福田昭のセミコン業界最前線
2019年の半導体ランキング、Intelが3年ぶりに首位を奪還へ
2019年5月7日 12:46
一昨年(2017年)と昨年(2018年)のトップはSamsung
半導体ベンダーの売上高トップ企業が、再び交代する。売上高ランキングを定期的に発表しているハイテク関連の市場調査会社のいくつかが、今年(2019年)はトップ企業が交代するとの予測を明らかにしはじめた。
昨年(2018年)の売上高トップ企業は、韓国のSamsung Electronicsであり、2位企業は米国のIntelと半導体業界では認識されている。半導体ベンダーの年間売上高ランキングを公表しているおもな市場調査会社は、Gartner(ガートナー)とIC Insights(アイシーインサイツ)、IHS Markit(アイエイチエスマーキット)の3社である。これら3社が今年春に公表した昨年のランキングはすべて、トップがSamsung Electrocnis(以降はSamsungと表記)、2位がIntelだった。
半導体ベンダーの売上高ランキングを発表している市場調査会社のなかで、もっとも影響力が高く、長い歴史を有するのはGartnerが公表する年間ランキングだろう。Gartnerは1月にランキングの速報値、4月にランキングの確定値を発表してきた。
Gartnerによる確定値ベースのランキングで見ると、Intelは1992年から2016年まで25年連続で、首位を維持してきた。一方、Samsungは2002年から2016年まで15年連続で2位に付けてきた。言い換えるとトップがIntel、2位がSamsungという状態が15年連続で続いた。
トップ企業が変動したのは、一昨年である。Samsungが史上初めて首位となり、Intelはトップを降りて2位に付けた。そして昨年もトップ2社の順位は変わらなかった。Gartnerの確定値では、2年連続でSamsungがトップを維持し、2年連続でIntelが2位に付けた。
Gartnerが昨年の売上高ランキング(確定値)を発表したのは、今年の4月11日のことである。このとき発表資料のなかでGartnerは、メモリの価格低下によって今年のランキングではSamsungほぼ確実にトップから陥落し、Intelに王座(首位の座)を明け渡すと予想した。
またGartnerの予想発表よりもおよそ1カ月前の 2019年3月7日には市場調査会社のIC Insightsが、2019年の半導体売上高ランキングではSamsungとIntelの順位が前年から入れ代わるとの予測を発表している。2018年はSamsungが首位、Intelが2位だったのが、2019年にはIntelが首位を奪還し、Samsungが2位に降りるという予想である。
2018年第4四半期の売上高トップはすでにIntelが奪取
売上高ランキングのトップ交代を促しているのはおもに、半導体メモリの価格低下である。とくにDRAMが昨年秋から値下がりを続けていることが、Samsungの半導体売上高を大きく下げている。
半導体メモリ市場のほとんどは、DRAMとNANDフラッシュメモリで占められている。DRAMとNANDフラッシュメモリではDRAMの市場規模が大きいとされる。半導体メモリの大手3社、すなわちSamsungとSK Hynix、Micron TechnologyはいずれもDRAMとNANDフラッシュメモリの両方を手がけており、なおかつ売り上げに占める比率はDRAMが大きい。
NANDフラッシュメモリは昨年のはじめから価格が低下傾向にあり、年末にかけて値下がりが加速した。しかしDRAMは昨年の夏までは価格が維持あるいは上昇の傾向にあった。それが秋から冬にかけて価格が急激に下降に転じた。
この影響は、市場調査会社のIHS Markitが公表してきた四半期ごとの半導体売上高ランキングを見るとわかりやすい。昨年の第1四半期(1月~3月期)~第3四半期(7月~9月期)までは、ランキングのトップがSamsung、2位はIntelという順位が続いていた。ところが第4四半期(10月~12月期)になると、トップがIntel、2位がSamsungとなり、トップと2位が逆転した。
ここで注目すべきは、IntelとSamsungの両社とも、第4四半期の売上高は前の四半期(第3四半期)に比べて減少していることだ。2019年3月の本コラム(「高転び」しつつある半導体市場)で指摘したように、第4四半期における景気後退は半導体市場全体に及んでいる。半導体メモリの落ち込みが非常に大きいものの、プロセッサ市場やASIC市場なども芳しくなかった。
もちろん減少幅はIntelが小さく、Samsungが極端に大きかった。IHS Markitが公表した第4四半期の売上高は、Intelが前四半期比2.3%減、Samsungが同24.9%減である。
Samsungの前四半期比24.9%減という大幅な落ち込みは、同社が2019年1月に公表した四半期業績とほぼ等しい(半導体メモリ大手3社の業績が急速に悪化)。公表ベースの売上高は前四半期24%減、半導体売り上げの83%を占めるメモリの売上高は同26%減である。
Samsungの発表資料によると第4四半期におけるDRAMの平均販売価格は前の四半期に比べて7%~8%減少し、記憶容量(ビット数)に換算したDRAMの出荷数量は前の四半期に比べて17%~19%減少した。単純な乗算で出荷金額を計算すると、23%減~25%減になる。SamsungはDRAMの出荷金額を公表していないが、24%前後の減少が半導体売り上げ全体に大きな影響を与えたことは否めない。
一方、Intelが公表した2018年第4四半期の売上高は前四半期比で2.6%減である。この売上高には半導体以外の製品を含んでいるので単純には比較できないものの、IHS Markitが公表した値である2.3%減とほとんど変わらない。
2019年のIntelは売上高でSamsungを10%上回ると予想
ここからは、2019年のIntelとSamsungの半導体売上高を予想してみる。Intelは2019年4月25日に実施した同年第1四半期(1月~3月期)の業績発表で、2019年全体の売上高が690億ドルになるとの見通しを発表した。2018年全体の売上高は前年比13%増の708億ドルだったのに対し、2019年の見通しは前年比2.5%減である。決して好調とは言い難い。
Intelが公表する売上高は、半導体以外の製品を含んでいる。そこで、売上高に占める半導体製品の割合を仮定しよう。GartnerによるIntelの半導体売上高は2018年に662億9,000万ドルだったので、単純計算ではIntel全体の売上高に占める半導体の割合は93.6%となる。この比率を2019年の売上高見通しに当てはめると、2019年の半導体売上高の見通しは646億ドルとなる。
続いてSamsungである。Samsungは半導体売上高の年間見通しを公表していない。Samsungの半導体売上高については、市場調査会社のIC Insightsが2019年3月7日に発表した予測値を使うことにする。売上高の成長率予測である、マイナス19.7%という数字を利用する。具体的にはマイナス20%と仮定する。この成長率をGartnerが発表した2018年の半導体売上高に当てはめると、2019年の半導体売上高は589億1,900万ドルと予想できる。
Intelの半導体売上高が646億ドル、Samsungの売上高が589億1,900万ドルという予想値から、2019年にIntelがSamsungを半導体売上高で10%ほど上回ることがわかる。なお、2018年にはSamsungがIntelを11%上回っていた。
2019年の3位以下のランキングはどうなるだろうか。Gartnerによる2018年の半導体売上高は、2位のIntelと3位のSK Hynixの間が約300億ドルも離れている。SK Hynixと4位のMicron Technology(以降はMicronと表記)が売上高では近い。そして4位のMicronと5位のBroadcomの間が約135億ドルも離れている。そしてBroadcomと6位のQualcomm、7位のTexas Instrumentsが売上高150億ドル前後でグループを形成している。そして7位と8位の間には、約50億ドルの開きがある。
このように見ていくと、3位のSK Hynixがトップ2社を脅かすことは困難であり、5位~7位のBroadcom、QualcommとTexas Instrumentsが4位のMicronを脅かすこともまた困難であることがわかる。
2019年の3位はSK HynixとMicronのどちらかが占め、4位は残りの1社が占める。2019年の5位から7位はBroadcom、Qualcomm、Texas Instrumentsのなかで順位を決める、というかたちになりそうだ。