福田昭のセミコン業界最前線

2018年の半導体市場もメモリが牽引、2年連続の2桁成長へ

すでに上方修正された2018年の半導体市場予測

2018年の世界半導体市場(成長率予測の推移)。2017年末から2018年初夏までの動きをまとめたもの。2017年末から2018年初めには7%~8%の成長率を予想していた。それが現在では、12%~13%に上方修正されている

 2017年に続き、2018年も半導体市場は金額ベースで「2桁成長」する。すなわち、10%を超える成長率で拡大する。業界団体や市場調査会社による直近の成長率予測は、半導体全体では12~13%成長、そのなかで集積回路(IC)は13%~15%成長という値でおおよそ一致している。

 この予測値は、2017年末から2018年初頭に公表された予測値から、上方修正されている。2018年はじめの販売実績が当初の予想よりも好調だったためだ。当初(2017年末から2018年初頭)に予測された成長率は7%~8%である。

2017年の半導体は21.6%成長で2010年以来の20%超え

 半導体メーカーの業界団体であるWSTS(世界市場統計)は毎年春と秋に、半導体市場の予測値を発表している。WSTSの発行する半導体販売の実績と予測は、半導体業界を代表する数字だとも言える。その最新の予測はつい先日、2018年6月5日に公表された。この予測をWSTSは「2018年春季半導体予測」と称している。

 そこで本稿では、WSTSが発表した「2018年春季半導体予測」(「2018年春の予測」と呼ばれることもある)の概要を説明していこう。この予測では、2012年~2017年の半導体販売実績と、2018年~2019年の半導体販売予測を金額ベースで記述している。

 このなかでもっとも重要な数字は、「2017年の実績」と「2018年の予測」である。「2017年の実績」が重要なのは、この「2018年春季半導体予測」で初めて、2017年の販売実績が「確定値」として公表されたからだ。

 前回の予測、「2017年秋季半導体予測」が発表されたタイミングは2017年11月28日であり、2017年の数字は確定値ではなかった。かなり確度の高い(2017年1月~8月あるいは9月までの実績を含んでいるため)数字であるが、予測値であり、確定した値ではない。また2016年以前の実績については、昨年(2017年)の春の予測が発表された時点で、明らかになっている。

 「2018年の予測」が重要なのは、2018年がはじまってから初めての予測であり、2018年1月~3月あたりまでの販売実績をふまえた予測となっているからだ。半導体メーカーが今年(2018年)の行方をどのように考えているかの最大公約数が、初めて明白になった予測である。

 本コラムの既報(予測の斜め上を行き続けた2017年の半導体市場)でご説明したように、2017年の半導体市場は久しぶりに、20%を超える高い成長率を記録することがほぼ確実になっていた。その大きな理由は「半導体メモリの予想外の成長」、具体的にはDRAMの急激な値上がりとNANDフラッシュメモリの価格維持である。

 実際には2017年はどうだったか。WSTSによる確定値は21.6%成長である。市場調査会社のGartnerが2018年4月23日に発表した2017年の世界半導体市場の確定値も同じ21.6%成長だった。集積回路(IC)だけでみると、WSTSの統計では24.0%とさらに高い成長率を記録した。

 市場調査会社のIC Insightsが同年3月14日に公表した2017年の集積回路(IC)市場の成長率(確定値)も、ほぼ同じ25%成長だった。世界の半導体市場が20%を超える成長を記録した年は、直近では2010年である。7年ぶりの高い成長となった。

世界半導体市場の確定値(2017年) 。WSTSとGartner、IC Insightsの発表値から筆者がまとめた

2017年の製品別はメモリが61.5%成長、地域別は米国が35.0%成長

 WSTSの公表値から、2017年の内訳を見ていこう。製品分野別(メモリ、ロジック、マイクロ、アナログ)の成長率ではメモリがもっとも高く、61.5%成長ときわめて高い伸びを記録した。昨年秋の予測値である60.1%成長を、1.4ポイントほど上回った。そのほかの製品分野も、昨年秋の予測値からさらに成長率を伸ばしている。

2017年における製品分野別の成長率予測の推移。なお「ロジック」はASSPとASIC、FPGAを含めた分野、「マイクロ」はマイクロプロセッサとマイクロコントローラ、DSPを含めた分野、「アナログ」はアナログとミクスドシグナル(たとえばA-D/D-A変換器)を含めた分野。WSTSの発表値から筆者がまとめた

 地域別(米国、欧州、日本、アジア太平洋)の成長率では米国がもっとも高く、35.0%成長となった。ついでアジア太平洋が19.4%成長、欧州が17.1%成長と続く。日本は13.3%成長である。世界全体の成長率である21.6%成長を上回った地域は、米国だけだ。米国が世界市場をけん引していることがわかる。

 なお、WSTSが米国半導体工業会(SIA)のWebサイトで毎月公表している地域別の半導体販売実績では、アジア太平洋と中国を区別して掲載している。この実績数値から中国市場の2017年における成長率を計算すると22.8%成長となり、中国も世界全体の成長率を上回っている。

過去の高成長年は翌年以降に大きな反動

 世界の半導体市場が20%を超える高い成長を記録したのは2010年以来であることは、すでに述べた。それでは過去に、20%を超える高成長を達成した年の後は、半導体市場はどのように推移したのだろうか。少しだけ、過去の実績を見ていこう。なお実績はいずれも、WSTSの公表数値である。

 まずは2010年である。実際の成長率は31.8%だった。そして翌年の2011年には成長率はわずか0.4%とほぼストップし、さらに翌年の2012年にはマイナス成長となった。同年の成長率はマイナス2.7%である。

 2010年よりも前に20%を超える成長率を達成したのは、2004年である。この年の成長率は28.0%だった。翌年の2005年には成長率は6.8%に低下し、1桁成長となった。翌々年の2006年には成長率は8.9%とわずかに上昇した。

 さらにその前は、2000年である。いわゆる「ITバブル」の年として知られている。この年に半導体市場は、前年比36.8%増というきわめて高い成長を記録した。

 ところが翌年の2001年には、前年比32.0%減というきわめつけのマイナス成長となり、市場規模は1999年よりも小さくなってしまった。バブル崩壊の後遺症は翌々年の2002年まで続いた。この年の成長率はわずか1.3%にとどまり、市場規模は1999年の水準に戻していない。市場規模が1999年の水準を超えるのは、さらに翌年の2003年のことだ。

過去に20%を超える高い成長を記録した年の「翌年」と「翌々年」の成長率。WSTSの発表値を筆者がまとめたもの

 過去の実績からうかがえるのは、成長率がきわめて高くなるとその反動が大きく出ること、そして成長率そのものが高ければ高いほどその反動そのものが大きくなりがちであることだ。山が高ければ高いほど、その後の谷が深い、とも言える。

成長の主役は、昨年に続いて今年も半導体メモリ

 2000年以降で20%を超える成長を記録した後の反動がもっとも緩やかだったのは、2004年である。28.0%成長の後に、2005年は成長率が低下して1桁成長の6.8%成長にとどまった。そのほかの年はマイナス成長に暗転した。

 このように見ていくと、2017年の21.6%成長の後に、2018年を12.4%成長と予測したことは過去の実績に比べると、かなり高い成長を見込んでいることが分かる。

半導体市場規模と成長率の推移(いずれも世界市場)。WSTSの発表値を筆者がまとめたもの

 その大きな理由は、「メモリが依然として高い成長を維持する」と予測していることだ。2018年の製品分野別成長率で、メモリは26.5%という高い成長率を達成すると予測されている。そのほかの製品分野はアナログが9.5%成長、ロジックが7.1%成長、マイクロが3.5%成長となっており、メモリの高い成長率が突出している。

製品分野別の半導体市場(世界)の推移。WSTSの発表値を筆者がまとめたもの
製品分野別の成長率の推移。WSTSの発表値を筆者がまとめたもの

 一方、地域別の成長率は米国が突出していた昨年とは異なり、今年はかなり平準化される。成長率の予測値は米国が14.0%、欧州が13.4%、アジア太平洋が12.3%であり、あまり変わらない。日本の予測値は8.6%成長である。

地域別の半導体市場の推移。WSTSの発表値を筆者がまとめたもの
地域別の成長率の推移。2001年~2009年はアジア太平洋地域の成長率が高かったが、2010年以降は米国地域の成長率が高くなっている。WSTSの発表値を筆者がまとめたもの

世界から取り残される、日本の半導体市場

 最後に、日本の半導体市場に目を転じよう。以下はいずれもWSTSによる円ベースの数値である。昨年に日本の半導体市場は久しぶりに、2桁成長を達成した。成長率は17.0%で、市場規模は4兆1,041億円である。過去に2桁成長を達成したのは2010年で、成長率は14.1%だった。いずれも、世界の半導体市場が20%を超える成長率で大きく拡大した年だ。

 日本の半導体市場は、およそ10年前の2007年をピークに、翌2008年と続く2009年に2年連続でマイナス成長となった。2007年の市場規模は5兆7,497億円である。これが現在までの、日本の半導体市場のピークだ。それが2年連続の2桁マイナス成長によって2009年には3兆5,786億円にまで日本市場は縮んでしまった。たった2年で「100」から「62」まで縮小したのだ。この大きなダメージから、日本市場は未だに回復をはたしていない。

日本の半導体市場規模の推移。円ベース。 WSTSの発表値を筆者がまとめたもの

 その後、2010年から2016年までの間、日本の半導体市場は停滞し、まったく成長していないとすら言える状況が続いた。2016年の日本市場は3兆5,068億円で、2009年とほぼ同じ水準である。

 そんななか、昨年は本当に久しぶりに高い伸びを日本市場は達成した。2017年の17%成長に匹敵する伸びを記録した年を過去に遡ると、2003年の18%成長まで戻る。じつに14年ぶりの高度成長であることが分かる。

 今年の日本市場の成長率予測は、5.0%成長である。WSTSが世界全体の成長率を12.4%と予測しているのと比べると、明らかに見劣りする。

 半導体市場の成長力となっているおもな応用分野は現在、スマートフォン、データセンター、機械学習(深層学習)、暗号通貨(仮想通貨)マイニングだろう。成長力は失われているものの、絶対的な金額ではPCが強い。ところがそのいずれの分野でも、日本の半導体ユーザー(セットメーカーやボードメーカーなど)は、世界市場ではまったくと言って良いほど、存在感がない。

 現在も成長を続ける世界の半導体市場と、停滞が10年におよぶ日本の半導体市場。この寂しい構図が変わる日は、近い将来には訪れそうもない。