで広がった。2019年は逆にSamsungが売上高を大幅に減らした。IntelはSamsungに対して135億ドル強、比率にして26%の差をつけてトップを奪還した。
トップ7社の顔ぶれは前年と変わらず
GartnerのランキングとIC Insightsのランキングでは、扱う半導体企業に違いがある。Gartnerのランキングは半導体を外販する企業が対象であるのに対し、IC Insightsのランキングはシリコンファウンドリと内製のみの企業を含む。具体的には、IC Insightsのランキングでは3位にシリコンファウンドリ大手のTSMCが入っている。
TSMCを除くと、IC InsightsとGartnerのランキング順位は、1位から7位(IC Insightsは8位)までのベンダーが完全に一致した。3位のSK Hynixと4位のMicron Technology(以降はMicronと表記)は前年と同じ、5位のBroadcomと6位のQualcomm、7位のTexas Instrumentも順位は前年と同じである。
半導体メモリ大手3社の絶不調とソニーの絶好調
ランキング入りした主要な半導体ベンダーの成長率をメモリと非メモリに分けてみると、メモリベンダーの絶不調ぶりが目立つ。Samsung、SK Hynix、Micronのメモリ大手3社はいずれも、およそ3割以上の売上減となっている。Gartnerの発表値ではSamsungがマイナス29.1%、SK Hynixがマイナス38.0%、Micronがマイナス32.6%である。
半導体市場の規模を定量的に調査している業界団体WSTSが2019年12月3日に発表した市場予測によると、2019年の半導体メモリ市場の成長率はマイナス33%の大幅減となる見込みだ。メモリ大手3社のマイナス幅とおおむね、一致する。
非メモリ大手も好調というわけではない。Intelは横ばい、NVIDIAとQualcommは2桁のマイナス成長である。Gartnerがランキングと同時に発表した世界の半導体市場は前年比11.9%減の2桁減である。しかも、トップ10社を除いた中堅以下の半導体ベンダー全体(市場のシェアは45.2%)の売上高は前年比3.3%減であり、全体に比べると落ち込みが少ない。大手の半導体ベンダーの不調さが際立つ。
大手で唯一と言える好調なベンダーはソニーで、IC Insightsの発表値によると2019年に24%成長という高い伸びを示した。この結果、IC Insightsのランキングでは前年(2018年)の15位から、2019年は11位と大きくランクアップした。
世界の半導体市場は2009年以来の大きな落ち込みを記録
すでに述べたように、Gartnerが2020年1月14日に発表した速報値では、2019年の世界半導体市場は前年比11.9%減の4,183億ドルとなった。業界団体WSTSが2019年12月3日に発表した世界半導体市場の予測値は、前年比12.8%減の4,090億ドルである。いずれも12%前後の2桁減となる。
過去に2019年に近い大きさの減少を記録したのは、2009年である。Gartnerの発表値では前年比10.4%減、WSTSの発表値では同9.0%減となった。10年ぶりの大幅減と言える。
GartnerとWSTSは、定期的に半導体市場の予測値を見直している。Gartnerはおおよそ3カ月ごとに予測値を修正してきた。WSTSは予測値を春と秋の年に2回、公表してきた。両者の予測修正の記録から半導体市場の勢いを見ていくと、2019年の前半は落ち込みが非常に大きく、後半は減少がゆるやかになっていることがうかがえる。ただし回復の兆しはまだ弱い。
予測値修正の推移を見ていこう。Gartnerは2019年4月2日時点では、2019年の世界半導体市場の成長率をマイナス3.4%と予測していた。それが同年6月28日になると、成長率の予測値をマイナス9.5%と大幅に下方修正する。修正幅はマイナス6.1ポイントである。同年9月30日には、予測値をマイナス11.6%へとさらに下方修正する。
ただし修正幅そのものは、マイナス2.1ポイントと縮んだ。下げ止まりの兆候が見える。そして2020年1月14日に発表した速報値はマイナス11.9%となり、修正幅は0.3ポイントとごくわずかにとどまった。
続いてWSTSによる予測値の推移である。WSTSは2018年11月27日時点では、2019年の世界半導体市場の成長率を2.6%と予測していた。わずかながらも拡大すると予測していたのだ。それが2019年6月4日には、成長率の予測値をマイナス12.1%へと大幅に下方修正した。修正幅はマイナス14.7ポイントにも達する。そして直近の2019年12月3日には、予測値をマイナス12.8%へとさらに下方修正した。ただし修正幅は0.7ポイントとわずかであり、6月の予測とほとんど変わっていないとも言える。
2019年前半の大幅な落ち込みは、DRAM価格とNANDフラッシュメモリ価格の低下による半導体メモリ市場の大幅な縮小と、データセンター向け需要の伸びが鈍化したことによるプロセッサ市場とロジック市場の減速によるもので、おおむね説明がついている。
問題は後半である。2019年のはじめには、早ければ2019年の後半に市場の本格的な回復がスタートすると期待されていた。しかし実際には回復の兆しは弱い。データセンター向けプロセッサとロジックの需要は回復しつつあるものの、メモリの販売価格が下げ止まらない。本格的な回復を期待できるのは、2020年の後半ということになりそうだ。