福田昭のセミコン業界最前線
「NVIDIA無双」で順位が激変した2023年の半導体ランキング
2024年1月30日 09:48
GartnerのランキングでIntelが再びトップを奪取
2023年の半導体メーカー売上高ランキングが今年も出そろった。ランキングは半導体の市場調査会社が年末年始に公表しており、ほぼ恒例となっている。最も良く知られているのは市場調査会社のGartnerによるランキングで、同社は2024年1月16日(米国時間)に上位10社のランキング(速報値)を公表した。
市場調査会社IC Insightsが年末に予測値として公表してきたランキングもそれなりに知られている。同社は2022年10月に市場調査会社TechInsightsに買収されたことで、広報活動が一時的に停止していた。このため、2022年の年末は同年のランキングが公表されなかった。2023年後半には活動が再開し、2023年12月13日にIC Insightsは上位25社の売上高ランキング(予測値)を公表した。
始めはGartnerが発表した上位10社のランキングを見ていこう。同社は2023年の世界半導体市場を前年比マイナス11.1%と推定している。上位10社の中では7社がマイナス成長となった。特に半導体メモリ大手は、深刻な売上減に見舞われた。
2023年の売上高トップはIntelで、3年振りにトップを奪い返した。売上高は前年比16.7%減と2桁減である。2位はSamsung Electronicsである。売上高は同37.5%減と4割近く減少した。
Gartnerの調べによると、Intelの半導体売上高は3年連続のマイナス成長となった。過去のピークだった2020年の727億5,900万ドルから2023年は486億6,400万ドルへと低下した。この金額は2011年~2013年、言い換えると約10年前と同じ水準である。
Samsungの半導体売上高は2年連続のマイナス成長である。2年連続のマイナス成長というのは、筆者の手元に記録が残っている2002年以降で初めてのことだ。2024年(今年)の半導体メモリ市況は回復しつつあることから、今年は売り上げの回復が期待できる。
AIブームで急激な成長を達成したNVIDIAが7つもランクアップ
3位は前年と同じく移動体通信向け半導体大手のQualcommである。売上高は前年比16.6%減と2桁のマイナス成長だった。スマートフォンの生産台数が2023年前半にふるわなかったことが響いた。4位は通信・ネットワーク向け半導体大手のBroadcomである。前年の6位からアップした。売上高は前年比7.2%増と健闘した。
5位はグラフィックス半導体大手のNVIDIAである。グラフィックス大手と呼ぶよりも、AIチップ最大手と呼んだほうが正確かもしれない。前年の12位から7つもランクアップし、初めて上位5社に食い込んだ。AIブームの影響で売上高は前年と比べて56.4%も増え、驚異的な成長を達成した。
6位は半導体メモリ大手のSK hynixである。前年の4位からランクダウンした。売上高は前年比32.1%減と大幅に減少したものの、比率そのものはSamsungよりも低かった。なお残る半導体メモリ大手で前年は5位につけていたMicron Technologyは、上位10社入りできなかった。
7位はCPU大手およびGPU大手のAMDである。順位は前年と変わらない。売上高は前年比5.6%減とマイナス成長だった。8位はSTMicroelectronicsで、前年の11位から上昇した。車載向け半導体事業が好調で、売上高が同7.7%増と伸びたことがランクアップに寄与した。
9位は前年と同じくモバイルデバイス大手のAppleである。売上高(社内向け)は前年比5.8%減となった。10位はミックスドシグナル大手のTexas Instrumentsである。前年の8位から順位を2つ落とした。売上高は同12.2減と2桁のマイナス成長となった。
IC InsightsのランキングではTSMCが初めてトップに立つ
ここからは、市場調査会社IC Insightsが公表した半導体売上高ランキングの概要を紹介していこう。同社は2023年12月13日に、売上高上位25社を発表した。
IC Insightsが公表してきたランキングの特徴は、半導体ファウンドリ専門企業(ウェハ処理工程の請け負いサービス専門企業)を含めていることだ。半導体産業全体を俯瞰するためには、都合が良いと言える。ただし、ファウンドリ企業の顧客はファブレス企業なので、両者の売上高を単純に比較はできない。また市場規模を推定するときに、両者の売上高を合算してはならない(二重カウントになってしまう)。こういった前提を踏まえた上でのランキングだ。
2023年のトップには半導体ファウンドリ最大手のTSMCが前年の2位からランクアップした。IC Insightsの半導体売上高ランキングでTSMCがトップとなるのは2023年が初めてである。売上高は前年比9%減と下がったものの、前年のトップ級3社がそろってマイナス成長となった中では、TSMCの減少幅が最も少なかった。
2位はIntelである。前年の3位から順位を1つ上げた。売上高は前年比16%減である。この比率はGartnerの発表値とほとんど変わらない。
NVIDIAが売上高を倍増させて3位にランクアップ
3位はNVIDIAである。前年の8位から5つランクアップした。売上高は前年比102%増と2倍強の伸びを示した。なお、売上高と伸び率はGartnerの公表値と大幅に異なる。半導体売り上げの定義がGartnerとIC Insightsでは違っている可能性が高い。
NVIDIAが公表している四半期業績を見ていくと、直近に発表された2023年10月期(同社の会計期間は2月~翌年1月)までの3四半期で急速に売上高が伸びていることが分かる。2023年1月期(2023会計年度第4四半期)の売上高が60億5,100万ドルであったのに対し、2023年10月期(2024会計年度第3四半期)の売上高は181億2,000万ドルに急伸した。実に3倍もの驚異的な伸びだ。
伸びを牽引しているのはデータセンター分野、すなわちAIとクラウドである。2023年1月期の売上高は36億1,600万ドルだったのに対し、直近の2023年10月期の売上高は145億1,400万ドルに達している。1年足らずで4倍という恐ろしい伸びだ。
車載半導体が好調のInfineonとSTMicroが順位を上げる
話題をランキングに戻そう。4位はSamsungである。前年のトップからランクダウンした。売上高は前年比37%減とかなり厳しい。5位はQualcommである。前年の4位から順位を1つ下げた。6位はBroadcomで、前年と変わらない。
7位はSK hynixである。前年の5位から2つ順位を下げた。売上高は前年比31%減と相当に厳しい。8位はAMDである。前年の9位からランクアップした。売上高は同4%減とわずかに下げた。
9位と10位には車載向け半導体に強いメーカーがランクアップして入った。9位はInfineon Technologiesである。前年の14位から5つも順位を上げた。売上高は前年比10%増である。10位はSTMicroelectronicsで、前年の順位は13位だった。売上高は同7%増である。
11位~25位の15社で売上高が伸びたのは実質2社のみ
ここからは11位以下のランキングの概要を見ていこう。これまで述べてきた上位10社の中で売上高が前年から増加したのはNVIDIA、Broadcom、Infineon、STMicroの4社である。
ところが11位以下の15社の中で、半導体の売上高が前年に比べて増加した企業は3社しかない。NXP Semiconductors、ソニーセミコンダクタソリューションズ、Microchip Technologyである。これらの中でNXPは成長率が1%とほぼ横ばいだったので、売上高がそれなりに伸びたのはソニーとMicrochipしかない。両社の売上高はいずれも前年比8%増である。
ソニーの順位は17位で、前年の19位から順位を2つ上げた。Microchipの順位は19位で、前年の24位から5つランクアップした。NXPの順位は15位で、前年と変わらない。
逆にランクダウンが目立ったのは、Micron、MediaTek、キオクシアである。Micronは前年の7位から6つ順位を下げて13位にとどまった。MediaTekは前年の11位から順位を3つ下げて14位となった。キオクシアは前年の18位から5つ順位を下げて23位に下がった。売上高の前年比はMicronが同37%減、MediaTekが同26%減、キオクシアが同36%減といずれも大きなマイナスである。
ランキングの変動から改めて感じるのは、半導体メーカーにとって2023年は極めて厳しい年だったことだ。2024年の市況回復を期待したい。