福田昭のセミコン業界最前線
予測の斜め上を行き続けた2017年の半導体市場
2018年1月17日 06:00
上方修正を繰り返した2017年の半導体市場「予測」
2017年の半導体市場は異常な年だった。つねに予測を覆したからだ。2016年末から2017年はじめにかけて、2017年の半導体市場は「1桁成長」と予測されていた。半導体ベンダー各社が市場規模を把握するために結成した業界団体WSTS(世界半導体市場統計)は、2016年11月29日に、2017年の世界半導体市場の成長率を3.3%と予測したと発表した。そして半導体業界でもっとも伝統ある市場調査会社Gartnerは2017年1月23日に、2017年の世界半導体市場の成長率を7.2%と予測した。
しかし、およそ3カ月後の2017年4月13日に、Gartnerは2017年の成長率予測を12.3%成長と5.1ポイントも上方修正する。その約2週間前である同年3月29日に、別の市場調査会社であるIC Insightsは、IC市場(個別半導体を含まない市場)の成長率予測を11%と発表していた。
業界団体であるWSTSは毎年春と秋に、半導体市場の予測値を発表してきた。2017年6月6日にWSTSが発表した2017年の世界半導体市場の成長率予測は、前回(2016年11月29日)の予測を大きく上回る、11.5%成長となっていた。約半年で、9.2ポイントの上昇である。
つまり、2017年春の段階では、11%から12%の成長率が半導体業界では予測されていた。
成長率予測の上方修正が止まらない
本コラムが2017年9月19日に「予想を遙かに超え、未曾有の成長率を記録する2017年の半導体市場」ですでに述べたように、2017年の春以降も、成長率の上方修正は止まらなかった。WSTSが6月6日に修正値を発表してから、わずか1カ月後の7月11日には、Gartnerが成長率予測を16.8%と大幅に上方修正してきた。Garnerはおおよそ3カ月ごとに、世界半導体市場の市場規模と成長率の予測を更新している。前回予測に比べると成長率は、4.5ポイントの上方修正である。
そして8月には、IC Insightsが16%成長(IC市場のみ)、WSTSが17.0%成長とそれぞれ、予測値を上方修正する。16%~17%の成長率へと、2017年の半導体市場は予想外の高成長を見せることが明らかになった。
ところがそれでもなお、成長率予測の上方修正は止まらなかった。約3カ月後の2017年10月から11月には再び、上方修正が繰り返された。Gatnerは10月12日に成長率の予測値を19.7%へと2.9ポイント伸ばした。WSTSは11月28日に20.6%と8月18日から3カ月足らずで3.6ポイント増と上方修正した。IC InsightsもIC市場の成長率予測を10月18日に22%と、8月1日に比べて6ポイント増と大幅に上積みした。
上方修正を牽引し続けたのは、既報「予想を遙かに超え、未曾有の成長率を記録する2017年の半導体市場」で述べたように、半導体メモリである。上記記事の掲載日は9月19日なのだが、9月以降も半導体メモリ、とくにDRAMの価格上昇が続いた。このため、製品分野別にみると半導体メモリは異常なほどの伸びを見せるようになった。WSTSが2017年11月28日に発表した製品分野別の成長率予測では、半導体メモリの成長率予測値は60.1%に達した。
ちょうど1年前に相当する2016年11月29日にWSTSが発表した半導体メモリ製品の2017年における成長率の予測値は、4.4%に過ぎなかった。それが2017年6月6日の発表では30.4%成長と大幅に上方修正され、同年8月19日の発表では50.5%成長とさらに大きく伸ばされた。
さらに同年11月28日の発表では、上記のように60.1%成長となった。その間にアナログ製品やマイクロ製品(マイクロプロセッサとマイクロコントローラ)、ロジック製品も成長率予測は上方修正されたものの、成長率は高くても10%前後にとどまった。半導体メモリ製品の異常なほどの伸びが際立っている。
2001年以降では3番目に高い成長率を記録
最終的には、2017年の世界半導体市場は22%前後の成長を達成したと見られる。市場調査会社のGartnerは2018年1月4日に、2017年の半導体市場は22.2%の成長率に達したとの実績推定(速報値)を発表した。また米国の半導体業界団体である半導体工業会(SIA)は2018年1月3日に、WSTSの集計による2017年1月~11月の累計実績が前年同期比で20.9%増になったとのデータを発表した。
22%前後とは、どのくらいの成長率なのか。2001年以降では、2010年と2004年に次ぐ、3番目に高い成長率である。Gartnerが集計した世界半導体市場の成長率では、2010年が31%ともっとも高く、2004年がついで25%となっている。WSTSが集計した世界半導体市場の成長率では、同様に2010年がもっとも高い。成長率は31.8%である。ついで2004年が28.0%と高い。WSTSは最近の予測値(2017年11月28日付けの発表値)では、2017年の成長率を2004年に次ぐ、20.6%と予測している。
地域別では米国とアジア太平洋が高い成長を示す
WSTSは製品分野別のほかに、地域別の市場規模を予測している。米国、欧州、日本、アジア太平洋の4つの地域である。2017年11月28日付けの発表値では、米国の成長率がもっとも高く、31.9%に達する。ついでアジア太平洋が18.9%成長、それから欧州が16.3%成長と続く。日本は12.6%成長である。これらは米ドルベースの値だ。日本市場は円ベースだと、成長率が15.7%となる。
中国はすでに世界最大規模の半導体需要国に
WSTSは単月の販売実績数値では中国をアジア太平洋と区別して発表している。しかし、市場予測では中国市場をアジア太平洋市場に含めている。そこで、実績数値から2017年の中国市場の成長率と金額を計算してみた。
2017年1月から11月までの実績数値を見ると、世界市場は累計で3,671億ドル、中国市場は累計で1,177億ドルとなっている。世界全体に占める中国市場の比率は32.06%である。一方、中国市場の2016年1月から11月までの累計実績は955億ドルである。1月から11月までの累計実績を比較すると、2017年1月~11月の中国市場は前年同期比で23.2%増となる。ここで中国市場の2016年通年実績は1,057億ドルであることから、23.2%の成長率を仮定すると、2017年の市場規模は1,057✕1.232から、1,302億ドルと求められる。
そしてWSTSが2017年11月28日付けで発表した世界市場の予測値は4,087億ドルであることから、中国市場の比率を32.06%と仮定して計算すると、1,310億ドルとなる。中国市場の2016年通年実績は1,057億ドルなので、2017年の成長率は23.9%と求められる。
これらの計算から、2017年の中国半導体市場の成長率は23.2%~23.9%、金額は1,302億ドル~1,310億ドルと推定できる。このことからまず、中国市場の伸び率はアジア太平洋地域(中国市場を含む)全体よりも高いことがわかる。そして中国の半導体市場の規模は、米国よりも大きい。つまり、国別では世界最大の半導体需要国となっていることがわかる。
WSTSが中国市場を単独で集計するようになったのは2015年3月以降なので、どの時点で中国が米国を抜いて世界最大となったのかは、正確にはわからない。2015年3月以降の集計時点で単月の販売額は中国が米国を抜いていたので、2015年には中国が世界最大の半導体市場になっていたと推定できる。
2001年以降はアジア太平洋、2010年以降は米国が市場規模を拡大
ここからは過去20年近く、具体的には西暦2001年以降の変化をWSTSの発表値から見ていこう。地域別の市場で2001年以降に顕著になったのは、アジア太平洋地域が急激に成長したことだ。2001年に米国、欧州、日本、アジア太平洋の各地域の市場規模はかなり近く、302億ドルから398億ドルの範囲で収まっていた。それが2009年には、米国と欧州、日本は299億ドルから385億ドルと2001年と比べてほとんど伸びていないのに対し、アジア太平洋は1,196億ドルと、一人勝ちの様相を呈していた。
2010年以降は、地域別市場の様相が少し変化する。米国市場が成長をはじめたのだ。それまでは米国、欧州、日本の市場規模はあまり変わらなかった。厳密には、あまり伸びなかった。しかし2010年以降は、米国の市場規模が堅調に伸びていく。欧州と日本は2010年以降も、伸び悩みが続く。
日本の半導体市場が伸びない
WSTSは日本の半導体市場規模をドルベースのほかに、円ベースでも発表してきた。日本人にとって実感が伴うのは、円ベースの市場規模だろう。2000年から2017年までの日本市場を円ベースで振り返ってみる。
好況だった2000年に日本の半導体市場は、約5兆円の規模を有していた。「ITバブル」の最後の年だ。2001年にITバブルが崩壊すると、日本を含めた半導体市場は急減する。そしてゆっくりと回復し、2006年には、2000年を超えて過去最高の市場規模である、約5兆4,000億円に達する。2007年に日本市場はさらに拡大、過去最大規模の約5兆7,500億円となる。
しかし2008年以降の日本市場は、低迷が続く。とくに2008年9月に発生したリーマンショックの影響は大きく、2009年には約3兆6,000億円弱にまで日本の半導体市場は落ち込む。2年前の2007年に比べると、2009年の日本市場は62%にまで縮小した。わずか2年で6割に縮むという、悲惨な状況だ。
しかもその後の回復は、ゆっくりとしていた。2010年には一時的に4兆円を超えるものの、2011年には再びマイナス成長となり、2012年には2000年以降の最低値である約3兆2,700億円にまで落ち込んだ。2016年の市場規模は約3兆5,000億円で、2009年の水準とほぼ等しい。言い換えると2009年から2016年までの7年間で日本の半導体市場はまったく伸びていない。
日本の半導体市場が4兆円を超えるのは昨年(2017年)になる。2010年以来、7年ぶりの4兆円超えである。そして今年(2018年)はどうなるのか。WSTSは今年の日本の半導体市場を3.8%成長の4兆2,140億円と予測する。それでもなお、15年前と変わらない市場規模である。
2018年の世界半導体市場は7%成長へ
世界全体の半導体市場は今年、どの程度の成長が見込まれるのだろうか。WSTSは昨年11月28日に、2018年の世界半導体市場は成長率が7.0%、金額が4,372億6,500万ドルになるとの予測を発表した。そしてGartnerは今年1月15日に、成長率が7.5%、金額が4,510億ドルになるとの予測を公表した。
両者をまとめると7%成長~7.5%成長、4,300億ドル~4,500億ドルとなる。1桁の後半というのは比較的良好な成長率と言える。昨年と同様、今年の半導体市場の行方を大きく左右するのは、DRAM価格だろう。DRAM価格は需給バランスの変動に対して過剰に反応する傾向がある。とくに需給が緩んだときは、反応が過激だ。こまめに観測していくことが欠かせない。