福田昭のセミコン業界最前線
2017年のHDD出荷台数は4億台で3年連続のマイナス成長
~日本HDD協会2018年2月セミナーレポート(HDD編)
2018年3月12日 11:58
ハードディスク装置(HDD : Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は今年(2018年)の2月28日に「2018年の業界動向、4K/8K放送に向けたストレージの役割は?」と題するセミナーを開催した。同協会は毎年初頭に、ストレージ業界を展望するセミナーを開催してきた。例年は有料のセミナーであったが、今年は同協会設立25周年を記念して無料とし、一方で会員限定のセミナーとなった。
毎年恒例のセミナーで非常に高く評価されているのが、市場調査会社テクノ・システム・リサーチのシニアディレクターを務める馬籠敏夫氏によるストレージ市場分析である。今年は、「Updated Storage(HDD and SSD)Market Outlook」と題してHDD市場とSSD(Solid State Drive)市場について講演した。講演ではHDD市場とSSD市場、ストレージの応用市場などを分析した結果をわかりやすく解説していた。本編では、HDD市場に関する講演内容をご紹介する。
なお、本セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。
昨年のHDD出荷台数は前年比4.9%減の4億380万台と推定
HDDの年間出荷台数(世界市場)は、2010年に6億5,140万台でピークを迎えてから、減少傾向が続いてきた。昨年(2017年)の出荷台数は前年比4.9%減の4億380万台である。3年連続のマイナス成長となった。ピーク時点から比べると、2億5,000万台近く減少した。ピーク時の62%に、出荷台数が減ったことになる。
HDDの年間出荷金額(世界市場)は、2012年に378億4,200万ドルでピークを迎えてから、これも減少傾向が続いてきた。昨年の出荷金額は、前年比2.9%減の245億1,600万ドルと推定した。2013年以降、5年連続のマイナス成長となった。ピーク時点から比べると、133億ドル前後、減少した。ピーク時の64%に、市場規模が縮小したことになる。
なお2017年の出荷台数をベンダー別に見ていくと、もっとも多いのはWestern Digital(WD)の1億6,292万台、ついでSeagate Technologyの1億4,766万台、そして東芝の9,250万台となる。各社のシェアはWDが40.4%、Seagateが36.6%、東芝が22.9%である。ちなみにHDDを製造しているのは現在、これらの3社だけとなっている。
今年のHDD出荷台数は前年比5.1%減の3億8,250万台と予測
出荷台数と出荷金額の減少傾向は今年も続く。2018年のHDD年間出荷台数(世界市場)は前年比5.1%減の3億8,250万台と予測した。出荷金額は同2.4%減の239億2,000万ドルになると見込む。
平均単価は、昨年が前年比2.0%増の60.8ドルと推定した。今年の平均単価は同2.8%増の62.5ドルになると予測する。
馬籠敏夫氏が講演で示した資料によると、HDDの平均単価は少なくとも1990年以降は、2010年まで一貫して低下傾向にあった。2010年の平均単価は51.6ドルである。しかし2011年には53.6ドルとわずかながら上昇し、2012年には65.6ドルと大幅に値上がりする。
値上がりの理由は、2011年9月に発生したタイの大洪水により、HDDの生産がストップして品不足に陥ったことだ(国際ディスクフォーラム2012レポート ~タイ洪水による高値安定を享受するHDD業界参照)。2013年に平均単価は59.9ドルに下がったものの、2014年に58.2ドルで下げ止まる。以降は2015年から2017年まで、3年連続で平均単価はわずかながら上昇を続けてきた。
最近の平均単価上昇の背景にあるのは、需給が引き締まっていることと、ドライブ1台当たりの平均記憶容量の増加である。2015年にはドライブ1台当たりの平均容量は1142.8GBだった。それが2017年には、1788.0GBへと増えている。そして2018年には、2236.1GBに拡大する見込みである。3年で2倍近くに増加していることがわかる。
ドライブ当たりの記憶容量の増加により、出荷台数と平均記憶容量の積である総出荷記憶容量も、拡大傾向にある。昨年の総出荷記憶容量は前年比15.9%増の720.3EB(エクサバイト)に達した。今年の総出荷記憶容量は同18.7%増の855.3EBになると予測する。
出荷台数は「2.5インチ」、出荷記憶容量は「ニアライン」が多い
HDDの市場規模を製品分類別に見てみよう。分類は、「エンタープライズ(ミッションクリティカル)」、「ニアライン」、「3.5インチ」、「2.5インチおよび1.8インチ(1.8インチはほぼゼロ)」の4種類である。
出荷台数がもっとも多いのは「2.5インチおよび1.8インチ」で、昨年の出荷台数は前年比6.6%減の2億267万5,000台である。それから「3.5インチ」が同3.9%減の1億3,541万台、「ニアライン」が同1.7%増の4,241万台、「エンタープライズ」が同7.2%減の2,258万5,000台と続く。出荷台数が増加傾向にあるのは「ニアライン」だけで、その他はすべて減少傾向にある。
今年の出荷台数は、「2.5インチおよび1.8インチ」が前年比6.3%減の1億9,000万台、「3.5インチ」が同6.9%減の1億2,600万台、「ニアライン」が同10.8%増の4,700万台、「エンタープライズ」が同13.7%減の1,950万台と予測する。
総出荷記憶容量がもっとも多いのは「ニアライン」で、昨年の記憶容量は前年比32.8%増の263.03EBに達する。それから「3.5インチ」が同10.6%増の242.37EB、「2.5インチおよび1.8インチ」が同5.7%増の196.28EBで続く。「エンタープライズ」はずっと少なく、同3.4%増の19.04EBである。
2016年までは、総出荷記憶容量では「3.5インチ」がトップを占めていた。それが「ニアライン」の記憶容量が急激に拡大していることで、2017年には「ニアライン」が「3.5インチ」を追い抜いてトップとなった。
このことは、ドライブ1台当たりの記憶容量の違いを見ると、よくわかる。昨年に「ニアライン」の1台当たりの記憶容量は6,202GBに達していた。一方、「3.5インチ」の1台当たりの記憶容量は1,790GBである。3.5倍に近い、開きがある。
今年の総出荷記憶容量は、「ニアライン」が前年比41.7%増の372.21EBと依然として大幅に拡大する。「3.5インチ」は同6.6%増の258.30EB、「2.5インチおよび1.8インチ」が同5.0%増の206.15EBと予測する。「エンタープライズ」は同4.8%減の18.13EBで、マイナス成長に転じる。
PC向けがHDDの最大数量を占める
昨年のHDD出荷台数を用途別に分割すると、PC向けが1億5,580万台で39%を占める。前年(2016年)の45%前後に比べると減少したものの、PC向けが最大用途であることは変わらない。PC向けの内訳はデスクトップPC向けが7,550万台、ノートPC向けが8,030万台である。
今年のPC向けHDDの出荷台数は、前年比12.1%減の1億3,700万台になると予測する。HDD全体に占める割り合いは35%となり、4ポイントほど減少する。内訳はデスクトップPC向けが6,500万台、ノートPC向けが7,200万台である。
コンシューマ向けでは監視カメラ用HDDが伸びる
用途別の出荷台数でPC向けの次に多いのが、コンシューマ(CE : Consumer Electronics)向けだ。CE向けのストレージには現在のところ、SSDが入り込んでいない。HDDの独擅場となっている。昨年のCE向けHDD出荷台数は9,130万台である。今年は、前年比3.2%減の8,810万台になると予測する。
CE向け市場を用途別にさらに分割すると、「ビデオゲーム」、「監視カメラ」、「ビデオレコーダ」、「カーナビゲーション」、「POS/ATM/MFP」、「その他」となる。昨年の出荷台数で見ると、最大分野は「ビデオレコーダ」で、36.3%を占める。出荷台数は3,303万台である。ついで「ビデオゲーム」が多く、31.3%を占める。出荷台数は2,850万台である。その次が「監視カメラ」で、23.2%を占める。出荷台数は2,115万台である。
先に述べたようにコンシューマ市場全体の出荷台数は漸減傾向にある。そのなかで増加傾向にあるのが、「監視カメラ」だ。監視カメラ機器では、元々はストレージに磁気テープ(ビデオテープ)を使っていた。これを、HDDが置き換えつつある。今年の出荷台数予測は前年比14.2%増の2,415万台である。HDD業界で出荷台数が2桁成長というのは、かなりめずらしい。
アドオン(増設)用HDDの出荷台数は横ばいが続く
PC向け、コンシューマ向けの次に台数の多い用途が、アドオン(増設)用である。昨年の出荷台数は前年比2.7%減の7,753万台だった。今年の出荷台数は同2.0%増の7,910万台と予測する。
昨年の実績をみると、ブランド別ではメーカーブランドが5,215万台で大半を占める。サードパーティーなどのブランドは2,538万台である。具体的には、トップがSeagateで28.3%、2位がWestern Digitalで25.9%、3位が東芝で13.6%となっている。これらのメーカー3社で合計67.8%とおよそ3分の2を占める。4位はFreecom(フリーコム)で6.1%、5位はバッファローで5.5%である。