福田昭のセミコン業界最前線
予想を遙かに超え、未曾有の成長率を記録する2017年の半導体市場
~一方で暴落への反動に対する懸念も浮上
2017年9月19日 12:16
業界団体や市場調査会社による、半導体市場予測の上方修正が相次いでいる。2017年の世界の半導体市場は、20%近くの高い成長を達成することがほぼ確実になってきた。世界の半導体市場が15%を超える高い成長率を記録するのは、2010年以来、7年振りのこととなる。
半導体ベンダー各社が市場規模を把握するために結成した業界団体WSTS(世界半導体市場統計)は、春と秋に市場予測を公表してきた。昨年の秋(2016年11月29日)に公表した2017年の世界市場の成長率はわずか3.3%成長で、2016年秋の時点で半導体市場の景況がまだ低迷していたことを大きく反映していた。
ところが昨年(2016年)の秋から冬にかけて、半導体市場の景況は大きく改善する。夏にDRAMとNANDフラッシュメモリの供給過剰が解消し、一転して品不足となったのだ。値下がりは止まり、価格は上昇に転じ始めた。このため、2017年の市場見通しは修正を迫られることとなった。
半導体業界を代表する市場調査会社のGartnerは例年、12月~1月始めまでには翌年の半導体市場の予測値を公表していたのだが、今年(2017年)の予測は1月下旬に発表を遅らせた。市場環境の変化が続いていたため、発表を延期したものとみられる。
Gartnerが2017年1月23日に発表した予測値は、成長率が7.2%であり、WSTSが約2カ月前に発表した予測の3.3%成長に比べると、4ポイント近く上昇していた。
2017年春には11%~12%成長と予測を上方修正
世界半導体市場の予測値における成長率の上方修正は、その後も続く。2017年3月29日に別の半導体市場調査会社IC Insightsは、2017年の半導体集積回路市場(IC市場)が11%成長するとの予測を発表した。その約2週間後の同年4月13日には、Gartnerが世界半導体市場の成長率を12.3%に修正した。業界団体のWSTSも、同年6月6日に成長率予測値を半年前の3.3%から、11.5%へと大幅に上方修正した。
まとめると、2017年春の時点では、世界の半導体市場は11%から12%とかなり高い成長率で拡大すると見られていた。WSTSの統計をベースにすると、世界の半導体市場がおよそ2桁以上の成長率を記録したのは最近では、2014年の9.9%成長、それから2010年の31.8%成長まで遡る。
2017年夏には成長率をさらに上昇修正、16%~17%成長に
ところが、成長率の上方修正は止まらなかった。2017年7月11日には、市場調査会社のGartnerが成長率の予測値を16.8%とさらに上方に修正した。同年8月1日には、IC Insightsが成長率の予測値を16%に修正したと発表した。そして8月18日には、WSTSが成長率の予測値を17.0%に上方修正したと発表した。
GartnerとWSTSは、世界の半導体市場を金額ベースでも予測している。Gartnerが7月11日に発表した予測値は4,014億ドル、WSTSが8月18日に発表した予測値は3,966億ドルである。Gartnerは1月時点の予測に比べて約350億ドル、WSTSは昨年11月末時点の予測に比べて約500億ドル、すなわち1ドルを100円と仮定して日本円に換算すると3.5兆円と5兆円の上積みが生じたことになる。
3.5兆円というのは、日本の昨年(2016年)の半導体市場とほぼ同じ金額である。つまり、昨年末から今年の夏にかけて世界の半導体市場では、日本の全半導体需要に相当する以上の上乗せが今年の半導体市場で発生する。このような上方修正が加えられたことになる。日本市場まるまる1個分というのは、相当に凄い金額だ。
DRAMとNANDフラッシュが20%に迫る成長率を牽引
16%~17%という高い成長率を牽引するのは半導体メモリであり、具体的には、DRAMとNANDフラッシュメモリである。しかも、当初の予想を超えてDRAMとNANDフラッシュメモリの市場規模が拡大しそうなことが、上方修正の繰り返しを招いた。
WSTSの発表による予測値の推移を見てみよう。WSTSは製品分野別の市場規模を「アナログ」、「マイクロ(プロセッサとコントローラ)」、「ロジック(ASSPとASIC、FPGA)」、「メモリ」の4つに分けて公表してきた。昨年(2016年)11月時点では、2017年の成長率を4つの分野ともに1.2%(マイクロ)~4.9%(アナログ)と、1桁前半の範囲にとどまると予測していた。メモリの予測値は4.4%成長だった。
ところが今年(2017年)6月6日に更新した成長率予測では、数字が一変する。メモリが4.4%成長から30.4%成長へと大幅に上方修正されたのだ。そのほかの3分野も成長率は増えたものの、マイクロが3.3%、アナログが7.5%などとなっており、メモリに比べると穏やかな上昇にとどまっている。そして8月19日に更新された予測値では、メモリの成長率はさらに20ポイントも上昇し、50.5%に達した。異常とも言える高い成長率である。これに対してマイクロは3.7%成長、アナログは8.0%成長で、わずかな上方修正にとどまった。
市場調査会社のGartnerも、7月11日付けの半導体市場予測に関する発表資料で、2017年の半導体メモリ市場は52%という高い成長率を示すだろうと予測している。
DRAMとNANDフラッシュの品不足と値上りが止まらない
2017年1月30日付けの本コラム(巨大買収の余波で、激変する半導体ベンダー売上高ランキング)で述べたように、半導体メモリの需給状況は昨年の前半と後半で大きく異なっていた。前半はDRAMとNANDフラッシュメモリがともに供給過剰で、価格が下落した。ところが夏頃から一転してDRAMとNANDフラッシュメモリは供給不足となり、価格が上昇した。しかも今年に入っても、品薄の状態が続き、価格は上昇傾向にある。
価格上昇の傾向が特に強いのは、DRAMである。Gartnerは2017年4月13日付けの半導体市場予測に関する発表資料で、2016年半ばには12.5ドルだった4GBのDRAMモジュールの価格は、2017年4月には25ドルに倍増したと述べている。同じくIC Insigtsは、2017年9月12日付けのDRAM価格に関する発表資料で、2016年7月には2.45ドルだったDRAMの平均販売価格は、2017年7月には5.16ドルと2倍強に上昇したと報告した。
IC InsightsはDRAM市場とNANDフラッシュメモリ市場の成長率予測も発表している。2017年3月29日付けの発表資料で、2017年にDRAM市場は39%、NANDフラッシュメモリ市場は25%の成長率で拡大するとの予測を公表した。そして8月1日付けの発表資料では、それぞれの成長率を上方修正した。DRAM市場は55%成長、NANDフラッシュメモリ市場は35%成長となる。
半導体メモリの極端な市場拡大と対照的に、非メモリ市場は1桁台後半の成長率が予測されている。IC Insightsは8月1日付けの発表資料で、非メモリのIC市場の成長率を6%と予測した。WSTSの8月19日付けの予測値は、アナログが8.0%成長、マイクロ(プロセッサとコントローラ)が3.7%成長、ロジック(ASSPとASIC、FPGA)が8.8%成長である。
2010年代に入り、半導体市場のアップダウンは2010年以前のような20%~30%といった暴れ馬のような増減ではなく、成熟したおとなしめのアップダウンに移行したとの見方が半導体業界では強まっていた。しかし半導体メモリがここにきて前年比50%増という異常とも言える高い成長率を記録しそうなことは、「メモリが暴れ、非メモリが暴れ馬に引きずられる」という構図が今だに健在であることを示している。言い換えると、メモリの需給緩和と価格低下、というよりも「暴落」という反動がいささか怖い。
度重なるアップダウンの経験から半導体業界が得た教訓は、「山が高いほど谷が深い」である。しばらくはDRAMとNANDフラッシュメモリの需給状況をこまめにチェックしておく必要がありそうだ。