福田昭のセミコン業界最前線
コロナ禍でも好調を維持する半導体産業
2021年2月12日 10:52
空騒ぎに終わった2020年のコロナ不況
「終わってみれば、コロナ禍がはじまる前の予測値とあまり変わらなかった」というのが実感である。昨年(2020年)の半導体市場は世界全体で7%前後の成長となった。市場調査会社Gartnerが今年1月14日(米国時間)に発表した半導体市場の成長率(速報値)は7.3%、半導体ベンダーの業界団体WSTS(世界半導体市場統計)が今年2月1日に発表した半導体市場の成長率(実績)は6.5%である。
昨年の春に世界的な大流行を引き起こした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は当初、半導体市場の行方に大きな影をもたらした。COVID-19が大流行する以前、すなわち2019年12月の時点では、業界団体や市場調査会社などは2020年の半導体市場が世界全体で5%~10%前後の成長率で拡大すると予測していた。
しかしCOVID-19の世界的な大流行が発生した2020年4月には、市場予測は相次いで下方修正された。同年4月~7月の予測値は悪いと2年連続のマイナス、良くても5%未満の弱い成長となっていた。半導体産業も「コロナ不況」に巻き込まれて成長が鈍化するとの見方が強まった。
ところが実際には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による景気後退はわずかで、しかも一時的なものだった。それどころか「特需」とでも呼ぶべき状況が出現した。
特需の具体的な事例は、テレワークとオンライン授業の普及によるPC出荷台数の増加、外出禁止令と外出自粛による据え置きゲーム需要の増加と次世代据え置きゲーム機の発売、感染リスクを避けるための自動車通勤の増加とオンライン販売の増加、第5世代(5G)携帯電話システムの商用化による対応端末(5Gスマートフォン)の出荷台数増、などだ。
この結果、2020年8月~9月には成長率予測の上方修正がはじまった。世界全体の成長率予測は5%未満のプラス成長という見方が強まった。上方修正は2020年11月~12月にも続き、成長率予測は5%を超えた。結局、2020年の成長率は7%前後となり、2019年末に予測した成長率とあまり変わらなかった。
5Gスマートフォンの本格出荷とPCの出荷増が堅実な成長に寄与
2020年の市場成長に寄与した大きな要因は、第5世代携帯電話端末(5Gスマートフォン)の本格出荷と、PCの出荷台数増(テレワークおよびオンライン学習の普及によるもの)に絞り込める。5Gスマートフォンの本格出荷は、アプリケーションプロセッサと5G用モデム、NANDフラッシュメモリの販売増を後押しした。PCの出荷台数増は、NANDフラッシュメモリとDRAM、マイクロプロセッサの販売増に寄与した。
市場調査会社Gartnerが2021年2月3日に公表したニュースリリースによると、2020年のスマートフォン出荷台数(世界市場)は前年比10.5%減の13億7,872万台となった。COVID-19の世界的な流行によってスマートフォン全体の出荷台数は低迷した。ただし5Gスマートフォンの出荷台数は前年の12.8倍と急増し、2億1,326万台に達した。
またGartnerが2021年1月11日に公表したニュースリリースによると、2020年のPC出荷台数(世界市場、速報値)は前年比4.8%増の2億7,515万台となった。4.8%成長というのは近年のPC出荷台数では2010年以降、最大の成長率だとする。
2021年の世界半導体市場は10%前後の成長へ
2021年(今年)の半導体市場はどうなるのか。WSTSは2021年の半導体市場を8.4%成長(2020年12月1日の発表時点)、IC Insightsは2021年の集積回路(IC)市場を12%成長と予測する(2021年1月26日の発表時点)。
WSTSが2020年12月1日に公表した予測値によると、2021年の世界市場規模は4,694億ドルとなる。予測値どおりに行けば、過去最大だった2018年の4,688億ドルをわずかに超えて最高値を更新する。
地域別では米州の成長率がもっとも高く、9.5%成長と予測する。2020年の18.7%と高い成長率からは半減するものの、依然として堅実な成長が続く。次いで「アジア太平洋ほか(中国を含む)」地域の成長率が高く、8.7%成長と予測する。同地域は2020年の3.8%成長を超える、高い伸びとなる。日本は5.8%成長で前年の0.6%減から、欧州は5.7%成長で前年の8.4%減から、市場が成長軌道へと載る。
DRAMとNANDフラッシュ、自動車用ICが伸びる
製品分野別では、「集積回路(IC)」を8.3%成長(2020年は6.4%成長)、「そのほかの半導体(O-S-D : Optoelectronics-Sensor-Discrete)」を8.9%成長(2020年は前年比0.5%減のマイナス成長)とWSTSは予測する。
集積回路(IC)の内訳は、アナログ、マイクロ(マイクロプロセッサやマイクロコントローラなど)、ロジック(ASSPやASIC、FPGAなど)、メモリ(DRAMやNANDフラッシュメモリなど)に分けられる。アナログは8.6%成長(2020年は横ばい)、マイクロは1.0%成長(2020年は2.0%成長)、ロジックは7.1%成長(2020年は6.5%成長)、メモリは13.3%成長(2020年は12.2%成長)とWSTSは予測する。
またIC Insightsは、2021年1月28日に発表したニュースリリースで、2021年に高い成長を期待する製品としてDRAM、NANDフラッシュメモリ、自動車用アナログ、自動車用ロジック(ASSP)、組み込み用プロセッサなどを挙げる。いずれも15%以上の成長率を予測する。
昨年の落ち込みから今年は2桁成長に転じるイメージセンサー
WSTSの予測に話題を戻そう。WSTSは「そのほかの半導体(O-S-D)」をオプトエレクトロニクス(CMOSイメージセンサーなど)、センサー(MEMSセンサーなど)、ディスクリート(パワー半導体など)に分けている。
WSTSはオプトエレクトロニクスを10.2%成長(2020年は前年比2.6減のマイナス成長)、センサーを7.8%成長(2020年は7.4%成長)、ディスクリートを7.2%成長(2020年は前年比1.2%減のマイナス成長)と予測する。
またIC Insightsは、2020年11月3日に発表したニュースリリースで、「そのほかの半導体(O-S-D)」の市場を2020年はコロナ禍によるロックダウンの影響などで4.4%のマイナス成長と推定した。2021年はワクチンの普及とロックダウンの解除によって後半に市場が大きく伸びると予測する。2021年の成長率は7.7%と予測した。
内訳はオプトエレクトロニクスが2020年にマイナス4.4%成長、2021年にプラス8.4%成長、センサー(およびアクチュエータ)が2020年にマイナス0.5%成長、2021年にプラス9.1%成長、ディスクリートが2020年にマイナス6.5%成長、2021年にプラス5.6%成長である。
さらに細かな品目についてもIC Insightsは明らかにした。オプトエレクトロニクス市場は、イメージセンサーや半導体レーザーなどによって構成される。
なお、イメージセンサーのほとんどはCMOSイメージセンサーである。2020年にCMOSイメージセンサーは前年比0.9%増の186億ドルと推定した。同センサーとしてはかなり低い成長率だ。2021年は前年比12%増と2桁成長して209億ドルになると予測する。オプトエレクトロニクス全体では2020年に422億ドルの市場規模があるので、CMOSイメージセンサーはオプトエレクトロニクス市場の約44%を占めることになる。
今年(2021年)の半導体市場を応用分野ごとに予想すると、5Gスマートフォンの出荷台数はさらに増加し、自動車用半導体は供給不足が続く。この2つは確実だろう。一方でテレワークとオンライン学習の普及によるPCの出荷台数増は、一段落する可能性がある。コロナ禍の影響がどうなるのかは、先が見通せない。手探りで進む状態が続きそうだ。